テレワークの普及
新型コロナウイルスの流行によって、テレワークという働き方が注目を浴びた2020年でした。
東京都が都内企業を対象に行った調査によると、最初の緊急事態宣言が発令された2020年3月時点のテレワーク導入率は全体の24%でしたが、4月時点には62.7%と急速に広まったことがわかります。その後は、テレワークの継続・拡大を決定した企業がいる一方で、緊急事態宣言が解除されると、導入したテレワークをやめてしまう企業も多かったようです。
新型コロナウイルスの影響で都市部のテレワークの普及が進んだという印象がありますが、実は以前から政府の主導によりテレワークの推進が行われてました。その活動の一つに、東京オリンピック・パラリンピック期間中の交通渋滞の緩和を目的とした「テレワーク・デイズ2019」というキャンペーンがありました。
このような推進活動の後押しもあり、以前からテレワークの仕組みを整えていた企業が一定数ありました。しかし、テレワーク制度があっても、活用しきれていない企業も多かったといいます。その後、新型コロナウイルスの流行によって必要に迫られ、テレワーク制度が活かされることとなりました。
テレワークを導入した都市部の企業が、地方の事業所でも導入を進めるなど、都市部だけでなく地方でもテレワーク普及の流れが広がり始めています。さらに、災害に備えて事業継続計画の対策として、テレワークの導入を進める地方企業も増えているようです。
選べる働き方
新型コロナウイルスが流行する以前からテレワークの制度がある企業では、介護や育児などで出社することが難しい人を対象に制度を利用できるという条件が付いている場合が多くありました。また、出社することが原則であることから、テレワーク制度を利用しても、一部の時間帯や一週間のうちの数日だけ行うという形が一般的でした。
しかし、新型コロナウイルスの流行によって「出社することが原則」という当たり前の考え方が覆されたのです。ウイルスの感染拡大を防ぐために、社員を出社させるのではなく、ほとんどの勤務時間をテレワークにするという企業が急増しました。一部の人しか利用できなかったテレワーク制度が、全社員が利用できるようになったのです。さらに、テレワーク制度を導入していなかった企業は、勤務形態を見直さなくてはならない状況となりました。
コロナ禍を大きなきっかけに、テレワークという働き方は、誰もが選択できる働き方になりつつあります。
今後のテレワークの活用はどうなっていくでしょうか。感染対策としてテレワークを始め、宣言解除とともにテレワークの利用をやめる企業がある中で、その後も継続している企業はいくつもあります。テレワークという働き方は、企業にとっても働く人にとってもメリットがたくさんあるのです。
今後、また何らかの緊急事態や社会の状況に変化が起これば、テレワークを定着させた組織とそうでない組織とでは、対応に差が出てくるかもしれません。今こそ、組織を見直すタイミングではないでしょうか。
テレワークとは
コロナ禍以前に比べると、「テレワーク」「在宅勤務」「リモートワーク」という言葉を目にする機会が多くなっていますが、それぞれの意味をご存じでしょうか。
国土交通省によると、テレワークとは「ITC(情報通信技術)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義されています。インターネットを利用して、自宅が外出先など、会社から離れた場所で仕事をすることの総称を「テレワーク」といいます。「リモートワーク」もほぼ同様の意味で使われますが、テレワークの方がより公的な場面で使われることが多いです。
テレワークの分類
テレワークには、働く場所によって3つに分類されます
①在宅勤務
自宅でパソコンや電話などを使って連絡を取りながら業務をする働き方。
②モバイルワーク
移動の社内、あるいは顧客先や出張先などの外出先で、パソコンや携帯電話を使って仕事をする働き方。営業の人が移動中にスマートフォンで情報収集をしたり、メール送信するのもモバイルワークです。
③サテライトオフィス勤務
企業の本拠地から離れた場所に設置されたサテライトオフィスで、パソコンや携帯電話を利用して仕事をする働き方。営業先から本社へ戻るよりもサテライトオフィスが近くにあれば、サテライトオフィスで業務を行うことができ、移動の負担を軽減することができます。
企業経営にとってのメリット
BCP(事業継続計画)対策
BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画のことです。
テレワークの環境が整っていれば、オフィスに出社できない危機的状況下においても、パソコンや携帯電話を使って業務を続けることができます。自然災害などによって長期間業務ができなくなると、企業は倒産の危機に追い込まれてしまうかもしれません。非常時にいかに業務を継続するかということは、企業にとってとても重要なことなのです。
近年では、2019年の大型台風や新型コロナウイルスの流行によってますますBCPに対する意識が高まっているといえるでしょう。
BCP対策としてテレワークの環境が整えることは、大きな災害や緊急事態のみならず、日常のトラブルが発生した時にも対処しやすくなります。
例えば大雪やゲリラ豪雨などで交通機関が麻痺してしまったときも、「何とかして出社しなければ」と右往左往することなくオフィス以外の場所で業務を行うことができます。このように、日常的に起こるトラブル時にも柔軟に対応できるのがテレワークではないでしょうか。
業務効率化
テレワークで業務を行うことは、オフィスでの業務とは違って電話応対や予定外の訪問客、急な打ち合わせなどで業務が中断されるこが軽減されます。横やり業務がなければ、目の前の業務に集中し、生産性が向上するといえるでしょう。また、モバイルワークであれば、移動中にメール送信するなど、時間を有効活用できます。
さらに、オフィスに出社しないテレワークは、ペーパーレス化も期待できます。テレワークは遠隔で会社の情報にアクセスして業務を行うため、情報を電子化する必要があります。情報が電子化されれば、書類を印刷して配布するという作業が減ることで仕事の効率も上がりますし、ペーパーレスになり保管場所を確保する必要もなく、コスト削減にもつながります。また、情報を電子化することで、担当以外の社員が情報にアクセスして確認しやすくなります。これにより、属人化を防ぎ、代行や引継ぎをスムーズにすることができます。
人材確保
時間や場所にとらわれない働き方が実現すれば、通勤時間が無くなりその時間を家庭のために充てることができ、育児や介護と両立して働きやすくなります。また、育児や介護をしていなくても、自宅で仕事をする選択肢があれば、通勤に伴う精神や体への負担が軽減され、リラックスして業務に取り組むことができます。
近年の就職・転職活動においても、テレワークを始めとする柔軟な働き方が注目されています。特に若年層に多くみられ、起業・副業・将来的な育児や介護など様々な理由があり、ワークライフバランスを重視する人が増えているといえるでしょう。
さらに、採用活動においてもオンライン面接ができれば、遠隔地にいる人とも面接ができるので、地域に関係なく採用機会を広げることができます。
労働人口が減少している中で、いかに優秀な人材を確保するか。企業が日ごろから働きやすい環境を整えておくことで離職が減り、さらには新たな採用機会を作ることにもつながるのです。