結論から言えば、全部禁止でも全部OKでもありません。図面の出どころと契約内容で3区分に分けるのが、唯一の現実的な解です。自社で作成した情報は法人プランの学習オフ設定のもとで使える。顧客名や品番を伏せて一般化した情報は条件付きで使える。顧客から受領した図面や仕様書そのもの、NDA明記の資料、配合や独自条件などの中核ノウハウは入れない。この3区分を1枚の紙にして現場に貼れば、社内の議論はほぼ収まります。
「うちは図面を扱うから、AIは無理だ」。製造業でこの言葉を聞かない月はありません。そして、その慎重さ自体は正しいものです。顧客から預かった図面を安易に外部サービスへ入力すれば、契約違反になり得ます。
問題は、その慎重さが「何もしない」に直結してしまうことです。実際には、入れてよい情報と入れてはいけない情報を分ければ、多くの業務でAIは使えます。この記事では、その線の引き方を扱います。
なお、契約の解釈や法的な判断については、最終的には自社の顧問弁護士や取引先との確認が必要です。この記事は実務上の考え方を整理したものであり、法的助言ではありません。
製造業に固有の3つのリスク
一般的な情報漏洩の話とは別に、製造業には固有の事情があります。まずここを整理します。
リスク1:顧客図面は秘密保持契約の対象
受託加工では、顧客から図面や仕様書を預かります。その多くには秘密保持契約が付いており、「第三者への開示を禁じる」といった条項が含まれています。
生成AIサービスへの入力が「第三者への開示」に当たるかどうかは、契約の文言とサービスの利用条件によります。ただし、少なくとも「当たらないと確実に言える」状態ではありません。ここが最初の関門です。
リスク2:自社図面とノウハウは営業秘密
自社で設計した治具、独自に確立した加工条件、長年の試行錯誤で得た段取りの工夫。これらは不正競争防止法上の営業秘密として保護され得る資産です。
保護されるための要件の1つに、秘密として管理されていること(秘密管理性)があります。社内で誰でも自由に外部サービスへ入力できる状態は、この管理性の観点から望ましくありません。自社を守るためのルールという側面があります。
リスク3:配合・条件は知的財産そのもの
食品であれば配合、印刷であればインキの調合や刷り条件、金属加工であれば熱処理条件や表面処理の仕様。これらは、その会社の競争力の中核です。
特許として出願していない場合、これらはノウハウとして秘匿することでしか守れません。一度外に出た情報は取り戻せないという性質を持つため、扱いには最大限の注意が必要です。
3つのリスクの整理
| 情報の種類 | 誰の情報か | 守るべき理由 | 漏れたときの影響 |
|---|---|---|---|
| 顧客図面・仕様書 | 顧客 | 秘密保持契約 | 契約違反、取引停止、損害賠償 |
| 自社図面・加工条件 | 自社 | 営業秘密 | 競争力の喪失、模倣 |
| 配合・調合・独自条件 | 自社 | 知的財産(ノウハウ) | 事業の根幹の喪失 |
一般的な個人情報や社内の入力禁止情報の考え方については、別の記事で基礎を整理していますので、そちらを参照してください。ここでは製造業固有の部分に絞ります。

3区分の線引き
ここが本題です。すべての情報を3つに分けます。
区分1:自社情報(利用可)
自社で作成し、顧客の秘密情報を含まない情報です。具体的には、自社の作業手順書、社内規程、公開している製品情報、自社設備の仕様、社内会議の議事録、自社で作成した見積の根拠資料、公開済みの加工事例などが該当します。
これらは、法人プランで学習オフ設定を行ったうえであれば、業務での利用が可能です。
区分2:匿名化して可(条件付き利用可)
そのままでは出せないものの、特定につながる情報を除けば利用できるものです。顧客名・品番・図番を伏せた寸法情報、条件を一般化した加工の相談、社名を伏せた見積の考え方などが該当します。
重要なのは、匿名化の手順を定めることです。担当者の判断に委ねると、基準がばらつきます。「何を削除すれば匿名化とみなすか」を文書で決めてください。
区分3:禁止
顧客から受領した図面・仕様書そのもの、秘密保持契約で明示的に対象とされている資料、配合や独自条件などの中核ノウハウ、取引先との契約書、価格や取引条件が特定できる情報。これらは入力しません。
例外を作らないことが重要です。「今回だけ」を認めると、ルールは機能しなくなります。どうしても必要な場合は、顧客の書面承諾を得るという手順を通してください。
3区分の一覧
| 区分 | 対象となる情報 | 入力可否 | 必要な条件 | 判断者 |
|---|---|---|---|---|
| 自社情報 | 自社作成の手順書・規程・公開情報・自社設備仕様・議事録 | 可 | 法人プランで学習オフ設定を行う | 担当者判断で可 |
| 匿名化して可 | 顧客名・品番・図番を伏せた寸法や条件、一般化した相談 | 条件付きで可 | 定められた匿名化手順を実施 | 担当者が手順に従って実施、記録を残す |
| 禁止 | 顧客受領図面・仕様書、NDA明記資料、配合・独自条件、契約書、取引条件 | 不可 | ― | 例外は経営者判断+顧客の書面承諾 |
この表を1枚の紙にして、事務所と現場に貼ってください。判断を各自に委ねないことが、最大の防御になります。
匿名化の手順を具体的に決める
区分2を機能させるには、匿名化の中身を決める必要があります。
削除すべき情報
匿名化とは、単に社名を消すことではありません。組み合わせから特定できる情報も対象です。
| 削除・変更する情報 | 理由 |
|---|---|
| 顧客名・担当者名 | 直接の識別情報 |
| 品番・図番・製番 | 検索により特定される可能性 |
| 製品名・用途 | 業界内で特定されやすい |
| 特徴的な形状の記述 | 図面を見た人が特定できる |
| ロゴ・刻印の内容 | 直接の識別情報 |
| 納入先・使用先 | 間接的な識別情報 |
| 特異な寸法の組み合わせ | 複数の情報から特定される |
最後の項目に注意してください。一般的な寸法であれば問題ありませんが、その業界で特徴的な寸法の組み合わせは、それ自体が識別情報になり得ます。
匿名化の代わりに「一般化」する
より安全なのは、実際の案件をそのまま匿名化するのではなく、同種の一般的な問題として問い直すことです。
たとえば「SUS304の板厚1.2mm、外形200×150、公差±0.05の板金部品で、曲げ後の寸法がばらつく原因は何が考えられるか」という形にします。実際の案件の情報は使っていませんが、必要な回答は得られます。
この方法であれば、匿名化が不十分だったというリスク自体が生じません。多くの技術的な相談は、この形に置き換えられます。
記録を残す
区分2の利用については、簡単な記録を残してください。いつ、誰が、どのような目的で、何を匿名化して利用したか。1行で構いません。
この記録があると、万一問題が指摘されたときに、適切な手順を踏んでいたことを示せます。また、記録を残すという行為自体が、安易な利用への抑止になります。
法人プランと学習オフ設定
技術的な条件についても押さえておきます。
個人向け無料プランのままは避ける
多くの生成AIサービスには、無料プラン、個人向け有料プラン、法人向けプランがあります。このうち、入力内容がサービス改善(学習)に使われるかどうかの扱いが、プランによって異なります。
業務利用であれば、学習に使われない設定が可能なプラン、あるいはそもそも学習しない法人向けプランを選んでください。費用は1人あたり月数千円程度です。
確認すべき項目
契約前に、次を確認してください。
| 確認項目 | 確認の観点 |
|---|---|
| 入力内容の学習利用 | 学習に使われないか、オフにできるか |
| データの保存期間 | どのくらい保持されるか、削除できるか |
| データの保存場所 | 国内か国外か、取引先の要求と整合するか |
| 管理者による設定 | 個人設定に依存せず、組織として設定できるか |
| 利用ログ | 誰が何を入力したかを組織が把握できるか |
| 第三者提供 | 入力内容が第三者に提供されることがあるか |
| 契約主体 | 法人契約になっているか |
とくに4つ目が重要です。個々の利用者が自分で設定をオフにする方式だと、設定漏れが起きます。管理者が組織全体に適用できる方式を選んでください。
取引先から確認を求められる場合
大手取引先の中には、生成AIの利用状況について確認を求めるところが出てきています。上記の項目を整理しておけば、こうした照会にもすぐ回答できます。
むしろ、ルールを定めて運用していることを説明できる会社は、取引先から評価されます。「使っていません」より「ルールを定めて安全に使っています」のほうが、管理体制として上位に見られます。

上司・経営層への説明の仕方
現場でAIを使いたい人と、止める立場の人の間で、話がかみ合わないことがよくあります。ここを解きます。
「使いましょう」から入らない
最も避けるべきなのが、「AIは便利だから使いましょう」という切り出し方です。守る立場の人にとって、これは「リスクを取れ」と言われているように聞こえます。
順番を変えてください。「顧客図面をAIに入れない仕組みを先に作りましょう。そのうえで、自社情報だけを扱う業務から使います」。この言い方であれば、守りたいという立場を否定しません。
防波堤を先に立てる提案
具体的には、次の順で提案します。
まず、入力してはいけない情報を明文化する。次に、法人プランを契約し、管理者設定で学習をオフにする。そのうえで、利用してよい業務を限定して開始する。3か月後に運用状況を確認し、範囲の見直しを行う。
この提案は、実質的に「社内ルールを整備する」という内容です。反対する理由がほとんどありません。そして、ルールが整備されれば、使える範囲は自動的に明確になります。
説明に使える文面の例
経営層への説明では、次のような構成が有効です。
現状、社内で生成AIが個人の判断で使われている可能性がある(あるいは、使えないため他社に後れを取っている)。顧客図面の扱いを明確にしないまま放置すると、契約違反のリスクがある。したがって、まず入力可否のルールを定め、法人契約で学習をオフにする。そのうえで、自社情報のみを扱う業務から限定的に利用を開始する。3か月後に効果とリスクを確認し、範囲を見直す。
この構成であれば、リスク管理の提案として読めます。
「上司の理解度で部署ごとに差が出る」という現実
同じ会社の中でも、AIを使いこなしている部署と、まったく触っていない部署が並存する光景をよく見ます。そしてその差は、その部署の上司がAIをどう捉えているかでほぼ決まっています。
この差は、半年から1年で業務スピードの明確な違いになります。だからこそ、ルールを会社として定めることに意味があります。個々の上司の判断に委ねると、差は開く一方だからです。
万一入力してしまった場合の対処
ルールを定めても、事故は起こり得ます。起きたときにどうするかを決めておくことも、体制の一部です。
まず記録する
顧客図面を誤って入力してしまった場合、最初にやるべきは記録です。いつ、誰が、何を、どのサービスに入力したか。この事実を正確に残します。
隠したり、なかったことにしたりすると、後で発覚したときの影響が大きくなります。社内で報告しやすい雰囲気を作っておくことが、実は最大の予防策です。
サービス側の設定と削除を確認する
多くのサービスでは、会話履歴の削除が可能です。学習オフ設定が有効になっていたかも確認します。設定が有効であれば、学習に使われていない可能性が高いと判断できます。
削除の実施と、その記録を残してください。
顧客への報告を検討する
顧客への報告が必要かどうかは、契約内容と事案の内容によります。判断に迷う場合は、顧問弁護士に相談してください。
一般論として、報告すべきかどうかの判断を現場に委ねるべきではありません。経営者が判断する事項として、あらかじめ決めておいてください。
再発防止
事故が起きたら、なぜ起きたかを確認します。ルールを知らなかったのか、判断に迷って自己判断したのか、自動処理の設定に問題があったのか。原因によって対策が変わります。
多くの場合、原因は「相談先が分からなかった」ことです。相談のしやすさが、防止策として最も効きます。
業務別の実務上の線引き
区分の考え方を、実際の業務に当てはめてみます。
見積業務
顧客から受領した図面そのものは区分3です。一方、自社の過去見積の根拠資料、単価表、見積書の文面テンプレートはすべて区分1です。
したがって、図面を入力しなくても、過去見積の整理、単価表の管理、見積書の文面作成という部分でAIは働きます。図面を読む工程だけを人が担当すれば、それ以外は活用できます。
検査・品質業務
顧客指定の様式そのものに顧客名が入っている場合は、その部分を伏せます。測定値自体は自社が測定したデータであり、品番と紐づかない形であれば区分2として扱えます。
不良対策書については、自社内での分析段階では品番と顧客名を伏せて検討し、提出用の様式に整形する段階で実名を入れる、という流れが安全です。
手順書・教育
自社で作成した手順書は区分1です。ただし、特定顧客の製品専用の手順書で、顧客名や品番が記載されているものは、その部分を伏せてください。
加工条件そのものが自社のノウハウである場合は、区分3として扱う判断もあり得ます。ここは各社の競争力の源泉がどこにあるかによります。
業務別の整理
| 業務 | 区分1として使えるもの | 区分3として避けるもの |
|---|---|---|
| 見積 | 過去見積の根拠、単価表、文面テンプレート | 顧客から受領した図面・仕様書 |
| 工程管理 | 自社の工程表、日報、設備稼働記録 | 顧客名と品番が特定できる納期情報 |
| 検査・品質 | 測定手順、検査基準、自社の統計データ | 顧客指定様式の実データ(実名入り) |
| 保全 | 点検記録、修理履歴、設備仕様 | 特になし |
| 手順書 | 自社作成の手順、社内用語集 | 中核ノウハウとなる加工条件 |
| 営業・広報 | 公開済み事例、会社案内、設備一覧 | 未公開の顧客情報、取引条件 |
この表を見ると、多くの業務で区分1の情報だけでも十分な活用ができることが分かります。「図面が入れられないから何もできない」という結論にはなりません。
エージェント型を使うときに増えるリスク
チャット型で人が都度入力する段階と、エージェント型で自動処理させる段階では、リスクの性質が変わります。ここは別に押さえておく必要があります。
人の目を通らない入力が発生する
チャット型では、入力する内容を人が毎回見ています。しかしエージェント型では、受信したメールや添付ファイルが自動的に処理されます。つまり、顧客図面が添付されたメールが届いた瞬間に、それが自動でAIに渡る構成があり得るということです。
これは、ルールを定めていても事故が起きる典型的な経路です。設計の段階で防ぐ必要があります。
設計時に決めておくこと
| 決めること | 具体的な内容 |
|---|---|
| 入力の対象範囲 | どのフォルダ、どの送信元からの情報を処理するか |
| 添付ファイルの扱い | 添付を処理対象にするか、本文のみか |
| 除外条件 | 特定の拡張子(図面形式)を自動的に除外するか |
| 処理前の確認 | 人が確認するステップを挟むか |
| ログの保持 | 何が入力されたかを後から追えるか |
とくに3つ目が有効です。DXF、DWG、STEPといった図面形式のファイルを自動処理の対象から除外する設定にしておけば、うっかり事故の大半は防げます。
段階的に自動化する
エージェント化は、いきなり全自動にしないでください。まず人が確認するステップを挟んだ形で運用し、どのような情報が流れてくるかを把握します。そのうえで、安全が確認できた範囲だけを自動化します。
「便利だから全部つなぐ」ではなく、「安全が確認できた範囲だけつなぐ」という順序を守ってください。

ルールを定着させる運用
決めたルールが守られなければ意味がありません。
まず1枚の紙にする
ルールの整備というと大がかりに聞こえますが、必要なのは3区分の表1枚です。A4で1枚に収め、事務所と現場に貼る。それ以上のものは、当面必要ありません。
規程集のような分厚い文書を作ろうとすると、完成しないまま時間が過ぎます。1枚から始めて、運用しながら補足していく形にしてください。
教育は1回30分で足りる
ルールの教育は、長時間かける必要はありません。3区分の表を配り、具体例を5つほど挙げて、質問に答える。30分で十分です。
重要なのは、全員に一度は説明することです。「知らなかった」をなくすことが目的です。
迷ったときの相談先を決める
判断に迷う場面は必ず出ます。そのとき、誰に聞けばよいかを決めておいてください。相談先が不明確だと、自己判断で入力してしまうか、逆に何もしなくなります。
相談先は、社長でも製造責任者でも構いません。「迷ったら聞く」が機能する状態を作ります。
新しいツールを使うときの手順を決める
生成AIサービスは次々に登場します。社員が新しいツールを見つけて使いたくなることもあります。
このとき、「勝手に使わない」だけでは足りません。使いたいときにどうすればよいかを決めてください。具体的には、利用条件(学習の有無、データ保存、契約主体)を確認したうえで、社長または責任者が承認する、という手順です。
手順があれば、社員は正規のルートで相談します。手順がないと、黙って使うか、あきらめるかのどちらかになります。
年1回は見直す
生成AIのサービス内容や利用条件は変わります。また、取引先からの要求も変わります。年に1回はルールを見直してください。
見直しの際は、3か月から6か月の運用実績を振り返り、区分2の範囲を広げられないか、逆に厳しくすべき箇所はないかを検討します。
定着状況の確認
| 確認項目 | 望ましい状態 |
|---|---|
| ルールの周知 | 全員が3区分の表を見たことがある |
| 掲示 | 事務所と現場に表が貼られている |
| 契約 | 法人プランで学習オフ設定済み |
| 相談先 | 誰に聞くかが明確 |
| 記録 | 区分2の利用が記録されている |
| 見直し | 年1回の見直し時期が決まっている |
よくある質問
Q. 顧客の書面承諾があれば、図面を入力してよいのですか。
A. 承諾の範囲によります。「生成AIサービスへの入力を含む」ことが明示されていれば可能性はありますが、包括的な承諾では不十分な場合があります。実務上は、承諾を得るための手間と、承諾なしでできる範囲を比較して判断することになります。多くの場合、図面を入力しなくても業務は進みます。契約解釈については、自社の顧問弁護士にご確認ください。
Q. ローカル環境で動くAIなら、図面を入力してよいですか。
A. 外部にデータが出ない構成であれば、リスクは大きく下がります。ただし、そのAIが本当に外部通信を行っていないか、ログがどこに保存されるかを確認する必要があります。また、秘密保持契約に「電子的な複製の作成」に関する条項がある場合は、別途確認が必要です。
Q. 社員が個人のアカウントで勝手に使っている可能性があります。
A. 実際によくある状況です。禁止するだけでは、隠れて使われるだけになります。法人プランを用意し、「会社が用意したものを使ってください」という形にするのが、最も現実的な対処です。使える環境を提供することが、統制の第一歩になります。
Q. 取引先から「AIを使っていないことを証明してほしい」と言われました。
A. 使っていないことの証明は困難ですので、代わりに管理体制を説明する形をおすすめします。3区分のルール、法人契約での学習オフ設定、利用記録の保持。これらを文書で示せば、多くの場合は理解が得られます。取引先が懸念しているのは、無管理の利用だからです。
Q. 配合レシピや加工条件を、社内の手順書作成のためにAIに入れたいのですが。
A. これは各社の判断になります。その情報が競争力の中核であるならば、区分3として扱うのが安全です。一方、業界で一般的に知られている条件であれば、区分1として扱う判断もあり得ます。判断の分かれ目は、「この情報が他社に知られたら困るか」という一点です。
Q. ルールを作ると、かえって使いづらくなりませんか。
A. 逆です。ルールがない状態では、担当者は「これは大丈夫だろうか」と毎回迷い、結局使わなくなります。3区分が明示されていれば、区分1の業務については迷わず使えます。禁止事項を明確にすることが、使ってよい範囲を明確にすることになります。
Q. 食品や印刷でも、同じ考え方でよいですか。
A. 同じ3区分の枠組みが使えます。食品であれば顧客から預かったレシピや規格書が区分3、自社の配合も中核ノウハウであれば区分3です。印刷であれば入稿データや未発表の販促物が区分3、自社の作業手順や設備仕様は区分1になります。業種が変わっても、「誰の情報か」「契約で守られているか」「競争力の中核か」という3つの問いは共通です。
Q. 図面を扱わない部署なら、ルールは不要ですか。
A. 必要です。取引条件、価格、人事に関する情報など、図面以外にも扱いに注意すべき情報はあります。また、部署によってルールが違うと、社内で認識がずれます。会社として1つのルールを定め、部署ごとに該当する具体例を補足する形をおすすめします。
Q. 小規模な会社でも、ここまでの整備が必要ですか。
A. 規模にかかわらず、3区分の表と法人契約は必要です。ただし、記録や見直しの仕組みは、規模に応じて簡略化して構いません。従業員5名であれば、表を貼り、社長が相談先になる、という程度で十分機能します。
まとめ
顧客図面や仕様書、配合レシピを生成AIに入力してよいかという問いに、一律の答えはありません。性質の違う3種類の情報が混ざっているからです。顧客図面は秘密保持契約、自社図面と加工条件は営業秘密、配合や独自条件は知的財産。守るべき理由がそれぞれ違います。
したがって、全部禁止でも全部OKでもなく、出どころと契約で3区分に分けるのが現実的な解になります。自社情報は法人プランの学習オフ設定のもとで利用可。匿名化または一般化した情報は手順に従って条件付きで利用可。顧客受領図面、NDA明記資料、中核ノウハウは禁止。
この表を1枚にして貼り、法人契約で管理者設定を行い、迷ったときの相談先を決める。この3つで、社内の不安の大半は収まります。
そして経営層への説明では、「使いましょう」ではなく「入れない仕組みを先に作りましょう」から入ってください。防波堤を先に立てる提案は、守りたい立場を否定しません。ルールが整えば、使える範囲は自動的に明確になります。
防波堤を立てたうえで使う限り、生成AIは現時点で中小製造業が手にできる最大の生産性向上手段です。恐れて何もしないことも、無管理で使うことも、どちらも自社を危うくします。線を引いたうえで、引いた線の内側を最大限に使う。これが、いま取るべき姿勢だと考えています。
自社の情報を3区分に整理するところから、法人プランの選定、社内ルールの文書化、経営層への説明資料の作成までご支援します。取引先からの照会への回答準備もご相談いただけます。まずはお気軽にお問い合わせください。
