マネージャーの発言力
チームが何らかの問題解決を求められたとき、経験豊富なマネージャーがメンバーより先に答えを見つけることは良くあることだと思います。
悩んでいるメンバーを前にすると、つい答えを教えてあげたくなってしまい、結果的にマネージャーの発言量が多くなってしまいがちです。これではせっかくの会議がマネージャーの独演会のようになってしまい、メンバーが発言しづらくなってしまいます。
また、メンバー同士で意見を出し合っているところに、マネージャーが「こうした方がいい」と一言口に出せば、議論の主体がメンバーからマネージャへと移り、会議にブレーキがかかってしまう可能性があります。
メンバーが自分たちで答えを見つけようとしていたところに、発言力の強いマネージャーの一言が発せられると「最初から決めてくれればいい」とモチベーションを下げてしまうことになりかねません。
もし、「答え」が分かったとしても、マネージャーは安易に口にせず、メンバー自身で答えを見つけるのを待つということも必要なのです。
メンバーからの報告・連絡・相談を受けたときも同様に、解決策が分かったとしても安易に口にせず、まず聞くことです。そして答えを教えるのではなく、メンバーに質問を投げかけて、メンバー自らが答えにたどり着けるように思考を深めてもらうようにします。
もちろん、業務経験の少ないメンバーは自ら考えるための知識や材料が十分ではないので、その時は教えることも必要になります。しかし、経験を積んだメンバーに答えを教えてしまったら、そのメンバーから自分で答えを見つける力を奪ってしまうことになるので気を付けなければなりません。
効率的
メンバーが答えを導き出せるようにマネージャーがサポートするということは、それなりの時間を要するので非効率的だと考える人もいるでしょう。仕事には納期があるので、答えを教えて最速で業務を進めてもらうほうが効率的ではあります。しかし、その瞬間はスピーディに進むかもしれませんが、理解していない人が業務を進めていると、途中で疑問に思ったりやり方に不安を感じて、マネージャに確認しないと作業を進められないことになるかもしれません。
その結果、マネージャーは指導するために何度も仕事を中断せざるを得なくなってしまいますし、メンバーの仕事が完成するまでのリードタイムも長くなってしまうのです。これこそ非効率的ではないでしょうか。
さらに、答えを自分で考えることをしないメンバーは、マネージャーからの指示がないと動くことができなくなり、非効率的なサイクルが出来上がってしまうのです。
一方で、最初にメンバーとしっかり向き合い、時間をかけてメンバーが答えを導き出せるサポートができていたら、後々メンバーからの確認に時間を取られることもなく、メンバー自らが考えて答えに辿り着き、行動することができるようになります。
メンバーが答えを出すために考えている時間は無駄ではありあません。メンバーがある程度の答えを出すには、マネージャーの5~6分ほど多く時間を要するといわれています。この数分を待てるかどうかがその後の成否を分けることになるのです。最初は時間がかかっていても、自分の頭で理解することができたメンバーは、次からは自力で仕事を完成させる力を持てるようになっているはずです。
このように、早い段階でコーチングに時間をかけることは、全体のリードタイムを短縮することにつながります。
しかも、自分で考える力をつけたメンバーは、他の仕事でも力を発揮することでしょう。
そして、考える力を持ったメンバーが増えれば、会社全体の生産性向上にも期待ができます。
正しい答え
マネージャーが「答え」だと思っていることが、実際には答えではないこともあります。
マネージャーが自身の中に持っていた答えよりもはるかに優れた妙案にメンバーが辿り着くこともあります。
もし、マネージャーがすぐに自分の持っている答えを言葉にしていたら、メンバーはその優れた答えに辿り着くことはないのです。
仕事熱心でメンバーのことを大切に思っているマネージャーがいる店舗があります。
そのマネージャーは、来店状況を見て接客スタッフが足りないと判断すれば、商品整理をしているスタッフを店舗に出て接客を指示したり、店内が落ち着けば裏に戻るよう指示を出していました。その機敏な判断こそが最少人数でお店を回すことができると考えていたのです。
しかし実際は、商品整理の途中で接客に出ることで、裏での業務が中途半端な状態になり、やり直しやミスを招いたり、業務に集中できなくて残業せざるを得ない状況を生みだしてしまっていたのです。
それを聞いたマネージャーは大きなショックを受けました。自分が正解だと思っていたやり方が、メンバーを不安にさせたり、ミスを増やす原因になっていたのですから、致し方ありません。
それからは、抜本的にやり方を見直し、来店予想を基に時間帯で人数を配置し、予定通りに業務を進めるようにしました。すると、業務に集中できるようになるとともにミスも激減しました。メンバーは、自分たちの意見を受け入れてくれたマネージャーに対する信頼を深め、モチベーションアップにもなりました。
マネージャー自身も、一方的に指示する姿勢を改め、メンバーの意見に耳を傾けるようになりました。
これこそが、チーム内の関係の質が大幅に向上した例といえるでしょう。