税理士事務所では、毎月決まった時期になると同じような仕事が発生します。
顧問先から届いた資料を確認し、必要な情報を転記し、数字をチェックし、月次資料を作り、問い合わせに回答する。こうした業務は税理士事務所にとって欠かせません。
しかし、ここで一度考えてみたいのが、「毎月発生する仕事だからといって、毎月すべてを人が作業する必要があるのか」という点です。
月次業務そのものをなくすことはできなくても、その途中にある資料整理、転記、比較、要点抽出、下書き作成といった作業まで、毎回人が手を動かす必要があるとは限りません。
AIや自動化を考えるとき、多くの人は最初に「どのAIツールを使えばよいか」と考えます。
しかし、ツールを先に探してしまうと、「そのAIで何ができるか」という発想になりやすく、自分たちの業務で本当に減らしたい仕事が見えにくくなります。
先にやるべきなのは、毎月繰り返している仕事を棚卸しし、自動化候補を見つけることです。
その際に役立つのが、次の3つの視点です。
- 反復頻度
- 所要時間
- 判断の複雑さ
この記事では、税理士事務所でまず見直したい7つのルーチンワークを取り上げながら、「どの仕事を自動化候補として考えるべきか」を整理します。
AIの導入方法や具体的なツール選定ではなく、自動化対象を発見するための業務棚卸しに絞って解説します。
税理士事務所のルーチンワークは「毎月やるのが普通」を疑うところから始める
毎月発生する業務と、毎月人が作業すべき業務は違う
税理士事務所では、毎月発生する業務が数多くあります。月次処理、資料確認、顧問先への連絡、一覧表の更新、数値比較、報告資料の作成などです。これらは長年繰り返されているため、次第に「毎月やるのが普通」という認識になりやすくなります。
しかし、自動化を考える場合は、まずこの前提を疑う必要があります。
たとえば、顧問先への月次報告自体は毎月必要だとします。しかし、報告資料を完成させるまでには、必要データを集める、前月データと比較する、数値を一覧表へ転記する、大きな変動を探す、コメント案を考える、最終的に内容を確認する、といった複数の作業があります。
最終的な判断や顧問先への説明には、人の専門性が必要です。一方で、データを並べる、同じフォーマットへ転記する、数値差を抽出するといった作業は、一定のルールに従って処理できる可能性があります。
つまり、毎月業務が発生することと、毎月同じ作業を人が行うことは別の問題です。
「業務」ではなく「作業」まで分解すると自動化候補が見える
自動化を考えるときにありがちな失敗が、「月次決算を自動化したい」「顧問先対応を自動化したい」のように、大きな業務単位で考えることです。
業務単位で見ると、ほとんどの場合、途中に人間の判断が含まれます。そのため、「これはAIには任せられない」と結論づけてしまいやすくなります。
そこで重要なのが、業務を小さな動作に分けることです。月次業務なら、資料を受け取る、資料を分類する、数字を転記する、数値を比較する、差異を探す、コメント案を作る、内容を判断する、顧問先へ説明する、といった形です。
この中には、判断がほとんど必要ない作業もあれば、高い専門性が必要な作業もあります。自動化候補は、こうした作業単位まで細かくして初めて見つけやすくなります。
自動化候補は「反復頻度×所要時間×判断の複雑さ」で見つける

軸1|反復頻度―その仕事を月に何回行っているか
まず確認したいのが、その仕事をどのくらいの頻度で繰り返しているかです。年に1回しか発生しない作業よりも、毎日、毎週、毎月発生している作業のほうが、改善したときの効果は積み上がりやすくなります。
たとえば、1回10分しかかからない作業でも、月に100回行っていれば合計1,000分、約16時間40分です。1回の作業時間だけを見ると小さく見えても、回数を掛けると大きな時間になっていることがあります。
そのため、自動化候補を探す際には「この作業は何分かかるか」だけでなく、「月に何回繰り返しているか」まで確認することが重要です。
軸2|所要時間―1回あたり何分かかっているか
次に見るのが、1回あたりの所要時間です。税理士事務所では、数分から数十分程度の細かな作業が大量に発生します。
たとえば、1顧問先あたり15分の資料整理を月40社分行っている場合、15分×40社=600分、月10時間です。年間では120時間になります。
このように、「1回の時間×反復回数」で見ると、想像以上に大きな時間を使っている仕事が見つかります。まずは、1回あたりの所要時間をざっくりでも記録してみることが大切です。
軸3|判断の複雑さ―毎回人が考える必要があるか
3つ目の軸が、判断の複雑さです。自動化候補になりやすいのは、同じ条件で処理できる、同じフォーマットを使う、判断基準が決まっている、入力と出力の形がある程度決まっている、例外が少ない、といった仕事です。
一方で、毎回状況が異なる、法的・税務的な判断が必要、顧問先ごとに対応が大きく変わる、経営判断が含まれる、例外処理が非常に多い仕事は、そのまま自動化するのには向きません。
ただし、「判断が複雑だから対象外」と考える必要もありません。最終判断は人が行い、その前段階の情報整理だけをAIに任せることもできます。重要なのは、どこまでが単純作業で、どこからが人の判断なのかを分けることです。
3軸で自動化の優先順位を付ける
3つの軸を組み合わせると、自動化候補の優先順位が見えてきます。
| 反復頻度 | 所要時間 | 判断の複雑さ | 自動化の優先度 |
|---|---|---|---|
| 高い | 長い | 低い | 最優先で検討 |
| 高い | 短い | 低い | 候補 |
| 低い | 長い | 低い | 状況に応じて検討 |
| 高い | 長い | 高い | 部分自動化を検討 |
| 低い | 短い | 高い | 優先度は低い |
最も分かりやすい自動化候補は、高頻度×長時間×判断が単純な仕事です。自動化は「できるかどうか」だけではなく、やる価値があるかどうかまで考える必要があります。対象を広げすぎたときに起きやすい問題は「AIエージェント導入で失敗する7つの原因|任せすぎ・確認不足を防ぐ運用設計」で解説しています。
税理士事務所でまず見直したい7つのルーチンワーク
1.顧問先から届いた資料やデータの確認・整理
税理士事務所では、顧問先から多くの資料やデータが届きます。その際、誰の資料か、何月分か、種類、必要資料の不足などを確認する作業が発生します。こうした作業は、それぞれ数分程度でも、顧問先数が増えるほど大きな負担になります。
ここで考えたいのは、「資料確認」という仕事を一括りにしないことです。内容を見て税務上の意味を判断することと、ファイル名や資料内容から分類することは別です。後者のように、一定のルールで分類・整理できる作業は、自動化候補になりやすい部分です。
2.同じ情報の転記・入力
税理士事務所で特に見つけやすいのが、転記作業です。ある一覧表の情報を別の一覧へ入力する、顧問先情報を複数の管理表へ入力する、元データを別フォーマットへコピーする、同じ数字を複数資料へ反映する、といった作業です。
確認したいのは、「すでにどこかに存在している情報を、人がもう一度入力していないか」という点です。こうした作業は、判断の複雑さが比較的低いことが多く、反復回数も多いため、自動化候補として優先的に棚卸ししたい分野です。
3.月次資料・報告資料の作成
月次報告資料の作成も、毎月時間を使いやすい仕事です。必要な数値を集める、前月と比較する、表へまとめる、変動が大きい項目を探す、コメントの下書きを作る、最終内容を確認する、と工程を分解して考えます。
最終的な数値の意味を解釈し、顧問先へ伝える内容を判断する部分は、人の専門性が重要です。一方で、同じ形式で数字を並べる、前月との差を出す、コメント案のたたき台を作るといった前処理は、自動化候補になりやすい作業です。
4.前月・前年・予算との比較作業
前月比、前年同月比、予算比、前期比、部門別比較など、複数の数値を比較する業務も多くあります。
表計算データの比較作業をAIで行う具体例は「GeminiでExcel・表データを分析する方法|売上・アンケート・業務データの活用例」で紹介しています。最終的に「なぜ差が出たのか」を判断する部分には専門性が必要ですが、「どこに差があるかを探す作業」と「その差にどのような意味があるかを判断する作業」は分けて考えられます。発見は自動化し、解釈は人が行うという分け方ができます。
5.定型的な問い合わせへの回答準備
顧問先からは、必要書類、提出時期、手続き、過去に説明した内容など、似たような問い合わせが繰り返し届くことがあります。
AIに最終回答をそのまま任せるのではなく、過去の回答を探す、関連資料を探す、問い合わせ内容を要約する、回答案の下書きを作る、といった準備作業を自動化候補として考えます。社内資料や過去のやり取りを探す作業については「NotebookLMを仕事で使う方法|社内資料・マニュアル・議事録の活用例を解説」も参考になります。
6.メール・連絡内容の整理と要点抽出
長いやり取りから、何を依頼されたのか、何を返答したのか、何が未対応なのか、どの資料が必要なのか、次に誰が何をするのかを整理するのに時間がかかることがあります。
こうした「読む」「探す」「要点を抜き出す」といった作業は、自動化候補として棚卸ししやすい分野です。人が行うべきなのは、整理された内容を見て、実際にどのように対応するかを判断する部分です。
7.チェックリストを使った確認作業
毎月同じチェックリストを使っている場合も、自動化候補を見つけやすくなります。必要項目が入力されているか、必要資料がそろっているか、数値に大きな差がないか、必須項目が抜けていないか、所定の形式になっているか、といった確認です。
「条件に合っているか照合すること」と「問題ないと最終判断すること」は異なります。前者はルールを明確にしやすいため、自動化候補になりやすい部分です。
自動化候補を探すときは「仕事の名前」だけで判断しない

「月次業務」は自動化できる・できないの二択ではない
自動化を検討するときは、「この仕事はAIに任せられるか」という二択にしないことが重要です。税理士業務の多くは、単純作業と専門判断が一つの業務の中に混在しています。
たとえば、月次報告の中でも、データ収集、数字の整形、比較、異常値の抽出、コメント案作成などは一定の条件で処理しやすい部分です。一方で、顧問先の状況を踏まえた解釈、税務上の判断、経営上のアドバイス、最終的な説明内容の決定は、人の専門性が必要です。
業務全体で判断するのではなく、工程ごとに自動化可能性を見ることが重要です。
「準備→処理→確認→判断」の4つに分解する
業務を整理するときは、準備→処理→確認→判断の4つに分ける方法が分かりやすいでしょう。
- 準備:必要なデータを集める
- 処理:表へまとめる、比較する
- 確認:異常値や不足情報を探す
- 判断:数値の意味を解釈し、顧問先への説明内容を決める
このうち、前半3つは自動化候補になりやすく、最後の判断は人が残るケースが多くなります。もちろん業務によって違いはありますが、この4分解をするだけでも、「全部無理」から「この部分なら検討できる」へ変わります。
自動化の優先順位を下げたほうがよい仕事
毎回判断基準が大きく変わる仕事
顧問先ごとに状況が大きく異なり、その都度判断基準が変わる仕事は、自動化しにくくなります。こうした業務は、無理に自動化するよりも、情報整理や下準備だけを対象にしたほうが現実的です。どこまでを任せてよいかの線引きは、「AIエージェントに任せてはいけない仕事とは?会社で決める判断基準を解説」も参考になります。
例外処理が非常に多い仕事
一見ルーチンワークに見えても、毎回例外が発生する仕事があります。条件が増えすぎると、自動化のためのルール管理自体が負担になります。自動化のための管理コストが、人が処理する時間を上回らないか確認する必要があります。
税務・経営上の重要な最終判断
税務上の重要判断や、経営に影響する判断は、人間が最終責任を持つことが前提です。承認や確認をどこに置くかは「AIエージェントに人間の承認はどこで必要?会社で決めるチェックポイント」で整理しています。AIは、情報を集める、資料を整理する、論点を抽出する、下書きを作る、といった補助に使うことはできます。
発生頻度も作業時間も少ない仕事
たとえ自動化できても、月に1回5分しか発生しない作業であれば、優先順位は高くありません。「自動化できるか」ではなく、「自動化するとどれだけ時間が戻ってくるか」を見ることが大切です。
まず1週間、スタッフが何に時間を使っているか記録してみる
自動化候補が分からない場合は、まず1週間だけ業務を記録してみる方法がおすすめです。大がかりな調査は必要ありません。「何をしたか」「何分かかったか」を残すだけでも十分です。
業務名ではなく作業単位で書き出す
「A社の月次処理」とだけ記録すると、中身が分かりません。資料確認、Excel転記、数値照合、メール確認、報告資料作成、コメント作成など、作業単位で記録します。
1回の時間だけでなく月間合計時間を見る
15分×月40回=月10時間です。「15分なら大したことはない」と感じても、月10時間になると無視できません。同じような作業が3つ見つかれば、それだけで月30時間です。
「なぜ人がやっているのか」を一度問い直す
業務を書き出したら、それぞれについて「なぜ人がやっているのか」を考えてみましょう。昔からそうしている、前任者がそうしていた、他の方法を考えたことがない、といった理由だけで続いている仕事は見直し候補です。
税理士事務所の自動化候補を見つける棚卸しシート
自動化候補を探す際には、次のような表を使うと整理しやすくなります。
| 業務・作業 | 月間回数 | 1回の時間 | 月間時間 | 判断の複雑さ | 自動化候補 |
|---|---|---|---|---|---|
| 資料整理 | 低・中・高 | ||||
| 転記 | 低・中・高 | ||||
| 数値確認 | 低・中・高 | ||||
| 資料作成 | 低・中・高 | ||||
| 問い合わせ準備 | 低・中・高 |
最初から正確な数字を出す必要はありません。まずは、よくやっている、時間がかかっている、判断はそれほど複雑ではない仕事を見つけることが目的です。
特に、反復頻度が高い、月間時間が長い、判断が単純、の3つがそろっている仕事は、優先的に調べる価値があります。
AIツールを探す前に、自動化したい仕事を決める
AIを導入しようとすると、「ChatGPTなら何ができますか?」「どのAIが税理士事務所に向いていますか?」という質問から始めたくなります。しかし、先に決めるべきなのはツールではありません。
「この作業に毎月10時間かかっている」「同じ入力を毎回繰り返している」「判断はほとんど必要ない」「この部分だけでも減らしたい」というところまで整理できれば、その後に必要なAIや自動化方法を考えやすくなります。
逆に、対象業務が曖昧なままAIツールを導入しても、「便利そうだが何に使うか分からない」という状態になりやすくなります。
税理士事務所にAIを導入する際の全体像や、どこまでAIに任せられるのかを詳しく知りたい場合は、関連記事「税理士事務所のAI導入|毎月繰り返す仕事はどこまでAIに任せられる?」もあわせて確認してみてください。
本記事では、そこへ進む前段階として、「そもそも何を自動化候補にするのか」を整理することが重要です。
よくある質問
税理士事務所の仕事は本当にAIで自動化できますか?
すべての業務を自動化できるわけではありません。一方で、資料整理、転記、比較、要点抽出、下書き作成など、繰り返しが多く判断の複雑さが低い作業は、自動化候補として検討できます。重要なのは、税理士業務全体をAIへ任せるのではなく、作業単位で切り分けることです。
どの業務から自動化を考えるべきですか?
基本は、反復頻度が高く、時間がかかり、判断が単純な仕事からです。まず1週間ほど作業時間を記録すると、自動化候補を見つけやすくなります。
月次業務そのものを全部AIに任せられますか?
業務全体ではなく、工程ごとに考える必要があります。データ整理や比較、差異抽出は自動化候補になりやすい一方で、税務判断や顧問先への最終説明は人が行うべきケースが多くなります。
少人数の税理士事務所でも業務棚卸しは必要ですか?
少人数の事務所ほど効果が大きい場合があります。一人が毎月10時間使っている反復作業を減らせれば、その時間を顧問先対応や専門業務へ回せます。
自動化するAIツールはどう選べばよいですか?
まずはツールより先に、自動化したい作業を決めることをおすすめします。対象業務が決まれば、文章整理、表データの比較、社内資料の検索など、必要な機能が見えてきます。
まとめ|「毎月やっている仕事」から自動化候補を探そう
税理士事務所のルーチンワークを減らすために、最初からAIツールを探す必要はありません。まず確認したいのは、「毎月何を繰り返しているのか」です。
そして、それぞれの作業を、反復頻度、所要時間、判断の複雑さの3軸で整理します。特に、高頻度×長時間×判断が単純な仕事は、自動化候補として優先的に見直す価値があります。
また、「月次業務」「顧問先対応」と大きな仕事の名前だけで判断せず、準備→処理→確認→判断と工程を分けてみてください。業務全体は自動化できなくても、途中の作業だけなら減らせるケースがあります。
まずは1週間、スタッフが何に時間を使っているか記録してみましょう。「昔から毎月やっている仕事」の中に、最初に見直すべき自動化候補が見つかるかもしれません。
毎月の仕事を減らしたいと思っていても、「何を自動化すればよいのか」が決まっていなければ、AIツールを選ぶことはできません。
まずは、現在の業務を整理し、繰り返し回数・作業時間・判断の複雑さから、見直し効果の高い仕事を探してみましょう。自社だけでは整理しにくい場合は、毎月行っている業務や、特に時間がかかっている作業をもとに、AIで見直せる業務を一緒に整理できます。
