POSレジを導入して売上はデジタル化できているのに、仕入先への発注だけは昔のやり方が残っている店舗は珍しくありません。
ある仕入先にはFAXで発注書を送り、別の仕入先にはメール本文で注文し、さらに別の仕入先には専用の発注サイトから入力する。取引先によってはLINEで注文内容を送っていることもあります。
問題なのは、何を仕入れるかを決めることだけではありません。
店主や店長の頭の中ではすでに「この商品を10個」「こちらは5個」と発注内容が決まっているのに、その後、仕入先ごとの注文方法に合わせて発注書を作り直す作業に時間を取られていることです。
毎日30分でも、月25日なら12時間以上になります。
さらに厄介なのは、FAX、メール、発注サイト、LINEに注文履歴が分散し、「先週何個頼んだか」「この商品は本当に発注したか」を確認するたびに、それぞれの履歴を探さなければならないことです。
こうした小売店の発注業務は、仕入先側の注文方法を無理に統一しなくても改善できます。
重要なのは、店舗側で「発注案」を一つのスプレッドシートにまとめ、そのデータをAIや自動化ツールによってFAX用、メール用、発注サイト入力用などへ出し分ける考え方です。
AIが勝手に発注量を決める必要はありません。
人が確認した発注内容を、仕入先ごとの書式へ変換する部分からAIを使うだけでも、毎日の繰り返し作業をかなり整理できます。
この記事では、食品、アパレル、雑貨、家具などの店舗小売を想定し、POSレジはすでにあるものの、発注・仕入をExcelやGoogleスプレッドシートで管理している店舗が、既存の環境を大きく変えずに発注書作成を効率化する方法を解説します。
発注量そのものの決め方や棚卸については扱いません。今回は「何を何個頼むかが決まった後」の業務に絞って考えます。

仕入先25社への発注だけで毎日30分かかっていた雑貨店の想定例
ここでは分かりやすくするため、架空の雑貨店を想定します。実在企業の導入事例ではありません。
この店舗では約25社の仕入先と取引しており、そのうち8社はFAX、10社はメール、5社は各社の発注サイト、2社はLINEで注文を受け付けているとします。
店主は毎日の売上や在庫を確認し、翌日以降に必要な商品をスプレッドシートへまとめています。この段階では、どの商品を何個発注するかはすでに決まっています。
ところが、発注案を作った後の作業が終わりません。
FAXの会社には指定された形に近い発注書を作り、PDFにするか印刷します。メールの会社には発注内容を本文へ転記します。発注サイトを使う会社には、ブラウザを開いて商品コードや数量を入力します。LINEで受け付けている会社には、また別の文章へ整えて送信します。
つまり、発注判断が終わった後に、同じ情報を仕入先の都合に合わせて何度も作り直しているわけです。
25社すべてへ毎日発注するわけではないとしても、対象先を確認し、相手の注文方法を思い出し、必要な形へ転記していけば30分程度はすぐに過ぎます。
さらに店主が休むと、「この会社はFAXだったかメールだったか」「メールの場合は何を書けばよかったか」といった部分まで他のスタッフが判断できません。
ここで起きている問題は、仕入先が多いことそのものではありません。発注方法が店主の頭の中にあり、仕入先ごとの注文形式へ変換する仕事まで店主が引き受けていることです。
この業務を改善する場合、いきなり高額な発注管理システムへ全部置き換える必要はありません。まずは「発注する内容」と「その内容をどう仕入先へ送るか」を分けるところから始めます。

小売の発注は「発注量の決定」と「発注書の作成・送付」を分けて考える
小売店の発注という言葉には、実際には性質の違う作業が混ざっています。
一つは、何を何個仕入れるかを決める仕事です。もう一つは、決まった発注内容を仕入先が受け付ける方法へ変換し、実際に注文する仕事です。
この二つを分けると、AIを使う場所が分かりやすくなります。
| 工程 | 主な作業 | 向いている方法 |
|---|---|---|
| 発注量を決める | 売上、在庫、季節性などから必要数量を判断する | 人の判断、POSデータ分析、需要予測など |
| 発注内容を整える | 仕入先、商品、数量、納品希望日を確定する | スプレッドシート |
| 仕入先別へ変換する | FAX、メール、LINEなどの形式へ整える | AI |
| 発注サイトへ転記する | 決まった項目へ商品コードや数量を入力する | CSV、API、自動化ツール |
| 送付履歴を残す | いつ、どこへ、何を注文したか記録する | スプレッドシート、自動化 |
この記事で主に扱うのは、発注内容が決まった後です。特にAIが使いやすいのは、同じ元データを相手に合わせて書き換える仕事です。
たとえば、スプレッドシート上には「仕入先A、商品コード1234、商品名○○、数量10、納品希望日9月15日」と記録しておきます。その内容から、ある会社向けには発注書形式、別の会社向けにはメール本文、LINE向けには短い注文文を作るといった処理です。
この仕事は、人間が毎回ゼロから文章を考える必要がありません。
一方で、AIへ「何個注文すればよいか」まで同時に任せてしまうと、業務設計が複雑になります。発注量の判断と注文書作成を切り離し、まずは単純な変換作業からAI化したほうが、店舗では導入しやすくなります。
仕入先の注文がFAX・メール・発注サイトで混在すると何が起きるのか
仕入先への注文がFAX・メール・発注サイトで混在している店舗では、発注件数以上に作業負担が増えます。理由は、注文チャネルが変わるたびに、人間が頭を切り替えなければならないからです。
同じ商品情報を何度も入力する
スプレッドシートにはすでに発注内容が存在しているのに、その情報をFAX用の発注書へ転記し、メールへコピーし、さらに発注サイトへ入力するケースがあります。
データとして考えれば、商品コードも商品名も数量も同じです。違うのは「相手へどう渡すか」だけです。
しかし、人間が作業すると、それぞれが別の仕事になってしまいます。特に商品数が多い店舗では、転記する回数が増えるほど数量間違いや商品コードの入力ミスも起きやすくなります。
発注書作成を自動化する小売店では、この「元データは同じなのに何度も入力している部分」を見つけることが最初の改善ポイントです。
発注方法が店主の頭の中にしか残らない
仕入先ごとのルールも属人化しやすい情報です。
取引先AはFAX、取引先Bはメール、取引先Cは発注サイトという違いだけならまだ覚えられるかもしれません。
実際には、「A社は午前11時まで」「B社はメール本文へ納品日を書く」「C社は自社の商品コードではなく先方の商品コードを使う」といった細かな違いまで存在します。
これらがマニュアルではなく店主の経験として管理されていると、店主が不在になった瞬間に発注業務が止まります。AIを導入する前に必要なのは、この仕入先別ルールをデータとして外へ出すことです。
送った記録がチャネルごとに分散する
もう一つ見落とされやすい問題が発注履歴です。
FAXならFAXの送信履歴、メールなら送信済みフォルダ、LINEならトーク履歴、発注サイトならサイト内の注文履歴を確認することになります。
発注した瞬間には困らなくても、数日後に納品されたときに問題が表面化します。
「10個頼んだはずなのに8個しか届いていない」「この商品は今回注文していたか」と確認したいとき、元の注文情報が一か所にありません。
発注業務の改善では、送信時間を短くするだけでは不十分です。何をいつ誰へ注文したかを、店舗側にも共通の履歴として残しておくことが重要です。
発注書作成を自動化する小売店は「発注案スプレッドシート」を起点にする
仕入先ごとの注文方法をAIで整理するとき、最初に作るべきものは高機能なシステムではありません。店舗側の共通データとなる「発注案スプレッドシート」です。現在すでにExcelやGoogleスプレッドシートで発注商品を管理しているのであれば、その表を整理するところから始められます。
まず全仕入先共通の発注案を1枚の表にまとめる
発注案の表には、仕入先によって変わらない基本情報を持たせます。一例は次のようになります。
| 発注日 | 仕入先 | 商品コード | 商品名 | 数量 | 単位 | 納品希望日 | 状態 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 9月11日 | A商事 | 1001 | 商品A | 10 | 個 | 9月13日 | 未送付 |
| 9月11日 | A商事 | 1002 | 商品B | 5 | 個 | 9月13日 | 未送付 |
| 9月11日 | B卸 | 2050 | 商品C | 3 | 箱 | 9月14日 | 未送付 |
ここではまだFAX用、メール用と分けません。まず店舗側で「今日発注する内容はこれ」という元データを一つにすることが重要です。
この表が一本化されていれば、後の処理をAIや自動化ツールへ渡しやすくなります。反対に、FAX用Excel、メール用Excel、Web発注用メモのように最初からファイルを分けてしまうと、AIを導入しても管理する場所が増えたままになります。
仕入先マスタに注文方法と書式を登録する
次に作るのが仕入先マスタです。発注案には「何を注文するか」を記録し、仕入先マスタには「どう注文するか」を記録します。
| 仕入先 | 注文方法 | 出力方法 | 締切時刻 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| A商事 | FAX | 発注書PDF | 11時 | 商品コード必須 |
| B卸 | メール | メール本文 | 12時 | 納品希望日を記載 |
| C販売 | 発注サイト | 入力用一覧 | 15時 | 先方品番を使用 |
| D物産 | LINE | 短文 | 13時 | 商品名と数量を送付 |
こうしておけば、「A商事へどう注文するのか」を人が覚えておく必要がありません。仕入先名を見れば、注文方法と必要な形式を機械側で判別できる状態になります。
発注書作成をAIへ任せる場合も、このようなルールが明確になっているほど安定しやすくなります。AIへ毎回「この会社はFAXで、この会社はメールで」と説明するのではなく、仕入先マスタを基準に出力方法を変える設計にします。
仕入先独自の商品名や品番がある場合は変換表を持つ
小売店では、自店で使っている商品コードと仕入先側の商品コードが一致しない場合があります。自店では「1001」と管理している商品が、仕入先の注文時には「AB-500」のような別品番になっているケースです。この場合は、商品マスタや変換表を用意しておきます。
| 店舗側コード | 店舗側商品名 | 仕入先 | 仕入先側コード | 仕入先側商品名 |
|---|---|---|---|---|
| 1001 | 商品A | A商事 | A500 | 商品A業務用 |
| 1001 | 商品A | B卸 | B771 | 商品A |
| 1002 | 商品B | A商事 | A620 | 商品B |
AIは表記の整理には役立ちますが、商品コードのように間違えてはいけない情報は、AIの推測だけに任せないほうが安全です。正しい対応表を作り、そのデータを参照させる設計が基本です。
AIが仕入先別にFAX用PDF・メール本文・入力用一覧へ出し分ける方法
発注案と仕入先マスタが整理できれば、AIが担当する工程はかなり明確になります。元になる発注データから、仕入先ごとに必要な形式を作ります。
FAX先には発注書の下書きを作る
FAXで注文する仕入先には、発注案から必要な商品だけを取り出し、発注書として整えます。
たとえばA商事への注文が3商品ある場合、AIにA商事分だけをまとめさせ、発注日、商品コード、商品名、数量、希望納品日などを所定の順番に並べます。
そこからWordやPDFなどへ出力すれば、FAX用発注書の下書きを作れます。
ただし、AIからFAXまで完全自動送信する必要はありません。最初は、AIが発注書を作り、人が内容を確認し、問題がなければFAXするだけでも十分な効率化になります。
作業の目的は「人をゼロにすること」ではなく、「人が何度も入力することをなくすこと」です。
メール先には件名と本文を作る
メール注文の場合、毎回似たような文章を書いている店舗も多いはずです。
発注案から対象商品を抜き出し、仕入先に合わせた件名と本文へ変換すれば、この作業も短縮できます。
たとえば、「いつもお世話になっております。下記商品の発注をお願いいたします」といった基本文章と、商品名、数量、希望納品日を自動的に組み合わせます。
仕入先ごとに書き方が異なる場合も、テンプレートとしてルールを持たせれば対応できます。メール本文をAIで作成した後は、人が数量と納品日を確認して送る運用が現実的です。
発注サイト向けには入力する順番の一覧を作る
発注サイトの場合は少し考え方が変わります。
AIにブラウザを操作させて全部入力させることも技術的には考えられますが、必ずしも最初からそれを目指す必要はありません。
まずは、その仕入先へ入力する商品だけを並べた一覧を作るだけでも便利です。
| 入力順 | 仕入先側商品コード | 商品名 | 数量 |
|---|---|---|---|
| 1 | A500 | 商品A | 10 |
| 2 | A620 | 商品B | 5 |
| 3 | A750 | 商品D | 2 |
担当者はこの一覧を横に置き、発注サイトへ上から入力するだけになります。複数の表やメモを見ながら商品を探す必要がなくなるため、入力ミスや見落としを減らしやすくなります。
そのうえで、発注サイト側にCSV取込やAPIがあるなら、後からさらに自動化を進めます。
LINE発注は短い注文文へ整形する
LINEで注文を受け付けている仕入先では、FAXのような発注書をそのまま送る必要がない場合があります。
発注案から必要情報だけを取り出し、「商品A 10個、商品B 5個、9月13日納品希望」のような短い注文文へ整形します。
毎回スタッフがスプレッドシートを見ながら文章を打つより、AIに下書きを作らせたほうが効率的です。
ここでも、最終送信前に人が確認することが重要です。特に数字は文章の自然さより正確性が優先されます。
AIで発注書を作成するときも送信前の最終確認は人が行う
発注書作成をAIで自動化すると、便利だからこそ確認工程を省きたくなります。しかし、商品発注は金額や在庫に直接影響する業務です。少なくとも導入初期は、「AIが作成し、人が最終確認して送信する」という役割分担が適しています。
商品・数量・仕入先・納品日の4点は必ず照合する
確認する項目を毎回変えるのではなく、確認ポイントを固定しておくと運用しやすくなります。
特に商品、数量、仕入先、納品日は重要です。商品名が似ている商品や、ケース単位と個数単位が混在する商品では、単位の確認も必要です。
AIの出力文章が自然かどうかを読むだけではなく、元データと照合します。
最初から完全自動送信にしない
AI導入では、「どこまで完全自動化できるか」に目が向きがちです。
しかし、最初から送信まで自動化すると、間違った設定がそのまま外部へ送られる可能性があります。
まずは発注書やメール本文をAIが作成し、店主や担当者が確認して送信するところから始めます。
一定期間運用して問題が起きない処理だけを、徐々に自動化するほうが安全です。毎日30分かかっていた業務が15分や10分になるだけでも、十分な改善です。完全自動化を最初の目標にする必要はありません。
例外注文は自動処理から外す
すべての発注が定型的とは限りません。
通常とは違う商品を特注したい場合、欠品商品の代替品を相談する場合、通常より早い納品をお願いする場合などは、人と仕入先との調整が必要です。
こうした注文まで無理にAIの定型処理へ入れると、かえって運用が複雑になります。通常発注と例外発注を分け、通常発注だけを自動化する設計のほうが管理しやすくなります。
発注履歴をスプレッドシートに残せば納品照合と支払確認にも使える
発注書の作成時間だけを減らしても、その後の履歴がFAX、メール、LINE、発注サイトに散らばったままでは十分ではありません。発注履歴をスプレッドシートへ残しておけば、納品時や請求確認時にも利用できます。
発注日時・仕入先・内容・注文方法・送付状態を記録する
発注案のスプレッドシートに、送付後の情報を追加します。
| 発注日時 | 仕入先 | 商品 | 数量 | 注文方法 | 送付状態 | 納品状態 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 9月11日 10:15 | A商事 | 商品A | 10 | FAX | 送付済み | 未確認 |
| 9月11日 10:20 | B卸 | 商品C | 3 | メール | 送付済み | 未確認 |
| 9月11日 10:27 | C販売 | 商品D | 5 | 発注サイト | 注文済み | 未確認 |
こうしておけば、仕入先ごとに異なる方法で注文していても、店舗側では一つの表から確認できます。FAXを探し、メールを検索し、LINEの過去トークを遡る必要が減ります。
「何をいつ頼んだか」を一か所から確認できるようにする
発注履歴をスプレッドシートへ残す最大のメリットは、注文方法と履歴管理を分離できることです。
相手側の受付方法はFAXでもメールでも構いません。店舗側には共通の履歴を持ちます。
これにより、「9月11日にA商事へ何を頼んだか」といった問い合わせに、同じ場所から答えられるようになります。複数スタッフで発注業務を担当するようになった場合も、店主へ聞かなくても過去の注文内容を確認しやすくなります。
納品時は発注内容と納品内容を照合しやすくなる
商品が届いたときには、納品書だけを見るのではなく、元の発注内容と比較できます。
注文数量10個に対して10個届いたのか、一部だけ納品されたのか、未納品の商品が残っているのかを確認しやすくなります。
ここまで整理できれば、発注履歴は単なる記録ではなく、納品確認の元データになります。ただし、この記事では棚卸や在庫数の管理方法そのものには踏み込みません。
請求書や支払いを確認するときにも発注履歴が役立つ
月末などに仕入先から請求書が届いたときも、発注履歴があれば確認材料になります。
発注、納品、請求が完全に別々の記録になっている店舗では、請求額に疑問があったときに調査へ時間がかかります。
共通の発注履歴を持つことで、「そもそも店舗側が何を注文したのか」という起点を残せます。発注書作成をAI化するときは、発注書を速く作るだけでなく、そのデータを後工程へ残す設計にすると効果が大きくなります。
発注サイトへの入力はAIよりCSV・API・Make等の連携が向くことがある
仕入先発注を効率化するからといって、すべてをAIに任せる必要はありません。
むしろ、毎回同じデータを同じ場所へ移す仕事では、AIよりもCSVやAPI、自動化ツールのほうが適している場合があります。
決まったデータを決まった場所へ送るだけなら連携のほうが安定しやすい
AIは、形式が少し違う文章を作ったり、データを相手ごとに読みやすく整えたりする仕事が得意です。
一方、「商品コード1001をシステムの商品コード欄へ入れる」「数量10を数量欄へ入れる」といった決まり切った処理では、毎回AIに考えさせる必要がありません。
ルールが明確なら、そのルールどおりに動く仕組みのほうが管理しやすい場合があります。
CSV取込がある発注先はCSVを優先する
仕入先の発注システムがCSV取込に対応している場合は、まずCSVを使えないか確認します。
スプレッドシートの発注案から指定形式のCSVを作り、そのファイルを発注サイトへ取り込めるなら、一件ずつ商品を入力する必要がなくなる可能性があります。
この場合、AIはCSVへ変換する前のデータ整理や、エラーになりやすい表記の確認に使い、実際のデータ投入にはCSVを使うという役割分担ができます。
CSVの項目や取込仕様は仕入先のシステムによって異なるため、実際の対応可否は各サービスの仕様確認が必要です。
APIが用意されている場合はAPI連携を検討する
APIとは、システム同士が決められた方法でデータを受け渡すための仕組みです。
たとえば店舗側の発注データを、仕入先側のシステムへ直接送れるAPIが用意されている場合、ブラウザ画面へ一件ずつ入力するより安定した連携を作れる可能性があります。
ただし、APIが公開されているか、利用契約が必要か、どの項目を送れるかはサービスによって異なります。すべての発注サイトで利用できるわけではありません。
Make等が向くのは決まったアプリ間の転記
Makeのような自動化サービスは、「スプレッドシートへ行が追加されたら、別のサービスへデータを送る」といった定型処理に向いています。
たとえば、発注状態が「確認済み」になったら別システムへデータを送る、送信後にスプレッドシートの状態を「送付済み」に変更するといった処理です。
ただし、連携できるサービスや操作範囲は利用環境によって異なります。また、仕入先側の発注サイトに公式な連携手段がない場合、無理に画面操作を自動化すると、画面変更によって動かなくなる可能性があります。
そのため、「AIか自動化か」ではなく、処理の性質によって使い分けます。

AI・CSV・API・自動化ツールのどれを使うか判断する基準
発注業務を効率化するときは、すべての処理を一つのツールで行おうとしないことが重要です。それぞれ得意な役割があります。
| やりたいこと | 向いている方法 | 理由 |
|---|---|---|
| FAX用の発注書へ整える | AI+テンプレート | 元データから相手向け書式へ変換しやすい |
| メール本文を作る | AI | 文章形式への変換に向いている |
| LINE用の短文を作る | AI | 必要情報を短い文章へ整えやすい |
| 発注サイト用の商品一覧を作る | AI・表計算 | 仕入先別に抽出・整理しやすい |
| 大量の商品をシステムへ取り込む | CSV | 定型データをまとめて処理しやすい |
| システム同士を直接つなぐ | API | 安定したデータ連携を作りやすい |
| 決まったアプリ間でデータを移す | 自動化ツール | ルールベース処理に向いている |
| 例外注文や納期交渉 | 人 | 判断や相手との調整が必要 |
文章や書式の変換ならAIが有力です。
反対に、完全に形式が決まっている処理ほど、CSVやAPI、自動化ツールのほうが向いています。
この切り分けができると、AIを無理に使いすぎることも、自動化のために複雑なシステムを作りすぎることも防げます。
仕入先ごとの発注をまとめる導入手順
仕入先発注を改善する場合、最初から大規模なシステムを作る必要はありません。現在のExcelやGoogleスプレッドシートを残したまま、小さく始めることができます。
現在の仕入先と注文方法を表にする
最初に確認するのは、現在どの会社へどの方法で注文しているかです。
仕入先名、注文方法、締切時刻、必要な商品コード、注文時の注意事項などを表へまとめます。
この段階で、「店主しか知らないルール」がかなり見えてきます。AI導入より先に、この情報を共有できる状態にすることが重要です。
共通の発注案スプレッドシートを作る
次に、FAX、メール、発注サイトなどに分ける前の元データを一つにします。
すでに店舗で発注用Excelを使っているなら、その表をそのまま改善しても構いません。
ポイントは、同じ発注内容を複数ファイルへ入力しないことです。発注の起点を一つにすると、その後のAI処理や自動化も設計しやすくなります。
仕入先別テンプレートを作る
発注案ができたら、仕入先ごとに必要な出力形式を決めます。
FAXなら発注書、メールならメール文章、LINEなら短い注文文、発注サイトなら入力用一覧というように整理します。
ここまで作れば、人間が頭の中でやっていた変換ルールをAIへ渡せるようになります。
AIで作成して人が確認する運用から始める
最初の目標は完全自動化ではありません。
発注案を確定した後に、ボタン操作や簡単な指示で仕入先別の発注書や文章ができるだけでも大きな改善です。
生成された内容を人が確認し、従来どおりFAX、メール、発注サイト、LINEから送ります。
これなら既存の取引方法を変えなくて済みます。仕入先へ「今後はこちらの新システムから注文します」と協力を求める必要もありません。
安定した処理だけCSV・API・Make等へ移行する
数週間から一定期間運用すると、どの処理が定型的か見えてきます。
毎回同じ項目を転記している発注サイトにCSV取込があるならCSV化できます。連携可能なサービス同士なら、自動化ツールやAPIを使える場合があります。
反対に、注文条件が毎回変わる仕入先は、AIが下書きを作り、人が確認する状態のままでも問題ありません。全部を同じレベルまで自動化する必要はありません。
仕入先発注のAI化で失敗しやすいポイント
発注書作成のAI化は、難しい技術よりも業務整理の不足で失敗しやすい分野です。
仕入先ごとの例外ルールを整理せず始める
「FAXかメールか」だけ登録しても十分ではありません。
締切時間、商品コードの書き方、納品希望日の指定、最低発注単位など、仕入先によって独自ルールがある場合があります。
これらを整理せずAIへ任せると、出力結果を毎回修正することになります。修正が増えると、「自分で作ったほうが早い」という状態になってしまいます。
商品コードの対応表が整っていない
商品コードは、AIに推測させる情報ではありません。
特に似た名称の商品が複数ある店舗では、商品名だけからAIに判断させると誤発注につながる可能性があります。
自店の商品コードと仕入先の商品コードが異なるなら、対応表を整備しておく必要があります。AIは正しいマスタを利用して発注書を作る役割にします。
AIが作った内容をそのまま送信する
文章生成AIは便利ですが、出力結果が常に正しいことを保証するものではありません。
発注では数量や単位の間違いが仕入額や在庫へ直接影響します。少なくとも商品、数量、仕入先、納品日は送信前に確認します。
安定運用できるまでは、人による確認を省略しないほうが安全です。
送信履歴だけ別管理のまま残す
発注書作成だけ効率化しても、送信後の記録が残らなければ「何をいつ頼んだか分からない」という問題は解決しません。
発注完了後にスプレッドシートの状態を「送付済み」へ変えるなど、履歴を戻すところまで業務フローへ入れる必要があります。可能であれば送信日時も記録します。
発注サイトを無理に画面操作で自動化する
画面上のボタンを機械的にクリックさせる方法は便利な場合もありますが、サイトのデザインや入力欄が変更されると動かなくなることがあります。
発注サイト側にCSV取込やAPIなどの公式な連携方法があるなら、そちらを優先して検討したほうが安定しやすくなります。
自動化の目的は、人間の操作を全部再現することではありません。元データを相手へ安全に届けることです。
仕入先ごとの発注方法がバラバラでも店舗側の入口は一つにできる
仕入先ごとにFAX、メール、発注サイト、LINEと注文方法が違っていても、すべての取引先へ同じ方法を使ってもらう必要はありません。
変えるべきなのは、仕入先側より店舗側です。
店舗では発注案を一つのExcelやスプレッドシートにまとめます。その共通データから、AIを使ってFAX用発注書、メール本文、LINE用文章、発注サイト入力用一覧へ出し分けます。
さらに、送信後は同じスプレッドシートへ発注日時や送付状態を記録します。
これだけでも、店主が毎日繰り返している転記や発注書作成を大きく減らせる可能性があります。
ポイントは、すべてをAIに任せないことです。
文章や書式の変換にはAIを使い、決まったデータを同じ場所へ送る処理にはCSV、API、自動化ツールを検討します。最終確認が必要なところは人が確認します。
この役割分担ができると、高額な専用システムへ全面移行しなくても、現在使っているPOS、Excel、Googleスプレッドシートを活かしながら発注業務を整理できます。
発注量の決定まで店主に集中している場合は、次の段階としてPOSの売上CSVを使った発注案作成の効率化を検討するとよいでしょう。
まずは今日の発注作業を振り返り、「発注内容を決める時間」と「決めた内容を仕入先別に作り直している時間」を分けてみてください。
後者に毎日多くの時間を使っているのであれば、AIとスプレッドシートによる改善余地があります。
よくある質問
仕入先ごとの発注方法が違っていてもAIでまとめられますか?
まとめられるのは、主に店舗側の発注書作成やデータ整理です。仕入先がFAX、メール、LINE、発注サイトなど異なる方法を指定していても、店舗側では共通の発注案を作り、必要な形式へ変換できます。仕入先側の仕組みそのものを変更する必要はありません。
AIからFAXやメールまで完全自動で送信したほうがよいですか?
最初から完全自動化する必要はありません。商品や数量の間違いは仕入や在庫へ直接影響するため、導入初期はAIが発注書や文章を作り、人が商品、数量、仕入先、納品日を確認して送信する運用が適しています。安定した処理だけを後から自動化すると安全です。
発注サイトへの入力もAIに任せられますか?
状況によります。発注サイトへの入力が毎回同じ項目への定型作業であれば、AIよりCSV取込、API連携、自動化ツールなどのほうが適している場合があります。まず仕入先側のシステムにCSV取込や公式な連携方法がないか確認するとよいでしょう。
ExcelやGoogleスプレッドシートのままでも始められますか?
始められます。現在使っている発注表を共通の発注案として整理し、別シートに仕入先ごとの注文方法や商品コードの対応表を作る方法から始められます。必ずしも最初から専用の発注管理システムへ移行する必要はありません。
AIを使えば発注数量まで自動で決められますか?
POSの売上データや在庫情報を使って発注数量の検討を支援する方法はありますが、この記事では対象外です。今回扱っているのは、発注数量が決まった後に、仕入先別の発注書や注文文を作り、送付履歴を残す工程です。発注量の決定については別の記事で扱うのが分かりやすいでしょう。
仕入先ごとにFAX、メール、発注サイト、LINEと注文方法が違っていても、すべてを新しいシステムへ入れ替える必要はありません。
現在使っているPOSやExcel、Googleスプレッドシートと、仕入先ごとの発注方法を整理すれば、「AIに任せる部分」「CSVや連携で自動化する部分」「人が確認する部分」を切り分けられます。
毎日30分前後を発注書作成や転記に使っている場合は、仕入先数、現在の注文方法、発注表、利用しているPOS、発注にかかっている時間が分かると、改善方法を検討しやすくなります。
