工務店や地域の建設会社では、こんな会話が珍しくありません。
「この請求書、どこに入力するんだっけ?」「〇〇さんしか分からない」「この会社は月末締めじゃなかった?」「それも〇〇さんに聞かないと分からない」「〇〇さん、今日休みなんだけど……」
従業員30名以下の工務店・総合建設・土木会社では、事務担当者が1~2名しかいないことも多く、請求、支払、入金確認、注文書、協力会社から届く書類、メール対応、Excelへの入力などが特定の担当者に集中しがちです。
問題なのは、その担当者が優秀すぎることです。
毎月繰り返している仕事なので、本人は特別な仕事をしている感覚がありません。
「請求書が来たらいつものExcelに入れる」「A社だけ20日締めなので別にする」「この現場は社長に確認してから処理する」「この会社はメールではなく紙で届く」「振込予定日は前回の請求書を見れば分かる」
このような小さな判断を頭の中でつなぎ合わせているため、本人に「仕事を全部マニュアルにしてください」とお願いしても、何を書けばよいのか分かりません。
そこで使いたいのがAIです。
ただし、AIに会計や支払の判断を丸投げするのではありません。
この記事でいうAIは、「PCに強い新入社員」として使います。
担当者から仕事を聞き、整理し、手順書にする。複数の請求書とExcelを比較する。抜けや違いを見つける。メール文面の下書きを作る。決まった転記は、将来的にエージェント型AIへ任せる。
一方で、金額の最終判断、支払承認、法的判断、安全に関わる判断は人が行います。
新しい施工管理システムや高額な原価管理ソフトを買うことが前提でもありません。
まずは今使っているExcel、メール、スマートフォン、共有フォルダ、会計・請求システムを残したまま、「〇〇さんの頭の中にしかない仕事」を会社の仕組みに変える。ここから始めるのが、30名以下の建設会社では現実的です。
国土交通省も、建設業のICT活用では現場だけでなく、バックオフィスについて「元請・下請間の書類等のやり取りの合理化」などを挙げています。建設会社の生産性向上は、現場だけでなく事務側も含めて考える必要があります。
1.結論:「事務の〇〇さんしか分からない」の正体は2つ。どちらもAIに話して残せる

工務店の事務が属人化しているとき、原因を細かく調べていくと、大きく2種類に分けられます。
1つ目は「頭の中の手順」です。
もう1つは、「どこに何があるか」です。
この2つを分けて考えると、属人化対策は急に分かりやすくなります。
頭の中の手順が属人化している
例えば、請求書を受け取った後に担当者が次のような処理をしているとします。
1. メールまたは郵送で請求書を受け取る
2. 現場名を見る
3. 担当監督を確認する
4. 注文書と金額を比較する
5. Excelへ入力する
6. 会計システムへ入力する
7. 金額が違えば担当者へ確認する
8. 支払予定日に合わせて一覧を作る
9. 社長または経理責任者の承認をもらう
10. 振込処理を行う
文章にすると簡単です。
しかし実際には、その間に大量の「例外」があります。
「A社は請求書が2枚に分かれる」「B社は材料費と施工費を別に入力する」「C社は月末ではなく20日締め」「この現場だけ請求先が本社ではない」「注文書がない場合は現場監督へ確認する」
こうした条件分岐まで担当者の頭の中に入っています。
「どこに何があるか」も重要なノウハウ
もう1つ見落とされやすいのが、情報の場所です。
- 協力会社一覧は共有フォルダのExcel
- 支払一覧は自分のPC
- 注文書は現場別フォルダ
- 請求書は紙とメール
- 入金情報はインターネットバンキング
- 過去の請求書は会計システム
- 一部の取引先との連絡はメール
- 現場監督との確認はチャット
担当者の頭の中には、いわば会社専用の「地図」ができているからです。
ところが別の人に交代すると、その地図がありません。
そのため、「ファイルが見つからない」「最新版がどれか分からない」「誰に確認すればよいか分からない」という状態になります。
属人化解消は「全部システム化すること」ではない
ここで、「じゃあ基幹システムを全部入れ替えよう」と考える必要はありません。
むしろ小規模な建設会社では、最初から大規模なシステム刷新をすると失敗することがあります。
現場では今までのExcelを使いたい。経理は今の会計システムに慣れている。取引先は紙の請求書を送ってくる。社長はスマートフォンで確認したい。
この状態で全員の仕事を一気に変えるのは大変です。
そこで先に、AIが仕事を理解できる状態を作ります。
これをこの記事では「お膳立て」と呼びます。
- この業務はいつ行うのか
- 何を見て開始するのか
- どのファイルを確認するのか
- 何と何を照合するのか
- 例外は何か
- 分からない場合は誰に聞くのか
- 最後に誰が判断するのか
この状態になれば、AIは「PCに強い新入社員」としてかなり仕事を手伝えるようになります。
中小企業庁も、業務プロセスを見直した中小企業の取組として「業務の標準化・マニュアル化」「不要・重複業務の見直し」「業務の見える化」を挙げています。属人化した仕事をマニュアル化することで、その業務に対応できる人を増やせるという考え方も示されています。
つまり、AI導入の前に必要なのは、「AIについて勉強すること」ではありません。
まず、自社で実際に行っている仕事を見える形にすることです。AIは、その作業を非常にやりやすくしてくれます。
属人化の棚卸しチェックリスト
| 確認項目 | はいの場合 |
|---|---|
| 担当者が休むと請求処理が止まる | 属人化の可能性が高い |
| 支払予定の確認方法を1人しか知らない | 手順を残す必要あり |
| 取引先ごとの締め日を担当者が暗記している | 一覧化が必要 |
| Excelの最新版を担当者しか判断できない | 保存場所・命名ルールの整理が必要 |
| 請求書が紙・メール・PDFで混在している | 入口の整理が必要 |
| 注文書と請求書の照合を目視だけで行っている | AIによる突合候補 |
| 同じ内容をExcelと会計システムへ二重入力している | 転記自動化候補 |
| 「前回と同じ」で処理している仕事が多い | AIが過去資料を参照できる可能性あり |
| 例外処理を担当者しか知らない | 手順書へ条件分岐を追加 |
| 引き継ぎ資料が古い | 実際の作業から再作成する |
| 担当者本人も業務を説明しにくい | 音声ヒアリングが有効 |
| 月次締め前だけ残業や負荷が集中する | 締め作業を分解する価値あり |
3つ以上当てはまる場合、いきなりシステムを購入する前に、業務の棚卸しから始める価値があります。
2.工務店の事務が人に紐づく理由|取引先ごとの例外、締め日、紙とメールの混在
建設業の事務が属人化しやすいのは、担当者の能力不足が原因ではありません。
むしろ、業務に例外が多すぎることが原因です。
同じ請求業務でも取引先によってルールが違う
例えば協力会社30社と取引している場合でも、すべてが同じ条件とは限りません。
- 末締め
- 20日締め
- 現場ごとに締める
- 出来高確認後に請求
- 注文書がある
- 注文書がない
- 紙で請求
- PDFで請求
- 指定様式で請求
- 本社へ請求
- 現場へ請求
こうした例外を、担当者が経験によって覚えていきます。
紙・Excel・メール・既存システムが混ざっている
さらに建設会社では、情報が一か所に集まっていないことも珍しくありません。
例えば1件の支払を確認するだけでも、メールの請求書 → 注文書PDF → 現場Excel → 会計システムのように複数の場所を見ることがあります。
これが、この記事の共通フレームワークでいう「複数文書の突合」です。
AIは、請求書1枚を読むだけより、「この請求書と注文書と支払予定表を比較してください」という使い方のほうが、実務では大きな価値が出ます。
「うちには詳しい人がいない」は問題ではない
AI活用の話をすると、「うちにはITに詳しい社員はいないから無理」と言われることがあります。
しかし必要なのは、IT専門家ではありません。
必要なのは、「今の仕事を知っている人」です。
請求担当者が、「私は毎月こうやっています」と話せれば十分です。
AIについて詳しくなくても、AI側に聞き役をさせれば手順を整理できます。
「本当に生産性が上がるのか」は転記から測ればよい
AI導入でありがちな失敗が、「会社全体の生産性を上げよう」という大きすぎる目標から始めることです。
30名以下の工務店なら、もっと小さく始めます。
- 請求書からExcelへの転記
- 注文書と請求書の金額比較
- 入金一覧との照合
- 催促メール作成
特に入口は転記業務がおすすめです。
「毎月何件入力しているか」「1件何分程度かかるか」「確認ミスがどのくらい起きるか」を比較しやすいからです。
3.お膳立て:担当者に「いつもの手順」を音声で話してもらい、AIで手順書化する

ここがこの記事で最も重要な部分です。
事務担当者に、「引き継ぎマニュアルを作ってください」とお願いしてはいけません。
忙しい担当者ほど進みません。
それよりも、普段やっている仕事を、そのまま話してもらいます。
「マニュアルを書く」のではなく「仕事を実況する」
例えば請求業務なら、実際の画面や書類を見ながら、「まずメールを開きます」「この取引先から請求書が来ます」「現場名を見ます」「このExcelを開きます」「ここに日付と金額を入れます」「注文書がある場合は金額を確認します」「違っていたら現場監督に聞きます」とスマートフォンなどへ話してもらいます。
文章を考える必要はありません。
きれいに説明する必要もありません。
AIに文字起こしした内容を渡して、「この内容を、新しく入社した事務員でも作業できる手順書にしてください」と依頼します。
AIには「分からないところを質問させる」
さらに重要なのが、AIに質問を作らせることです。
例えば、「この説明だけでは新人が判断できない部分を質問してください」と指示します。
- Excelはどこに保存されていますか
- ファイル名は何ですか
- 注文書がない場合はどうしますか
- 金額が一致しない場合は誰に確認しますか
- 支払日はどこで確認しますか
- 承認者は誰ですか
- 担当者不在時は誰が代行しますか
このように、抜けている情報を洗い出せます。ここが、人が一人でマニュアルを書く場合との大きな違いです。
手順書テンプレート
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 業務名 | 例:協力会社請求書の処理 |
| 実施タイミング | 毎日・毎月20日以降など |
| 開始条件 | 請求書を受領したら |
| 入力資料 | 請求書、注文書、現場一覧など |
| 使用ファイル | Excel名・保存場所 |
| 使用システム | 会計・請求システム等 |
| 手順 | 1、2、3の順番 |
| 照合項目 | 会社名、現場名、金額、日付など |
| 通常ルール | 基本的な処理方法 |
| 例外処理 | A社のみ20日締め等 |
| エラー時 | 誰へ確認するか |
| 承認者 | 誰が最終確認するか |
| 完了条件 | 何をもって終了とするか |
| 保存先 | 処理後の書類の場所 |
| 関連資料 | 過去請求書、取引先一覧など |
| 更新日 | 最後に手順を更新した日 |
| 更新責任者 | 誰が直すか |
手順書だけではなく「情報の地図」を作る
もう1つ作っておきたいのが、情報の所在地一覧です。
| 情報 | 場所 |
|---|---|
| 協力会社マスタ | 共有フォルダ |
| 現場一覧 | Excel |
| 注文書 | 現場別フォルダ |
| 請求書 | メール+紙 |
| 支払予定 | 会計システム |
| 入金情報 | インターネットバンキング |
| 過去の請求 | 会計システム |
| 担当監督一覧 | Excel |
これだけでも、担当者が休んだときの難易度は大きく変わります。
最初から完璧なマニュアルを作らない
重要なのは、100点を目指さないことです。
まず80%程度の手順を作り、別の社員にその手順で作業してもらいます。
分からなかったところを追加します。
つまり、担当者が作る → 新人が試す → 分からない箇所を直す、という形です。
AIがいれば、修正作業もかなりやりやすくなります。
4.請求・支払・入金確認をAIで代替できる範囲|転記・照合・催促文から始める
AIは経理担当者そのものになるわけではありません。
向いている仕事と、向いていない仕事があります。
AIに任せやすい業務
1.転記
請求書から、会社名、請求日、請求番号、現場名、税抜金額、消費税、税込金額などを読み取り、Excel用の形式へ整理します。
その後、人が確認して貼り付ける運用でも構いません。業務が安定すれば、エージェント型AIなどを使って入力そのものを自動化していく選択肢もあります。
2.複数文書の突合
ここはAIとの相性がよい領域です。例えば、注文書+請求書+工事原価Excelを一緒に確認させ、「会社名、現場名、注文金額、請求金額を比較し、一致していない項目だけ一覧にしてください」とします。
人が全件を目視するのではなく、AIに一次確認をさせ、人は相違箇所を見るという役割分担です。
3.催促文・確認メールの下書き
例えば、「8月分の請求書が届いていない協力会社へ、角が立たない確認メールを作ってください」という使い方です。担当者が毎回文章を考える必要がありません。
AIに任せる・任せない対比表
| 業務 | AIに任せる | 人が判断する |
|---|---|---|
| 請求書の文字読み取り | ○ | 読み取り結果の確認 |
| Excel形式への整理 | ○ | 最終登録確認 |
| 注文書との金額比較 | ○ | 差額の扱い |
| 請求漏れ候補の抽出 | ○ | 本当に請求漏れかの判断 |
| 支払予定一覧の作成 | ○ | 支払実行の承認 |
| 催促メール下書き | ○ | 送信可否 |
| 過去資料検索 | ○ | 採用する情報の判断 |
| 勘定科目候補の提示 | ○ | 最終的な会計判断 |
| 契約上の判断 | × | ○ |
| 法的判断 | × | ○ |
| 振込実行 | 原則任せない | ○ |
| 高額支払の承認 | × | ○ |
| 安全・施工判断 | × | ○ |
基本は、「探す・読む・並べる・比べる・書き写す・下書きする」はAI。「決める・承認する・責任を持つ」は人、と覚えておくと分かりやすいでしょう。
公開されているデジタル化・AI導入補助金のITツール活用事例でも、従業員11~30名の建設業者によるAI自動仕訳を利用した経理処理の効率化事例が紹介されています。これは特定製品を導入すべきという意味ではありませんが、建設会社のバックオフィスでもAIを活用する余地があることを示す参考例です。
5.既存の会計・請求システムはそのまま|「うちのシステムは決まっている」でも始められる
AI活用を検討すると、「うちは会計システムが決まっているから変えられない」という話がよく出ます。
変える必要はありません。
むしろこの記事では、既存システムを変えないことを前提にしています。
AIはシステムの「間」に入れる
例えば現在、請求書 → Excel → 会計システムという流れなら、請求書 → AIで読み取り・整理 → Excel → 会計システムにします。
システムそのものを置き換えるのではなく、人間が行っていた「間の作業」をAIへ渡す考え方です。
複数システムを同時参照する
- メール
- Excel
- 会計システム
- 原価管理表
- インターネットバンキング
- 共有フォルダ
工務店では1つの仕事を完結するために、こうした複数の場所を行き来することがあります。
人の場合、「メールを開く → 数字を覚える → Excelを開く → 入力する → PDFを確認する」という操作になります。
AIエージェントが利用できる環境では、将来的にこうした複数の情報源を横断し、必要な情報を探し、比較し、転記するところまで任せられる範囲が広がっていきます。
ただし、自動操作を導入する場合も、いきなり支払実行まで自動化しないことが重要です。
最初に自動化するなら「転記」
1. AIで読む
2. AIで比較する
3. AIでExcel形式に整理する
4. 人が確認する
5. 問題が少なければ入力を自動化する
最初から、「請求書が届いたらAIが勝手に振込までやる」という設計にする必要はありません。
今あるExcelも捨てなくてよい
「Excel管理は古いから、全部クラウドへ移しましょう」という提案もあります。
しかし、30名以下の工務店で長年使ってきたExcelには、会社独自のノウハウが入っています。
そのExcelを無理に捨てる必要はありません。
まずAIに、「このExcelの各列が何を意味しているか」「どの資料から転記されているか」「誰がいつ更新しているか」を理解させます。
そのうえで、重複入力だけ減らすことから始めればよいのです。
「システムを変えるDX」から「人の作業を減らすDX」へ
中小企業庁の2024年版中小企業白書でも、中小企業がDXに期待する効果として「業務効率化による負担軽減」が多く挙げられています。
30名以下の会社では、新しいシステムを導入した数より、毎月行っている無駄な操作を何個なくしたかを見るほうが実務的です。
国土交通省も建設業のICT化について、企業規模などに応じた取組が必要だとしています。すべての会社が同じ大規模システムを導入するのではなく、自社規模に合わせて進めるという考え方が重要です。
6.事務担当者の退職・休暇でも止まらない引き継ぎの回し方
手順書を作っただけでは、属人化は解消しません。
実際に別の人が作業できるか確認する必要があります。
おすすめなのが、「計画的な模擬休暇」です。
ステップ1.担当者に業務を話してもらう
まず1つの業務だけ選びます。
おすすめは、月末請求、協力会社への支払、入金確認、請求書整理などです。
ステップ2.AIで手順書を作る
音声やメモを基に、前述のテンプレートへ整理します。
ステップ3.別の社員に作業してもらう
ここが重要です。
担当者は横から教えません。
手順書だけを見て作業してもらいます。
分からなかった箇所には、「ここでどのファイルを見るか分からなかった」などとメモを残します。
ステップ4.AIに改善させる
作業者の質問をAIへ渡し、「この質問が出ないように手順書を修正してください」と依頼します。
これを繰り返します。
ステップ5.担当者が半日いなくても回る状態を作る
最初から、「退職しても完全に大丈夫」を目指さなくて構いません。
まず、担当者が半日いなくても回る。次に、1日休んでも回る。その次に、3日休んでも締め作業ができる。という順番で進めます。
これはBCP、つまり事業継続の意味でも有効です。
担当者本人にとっても、「自分が休むと会社が止まる」というプレッシャーから解放されます。
7.事例:月次締めの日数をどう変えるか|公開事例+デモ手順で考える
ここでは、架空の削減率や「○日から○日になった」といった数字は作りません。
代わりに、公開情報と実際に再現できるデモ手順から、どこを改善できるかを整理します。
公開事例:建設業でもバックオフィスのデジタル化は進んでいる
国土交通省は、建設業のICT活用について、バックオフィスでの書類の合理化を取組項目として挙げています。
また、デジタル化・AI導入補助金の公開事例では、従業員11~30名の建設業者について、AIによる自動仕訳を活用した経理処理の効率化事例が紹介されています。
さらに、国土交通省のモデル事業事例集にも、工程管理・原価管理システムや工事書類管理などを活用し、バックオフィス・現場書類作成の効率化に取り組む建設会社の事例があります。
ここから分かるのは、「現場だけをデジタル化すればよいわけではない」ということです。
30名以下の工務店なら、月次締めを分解する
例えば現在の月次処理が次のようになっているとします。
1. 請求書を集める
2. 紙を並べる
3. Excelへ入力する
4. 注文書を探す
5. 金額を確認する
6. 現場監督へ確認する
7. 会計システムへ入力する
8. 支払予定を作る
9. 社長が確認する
AI導入後のデモ手順は次の形にできます。
1. 請求書PDFをまとめる
2. AIが会社名・現場名・金額などを抽出
3. AIがExcel形式に整理
4. 注文書と請求書をAIが比較
5. 相違案件だけ一覧化
6. 人が相違案件を確認
7. 確認済みデータを既存システムへ登録
8. AIが支払確認一覧を作成
9. 責任者が最終承認
ポイントは、人が全件を読む仕事から、例外を見る仕事へ変えることです。
効果は「日数」だけでなく4つ測る
| KPI | 確認内容 |
|---|---|
| 月次締め完了日 | 何営業日目に終わったか |
| 転記時間 | 入力作業に何時間かかったか |
| 確認件数 | 人が全件確認したか、例外のみか |
| 差戻し件数 | 入力ミス・確認漏れが何件あったか |
最初の1~2か月はAI導入前後を比較します。
これなら、「AIを導入したけれど本当に生産性が上がったのか分からない」という状態を避けられます。
8.人が判断する箇所と、AIへ渡す情報の線引き
業務効率化だけを考えて、会社の情報を何でもAIへ入力するのはおすすめできません。
特に建設業では、取引先情報、振込口座、契約書、従業員情報、原価、見積金額、個人情報などを扱います。
AIへ入力してよい情報を社内で決める
最低でも、入力可・要注意・入力禁止の3段階に分けてください。
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 入力可 | 公開資料、社内テンプレート、一般的な作業手順 |
| 要注意 | 請求書、原価資料、取引先情報 |
| 入力禁止 | パスワード、秘密鍵、本人確認情報など |
実際の区分は、自社の情報管理方針や利用するAIサービスの契約条件に合わせて決めます。
個人向けAIと業務向け環境を同じ感覚で使わない
企業データを扱う場合は、利用するサービスのデータ利用条件、保存方法、アクセス権限などを必ず確認してください。
例えばOpenAIは、ChatGPT Businessなどのビジネス向けサービスについて、組織の入力・出力をデフォルトでモデル学習に使用しないと説明しており、保存時・転送時の暗号化についても案内しています。
ただし、どのAIサービスでも同じ条件というわけではありません。
- 入力データが学習へ利用されるか
- 保存期間
- 管理者権限
- 共有設定
- 退職者のアカウント停止
- 外部サービスとの接続範囲
金額・法律・安全は最後に人が見る
この線引きは非常に重要です。
AIが、「請求書は注文書と一致しています」と回答しても、人が最終確認します。
AIが、「この勘定科目だと思われます」と回答しても、会計上の判断は担当者が行います。
AIが契約書を要約しても、法的な判断をAIだけで確定しません。
つまりAIは、判断材料を早くそろえる担当者です。最終責任者ではありません。
工務店のAI導入は「PCに強い新入社員を1人入れる」と考える
AIを難しく考えすぎる必要はありません。
30名以下の工務店であれば、「会社をAI化する」ではなく、「PCに強い新入社員が入ったら、どの仕事を渡すか」と考えてください。
例えば新人なら、「この請求書をExcelへ入力して」「注文書と金額が違うところを探して」「未提出の会社を一覧にして」「催促メールを下書きして」「〇〇さんのやり方をマニュアルにして」と頼めます。
AIにもほぼ同じ発想で仕事を渡せます。
ただし、新入社員に会社のルールを教えず、「適当に経理やっておいて」とは言わないはずです。
AIも同じです。だから先に、お膳立てが必要なのです。
まず取り組むなら「1業務だけ」でよい
全部の事務業務を一度に変えようとすると進みません。
最初は1つ選んでください。
おすすめは、「毎月繰り返す・件数が多い・転記がある」業務です。
- 請求書整理
- 支払一覧作成
- 入金確認
- 注文書との照合
1. 担当者が実況する
2. AIで手順書を作る
3. 必要な資料の場所を整理する
4. AIに一部作業を任せる
5. 別の社員が代行する
6. 分からない箇所を修正する
ここまでできれば、次の業務へ進みます。
AI導入とは、AIツールの契約数を増やすことではありません。
「〇〇さんしかできない仕事」を1つずつ減らすこと。この方が、小さな建設会社では効果が見えやすくなります。
まとめ|「事務員が辞めたら困る」ではなく、辞めても仕事が残る会社へ
工務店の事務が属人化する原因は、「頭の中にしかない手順」と「どこに何があるかを担当者しか知らないこと」の2つです。
高額な専門システムを導入しなければ解決できないわけではありません。
今使っているExcel、メール、スマートフォン、会計システムを残しながらでも始められます。
まず担当者に、いつもの仕事を話してもらいます。AIで手順書にします。
次に、請求書の読み取り、Excelへの転記、注文書との照合、入金確認、催促文の作成など、AIが得意な仕事から渡します。
そして将来的には、決まった操作や転記についてエージェント型AIを使い、複数のシステムを横断する仕事まで自動化していきます。
一方、金額の承認、支払判断、法的判断、安全に関する判断は人が行います。
重要なのは、AIに人を置き換えさせることではありません。
人の頭の中だけにある仕事を、会社に残すことです。
「〇〇さんがいないから今日は分かりません」という会社から、「手順と資料を見れば誰でも続けられます」という会社へ変える。30名以下の工務店のAI活用は、ここから始めるのが現実的です。
FAQ
Q1.事務担当者がパソコンやAIに詳しくなくてもできますか?
はい。むしろ最初に必要なのはAIの知識ではなく、普段の業務を説明できることです。「請求書が届いたら何をするか」を話してもらい、AIに整理・質問させる方法なら、担当者自身が複雑なプロンプトを作る必要はありません。
Q2.今使っているExcelや会計システムを変更する必要がありますか?
必ずしも変更する必要はありません。最初は既存のExcelや会計・請求システムを残し、人が行っている読み取り、照合、転記、下書きなどをAIへ移す方法が現実的です。既存システムとの連携可否は、利用するAIやシステムごとに確認してください。
Q3.AIに請求書や取引先情報を入力しても大丈夫ですか?
利用するAIサービスの契約条件やデータ利用方針によります。会社で利用する場合は、学習利用の有無、保存方法、アクセス権限、外部共有設定などを確認し、入力可能な情報と禁止する情報を社内で決めてください。
Q4.事務員の退職が決まってからでも間に合いますか?
残された期間によりますが、何も残さないよりは大きく改善できます。すべてを文書化しようとせず、請求・支払・入金確認など止まると影響が大きい業務から順に、本人へ音声で説明してもらい、AIで手順化する方法が有効です。
Q5.AIに支払や会計判断まで全部任せられますか?
おすすめしません。AIは読み取り、転記、比較、候補提示、文章作成などに利用し、金額の承認、振込実行、会計・税務・法務上の最終判断は責任者や専門家が行う体制にしてください。
「事務の〇〇さんしか分からない」を解消しようとしても、最初からAIツールを選ぶ必要はありません。
まず確認したいのは次の5点です。
- どの業務が属人化しているか
- どこに二重入力・転記があるか
- AIに任せられる工程はどこか
- 今のExcelや会計システムを残したまま何ができるか
- 人が判断すべき部分をどこに残すか
特に、事務担当者の退職予定がある、月末締めの負担が大きい、請求書と注文書の照合に時間がかかっている会社は、システムを購入する前に一度業務フローを整理することをおすすめします。
現在のExcel・請求書・会計システムの使い方を確認しながら、「AIに任せる仕事」「今のまま残す仕事」「人が判断する仕事」を一緒に整理できます。
問い合わせ前に、現在使っているExcelやシステム名、毎月の請求書のおおよその件数、特に困っている事務業務を分かる範囲で整理しておくとスムーズです。
※AIの導入効果は、現在の業務内容、資料の形式、利用システム、社内ルールなどによって異なります。個別の会計・税務・法務上の判断については、必要に応じて税理士・行政書士・弁護士などの専門家へ確認してください。
