流れを止める仕事
急ぎの仕事の依頼があったり、他部門からのクレームなどの突発的な仕事は、仕事の流れを中断したり、手戻りを発生させます。
IT運用の世界では、本来の仕事の流れを妨げるものとして、インシデント(=好まない出来事)と呼ばれます。
インシデントの種類
- 業務上のトラブル
- システムトラブル
- 突発的な依頼
- クレーム
- 問い合わせ
- 要望
これらは、仕事を中断させてしまうありがちなインシデントです。IT運用の世界では、トラブルや問い合わせを未然に防ぐための提案もインシデントと呼びます。
- 予防措置
- 改善提案
このように整理してみると、発生傾向や問題点を意識できるようになります。
優先順位を間違えない
人は突発的な仕事が起きると、本来の仕事を止めてでも、インシデントの対応を優先してしまうところがあります。気が付くと、本来やるべき仕事が進んでいないということもあるのではないでしょうか。
行動経済学に「時間割引」という用語があります。人間には、すぐにもらえる報酬ほど、その価値を大きく感じ、もらえる時間が遅くなると、徐々にその価値が減少すると感じる性質があります。
仕事の重みのとらえ方でも、この時間割引がさようするのです。
重要度の高い仕事を抱えているのに、期限が迫っている突発的な仕事が入ると、そちらを優先してしまいます。これは、抱えてる仕事の重みが、飛び込んできた仕事に対して割り引かれてしまっているのです。また、突発的な仕事に即座に対応することで、仕事をしている気になり、さらに相手から感謝されれば、満足感も得ることでしょう。
一方、どんなに重要でも、時間がかかる仕事はなかなか手ごたえを感じられないことが多いのです。成果が出るまでに1か月、1年と長期にわたる仕事は、仕事をしている感が生まれにくく、後回しになりがちなのです。
人は、目先の快楽を求めてしまいます。人間の特性を認識したうえで、どのように仕組みで解決するかを考える必要があります。
インシデントを可視化
インシデント業務を把握するために、業務に管理番号を付与して、件名・種別・日時・関係者・優先度・期限・対応履歴・所要時間を管理簿に記録します。
常にパソコンに向かっている業務であれば、本人がインシデントを受けたその時に記録を残します。接客や現場などでパソコンなどの端末機器を使えない環境にある場合には、 リーダーや記録係がインシデントの内容を聞いて記録を残すようにします。
何をどこまで記録するのか不明瞭にならないよう、チーム内で実態を見ながら、適度なところで調整しましょう。3か月続けると、その効果を感じることができるようになるでしょう。
インシデントの共有
インシデント業務が発生したとき、それは経験したことがあるものか、初めて遭遇するものかを考える習慣をつけておくと、インシデント業務の対応効率が上がります。
すでに経験したことのあるインシデント業務であれば、その対応方法はわかるはずです。もし、考えなくてはいけないようであれば、それはマニュアルを作成するなど、素早く対応できる方法を考えなくてはいけません。
初めて遭遇するインシデント業務は、ゼロから対応方法を考える必要があります。一人で判断が難しいようであれば、チームで相談して決めましょう。
このように決まったインシデント業務の対応方針と対応方法は、管理簿の応対履歴に記録します。
インシデント管理簿の効果
インシデント管理簿があれば、突如起きたインシデント業務が今までにあったのか、無かったのかをすぐに判断できます。また、初めてのインシデント業務でも、今までに似たことがあれば、過去の対応を参考に対応方法を考えることができます。これにより、迅速な対応が可能となるのです。また、備忘録としても活用できます。
個人としては初めてのインシデント業務であっても、組織として対応履歴が残っていれば、過去にだれがどのような対応をしたのかを知ることができ、クレームなどのリスクを回避することができます。
個人にとっては未知でも、組織にとって既知であることに気づけるか気づけないかで、チームの信頼性も生産性も変わってくるのです。インシデント管理簿を上手に活用しましょう。
知識管理
まれにしか発生しないインシデント業務。未知か既知か判断は難しいかもしれません。そんなときは、「見たことある」を増やす工夫をしましょう。
既視感があるだけで、対応の仕方のヒントが得られるのです。
たとえば、定期的に行うミーティングで、最新の技術や成功・失敗事例などを社員間で共有する時間を設けます。そうすることで、誰にどんな知識や経験があるのかを知ることができます。「これはAさんが対応した案件に似ているかも」と気づきことができれば、対応方針を考えやすく、迅速な対応につながります。
既視感を増やすことは、ナレッジマネッジメントの本質であり、チームの生産性向上とコミュニケーション活性化に貢献します。既視感は、社内にある知識の再発見と活用を促進し、考える時間が減り、生産性と企業競争力の向上につながるのです。
繰り返し性が低い業務は、マニュアルの作成をするよりも、インシデント管理簿で記録し、それを共有します。そして、過去の対応履歴を引き出しやすくしておく方が効果的といえるでしょう。
ナレッジマネッジメントとは 、企業における業務の改善手法の一種で、従業員の有する経験や知識を、企業全体で共有することによって、業務内容の改善や効率化を図ろうとする方法のことである。
https://www.weblio.jp/content/%E3%83%8A%E3%83%AC%E3%83%83%E3%82%B8%E3%83%9E%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88
チームで悩む
インシデント業務の共有化をするためにも、インシデント会議を実施しましょう。インシデント会議は週に1回程度実施し、どんなインシデントが発生したか、どう対応したか、どんなインシデントでこまっているかを話し合います。一人で悩む時間は何も生みません。チームで協議して判断しましょう。そして、インシデント管理簿に記録を残し、既知化しましょう。チームで行うインシデント会議は、お互いの知識と経験を知る「知識共有」の場になります。
3か月ほど経過すると、インシデント管理簿に情報が集まってきて、インシデントの傾向が見えてくるでしょう。「同じような問い合わせが多い」「既知インシデントに対し、効率よく対応できていない」このような気づきを得られるのも、インシデント管理を行うメリットのひとつです。
インシデント管理簿で記録し、会議をすることで、自分が休んでも誰かが引き継いで業務を進めることができるという安心感が生まれます。これがチーム全体の生産性を向上させるのです。属人化や仕事の漏れなどで困っているチームこそ、インシデント管理を必要としています。チームで対策を検討し、インシデントの対応効率と生産性向上を目指しましょう。
完了したインシデント
対応が完了したインシデント業務は、ステータスをクローズにし、管理簿上でわかるようにしておきます。また、発生から完了までの所要時間を把握するために、完了した日付を残し、対応効率を測るデータにしましょう。
対応が完了したからといって、インシデント管理簿から削除しないように注意してください。過去のインシデント業務を既知化するためには、記録として残さなくてはいけません。
インシデントとの向き合い方
すべてのインシデント業務に真正面から対応していたらキリがありません。時には捨てる、何もしないといった逃げ道をつくることも重要なのです。
- 対応する
- 断る、やらない
- 保留にする
- 効率化を検討(マニュアル化など)
- ツール、システム、社内外の知識や経験の活用
インシデントが発生したら、最初に向き合い方を決めましょう。
№5の「ツール、システム、社内外の知識や経験の活用」は、問題のスピードと社内コミュニケーションを高めます。
最近では、社内SNSやグループウェアを活用している企業もあります。社内SNSに困りごとを投稿することで、参考事例の話を聞いたり、関係している人を紹介してもらったりすることもできます。社内SNSは同じ企業内の社員同士の助け合いと知識のつながりを後押ししてくれます。
社内の誰かに聞く仕組み
組織のナレッジマネッジメントにはストック型とフロー型があります。
ストックは、蓄積するという意味で、時間とともに消えることなく増えていくというイメージ。業務マニュアルや規定集、契約書類などがこれに当たります。一方、フローとは、流れるという意味で、時間経過とともに消えていくものを表しています。ニュースやメルマガ、相談事などがこれに当たります。
今までの企業は、ストック型のナレッジマネッジメントの仕組みづくりをしてきたと思います。しかし、フロー型の仕組みは未完成です。困ったときに、組織の壁を越えて気軽に質問できる仕組みや風土づくりは、企業の生産性向上にむけた切り札の一つになるのではないでしょうか。
社内の人と知識を積極的に活用できるようにしましょう。
インシデントが発生したら、その都度チームで向き合い方を話し合って決めるのがよいでしょう。「一人で悩まない」「一人で反射的に対応しない」ことが大切です。
集中する時間の確保
それほど重要ではない業務、やらなくてもいい業務があったとします。すぐそばに部下がいると、ついつい「やってもらおう」と気軽に頼んでしまう上司は多いのではないでしょうか。個人の生産性を上げるには、普段とは違う場所で仕事をする、または、週に一度テレワークを利用するなど、集中できる時間を意識的に作るすることが必要かもしれません。
チーム全体で本来の業有無に集中する時間を意識的に確保したり、逆に、インシデントに集中する時間を設けるのもよいかもしれません。インシデントをチームで主体的にコントロールする仕組みを作りましょう。