医療・福祉の現場では、電子カルテや介護ソフトが導入されていても、紙、FAX、電話、口頭での申し送りが残っているケースが少なくありません。
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診療やケアの終了後に記録を作成するため、職員が勤務時間後まで残ることもあります。家族への連絡履歴が担当者のメモにしか残っていない、請求前になると記録の不足や不整合の確認が集中する、といった問題もあります。
こうした状況で生成AIや業務自動化ツールを導入しても、元になる情報が整理されていなければ、十分な効果は期待できません。
医療・福祉のAI・DX導入では、最初から診断やケア判断の自動化を目指すのではなく、次の順序で進めることが重要です。
- 紙、FAX、電話、口頭で扱っている情報を把握する
- 記録項目や情報共有の方法を統一する
- 検索・共有できるデータとして保存する
- 記録の下書きや要約などに生成AIを活用する
- データが整った業務からシステム連携や自動化を進める
生成AIを使いやすいのは、記録の下書き、申し送り内容の要約、院内規程の検索、会議内容の整理、家族向け説明文の作成など、診療・ケアの判断を直接伴わない業務です。
一方、診断、治療方針、処方、調剤、ケア内容、個別支援方針、緊急性の判定については、AIに最終判断を任せてはいけません。
この記事では、病院、診療所、薬局、介護、障害福祉で異なる業務の特徴を踏まえながら、医療・福祉のAI・DX導入をどの順番で進めるべきかを解説します。
医療・福祉のAI・DX導入は「記録と情報共有の整理」から始める
医療・福祉のAI・DX導入で最初に行うべきことは、AIツールを選ぶことではありません。
まずは、患者や利用者に関する情報が、どこで発生し、誰が記録し、誰に共有され、どのシステムに保存されているかを把握する必要があります。
たとえば、診療所では予約情報は予約システム、問診内容は紙、診療内容は電子カルテ、家族への連絡内容は職員のメモというように、情報が複数の場所へ分散している場合があります。
介護事業所でも、介護記録は介護ソフト、申し送りは紙のノート、家族連絡は電話、勤務調整はExcelというように、業務ごとに管理方法が異なることがあります。
この状態では、AIが参照すべき情報を一か所から取得できません。職員が必要な情報を探し、手作業でまとめてからAIへ入力することになり、かえって作業が増える可能性があります。
AI導入の前に紙・FAX・口頭連絡をデータ化する
AIを活用するためには、情報を検索、共有、再利用できる状態にする必要があります。
紙をスキャンして画像として保存するだけでは、十分なデータ化とはいえません。患者・利用者名、日付、文書種別、担当者などの条件で検索できることが重要です。
FAXで届いた書類についても、受信した紙をファイルへ綴じるだけでなく、誰に関する書類なのか、誰が対応したのか、次に何をする必要があるのかを記録します。
口頭の申し送りも同様です。会話した事実だけでなく、状態変化、注意事項、未対応事項、次の担当者が行うことを共通の形式で残します。
厚生労働省が示す介護分野の生産性向上の考え方でも、記録様式の工夫や情報共有、データの活用は、業務改善の基本的な取組として位置付けられています。出典:厚生労働省「介護分野における生産性向上」
最初から診断やケア判断を自動化しない
医療・福祉でAIを導入する目的は、専門職の判断を置き換えることではありません。
まず削減すべきなのは、職員が情報を探す時間、同じ内容を何度も入力する時間、長い記録を読み返す時間、定型的な文書を一から作成する時間です。
生成AIは、文章を整えたり、長い内容を短く要約したり、定められた形式へ並べ替えたりする作業に向いています。
しかし、AIが作成した文章には、事実と異なる内容や、元の情報には存在しない説明が含まれることがあります。
そのため、AIが作成した内容は正式な診療記録や介護記録ではなく、あくまで下書きとして扱います。担当職員が元の事実と照らし合わせて修正し、確認後に正式な記録として保存する運用が必要です。
データ化・AI活用・自動化を分けて考える
医療・福祉のDXでは、次の3段階を分けて考えると整理しやすくなります。
| 段階 | 主な取組 | 具体例 |
|---|---|---|
| データ化 | 紙や口頭の情報を検索・共有できる状態にする | 記録様式の統一、FAXのデータ保存、連絡履歴の共有 |
| AI活用 | 人が行っていた文章整理や検索を補助する | 記録の下書き、申し送り要約、規程検索 |
| 自動化 | システム間で情報を連携し、手入力を減らす | 予約と問診の連携、記録と請求の連携、通知の自動化 |
いきなり自動化から始めると、入力方法や記録内容が職員ごとに違う状態まで自動化してしまいます。まず記録方法をそろえ、その後に生成AIを活用し、安定した業務だけを自動化することが重要です。

病院・診療所・薬局・介護・障害福祉では業務とデータが異なる
医療・福祉と一括りにされることがありますが、業種によって扱う情報、業務の流れ、専門職の役割、請求制度は異なります。同じAIツールや同じ導入方法が、すべての事業者に適しているわけではありません。
病院は部門間連携と情報量の多さが課題
病院では、診療、看護、検査、画像、リハビリテーション、栄養、薬剤、入退院、医事会計など、多くの部門が患者情報を扱います。
電子カルテを中心に情報が管理されていても、部門ごとに異なるシステムや帳票を利用している場合があります。
また、入院患者については、短期間に多くの職員が関わります。情報量が多いため、すべての記録を毎回読み直すことは現実的ではありません。
病院で生成AIを活用する場合は、記録から状態変化や未対応事項を抽出する、カンファレンスの内容を整理する、院内規程を検索するといった業務から検討しやすいでしょう。
診療所は少人数で受付・診療・請求を担う
診療所では、受付、電話対応、問診、診療、会計、レセプト確認などを少人数で担当しているケースがあります。
一人の職員が複数の業務を兼務しているため、電話対応が増えると受付業務が止まり、診療終了後に記録や請求作業が残ることがあります。
- 予約受付と変更履歴の共有
- 問診情報のデータ化
- 診療後の説明文案の作成
- 紹介状や院内文書の下書き
- 会議内容の要約
- 院内規程や手順書の検索
- 定型的な問い合わせへの回答案作成
一方、診断名、治療方針、処方内容、検査の必要性などは、医師が患者の状態を踏まえて判断しなければなりません。
薬局は処方情報・薬歴・疑義照会・服薬フォローを扱う
薬局では、処方箋受付、調剤、監査、服薬指導、薬歴作成、疑義照会、服薬フォロー、在庫管理などが連続しています。
薬歴の作成に時間がかかり、業務終了後にまとめて記録するケースもあります。また、服薬フォローの電話内容が、担当した薬剤師にしか分からない状態になることもあります。
生成AIは、服薬指導や電話対応のメモから薬歴の下書きを作る、長い対応履歴を要約する、患者向け説明文を分かりやすく整える、といった補助業務に活用できます。
ただし、薬剤名、用量、服用状況、副作用、相互作用などは、誤りが患者の安全に影響します。生成された内容を薬剤師が必ず元情報と照合し、確認する運用が必要です。疑義照会の要否、調剤、服薬に関する専門的判断をAIへ任せることはできません。
介護は生活記録と多職種連携が中心になる
介護では、利用者の日常生活に関する情報を継続的に記録します。食事、水分、排泄、睡眠、服薬、移動、入浴、表情、発言、家族との関係など、記録対象は多岐にわたります。
介護職、看護職、ケアマネジャー、リハビリ職、管理者など、複数の職種が情報を共有するため、記録の形式や言葉の使い方が統一されていないと、状態変化を把握しにくくなります。
- 記録項目を統一する
- 申し送り事項を共通形式で残す
- 家族連絡の履歴を共有する
- 音声メモから記録の下書きを作る
- 記録から状態変化や未対応事項を抽出する
- 記録、請求、シフト、家族連絡を連携する
障害福祉は個別支援計画と日々の支援記録の連動が重要
障害福祉では、個別支援計画に基づいて日々の支援を行い、その結果を記録します。日々の記録と個別支援計画がつながっていなければ、モニタリング時に過去の記録を一件ずつ読み返すことになります。
生成AIは、一定期間の支援記録を要約し、本人の変化、達成できたこと、継続している課題を整理する用途に活用できます。
ただし、要約された内容だけを見て支援方針を変更するのではなく、本人の希望、家族の意向、生活環境、関係機関からの情報を含めて、専門職が総合的に判断する必要があります。
医療・福祉の現場に残っている非効率な業務
AI・DXの導入対象を選ぶには、現在どの業務に時間がかかっているかを具体的に把握する必要があります。「記録が大変」「連絡が多い」といった感覚的な表現ではなく、どの場面で、誰が、何を、何回入力しているかまで確認します。
勤務後に残る記録業務
医療・福祉では、患者や利用者への対応を優先するため、記録が後回しになりやすい傾向があります。
診療、訪問、介助、支援が終了した後に記録を作成すると、職員は記憶をたどりながら文章をまとめることになります。時間が経つほど、発言や状態変化の細かな部分を思い出しにくくなります。
改善するには、業務終了直後に短いメモや音声を残し、それを記録の下書きへ変換する仕組みが有効です。ただし、録音や音声データにも個人情報が含まれる可能性があります。利用する機器、保存先、アクセス権限、削除時期を決めておく必要があります。
紙・FAX・電話による情報の分断
医療・福祉では、他の医療機関、薬局、介護事業所、行政、家族など、外部との情報交換が多く発生します。
問題は、紙やFAXそのものではなく、受け取った後の処理が決まっていないことです。
- 誰が受け取ったか分からない
- 担当者の机に置かれたままになる
- 同じ内容を別のシステムへ再入力する
- 対応したかどうか追跡できない
- 原本と入力内容が一致しているか分からない
受信後の登録先、担当者、対応期限、完了条件を決めることで、情報の滞留を減らせます。
口頭中心の申し送り
口頭による申し送りは、その場で質問できるという利点があります。一方で、話す人によって順番や詳しさが変わり、聞く人のメモにも差が出ます。
生成AIで申し送り内容を要約する場合も、共通項目に沿って整理させることで、確認しやすくなります。
- 状態の変化
- 特に注意すること
- 実施済みの対応
- 未対応の事項
- 次の勤務者への依頼
- 家族や関係機関への連絡状況
請求前に集中する記録確認
医療、介護、障害福祉では、実施したサービスや処置の記録が請求と関係します。
将来的には、記録内容と請求項目の不整合をシステムで検出することも考えられます。ただし、その前に、どの業務を実施したときに何を記録するのかを明確にし、業務発生時に必要事項を入力する仕組みが必要です。
- 実施記録が見つからない
- 日付や回数が一致しない
- 必要な項目が入力されていない
- 担当者の署名や承認がない
- サービス内容と請求項目が一致しない
シフト調整と急な欠勤対応
医療・福祉のシフト作成では、希望休だけでなく、資格、経験、夜勤回数、勤務間隔、配置条件などを考慮します。
AIやシフト作成システムは、条件に基づいて候補案を作ることができます。しかし、職員の健康状態、人間関係、育成状況、個別事情まで自動的に判断できるわけではありません。AIが複数の案を作成し、管理者が現場事情を踏まえて最終決定する役割分担が適しています。
患者・利用者・家族への電話連絡
家族連絡が電話中心の場合、相手が不在で何度もかけ直す、担当者しか経緯を知らない、同じ説明を複数の職員が繰り返すといった問題が起きます。
生成AIは、職員のメモから家族向け説明文の案を作ったり、長い連絡履歴を要約したりする用途に活用できます。最終的な説明は、患者・利用者の状況や家族との関係を理解する職員が行います。
- 連絡日時
- 連絡先
- 連絡した職員
- 伝えた内容
- 相手からの回答
- 次に行うこと
- 再連絡の期限
最初にデータ化すべき業務
すべての業務を一度にデータ化する必要はありません。まずは、複数の職員が参照する情報、二重入力が発生している情報、記録漏れが請求や安全に影響する情報を優先します。
記録様式と入力項目を統一する
自由記述だけの記録は、職員によって内容が変わりやすく、後から検索や集計をしにくいという問題があります。
すべてを選択式にすると、個別の状況を表現できません。共通項目と自由記述を組み合わせることが重要です。
- 対象者
- 日時
- 場所
- 状態
- 本人の発言
- 実施した対応
- 対応後の変化
- 注意事項
- 未対応事項
- 次回対応
- 記録者
申し送り情報を一覧化する
申し送りは、過去の記録をすべて伝えるためのものではありません。次の勤務者が安全に業務を続けるために必要な情報へ絞ります。
特に、状態変化、緊急性、未対応事項、次の担当者が行うべきことを区別すると、情報を見落としにくくなります。生成AIで要約する場合も、抽出する項目を指定します。
家族連絡の履歴を共有する
家族との電話や面談内容は、患者・利用者への対応方針にも影響します。担当者個人のメモや記憶に残すのではなく、必要な職員が確認できる場所へ保存します。
ただし、すべての職員がすべての情報を閲覧できる状態にする必要はありません。職種や担当範囲に応じたアクセス権限を設定します。
請求に必要な記録を業務発生時に残す
月末に不足を探すのではなく、サービスや処置を実施した時点で必要な記録を残します。入力漏れがある場合は、その場または当日中に通知する仕組みが有効です。
記録が整っていれば、将来的に請求前の不整合検出や確認作業の自動化へ進みやすくなります。
紙・FAXを検索可能なデータへ変える
紙やFAXをデータとして保存する場合は、ファイル名だけで管理しないようにします。
ただし、保存場所や閲覧権限は、医療・介護情報の安全管理基準に沿って決めなければなりません。
- 対象となる患者・利用者
- 受信日・作成日
- 文書の種類
- 送信元
- 担当者
- 対応状況
生成AIを使いやすいのは非診療・非判断業務
医療・福祉で生成AIを導入する場合は、専門的な判断を直接行わない業務から始めることが安全です。
音声やメモから記録の下書きを作成する
現場職員が短い音声や箇条書きのメモを残し、生成AIが所定の形式へ文章を整えます。
生成された文章は、担当職員が事実と一致しているかを確認します。特に、日時、数値、薬剤、処置、状態変化、本人の発言については、元情報との照合が必要です。
- 食事量
- 水分摂取
- 排泄
- 移動
- 表情や発言
- 実施した介助
- 介助後の変化
長い記録から申し送り事項を要約する
数日分の記録から、状態変化や未対応事項の候補を抽出できます。
ただし、要約では細かな情報が省略されることがあります。重要な判断を要約文だけで行わず、必要に応じて元の記録を確認できるようにします。
院内・事業所内の規程や手順を検索する
感染対策、事故発生時、災害時、個人情報の取扱い、苦情対応など、院内・事業所内には多くの規程があります。
規程や手順書を検索できる仕組みを作る場合は、AIが一般知識で回答するのではなく、登録された文書を参照して回答し、参照元を示せることが重要です。
患者・利用者・家族向けの説明案を作る
専門用語を含む文章を、一般の人にも分かりやすい表現へ書き換える用途があります。
ただし、医療内容や個別のケア方針を説明する場合は、専門職が内容を確認し、本人・家族の理解度に合わせて説明します。
- 持ち物の説明
- 受診前の注意事項
- 面会方法
- サービス利用手続
- 行事や日程変更のお知らせ
- 家族へ伝える経過報告の文案
会議やカンファレンスの内容を整理する
会議の音声やメモから、決定事項、継続検討事項、担当者、期限、次回までに行うことを整理できます。
個別の患者・利用者情報を扱う会議では、音声データの保存場所や利用するAIサービスの条件を事前に確認します。
問い合わせへの回答案を作成する
診療時間、持ち物、面会、予約変更、サービス利用手続など、定型的な問い合わせへの回答案を作れます。
ただし、症状に基づく受診判断、薬の服用方法、緊急性の判断などは、定型回答だけで完結させてはいけません。専門職や担当部署へ引き継ぐ条件を明確にします。
業種別に見るAI・DXの導入順序
ここでは、病院、診療所、薬局、介護、障害福祉について、現場に残る業務から人が判断すべき領域までを整理します。
| 業種 | 最初に整理する業務 | AIを使いやすい業務 | 将来的な自動化 | 人が判断する業務 |
|---|---|---|---|---|
| 病院 | 部門別記録、申し送り、会議 | 記録下書き、要約、規程検索 | 部門間連携、通知 | 診断、治療、急変対応 |
| 診療所 | 予約、問診、電話、会計 | 文書下書き、説明案 | 予約・問診・会計連携 | 診断、処方、治療 |
| 薬局 | 薬歴、疑義照会、服薬フォロー | 薬歴下書き、説明案 | 処方・在庫・連絡連携 | 調剤、疑義照会、服薬判断 |
| 介護 | 記録、申し送り、家族連絡 | 記録下書き、要約 | 記録・請求・シフト連携 | ケア内容、状態変化への対応 |
| 障害福祉 | 支援記録、個別支援計画 | 記録要約、会議整理 | 計画・記録・請求連携 | 個別支援方針、リスク対応 |
病院の導入順序
病院では、最初に部門別の情報の流れを確認します。どの情報が電子カルテにあり、どの情報が部門システムや紙にあるのかを整理します。その後、記録の下書き、会議要約、規程検索など、既存業務を補助する範囲から生成AIを導入します。最終的には部門間の情報連携や通知を自動化できますが、診断や治療、急変時の対応は専門職が判断します。
診療所の導入順序
診療所では、電話予約、問診、受付、診療、会計、請求の流れを確認します。電話や紙問診の内容をデータ化し、予約情報と患者情報を重複して入力している箇所を減らします。生成AIは、説明文、紹介文書、院内文書などの下書きに活用します。予約・問診・会計の連携を進めても、診断や処方は医師が判断します。
薬局の導入順序
薬局では、処方箋受付から薬歴作成、服薬フォローまでの情報の流れを整理します。まず、疑義照会や服薬フォローの履歴を共通の場所へ残します。その後、メモから薬歴の下書きを作り、薬剤師が確認する運用を検討します。処方情報、在庫、服薬フォローを連携できても、調剤や服薬に関する最終判断は薬剤師が行います。
介護の導入順序
介護では、紙記録、申し送り、家族連絡の方法を統一することから始めます。記録項目を整理した後、音声メモから介護記録の下書きを作ったり、状態変化を要約したりします。その後、記録、請求、シフト、家族連絡の連携を検討します。利用者の状態に応じたケア内容や緊急時の対応は、職員や専門職が判断します。
障害福祉の導入順序
障害福祉では、日々の支援記録と個別支援計画の関係を整理します。記録項目を統一し、計画に基づく支援結果を確認できる状態にします。生成AIは、一定期間の記録要約や会議内容の整理に活用できます。将来的に計画、記録、請求を連携しても、本人の希望や生活状況を踏まえた個別支援方針は専門職が決定します。
将来的に自動化を検討できる業務
データ化と記録様式の統一が進むと、単なる文章作成だけでなく、条件に基づく通知や確認も検討できます。
記録内容から未入力項目を通知する
必要項目が空欄の場合に、保存前または勤務終了前に担当者へ通知します。月末にまとめて記録不足を探す作業を減らせます。
申し送り対象を自動抽出する
状態変化、事故、服薬変更、未対応事項など、一定条件に該当する記録を申し送り候補として表示します。自動抽出された候補は、担当職員が内容と重要度を確認します。
請求前の記録不整合を検出する
実施記録と請求情報を照合し、日付、回数、サービス内容などが一致していない場合に通知します。自動的に請求内容を修正するのではなく、担当者の確認対象を絞る用途が適しています。
家族連絡の対象者と内容案を整理する
一定の状態変化や予定変更があった場合に、家族への連絡が必要な対象を表示し、連絡文案を作成します。連絡するかどうか、どのように伝えるかは担当職員が判断します。
資格・配置条件を踏まえたシフト案を作る
資格、勤務可能時間、夜勤回数、希望休などを基に複数のシフト案を作成します。AIの案をそのまま確定せず、管理者が職員の体調、育成、チーム構成を踏まえて調整します。
AIに任せず専門職が判断すべき業務
医療・福祉のAI活用では、効率化できる業務だけでなく、AIに任せない業務を明確にすることが重要です。
診断と治療方針の決定
症状、検査結果、既往歴、生活状況などを総合し、診断や治療方針を決める行為は医師等の専門職が行います。AIが情報整理や参考情報の提示を行っても、その結果だけを根拠に診断・治療を決めてはいけません。
処方・調剤・服薬に関する判断
薬剤の選択、用量、相互作用、副作用、疑義照会などは、専門的な知識と個別状況の確認が必要です。薬剤名や数値をAIが誤って出力する可能性もあるため、必ず医師・薬剤師が確認します。
ケア・支援方針の決定
ケアや支援は、記録上の情報だけで決められるものではありません。本人の表情、希望、生活歴、家族関係、環境、職員との関係など、文章化しにくい情報も含めて判断します。AIは記録の整理を補助できますが、ケアプランや個別支援計画の最終決定は専門職が行います。
緊急性やリスクの判定
急変、転倒、誤薬、感染、虐待、事故などの対応は、AIの回答だけで判断しないようにします。緊急時の連絡先、報告経路、対応手順は、院内・事業所内の規程として定めておく必要があります。
患者・利用者・家族への最終説明
生成AIが説明案を作成しても、相手の理解度、不安、関係性に応じた説明は人が行います。特に、治療方針、予後、リスク、サービス変更など、重要な内容は担当する専門職が責任を持って説明します。

医療・福祉で生成AIを利用する際の注意点
医療・福祉では、一般的な業務データよりも慎重な情報管理が求められます。病歴、診療・調剤の事実、検査結果などを含む医療情報は、個人情報保護法上の要配慮個人情報に該当する場合があります。
患者・利用者を特定できる情報を安易に入力しない
利用条件を確認できていない外部の生成AIサービスへ、個人を特定できる情報をそのまま入力しないようにします。
氏名を削除しただけでも、年齢、地域、病名、日時、家族構成などを組み合わせると、本人を推測できる場合があります。
- 氏名
- 住所
- 生年月日
- 電話番号
- 患者番号や利用者番号
- 病歴
- 検査結果
- 障害に関する情報
- 服薬情報
- 家族情報
- 顔写真や音声
AIの出力を正式記録へ自動保存しない
AIが作成した文章を、人の確認なしで電子カルテや介護記録へ保存する運用は避けます。
生成AIは、入力されていない内容を補ったり、似た表現へ置き換える際に意味を変えたりする可能性があります。
- 対象者が正しいか
- 日時が正しいか
- 数値が正しいか
- 状態変化が正確か
- 実施した対応が正しいか
- 本人の発言が変わっていないか
- 未対応事項が抜けていないか
- 薬剤や処置の内容が正しいか
入力・確認・承認の担当者を決める
AIを利用する人と、内容を確認する人が曖昧だと、誤った内容がそのまま使われる可能性があります。
- 誰が元情報を入力するか
- 誰がAIの出力を確認するか
- 誰が正式記録として承認するか
- 誤りがあった場合に誰へ報告するか
業務ごとに利用可能な情報を決める
「個人情報を入力しない」というルールだけでは、現場で判断できないことがあります。業務ごとに区分を設定します。
| 区分 | 例 |
|---|---|
| 利用可能 | 個人情報を含まない院内文書、一般的な案内文、研修資料 |
| 管理者承認が必要 | 匿名化した記録の要約、閉じた環境での規程検索 |
| 利用不可 | 個人を特定できる診療・介護・障害福祉情報の外部AIへの入力 |
実際の区分は、利用するサービスの契約条件、保存先、学習利用の有無、アクセス管理を確認して決めます。
利用履歴と修正履歴を残す
AIが作成した下書きと、職員が修正した正式記録を区別できることが望ましいでしょう。いつ、誰が、どの情報を基に下書きを作り、どの部分を修正したかを追跡できれば、誤りが発生した場合に原因を確認しやすくなります。
既存システムとの連携範囲を限定する
AIへ電子カルテや介護ソフトの広範な閲覧・更新権限を与えると、誤操作や不正アクセスの影響が大きくなります。必要なデータだけを参照させ、更新が必要な場合も対象項目を限定します。
導入時に決めておくべき運用ルール
生成AIの利用を職員個人の判断に任せると、同じ法人内でも入力内容や確認方法がばらばらになります。少なくとも、次の4点は導入前に決めておきます。
利用してよい業務・利用しない業務
利用可能な業務を具体的に示します。
利用しやすい業務:
- 個人情報を含まない文書の下書き
- 会議内容の整理
- 規程や手順書の検索
- 記録の下書き
- 申し送り候補の抽出
利用しない業務:
- 診断
- 治療方針の決定
- 処方・調剤判断
- ケア・支援方針の最終決定
- 緊急性の判定
- AIだけによる患者・家族への回答
入力してよい情報・入力してはいけない情報
入力禁止情報を一覧化します。また、匿名化や仮名化を行った場合でも、他の情報と組み合わせて本人を特定できないかを確認します。
必ず人が確認する項目
記録下書きを利用する場合は、特に次の項目を重点的に確認します。
- 氏名
- 日付と時刻
- 数値
- 薬剤名と用量
- 処置内容
- 状態変化
- 本人・家族の発言
- 未対応事項
- 次回対応
事故・誤出力が発生した場合の対応
誤った内容が保存された場合や、入力してはいけない情報を外部サービスへ送信した場合の対応を決めます。
- AIサービスの利用停止
- 管理者への報告
- 正式記録の訂正
- 閲覧・送信範囲の確認
- 委託先やサービス事業者への連絡
- 本人への対応の要否
- 再発防止策の検討
医療・福祉のAI・DX活用イメージ
以下は、実在企業の導入事例ではなく、医療・福祉で想定される活用イメージです。
想定例1|病院の看護申し送り
看護師が勤務中に入力した記録から、状態変化、注意事項、未対応事項をAIが抽出します。交代前に看護師が候補内容を確認し、重要度や表現を修正して申し送りに使用します。これにより、すべての記録を一から読み直す時間を減らせます。ただし、AIが抽出しなかった情報にも重要事項が含まれる可能性があります。申し送りをAIの要約だけで完結させず、必要に応じて元の記録を確認します。

想定例2|診療所の家族向け説明文
診療後の注意事項や生活上の留意点を、家族が理解しやすい文章へ書き換えます。医師や看護師が内容を確認し、患者の状態や家族の理解度に合わせて修正してから使用します。文章作成の時間を短縮しながら、説明内容のばらつきを減らすことができます。ただし、治療内容や受診判断に関する重要事項は、文書を渡すだけでなく、専門職が直接説明します。

想定例3|薬局の服薬フォロー記録
薬剤師が電話で行った服薬フォローのメモから、薬歴の下書きを作成します。患者の発言、服薬状況、副作用の有無、次回の対応を項目ごとに整理し、薬剤師が確認・修正します。記録作成の負担を減らし、連絡内容を他の薬剤師と共有しやすくなります。薬剤名、用量、症状などは誤りが重大な影響につながるため、必ず元のメモや処方情報と照合します。

想定例4|介護事業所の記録と申し送り
介護職員がケア終了後に短い音声メモを残し、AIが介護記録の下書きを作成します。食事、水分、排泄、移動、表情、発言、実施した介助を項目ごとに整理します。職員が内容を確認して正式記録として保存し、状態変化や未対応事項を申し送り候補として表示します。これにより、勤務終了後に記憶をたどって記録を書く時間を減らせます。

想定例5|障害福祉事業所のモニタリング整理
一定期間の日々の支援記録をAIで要約し、本人の変化、達成できたこと、継続課題を整理します。サービス管理責任者や支援職が元の記録を確認し、モニタリング会議の参考資料として使用します。ただし、AIの要約だけを根拠に個別支援計画を変更することは避けます。本人の希望、家族の意向、生活環境、関係機関の情報を含めて、専門職が支援方針を判断します。

よくある質問
医療・福祉の記録を生成AIへ入力してもよいですか
利用する生成AIサービスの契約条件、保存場所、入力データの学習利用、アクセス権限を確認する必要があります。確認できていない外部サービスへ、患者・利用者を特定できる情報や病歴、服薬、障害、家族情報などを安易に入力しないことが基本です。法人が承認した環境を使用し、業務ごとに入力可能な情報を定めてください。
AIが作成した記録をそのまま保存できますか
そのまま保存する運用は避けるべきです。AIの出力には、事実と異なる内容、数値の誤り、要約漏れが含まれる可能性があります。担当職員が対象者、日時、数値、状態、実施内容、発言、未対応事項を確認し、修正した後に正式記録として保存します。
診断やケアプランをAIに作らせてもよいですか
AIを情報整理や案の作成に利用することは考えられますが、診断、治療、処方、ケア、個別支援方針の最終判断は専門職が行います。AIの回答だけを根拠に判断せず、本人の状態、希望、生活環境、専門職の観察を含めて決定します。
電子カルテや介護ソフトを導入済みでもDXは必要ですか
必要な場合があります。システムを導入していても、紙、FAX、電話、口頭での申し送り、二重入力が残っていれば、業務フロー全体は効率化されていません。現在のシステムで管理できている情報と、システム外に残っている情報を分けて確認することが重要です。
最初に試しやすい業務は何ですか
個人情報を含まない院内・事業所内文書の下書き、会議内容の整理、規程検索、研修資料の要約などから始めやすいでしょう。患者・利用者情報を扱う場合は、利用環境、アクセス権限、入力可能情報、人による確認方法を先に決めます。
まとめ|医療・福祉のAI導入は判断ではなく記録・共有業務から始める
医療・福祉のAI・DX導入では、最初から診断やケア判断の自動化を目指すのではなく、記録、申し送り、請求、シフト、家族連絡などの負担を整理することが重要です。
病院、診療所、薬局、介護、障害福祉では、業務の流れや扱う情報が異なります。自院・自事業所の業務に合わせて、導入順序を決める必要があります。
基本的な進め方は次のとおりです。
- 紙、FAX、電話、口頭で残っている業務を把握する
- 記録項目と情報共有方法を統一する
- 検索・共有できるデータへ変える
- 記録下書き、要約、規程検索、説明案作成に生成AIを活用する
- データが整った業務から連携・自動化を進める
- AIの出力は必ず人が確認する
生成AIは、専門職の判断を置き換えるものではありません。診断、治療、処方、調剤、ケア、個別支援方針、緊急性の判定は、専門職が最終責任を持って行います。
AIには文章作成や情報整理を任せ、人は患者・利用者の状態や背景を踏まえて判断する。この役割分担を明確にすることが、医療・福祉で安全にAI・DXを進めるための基本です。
医療・福祉のAI・DX導入では、ツールを選ぶ前に、現在の記録、申し送り、請求、家族連絡の流れを整理することが重要です。自院・自事業所でどの業務からデータ化し、どこに生成AIを活用できるか分からない場合は、現在の業務フロー、使用中のシステム、紙やFAXで残っている業務を整理したうえでご相談ください。
参考情報
厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」
個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」
厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱い」
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