東京オリンピックに伴う交通機関の混雑緩和や、感染症対策などもあり、いまリモートワーク(テレワーク)が注目されています。
では、実際にリモートワークを導入した起業はどのような内容で実施し、どういった効果が出たのでしょうか。大企業・中小企業ともに事例をご紹介します。
大企業のリモートワーク導入事例5つ
まず、大企業のリモートワーク導入事例を5つご紹介します。
株式会社パソナテック(業種:サービス業)
IT/インターネット分野およびエンジニアリング分野での人材派遣や紹介をおこなう、株式会社パソナテックでの事例は以下のようになっています。
リモートワークの概要と特徴
- 全社員を対象(派遣就労エンジニアを除く)
- リモートワークであれば働く場所に左右されないため、地方採用をおこない地域活性化を推進
- 地方活性化を推進する一環で全国各地にサテライトオフィスを開設(秋田県湯沢市、東京都渋谷区、愛知県名古屋市、佐賀県鳥栖市)
リモートワーク導入の効果
- リモートワークの推進でペーパーレス化も促進、印刷・用紙にかかっていたコストが31%削減されるなど、経費削減の効果が得られた
- 台風で交通機関の乱れが予想される際や、インフルエンザ罹患者と接触した社員(感染の可能性)が積極的にリモートワークを利用することで、業務への支障を抑えられた
株式会社NTTドコモ(業種:情報通信業)
情報通信業の大手である株式会社NTTドコモはリモートワークの取り組みが評価され、「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を受賞しています。概要や効果は以下のとおりです。
リモートワークの概要と特徴
- リモートワークの対象者は全職種の正社員
- 社員全員がモバイルワークを利用
- オフィスワークに必要なアプリがモバイル端末で利用でき、端末に情報が残らない仕組み
- 上記アプリにはメールやスケジュール、Web会議や社員録など必要な機能がすべて揃っている
- 農業にICTを活用、地域活性のため全国各地に営業をおこなう「アグリガール」もテレワークを利用
リモートワーク導入の効果
- 在宅勤務の利用者にアンケート調査した結果「生産性が向上した/通常と変わらず業務ができた」社員は80%、ワークライフバランスが向上したと感じた社員は70%以上に達した
- 生産性の向上により時間外労働も削減。2017年度第一四半期は前年度比20%の削減に成功
- 育児中の女性社員の生産性が上がり、管理職を目指す女性も増加
- 自社のリモートワークの成功を基に、企業で「働き方改革」のセミナー開催、提案活動をおこなうことで実益にもつながっている
損害保険ジャパン日本興亜株式会社(業種:保険業)
損害保険会社の大手として知られる、損害保険ジャパン日本興亜株式会社の事例は以下のようになっています。
リモートワークの概要と特徴
- 全社員を対象(パートタイム勤務者を除く)
- 原則1ヶ月4回としていたリモートワークの回数上限を撤廃
- 育児や介護の事情がある時短勤務者のリモートワーク利用促進のため、希望者に自宅で使用できるシンクライアント端末を追加配備。予想外の事態突発事態でもすぐリモートワークに切り替えられるように対応
- 本社ビル内にWi-Fi環境のある社内サテライトオフィスを設置
リモートワーク導入の効果
- 在宅勤務の利用者にアンケート調査した結果「生産性が向上した」と回答した社員は約85%に達した
- リモートワークを実施したことで業務が可視化され、これまで以上に社員同士の情報共有が図られ、より体制が整備された
- 普段と異なる環境で業務をおこなうことで、戦略、企画立案などに集中できるという意見があった
- 育児や介護の事情で勤務時間に制限がある社員も効率的に時間を使えるようになり、生産性が向上
日本航空株式会社(業種:運輸業)
国内を代表する航空会社のひとつ、日本航空株式会社(JAL)での事例は以下のとおりです。
リモートワークの概要と特徴
- 運航、客室乗務員はモバイルワーク、間接スタッフは在宅勤務とした
- 在宅勤務をする理由を問わない
- 実施回数は週1回としており、特定週にまとめて実施も可能
- 許可制となっており、前日までに所属長に業務内容や成果物などを連絡
- 在宅勤務+半日年休/在宅勤務+直行直帰などの組み合わせもできる
- 育児、介護といった特定事由による業務中断、勤務時間の分割も可能(トータルで1日の所定労働時間を勤務する必要あり)
- 勤務時間帯の選択制度(フレックスタイム制)もあり
- 始終業時はメールなどでその旨を連絡、翌営業日までに成果物を報告
リモートワーク導入の効果
- これまで新卒入社の女性総合職で30歳代は3割しか会社に残らなかったが、現在は8割以上に改善
- 2015年度の間接の残業時間が減少、下期比較で前年比約2割減
- 2015年度に過去最高益を達成
- 福利厚生ではなく生産性の向上が目的のため、当初心配していた「サボり」はなく、むしろ業務への集中度が向上、想定以上に生産性が向上する結果となった
コニカミノルタジャパン(業種:卸売業、小売業)
複合機やプリンター、産業用計測器やヘルスケア用品といった幅広い分野の製品、ソリューション・サービスを提供する、コニカミノルタジャパンでの事例が以下のとおりです。
リモートワークの概要と特徴
- 営業職、技術職が対象
- 実施日数は月12日以上20日間未満
- 本社、支社、支店、サービスステーションなど133拠点に無線LAN環境のあるリモートワークオフィスを開設
- コアタイムのないフレックスタイム制も導入、直行直帰をさらに推進
リモートワーク導入の効果
- 超過残業時間マイナス19%達成
- オフィス面積マイナス20%達成
- オフィス座席マイナス30%達成
- 外回り後も家で事務処理できるため、移動時間が削減され拘束時間が削減されたという意見
- コアタイムがないフレックスのため、申告すれば病院など平日しか行けない場所へ行けるという意見
- 交通機関の乱れや天候不良でも問題なく業務ができたという意見
中小企業のリモートワーク導入事例5つ
つづいて、中小企業のリモートワーク導入事例を5つご紹介します。
株式会社イーライフ (業種:サービス業)
インターネットのマーケティング、コンサルティング業をおこなう株式会社イーライフでは、以下のようになっています。
リモートワークの概要と特徴
- 全社員(契約社員も含む)が対象
- 希望者のみでなく全社員がいつでも取得できるため「僻み」などが起きにくい
- 全社員ハングアウトでのチャット、コール会議必須など、リモートワークありきの環境が整備されており、名ばかりの制度となっていない
- 家族の事情などで地方に引っ越す場合も引き続き勤務が可能となっている
リモートワーク導入の効果
- 育児や介護などの事情で自身のキャリアを断念してしまうケースの多い女性も、在宅勤務により勤務を継続でき、戦力を損ねることなく、採用コストも抑制できている
- 業務委託でも地方スタッフを積極活用しており、優秀者は地方在住でもそのまま社員登用している
- 設立当初からリモートワークを導入しているため、社員58名に対しオフィスは45名分、会議室3つでまかなえている。
株式会社キャリア・マム(業種:情報・サービス業)
全国10万人の主婦会員を活用したマーケティング、アウトソーシングや主婦を中心とする女性のキャリア支援などをおこなう、株式会社キャリア・マムの事例です。
リモートワークの概要と特徴
- 全社員、役員も対象
- 随時必要に応じて在宅勤務の選択が可能
- 完全在宅勤務の正社員も多く、社員の3分の1を占める、
- 完全在宅勤務でも管理職に就くことができ、なかには数千人の在宅ワーカーを取りまとめる部長もいる
リモートワーク導入の効果
- 延べ16,000人の女性に就業機会を提供、一度離職した女性の社会復帰の受け皿となっている
- 社員満足度の調査で「職場環境や仲間との関係性について、現在の充実度はどれくらいですか」という質問に対し、充実しているとの回答がおおむね9割弱となった。その理由にリモートワークを挙げている者が多数
- 2012年度の東京都ワークライフバランス認定を受けた翌年には、月間残業時間が63時間→55時間に減少、離職率66%→0%となった
株式会社沖ワークウェル(業種:情報通信業)
ソフトウェア開発事業をおこなう株式会社沖ワークウェルは、リモートワークの内容が評価され、「テレワーク先駆者百選 総務大臣賞」を受賞しました。概要や効果は以下のとおりです。
リモートワークの概要と特徴
- 重度障害のため通勤の困難な在宅勤務者とその管理者が対象
- 在宅勤務者のニーズを取り入れつつ、独自開発をおこなったコミュニケーションシステムにより、在宅勤務の課題「オフィス勤務同等のコミュニケーションや労務管理」「孤独感の解消」を解決
- 健常者は通常勤務であるが、育児や介護などの事情がある日や災害時などはリモートワーク可能
- 重度障害者の在宅勤務を早期に導入したことから、他社に自社事例を紹介、また特別支援学校で講習などおこなっている
リモートワーク導入の効果
- 安定した障害者雇用を実現でき、全国の優秀なIT技術者を確保できている
- 親会社の技術者にユニバーサルデザインの意識を提供できている
- 在宅勤務のためのノウハウを蓄積することで、自社システムの開発、商品化にもつながった
株式会社ブレインワークス(業種:企業経営支援)
業務改善、情報共有化や情報セキュリティ対策など、企業の経営支援サービスを提供する、株式会社ブレインワークスの事例は以下のようになっています。
リモートワークの概要と特徴
- 全社員のうち必要と認めた社員を対象
- 現在も全国各地、海外までサテライトオフィスを拡張中であり、そこから各拠点との会議が常時可能としている
- 自社で主催するセミナーやイベントはリモートワークにより国内外問わず接続可能で、講師も各拠点からプレゼンテーションをおこなう
- 経営会議や幹部会議はリモートワークで参加できるため、出席率ほぼ100%
- 取引先ともリモートワークでいつでも会議可能になっている
リモートワーク導入の効果
- リモートワークの実績が評価され、徳島県のサテライトオフィス型テレワーク実証事業に採択される
- 地方や海外のシニアともビジネスパートナーシップを結ぶことができ、シニア活用にもつながっている
- 経営会議や幹部会議、社員研修などもリモートワークで参加できるため、出張中の決裁者や子育て中の在宅社員も欠席せず参加可能、迅速な意思決定がおこなえている
- 海外での打ち合わせにも通訳がリモートワークで参加することで、同行せずともスムーズに通訳がおこなえている
株式会社サーバーワークス (業種:情報通信業)
クラウドを活用したシステム企画、開発など、インターネット関連システムの提供をおこなう企業、株式会社サーバーワークスでの事例は以下となっています。
リモートワークの概要と特徴
- 全職種、全社員のうち直属の上長が必要性を認めた者が対象
- 働き方に合わせて「クラウドワークスタイル制度」「クラウドワークスタイルライフ制度」「マイホームオフィス制度」と3種類のリモートワーク制度を用意
◇クラウドワークスタイル制度の概要
- 誰にも話しかけられない場所で集中し、通勤のストレスもなく、効率よく勤務することを目的に策定
- 実施前日の12時までに事前申請し、上長の承認を受けることで勤務可能
- 事業場外みなし労働時間制を適用、10時~19時(休憩1時間)とみなす
◇クラウドワークスタイルライフ制度
- 事前申請していなくても、突発的な事情があれば上長の承認を受け勤務可能
- 上長がリモートで勤怠状況を確認、みなしではなく実労働時間で判断
◇マイホームオフィス制度の概要
- 以下のケースに該当し、会社の認める社員に適用
①地方の自宅で勤務することが前提で採用された社員
②介護などの事情でオフィス勤務がむずかしい場所に引っ越し、そこでの勤務を会社が認める者
③その他、本人の申し出があり会社が認める者
- 上長がリモートで勤怠状況を確認、みなしではなく実労働時間で判断
リモートワーク導入の効果
- 札幌の実家を離れることが難しいという者を採用、優秀な人材の確保につながっている
- 働きやすい会社というイメージがつき、採用もスムーズになった
- 2015年度の離職率は13%となっており、以前と比較して改善傾向にある
- クラウドの活用によりリモートワークを推進する会社として取り上げられるようになり、先進的な会社であるという印象を持たれることとなり、ブランディングにもつながった
- オフィスの見学ならびにリモートワークの仕組みを聞きたいというお客様が増加
まとめ
大企業、中小企業でのリモートワーク導入事例をご紹介しました。事例を見ることで、自社でも適用できそうな部分、取り入れたい項目などあったのではないでしょうか。
また、リモートワークには政府や自治体が補助金制度なども用意しているため、導入を検討している際はそちらも自社で活用できないか、確認しておくことをおすすめします。