民間企業のテレワーク導入事例(広告・出版業)
広告・出版業
ライフイベントにかかわる事業を展開しているA社は、2014年より全社をあげて働き方改革に取り組んでおり、2015年秋には全従業員を対象にテレワークを導入しました。
当時、テレワークを導入している企業では、育児や介護を担う人を対象とした小規模なテレワーク導入が多くみられました。A社が全従業員を対象としたテレワークを導入した背景には、①営業職の移動時間短縮が課題 ②ワーキングマザーの増加で在宅勤務の利用が増加 ③新しい働き方への知見や経験を持つ優秀なエンジニアの継続採用 という理由がありました。
概要
A社では、テレワークの裁量はグループマネージャーに委ねられています。テレワークが可能と判断された従業員は、個人の裁量で生産性の高い働き方を選択することができます。
対象者 | 全従業員(アルバイト・派遣・入社半年未満など一部は除く) |
利用条件 | ・週1日は出社を必要とする ・その他利用日数、部分・終日利用など自由に設定可能 |
働く場所 | ・自分以外の人が端末を操作できない、のぞき見されない場所であれば 自宅やカフェ、図書館などで作業可能 ・業務命令を除き、出社を指示されたら2時間以内に急行できる場所であること |
申請方法 | ・都度、上司に許可は不要 ・メール報告やスケジューラー記載など、テレワークをすることがわかる状態にする |
労務管理 | ・就業ルールは現行制度に従う ・メールやハングアウトで所属組織内へ業務開始と終了の連絡必須 ・既存の労働時間管理システムを利用し、自己申告の上、上長が承認 ・深夜・休日労働は原則禁止。深夜・休日労働を行う場合は上長申請、承認が必要 |
既存の人事制度とテレワーク
もともと自立を前提とした人事制度を導入しているため、テレワークに伴い全体の制度の整合性が向上した。
評価制度
期初に各々が上長とともに半期ミッションと評価基準を確認し、それをもとに期末に評価される。他の従業員との横並びの評価はなく、テレワークによる支障やクレームは出にくい。
報酬制度
月齢報酬に一定時間分の残業代を全員に上乗せ支給しているため、社内外を問わず、短時間で働くほど効率的に報酬を受け取れる仕組みになっている。(一定時間を超えた場合は追加支給あり)また、一定時間までは報酬が変わらないため、テレワーク時にも労働時間の過多申請が生じにくくなっている。
導入時の工夫
トップが本気を伝える
全従業員をテレワークの対象とする前に、社長が経営の最重要戦略であるワークスタイル変革についてスピーチを行い、本気度を伝えることで従業員の意識改革のスタートとなった。
また、全国のグループリーダーが集まる会議でも、数か月にわたり社長の考えを伝え、ワークスタイル変革やテレワーク実施に向けた意思統一を図った。
ITCの有効活用
- 気軽なコミュニケーション⇒Googleハングアウトを導入
- 社内ドライブへのアクセス⇒Googleドライブを導入。クラウドストレージの導入により、共有ファイルへのアクセス可能
- 社外での印刷⇒コンビニエンスストアで印刷可能なネットワークプリントサービス「for Biz」を法人契約
- 社外から事業システムへのアクセス⇒全従業員にVPN設く権限を付与
- 新しいITはわからない⇒ワークスタイル変革プロジェクトで各サービスのアカウントを一括付与して、現場での運用不可を極力減らした
テレワークの効果
先行導入テスト参加者に対して行ったアンケートでは、高い効果がみられた。その後も、参加者の意見を反映してICTツールを整備しているため、さらに高い効果が期待できると予想している。
項目 | 効果 | 主な理由 |
---|---|---|
生産性が向上した | 65% | 移動時間削減 モチベーション向上 計画的に行動するようになった |
労働時間が減少した | 45% | 集中できる 移動時間削減 |
雑談量を維持 (業務上雑談が有効と判断) | 60% | ICTの活用 出勤日にまとめて会話 |
会議時間が減少した | 23% | 計画的に事前準備をするようになった |
深夜残業 | -56% | 原則禁止 |
休日労働 | -44% | 原則禁止 |
テレワーク継続希望 | 96% | 働き方をコントロールできる |
社員の声
- 時間の考え方が大きく変わった。
- 「資料作成」ではなく「議論に必要な最低限の資料作成」の留めるようになった。
- 生まれた時間で、今まで以上に効果を返せるよう顧客のことを考えるようになった。
- チャットやスカイプの利用により、一人一人の状態を理解しやすくなった。今後、育児や介護従事者が増加したときの、新しいマネジメント手法の第一歩になると思う。
(出典:一般社団法人日本テレワーク協会第16回テレワーク推進賞事例集)
【参考:テレワーク導入・運用の教科書】