通常勤務とテレワークでは、その場に該当の従業員がおらず、業務の方法やなどに関して細かな違いが生じてくることもあります。その場合、通常の就業規則だけで対応できない部分も生じることでしょう。
テレワーク導入にあたり、就業規則をどう変更すればよいか、また新たにどのような規程を設定すればよいか、などを具体例とともに解説していきます。
テレワーク導入に際し就業規則の変更は必要か?
通常勤務とテレワークで、労働条件や労働時間の制度などの部分が変わらないようであれば、就業規則を変更する必要はないかもしれません。
しかし、テレワークの場合はたとえば従業員に通信費用を負担してもらうなど、通常勤務では必要のない部分に変更の生じる可能性があります。
テレワークを導入する場合、以下のような就業規則を定めることが一般的です。
- テレワークでの勤務を命じることでの規定
- 通信費に関しての規定
- テレワーク専用の労働時間を設定するのであれば、それに関する規定
就業規則とテレワーク勤務規程
テレワークを導入する際に就業規則の変更が必要な場合、就業規則自体にテレワーク関連の項を盛り込むか、「テレワーク勤務規程」を新たに作成するかのどちらかになります。
どちらにするかは会社が判断してよいものですが、新たに「テレワーク勤務規程」を作成したほうがわかりやすいかもしれません。
テレワーク勤務規程には、「在宅勤務規程」「モバイル勤務規程」「サテライトオフィス勤務規程」などを盛り込むとよいでしょう。
テレワークの勤務規程を作成する前に導入目的を明確にする
テレワークの勤務規程を作成するにあたり、最初に実施すべきは導入目的の明確化です。導入目的によって、テレワークを利用してどのような業務をおこなうのか変わってきます。
ほかの細かな勤務規程にも影響を与える場合があるため、最初の段階で実施目的は明確化しておくことが重要です。その後、テレワークを認める社員の条件、勤務時間などの規定を決めていきます。
テレワーク導入で推奨される勤務規程
テレワークを導入する場合、勤務規程にどのような内容を盛り込めばよいのか、推奨されるものをご紹介します。
テレワーク勤務の定義
テレワーク勤務の定義としてどのように決めればよいか、ケースごとに見ていきましょう。
全員を対象とする場合
従業員の全員を対象とするのであれば、以下のように定義するとよいでしょう。なお「所定の申請書」の部分はメールとする方法もあります。
第○条 在宅勤務の対象となる従業員は、以下の条件をすべて満たす者。 l 在宅勤務を希望する者 l 自宅の業務環境、家族の理解、セキュリティ環境、いずれも適正である者 第○条 在宅勤務を希望する従業員は、所定の申請書に必要事項を記入し、所属長から許可を得る。 第○条 会社は、業務上やその他の事由によって、在宅勤務の許可を取り消す場合がある。 第○条 在宅勤務の許可を受け、在宅勤務を実施する場合は、所属長へ前日までに申し出ること。 |
勤続年数等に制限を設ける場合
新入社員にテレワークを認めることが不安であれば、勤続年数を限定するのもよいでしょう。年数での制限を設ける場合、上記の規定に以下の項目を追加するという方法があります。
l 勤続○年以上の者で、かつ円滑に自宅での業務を実施できると認められる者 |
育児、介護、傷病等に限定する場合
従業員全員にテレワークを認めるのが厳しいのであれば、とくにテレワークが必要な境遇の従業員に限定する方法があります。その場合、「全員を対象とする場合」の条項に以下を追加するとよいでしょう。
l 育児、介護、従業員自身の傷病などで、出社が困難な者 第○条 会社は、上記を確認するために必要最低限の書類提出を求める場合がある。育児休暇、介護休暇の届けがある者は不要とし、傷病手当金の申請をしている場合は、その写しで代用できる。 |
労働時間
企業によってさまざまな労働時間制度があり、基本的にはテレワークの従業員にもそのまま適用することになると思われますが、勤務形態によっては適用しにくい場合もあるでしょう。
労働時間に関してテレワークの規程ではどのように定義すればよいのか、勤務形態ごとに解説します。
通常の労働時間制の場合
通常の労働時間制とは1日8時間、週40時間の原則に基づく労働時間制のことです。これをテレワークにも適用するのであれば、通常勤務と同様の時間帯で勤務をおこなうことになります。
この場合は勤怠管理が必要なため、企業によって始業・終業時に電話やメール、もしくはツールでの打刻をおこなうという手法が採られています。
また、テレワークであっても深夜労働(午後10時~午前5時)がおこなわれた場合、割増賃金を支払う必要が生じます。通常の労働時間制であれば、規定でつぎのように定義するとよいでしょう。
l 会社の承認を受け、始業、終業、休憩時間の変更がおこなえる l 所定の労働時間を短縮した者の給与に関しては、育児・介護休暇規定○条に定めた勤務短縮措置時の給与の取り扱いとなる |
事業場外みなし労働制の場合
事業場外みなし労働制とは事業場外で従業員が勤務し、勤務時間の算定が困難である場合、所定労働時間の分、勤務をおこなったとみなすものです。
また、該当の業務を遂行するには通常所定労働時間を超えて労働が必要な場合も、その業務に通常必要な時間(労使協定が締結されていればその協定で定めた時間)を労働したとみなします。
たとえば、会社の所定労働時間が8時間であれば、実際の労働時間でなく、8時間勤務したとみなされます。事業場外みなし労働制の場合、上記の労働時間に関する定義に以下を追加するとよいでしょう。
第○条 在宅勤務を行う者がつぎの条件に該当し、会社が必要と認めた場合、就業規則第○条により、所定労働時間の労働をしたものとみなす。 l 従業員の自宅で勤務をおこなっている l 会社と在宅従業員の情報通信機器の接続を在宅従業員に任せていること l 在宅従業員の業務が、所属長から常時指示がなければ遂行できないものではないこと |
休憩・休日
テレワークであっても、通常勤務と同様に休憩時間や休日の取得が認められます。それぞれ、どのように規程で定義すればよいのか解説します。
休憩の場合
通常勤務と同様に1日の労働時間が所定の時間(を超える場合、休憩時間6時間以上は45分以上、8時間以上は1時間以上)を設けなくてはなりません。この場合、以下のように記載するとよいでしょう。
第○条 テレワーク勤務者の休憩時間は、就業規則第○条と同様とする。 |
休日の場合
労働基準法35条には、在宅勤務者に関しても原則として週1日以上の休日を与えることとあります。就業規則で以下のように規定し、テレワークに関しても同様である趣旨を追加するとよいでしょう。
就業規則 第○条 所定休日は、つぎのとおりとする。 l 土曜日及び日曜日 l 国民の祝日 l 夏季休日 l 年末年始 l その他会社の指定する日 |
時間外労働時間
時間外労働に関し、ツールなどで勤怠管理が可能であれば通常勤務と同様でよいでしょう。
しかし、会社側でテレワーク従業員の勤務時間を把握できない場合、時間外勤務を禁止、もしくは許可制とする会社もあります。それぞれ、以下のように規定するとよいでしょう。
テレワークで時間外労働、休日労働を認めない場合
第○条 原則として、テレワークでの時間外労働、深夜労働および休日労働を認めない。やむを得ない事由がある場合のみ、所属長に許可を得たうえでの勤務を認める。 |
テレワークで時間外労働、休日労働を許可制とする場合
第○条 テレワーク勤務者が時間外労働・休日労働および深夜労働をする場合、所定の手続きをおこない所属長の許可を受ける必要がある。 l 時間外労働・休日労働に関する事項は就業規則第○条と同様とする。 l 時間外労働・休日労働に関しては、給与規定に基づき、時間外労働手当、休日労働手当および深夜労働手当を支給する。 |
出退勤管理
労働時間の部分でも触れましたが、テレワーク勤務時は従業員が社内にいないため、出退勤管理に関してもルール決めをしておく必要があります。
規程に盛り込む際は、以下のように記載するとよいでしょう。
第○条 テレワーク勤務者は勤務の開始および終了に際し、以下のいずれかの方法で報告をしなくてはならない。 l 電話 l メール l 勤怠管理ツール |
もしくは、「所属長に対し○○で報告すること」というように、手段をひとつに絞るのもよいでしょう。
費用関連
在宅勤務の場合、作業環境を従業員自身が整えたり、自宅のインターネット回線を使用したりする場合があります。そのため、これらの光熱費や回線費用の負担に関するルール決めも必要になります。
賃金の場合
テレワークの場合、通常勤務と通勤の頻度が変わるため、通勤手当などの項目を見直す必要があります。その場合、以下のように規定するとよいでしょう。
第○条 テレワーク勤務者の給与は、就業規則第○条に定めたとおり。 l 在宅勤務(終日実施に限る)が週に4日以上の場合、毎月定額の通勤手当を支給せず、実際の通勤に要した往復運賃の実費を支給するものとする。 |
費用負担の場合
テレワークでかかる通信費などの出費に関して会社が負担をする場合、以下のような規程をしておくとよいでしょう。
第○条 会社が貸与する情報通信機器を利用した場合の通品費は会社負担とする。 l 在宅勤務に伴い発生する水道光熱費は、テレワーク勤務者の負担とする。 l 業務に要する事務用品費、郵送費、その他消耗品費など会社の認める出費は会社負担とする。 l その他の費用に関してはテレワーク勤務者の負担とする。 |
パソコン等を貸与する場合
業務用のパソコンを会社が貸与するのであれば、セキュリティリスクなども考えられます。たとえば、以下のような規定を設定しておくとよいでしょう。
第○条 会社は、テレワーク勤務者に対し業務上必要となるパソコン、プリンタなどの情報通信機器、ソフトウェアなどを貸与する。当該通信機器に会社の許可無くソフトウェアをインストールしてはならない。 |
規定は運用しながら評価・改善する
勤務規程の内容を詳細に設定し終えたら、導入の最終段階です。まず、策定した規程をテレワーク従業員に説明します。すると、要望や意見などが出て、改善すべき箇所が出てくるかもしれません。
必要に応じて内容を改善し、実際に規程を適用してテレワークを実施してみてください。そこでまた新たに改善すべき部分が見えてくる可能性があります。
実際に従業員に話を聞き、運用してみないと分からない部分もあるので、運用してみてから評価・改善していくことが重要です。
テレワーク規程のまとめ
テレワーク勤務の場合、労働時間や休日など通常勤務と変わらない部分があっても、明確な規則がなければトラブルの元にもなりかねません。
具体例を参考にテレワークのための勤務規程を設定し、実際に運用したうえで改善すべき部分があれば直していくと、自社に最適な状態で運用することができるでしょう。
参照元 PDFで開きます。
厚生労働省 テレワークモデル就業規則 ~作成の手引き~