税理士事務所の月次業務のなかで、意外と時間を取られているのが月次資料の作成です。
試算表を出し、前月・前年と比べ、気になる数字を確認し、顧問先に説明するためのコメントを書く。1件あたり30分でも、10件抱えていれば毎月5時間です。実際に「月次資料の作成だけで毎月4時間以上かかっている」という声は珍しくありません。
この記事では、その4時間を1時間程度まで短くするための考え方を整理します。ポイントは、月次資料作成を「データ準備 → 確認 → 文章化 → 人の最終確認」という4つの工程に分け、どの工程をAIに任せ、どの工程を人が持ち続けるかを決めることです。
世の中には「AIで資料作成が自動化できる」という情報があふれています。ただ、税理士事務所の月次資料は、顧問先ごとに勘定科目の使い方も、見たい数字も、説明の仕方も違います。汎用的な資料作成の話をそのまま当てはめても、うまくいきません。ここでは税理士事務所の月次業務に絞って解説します。

月次資料の作成に毎月4時間以上かかっていませんか
まず、いま何にどれだけ時間を使っているかを具体的にしておきます。ここが曖昧なままだと、AIを使っても「なんとなく楽になった気がする」で終わってしまいます。
「資料を作る時間」の大半は資料作成ではない
月次資料の作成時間を分解してみると、実際に文章を書いている時間はそれほど長くありません。多くを占めているのは、その前後にある作業です。
- 会計ソフトから試算表や補助元帳を出力する
- Excelに貼り付けて、前月・前年・予算と並べられる形に整える
- 差額の大きい科目を目で探す
- なぜ増減したのかを補助元帳までさかのぼって確認する
- 顧問先向けのコメントを書く
- 誤字や数字の食い違いがないか読み返す
この6つのうち、「コメントを書く」以外はすべて準備と確認です。つまり4時間のうち、資料そのものを作っている時間は1時間もないケースが多いということです。時間を減らしたいなら、書く速さを上げるより、準備と確認の負担を軽くするほうが効きます。
顧問先が増えるほど、4時間は8時間、12時間になる
月次資料作成の負担が厄介なのは、顧問先の数にほぼ比例して増えていく点です。5件で2時間なら、20件では8時間、40件では16時間です。担当者が増えれば分散はしますが、事務所全体で見た総時間は減りません。
しかも、この作業は月の初旬から中旬に集中します。同じ時期に申告期限や顧問先訪問が重なると、月次資料は「とりあえず数字だけ出して送る」状態になりがちです。本来いちばん価値のある「数字を読んで伝える」部分が、時間切れで薄くなってしまうわけです。
AIを使う目的は、資料を機械が作ってくれることではありません。準備と確認を短くして、「数字を読んで伝える」時間を取り戻すことです。
一般的な「AIで資料作成」と税理士事務所の月次資料は違う
「AIに資料を作らせる」と聞くと、プロンプトを1つ入れれば完成品が出てくるイメージを持つかもしれません。しかし月次資料は、次の3点で一般的な資料作成と性質が違います。
- 元データが毎月変わる:一度作ったら終わりではなく、毎月同じ処理を繰り返す
- 正確性の要求水準が高い:数字が1つ違えば資料として成立しない
- 顧問先ごとに前提が違う:業種、規模、勘定科目の使い方、見たい指標がそれぞれ異なる
この3つがあるため、「AIに丸投げして完成品をもらう」という発想は現実的ではありません。逆に言えば、毎月繰り返す処理であること、前提が顧問先ごとに決まっていることは、指示の型さえ作ってしまえば毎月使い回せるという強みでもあります。どこまで任せられるかの全体像は「税理士事務所のAI導入|毎月繰り返す仕事はどこまでAIに任せられる?」でも整理しています。
月次資料作成を4つの工程に分けて考える
月次資料作成を効率化するときの出発点は、作業を工程に分けることです。「月次資料作成」というひとかたまりのままでは、AIに任せられるかどうかを判断できません。次の4工程に分けると、任せる範囲がはっきりします。

工程1|データ準備―数字を集めて形をそろえる
会計ソフトから試算表、補助元帳、部門別データなどを出力し、比較できる形に整える工程です。前月、前年同月、予算といった比較対象を横に並べ、差額と増減率を計算するところまでが含まれます。
この工程は判断がほとんど入りません。毎月同じ操作を繰り返すだけなので、手順さえ決まれば自動化しやすい部分です。
工程2|確認―数字の異常や抜けを見つける
整えたデータを見て、「増減が大きい科目はどこか」「前月まであった取引が今月ないのはなぜか」「科目の振り分けが例月と違っていないか」を確認する工程です。
ここは判断が入りますが、判断の前段にある「気になる箇所を洗い出す」作業は機械的です。人が全科目を目で追う必要はなく、候補を絞り込む部分はAIに下支えさせられます。
工程3|文章化―数字にコメントを付ける
確認した内容を、顧問先が読んで分かる言葉に変える工程です。「売上高は前年同月比で12%増加しました。主因は◯◯です」といったコメントを書く部分にあたります。
実はここがAIの最も得意な工程です。数字と背景情報を渡せば、読みやすい文章の下書きは短時間で出てきます。ゼロから書くのと、下書きを直すのとでは、必要な時間が大きく変わります。
工程4|人の最終確認―顧問先に出す前の判断
出来上がった資料を、税理士や担当者が読んで最終判断する工程です。数字が正しいか、コメントの内容が事実と合っているか、顧問先に伝えるべきことが漏れていないかを見ます。
この工程は減らしません。むしろ、前の3工程を短くして生まれた時間の一部を、ここに回すのが本来の姿です。AIを使うと最終確認まで省きたくなりますが、それをすると資料の信頼性が下がり、結果として手戻りが増えます。
工程ごとに「任せる度合い」を決める
4工程を整理すると、次のようになります。所要時間は顧問先10件程度を想定した目安です。
| 工程 | 作業の中身 | 従来の目安 | AIに任せる度合い |
|---|---|---|---|
| 1. データ準備 | 出力・貼り付け・比較表作成 | 約100分 | 大きく任せられる |
| 2. 確認 | 異常値・抜けの洗い出し | 約80分 | 候補出しまで任せる |
| 3. 文章化 | コメント作成 | 約60分 | 下書きを任せる |
| 4. 人の最終確認 | 事実確認・最終判断 | 約30分 | 任せない |
合計すると約270分、つまり4時間半です。このうち工程1〜3を短縮できれば、全体を1時間程度まで下げることは十分に射程に入ります。逆に、工程4を削っても15分程度しか減らず、リスクだけが増えます。どこを削るかの優先順位が、この表からはっきり読み取れます。
工程1|データ準備をAIで短くする
最も時間を使っていて、最も判断が少ないのがデータ準備です。ここから手を付けるのが効率的です。
会計ソフトから出したデータを毎月同じ形に整える
多くの会計ソフトは試算表をCSVやExcelで出力できます。問題は、出力したままの形が資料に使いにくいことです。列の並び、科目名の表記、合計行の位置などを毎月手作業で直していると、それだけで時間が溶けます。
ここでAIに任せられるのは、「出力データを決まった形に変換する」という処理です。1回目に「この形式のCSVを、こういう表に変換したい」と伝えて手順を作っておけば、翌月からは同じ指示を使い回せます。生成AIにファイルを読ませて表を作らせる方法でも、変換用の処理を作ってもらう方法でもかまいません。事務所の環境に合うほうを選びます。
大切なのは、「毎月ゼロから頼まない」ことです。1回目に時間をかけて型を作り、2回目以降はその型に当てはめる。この考え方があるかどうかで、効果が大きく変わります。

前月・前年・予算との差分表を自動でそろえる
月次資料でほぼ必ず必要になるのが、比較表です。当月・前月・前年同月を並べ、差額と増減率を出す。予算がある顧問先なら予算との対比も加えます。
この計算そのものは表計算ソフトの得意分野です。AIに任せると効果が出るのは、その手前にある「毎月バラバラに出てくるデータを、同じ表に収まる形にそろえる」部分です。科目が増えた、名称が変わった、部門が追加された、といった細かな差異を毎月人が吸収しているなら、そこを任せます。
準備工程を短くするために決めておくべき3つのこと
データ準備を任せるには、事前に事務所として決めておくことがあります。
- 出力するデータの種類と条件をそろえる:試算表は累計か単月か、部門別を含めるか、出力期間はどこまでか
- 完成形のフォーマットを1つ決める:顧問先ごとに微調整はあっても、土台の形は共通にする
- 手作業で直している箇所を書き出す:毎月直しているところが、そのまま自動化の対象になる
この3つが決まっていない状態でAIに頼むと、毎月違う指示を出すことになり、結局あまり速くなりません。準備工程の効率化は、AIの性能よりも事務所側の決め事に左右されます。
工程2|確認をAIに下支えさせる
確認は、月次資料作成のなかで最も神経を使う工程です。ここを丸ごとAIに渡すことはできませんが、負担を軽くする使い方はあります。
AIに探させるのは「異常の候補」であって「正解」ではない
まず前提として、AIの出力を「答え」として扱わないことが重要です。AIに任せるのは、「人が見るべき箇所を絞り込む」ことです。
たとえば、比較表を渡して「前月比で±30%以上動いた科目と、前月まで残高があったのに今月ゼロになっている科目を一覧にしてください」と指示します。返ってくるのは、あくまで候補のリストです。そのなかに本当の問題があるかどうかは人が見ます。
この使い方なら、AIが誤った判断をしても被害はありません。せいぜい「見なくてよかった科目を1つ余計に見た」で終わります。逆に、AIに「問題ありません」と言わせてそれを信じる使い方は危険です。同じ落とし穴は他の業務でも起きるため、任せ方の考え方は「税理士事務所のルーチンワークをAIで自動化|まず見直したい7つの業務」もあわせて確認してください。

確認の観点をチェックリストにしてAIに渡す
ベテランの担当者は、月次データを見るときに無意識のうちに複数の観点を通しています。その観点を言葉にしてチェックリストにすると、AIへの指示としてそのまま使えます。
- 売上高の前年同月比が一定割合を超えて増減していないか
- 売上に対する原価率が例月と大きくずれていないか
- 毎月計上されるはずの費用が計上されていない月はないか
- 仮払金・仮受金など、精算されるべき勘定が滞留していないか
- 例月と違う科目に計上されている取引はないか
- 金額の桁が例月と明らかに違う仕訳はないか
このリストは、AIのためだけのものではありません。事務所内で確認の質をそろえる資料にもなります。担当者によって見ている観点が違う、という状態を解消できるのは、副次的ですが大きな効果です。
見つかった候補を人が5分で仕分ける
AIから候補が出てきたら、人は3つに仕分けます。
- 説明がつくもの:理由が分かっているので、そのままコメント材料にする
- 確認が必要なもの:補助元帳や証憑を見に行く、顧問先に問い合わせる
- 問題ないもの:候補には挙がったが、実質的な意味はない
この仕分けは慣れれば数分で終わります。全科目を頭から追う作業と比べると、確認工程の時間はかなり圧縮できます。
工程3|文章化はAIが最も得意な工程
数字は出た、確認も終わった。残るのは顧問先向けのコメントです。ここはAIの強みがそのまま生きます。
数字の増減を説明する定型文をAIに書かせる
月次コメントの多くは、構造が決まっています。「何が」「どれだけ」「なぜ」「だからどうか」の4点です。この4点の材料を渡せば、文章そのものはAIが整えてくれます。
指示の例としては、次のような形になります。
以下の数字と背景をもとに、顧問先向けの月次コメントを作成してください。読み手は経営者で、会計の専門用語には慣れていません。1項目あたり2〜3文、全体で400字以内。断定できない推測は書かず、確認が必要な点は「確認中」と明記してください。
この指示に、確認工程で仕分けた材料を添えます。出てきた文章を担当者が10分ほど直せば、コメントは完成します。ゼロから書いていた30〜60分と比べると、差は明らかです。
事務所の言い回しをそろえる「書き方の指示」を用意する
AIが書く文章は、放っておくと毎回トーンが変わります。顧問先から見れば、先月と今月で口調が違う資料は落ち着きません。そこで、事務所としての書き方を1枚にまとめ、毎回の指示に添えます。
- 文体(です・ます調で統一する)
- 1コメントの長さの目安
- 使わない表現(「大幅に悪化」など不安をあおる言い回しを避ける等)
- 数字の書き方(千円単位か円単位か、増減率の小数点以下の桁数)
- 断定してよい範囲と、推測を書いてはいけない範囲
この1枚は一度作れば毎月使えます。担当者が交代しても資料の見た目と言い回しが変わらないため、引き継ぎのコストも下がります。

AIに渡す情報と渡さない情報を決める
文章化の工程では、顧問先の数字をAIに渡すことになります。ここは事務所として方針を決めておく必要があります。
一般的な考え方としては、次のような線引きになります。
| 情報の種類 | 扱いの目安 |
|---|---|
| 科目別の集計金額・増減率 | 渡すことが多い |
| 部門別・商品別の集計値 | 顧問先の了解を得たうえで渡す |
| 取引先名を含む個別明細 | 匿名化するか、渡さない |
| 個人名・マイナンバー等 | 渡さない |
あくまで一例で、最終的な線引きは事務所の方針と顧問先との取り決めによります。重要なのは、担当者が個々に判断するのではなく、事務所として1つの基準を持っておくことです。
毎月使い回せる指示文の組み立て方
4工程のうち3つをAIに任せるとき、実務で差が出るのは「指示文をどう書くか」です。毎月ゼロから頼まないために、指示文は次の5要素で組み立て、そのまま保存して使い回します。
要素1〜5|指示文に必ず入れる項目
| 要素 | 書く内容 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 1. 前提 | 顧問先の業種・規模・決算月 | 建設業、従業員15名、決算月は3月 |
| 2. 入力 | 渡すデータの種類と形式 | 当月・前月・前年同月の科目別残高(CSV) |
| 3. 依頼 | やってほしい作業を1つに絞る | 増減率±30%以上の科目を一覧にする |
| 4. 出力形式 | 表か文章か、長さ、順序 | 表形式・増減額の大きい順・上位10件 |
| 5. 禁止事項 | やってほしくないこと | 理由の推測を書かない、数字を丸めない |
特に効くのが5番目の禁止事項です。AIは指示がないと「親切に補う」性質があり、それが推測コメントや勝手な四捨五入として現れます。禁止事項を1〜2行入れておくだけで、確認工程の手間がはっきり減ります。
1つの指示文に複数の作業を詰め込まない
「データを整えて、異常値を出して、コメントも書いて」と一度に頼むと、途中の工程を人が確認できません。どこで間違えたのかも追えなくなります。
工程ごとに指示文を分け、それぞれの出力を人が一度見る。この形にしておくと、間違いが混ざったまま先に進むことがなくなり、結果的に早く終わります。
うまくいかないときは指示文の粒度を疑う
思ったような出力にならないとき、原因の多くはAIの性能ではなく、指示が抽象的すぎることにあります。「分かりやすくまとめて」ではなく「経営者向けに、1項目3文以内、専門用語には括弧書きで説明を付けて」と具体化します。
うまくいった指示文はその場で保存し、うまくいかなかった書き方も理由を1行添えて残しておきます。この積み重ねが、事務所ごとのノウハウになります。
工程4|人の最終確認は減らさない
ここまでの3工程を短くしても、最後に人が確認する工程は残します。むしろ、ここを丁寧にできることが効率化の目的です。
最終確認で見るべき3つのポイント
最終確認では、次の3点に絞って見ると短時間で済みます。
- 数字が資料内で一致しているか:表の数字とコメント内の数字が食い違っていないか
- 書かれている理由が事実か:AIが推測で理由を書いていないか、確認できた事実だけになっているか
- 伝えるべきことが漏れていないか:資金繰り、期限、要対応事項など、顧問先に必ず伝える必要がある内容が入っているか
特に2番目は重要です。AIは、数字だけを渡されると「季節要因と考えられます」といったもっともらしい理由を書いてしまうことがあります。事実として確認していない理由が資料に載ると、顧問先との会話が食い違います。
AIが書いた文章をそのまま出さないためのルール
「確認する」と決めていても、忙しい月にはそのまま送ってしまうことがあります。仕組みで防ぐには、次のようなルールが有効です。
- AIが作成した下書きには、確認前と分かる印(ファイル名の接尾語など)を付ける
- 確認者の名前を資料の管理欄に残す
- 推測を書かせない指示を、毎回の指示文に必ず含める
- 顧問先へ送るのは、確認済みのファイルを置く場所からのみとする
「気をつける」ではなく、手順として組み込むことがポイントです。
4時間を1時間にするまでの進め方
考え方が分かっても、いきなり全顧問先に適用するとうまくいきません。順番があります。

ステップ1|1顧問先分の資料で試す
最初に選ぶのは、担当者が内容をよく分かっている顧問先です。データがきれいで、毎月の資料の形が安定しているところが向いています。
この1件で、データ準備、確認、文章化のそれぞれをAIに任せてみます。うまくいかない箇所が必ず出てきますが、それが「事務所側で決めておくべきこと」の洗い出しになります。ここでかかった時間は投資と考えます。
ステップ2|毎月使う指示文(テンプレート)を残す
1件で形になったら、そのとき使った指示文を保存します。ここを飛ばすと、翌月また同じ試行錯誤を繰り返すことになります。
残しておきたいのは次の3つです。
- データを整えるための指示文
- 確認観点のチェックリスト
- コメント作成の指示文と書き方ルール
この3つを事務所の共有フォルダに置き、誰でも使える状態にします。個人のパソコンの中にあると、担当者が変わった時点でゼロに戻ります。
ステップ3|他の顧問先へ広げる
テンプレートができたら、似た業種・似た規模の顧問先から順に広げます。1件ごとに微調整は必要ですが、ゼロから作るより圧倒的に速くなります。
広げる過程で、テンプレートは改善されていきます。「この業種ではこの観点も見たい」という気づきを反映していくと、事務所の資産として育っていきます。
導入前後で時間はどう変わるか
顧問先10件、月次資料作成に月4時間半を使っている事務所を想定した場合の目安です。
| 工程 | 導入前 | 導入後の目安 | 短縮の内容 |
|---|---|---|---|
| 1. データ準備 | 約100分 | 約15分 | 変換と比較表作成を任せる |
| 2. 確認 | 約80分 | 約20分 | 候補出しを任せ、人は仕分けのみ |
| 3. 文章化 | 約60分 | 約15分 | 下書きを任せ、人は修正のみ |
| 4. 人の最終確認 | 約30分 | 約30分 | 変えない |
| 合計 | 約270分 | 約80分 | ― |
あくまで目安であり、顧問先のデータの状態や事務所の運用によって結果は変わります。ただ、「4時間以上かかっていたものが1時間台になる」という水準は、極端に楽観的な数字ではありません。減った時間の使い道まで決めておくと、効率化が現場に定着しやすくなります。
月次資料のAI活用でつまずきやすい3つの落とし穴
実際に取り組むと、似たようなつまずき方をすることが多くあります。あらかじめ知っておくと避けられます。
落とし穴1|いきなり全顧問先に広げる
最初から全件でやろうとすると、顧問先ごとの違いに対応しきれず、結局手作業に戻ります。1件で型を作ってから広げる、という順番を守ります。
落とし穴2|AIの出力を確認せずに使う
時間が短くなると、確認も省きたくなります。しかし1回でも数字の誤りや事実と違うコメントを顧問先に出すと、信頼の回復に何倍もの時間がかかります。工程4は必ず残します。
落とし穴3|担当者一人の工夫で終わる
一人が上手に使えるようになっても、事務所全体の時間は大きくは減りません。指示文とチェックリストを共有し、誰でも同じ手順で作れる状態にして初めて効果が出ます。
顧問先データを扱うときに決めておきたいこと
月次資料のAI活用でよく相談を受けるのが、顧問先データの扱いです。技術的な話の前に、事務所としての方針を決めておくと迷いが減ります。
どの情報をAIに渡すかを事務所として決める
前述のとおり、集計値と個別明細では扱いが変わります。判断を担当者任せにせず、「この範囲までは渡してよい」「これは渡さない」を文書化しておきます。1ページで十分です。
顧問契約や秘密保持の取り決めによっては、事前に顧問先へ説明が必要な場合もあります。関与先ごとに事情が異なるため、既存の契約内容を確認したうえで進めてください。
法人向けプランと個人向けプランの違いを確認する
生成AIサービスは、個人向けプランと法人・事業者向けプランで、入力内容の学習利用や管理機能の扱いが異なることがあります。業務で顧問先データを扱うなら、この点は必ず確認しておきたいところです。
各サービスの規約や設定は変更されることがあるため、導入時点の最新情報を各社の公式情報で確認してください。
記録を残しておくと引き継ぎが楽になる
どの顧問先で、どの工程にAIを使っているかを一覧にしておきます。担当変更や新人教育のときに、この一覧があるだけで説明の手間が変わります。
あわせて、うまくいかなかった使い方も残しておくと、同じ試行錯誤の繰り返しを防げます。
よくある質問
月次資料の作成は、どこまでAIに任せられますか?
データ準備、異常値候補の洗い出し、コメントの下書きまでは任せられる範囲です。数字の正しさの担保と、顧問先へ伝える内容の最終判断は人が行います。工程を分けて考えると線引きしやすくなります。
会計ソフトを変えないとAIは使えませんか?
必ずしも変える必要はありません。CSVやExcelでデータを出力できれば、その後の工程でAIを使えます。まずは現在の環境のまま、出力データを使う形で試すのが現実的です。
AIが書いたコメントをそのまま顧問先に出してもよいですか?
おすすめしません。AIは数字だけから理由を推測して書くことがあります。事実として確認できた内容だけを残し、確認していない点は削るか「確認中」と明記してから送付します。
効果が出るまでにどのくらいかかりますか?
1顧問先で型を作るところまでは、数時間から数日かかることがあります。ただし、その型ができれば翌月以降は毎月効果が出ます。初月は時間が増えることもある、と見込んでおくと進めやすくなります。
少人数の事務所でも取り組む意味はありますか?
あります。少人数の事務所ほど、月初の資料作成が特定の人に集中しがちです。準備と確認を短くできれば、その人の負担が直接減ります。1人分の月4時間は、年間で48時間にあたります。
AI導入に使える補助金はありますか?
ITツールやAIツールの導入に活用できる補助金制度があり、税理士事務所も対象になる場合があります。対象となるツールや要件は制度ごとに定められているため、導入したい内容が要件に合うかを事前に確認してください。
まとめ|月次資料は「作る時間」ではなく「確認する時間」に変える
月次資料の作成に毎月4時間以上かかっているとき、その多くは資料そのものを作る時間ではなく、データを整える時間と、数字を目で追う時間です。
そこで、月次資料作成を「データ準備 → 確認 → 文章化 → 人の最終確認」の4工程に分けます。前の3工程はAIに任せられる部分が大きく、最後の1工程は人が持ち続けます。この線引きが、税理士事務所でAIを使うときの基本形です。
進め方は、1顧問先で試す、指示文とチェックリストを残す、他の顧問先へ広げる、の3ステップです。いきなり全件に広げない、出力を確認せずに使わない、担当者一人の工夫で終わらせない。この3点を守れば、4時間の仕事を1時間台まで下げることは現実的な目標になります。
減らした時間をどう使うかまで決めておくと、効率化は続きます。顧問先と数字について話す時間に充てられれば、月次資料は「送るもの」から「使ってもらうもの」に変わります。
「どの工程から手を付ければよいか分からない」「自事務所の月次資料でどこまで短縮できるか知りたい」という場合は、現状の業務を伺ったうえで整理するところからお手伝いできます。
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