生成AIを社内へ導入する企業が増えるなか、「誰を推進担当者にすればよいのか」と悩む経営者や管理職も少なくありません。
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ChatGPTなどを使い慣れている若手社員や、ITに詳しい情報システム部門の社員を任命すればよいと考えることもあるでしょう。
しかし、生成AIを自分で使えることと、社内全体で活用を定着させられることは別の能力です。
AI推進担当者に必要なのは、ツールの操作方法やプロンプトの知識だけではありません。現場の課題を聞き出し、対象業務を選び、小さく試し、経営層と現場の間を調整しながら、成功事例を他部署へ広げる力が必要です。
適任者を選べなければ、生成AIを導入しても次のような状態になりかねません。
- 一部の社員だけが個人的に使っている
- アカウントは発行したが、活用方法が分からない
- 研修を実施した直後しか使われない
- ツールの導入そのものが目的になる
- 現場から「仕事が増えた」と受け取られる
- 成果を説明できず、取り組みが終了する
本記事では、生成AIの社内推進担当者に必要な5つの能力を解説します。
また、情シスや若手社員へ安易に任せる問題点、担当者候補を評価するチェックリスト、任命後に行うべきことも整理します。
なお、組織全体における経営層、管理職、情シス、現場部門の役割分担ではなく、本記事では推進担当者個人の適性と能力に焦点を当てます。
AI推進人材とは社内でどのような役割を担う人か
AI推進人材とは、単に生成AIに詳しい人ではありません。
現場が抱えている業務課題を把握し、その課題に生成AIをどのように活用できるかを考え、実際の業務で使える状態まで導く人です。
導入する生成AIツールの調査やアカウント発行だけではなく、次のような業務を担当します。
- 現場へのヒアリング
- AIを活用する対象業務の選定
- 小規模な検証の計画
- 利用手順やルールの整理
- 効果測定
- 経営層への報告
- 現場からの意見の収集
- 活用方法の改善
- 成功事例の標準化
- 他部署への横展開
つまり、AI推進担当者は、生成AIと業務をつなぐ役割を担います。

AIツールを使える人と社内推進ができる人は異なる
生成AIを日常的に使っている社員は、推進担当者の有力な候補です。
ただし、自分の仕事で生成AIを使えることだけを理由に任命するのは注意が必要です。
個人で生成AIを使う場合は、自分が理解できる指示方法や確認方法があれば十分です。一方、社内推進では、AIに詳しくない社員でも使える手順に変えなければなりません。
両者の違いを整理すると、次のようになります。
| AIに詳しい人 | 社内推進ができる人 |
|---|---|
| 自分で生成AIを使える | 他の社員が使える仕組みを作れる |
| 新しい機能を把握している | 業務課題に合う機能を選べる |
| 出力を改善する指示を作れる | 入力項目や確認手順を標準化できる |
| 技術用語で説明できる | 現場や経営層に合わせて説明できる |
| 個人の効率化を実現する | 組織全体の活用へ広げられる |
AI推進担当者を選ぶ際は、「生成AIをどれだけ使っているか」だけでなく、「他の人が使える状態へ変えられるか」を確認する必要があります。
推進担当者の役割は導入より定着にある
生成AIの導入は、サービスを契約し、社員へアカウントを配布すれば完了するものではありません。
実際に成果が出るかどうかは、導入後の運用で決まります。
社員が生成AIを使わない理由は、操作方法を知らないからとは限りません。
- どの業務に使えばよいか分からない
- 入力してよい情報の範囲が分からない
- 出力結果をどこまで信用してよいか分からない
- 従来の方法を変える必要性を感じない
- AIを使うことで確認作業が増える
- 上司が利用を評価してくれるか分からない
こうした問題は、ツールの説明だけでは解決できません。
推進担当者には、社員が使わない理由を確認し、業務手順やルール、評価方法まで含めて改善する役割があります。
推進担当者一人ですべてを担当する必要はない
AI推進担当者は重要な役割ですが、一人ですべての責任を負う必要はありません。
例えば、情報セキュリティやアカウント管理は情シスが担当し、投資判断や全社方針は経営層が決定します。業務の正確性や品質基準については、現場責任者の判断が必要です。
推進担当者は、それぞれの関係者をつなぎ、具体的な取り組みを前へ進める役割を担います。
社内推進がうまくいかない原因を担当者個人の能力不足だけにせず、必要な権限や協力体制があるかも確認しなければなりません。
生成AIの社内推進担当者に必要な5つの能力
生成AIの社内推進担当者には、主に次の5つの能力が求められます。
- 現場の課題を聞き出す力
- 対象業務を選定する力
- 小さく試して効果を測る力
- 現場と経営層をつなぐ説明力
- 活用事例を横展開する力
それぞれの能力について詳しく見ていきましょう。

1.現場の課題を聞き出す力
最初に必要なのは、現場の課題を正確に聞き出す力です。
生成AIを導入する際に、「AIで何をしたいですか」と質問しても、具体的な回答が得られないことがあります。現場の社員はAIの専門家ではないため、自分の業務のどこにAIを使えるかをイメージできないからです。
そのため、推進担当者はAIの用途を尋ねるのではなく、現在の仕事の流れや負担を確認します。
- 毎日または毎週繰り返している作業は何ですか
- 特に時間がかかっている作業は何ですか
- 他の人からの返事を待つことが多い業務はありますか
- 過去の資料を探すことが多い業務はありますか
- 担当者によって品質に差が出る業務はありますか
- 判断に迷い、上司へ確認することが多い作業はありますか
- 入力内容や文章を何度も修正する業務はありますか
- 引き継ぎが難しい業務はありますか
重要なのは、表面的な要望だけで判断しないことです。
例えば、現場から「議事録をAIで作りたい」という要望が出たとしても、本当の課題は議事録の作成時間ではなく、その後のタスク整理や担当者への連絡かもしれません。
推進担当者は、作業単体ではなく、前後の工程まで確認する必要があります。
候補者を見極める質問
「現場から業務改善の相談を受けた場合、どのような順番で話を聞きますか」
すぐにツールや解決策を提案するのではなく、業務の目的、手順、関係者、頻度、時間、判断基準を確認しようとする人は、推進担当者としての適性があります。
2.生成AIを使う対象業務を選定する力
現場から課題を集めた後は、どの業務から生成AIを試すかを選定します。
ここで重要なのは、すべての業務を生成AIで解決しようとしないことです。
業務によっては、生成AIよりも既存の業務システム、RPA、表計算ソフトの関数、ワークフロー機能などが適している場合があります。
生成AIが比較的向いているのは、次のような業務です。
- 文章の下書き
- 情報の要約
- 資料の構成案作成
- 問い合わせ内容の分類
- アイデアの整理
- 文書からの情報抽出
- 複数案の比較
- マニュアルやFAQの作成
- 会議内容からのタスク整理
- 法的責任を伴う判断
- 人事評価や採用の最終判断
- 医療や安全に関わる判断
- 正確な数値計算が中心の処理
- 個人情報や機密情報を多く扱う業務
- 間違いが重大な損失につながる業務
- 例外処理が非常に多い業務
対象業務を選ぶ際は、次の基準で比較します。
| 評価項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 発生頻度 | 毎日、毎週など繰り返し発生するか |
| 作業時間 | 現在どれだけ時間を使っているか |
| 手順の明確さ | 一定の流れや入力項目があるか |
| 効果の測りやすさ | 導入前後を比較できるか |
| 失敗時の影響 | 間違いが起きた際の影響を抑えられるか |
| 情報管理 | 入力情報を安全に扱えるか |
| 横展開の可能性 | 他の社員や部署でも使えるか |
最初の検証では、効果が大きい業務だけでなく、失敗した場合の影響が限定的な業務を選ぶことが重要です。
一方で、次のような業務は慎重に判断する必要があります。
候補者を見極める質問
「複数の改善候補がある場合、どの業務から試しますか」
目立つ業務や経営者が気に入った業務だけでなく、頻度、時間、リスク、検証のしやすさを比較できる人が適しています。
3.小さく試して効果を測る力
生成AIの活用は、最初から全社へ広げるのではなく、小さく試すことが重要です。
対象部署、対象者、対象業務、検証期間を限定し、導入前後の変化を確認します。
例えば、営業部門全体へ導入する前に、2〜3人の担当者を対象として、商談後の報告文作成だけを試します。
小さく試すことで、次のことを確認できます。
- 実際に作業時間が減るか
- 出力内容の修正に時間がかからないか
- 必要な情報を適切に入力できるか
- 社員が継続して使えるか
- 情報管理上の問題がないか
- 業務手順を変更する必要があるか
- 他の社員でも再現できるか
定量的な評価指標
- 作業時間
- 処理件数
- 修正回数
- 確認時間
- 問い合わせ対応時間
- 利用者数
- 継続利用率
- 手順化できた業務数
定性的な評価項目
- 心理的な負担が減ったか
- 判断しやすくなったか
- 引き継ぎしやすくなったか
- 品質のばらつきが減ったか
- 顧客対応がスムーズになったか
- 他の業務にも使いたいと感じるか
効果が出なかった場合も、すぐに「この生成AIは使えない」と判断しないことが大切です。
入力情報が不足していた、対象業務が適切でなかった、確認工程が多すぎた、利用手順が複雑だったなど、業務設計側に原因がある可能性もあります。
効果測定では、単に「便利だった」「使いやすかった」という感想だけで判断しません。
定量的な指標と定性的な評価を組み合わせます。
候補者を見極める質問
「生成AI活用の成果を、どのような数字や変化で確認しますか」
導入後の印象だけでなく、導入前の状態を記録し、比較できる人が推進担当者に向いています。
4.現場と経営層をつなぐ説明力
生成AIの社内推進では、現場と経営層で関心が異なります。
現場の社員は、次のような点を気にします。
- 自分の仕事が増えないか
- 操作が難しくないか
- AIに仕事を奪われないか
- 間違いが起きたときに責任を負わされないか
- 現在のやり方を変える必要があるのか
- 評価や人事に影響しないか
- どれだけの費用がかかるか
- どれだけ時間やコストを削減できるか
- 売上や生産性にどう影響するか
- 情報漏洩などのリスクはないか
- いつまでに成果が出るか
- 全社へ展開できるか
推進担当者には、同じ施策を相手に合わせて説明する力が必要です。
現場には、業務のどこが変わり、どの作業が楽になるのかを具体的に説明します。経営層には、費用、効果、リスク、必要な支援を整理して報告します。
また、経営層が短期間で大きな成果を求めている場合は、現場の状況を伝え、実行可能な範囲へ調整する必要があります。
反対に、現場が変化を避けようとしている場合は、取り組む目的や必要性を丁寧に説明します。
単に伝言するのではなく、双方の言葉を理解し、実行可能な計画へ変換することが重要です。
一方、経営層は次の点を重視します。
候補者を見極める質問
「同じ生成AI施策を、現場社員と経営者へそれぞれどのように説明しますか」
相手によって説明内容や言葉を変えられる人は、社内調整に向いています。
5.活用事例を横展開する力
一部の社員や部署で成果が出ても、そこで終われば社内全体の生産性は変わりません。
推進担当者には、成功した活用方法を整理し、他の社員や部署でも再現できる形へ変える力が必要です。
横展開する際には、次の内容を整理します。
- 対象となる業務
- 使用する生成AIツール
- 入力する情報
- 指示文のひな型
- 出力結果の確認方法
- 人が判断する工程
- 入力してはいけない情報
- よくある失敗
- 利用前後の業務手順
- 困ったときの相談先
単に「このプロンプトを使ってください」と共有するだけでは、十分ではありません。
業務の目的、必要な入力情報、出力の利用方法、確認基準まで伝える必要があります。
また、ある部署の成功事例を、そのまま別の部署へコピーするのも注意が必要です。
営業部門と総務部門では、扱う情報や品質基準が異なります。共通部分をテンプレート化しつつ、各部署の業務に合わせて調整します。
候補者を見極める質問
「一部の社員で成果が出た場合、他部署へどのように広げますか」
マニュアル作成だけでなく、説明会、相談窓口、利用状況の確認、改善まで考えられる人が適しています。
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AI推進担当者を情シスや若手社員へ安易に任せる問題点
AI推進担当者を選ぶ際、情報システム部門や若手社員が候補になることは多いでしょう。
どちらも有力な候補ですが、「ITに詳しいから」「生成AIをよく使っているから」という理由だけで任せるのは問題があります。
重要なのは、部署や年齢ではなく、先ほど紹介した5つの能力で判断することです。
情シスだけに任せるとツール導入が目的になりやすい
情報システム部門は、システム選定、セキュリティ、アカウント管理、既存システムとの連携などに強みがあります。
生成AIを安全に導入するうえで、情シスの関与は欠かせません。
ただし、情シスが各部署の業務内容を詳しく理解しているとは限りません。
現場へのヒアリングが不足したまま進めると、次のような状態になりやすくなります。
- 機能が豊富なツールを選んだが、使う業務が決まっていない
- アカウントを配布したが、利用方法は社員任せ
- セキュリティルールが厳しく、実務で使いにくい
- 導入作業が完了した時点でプロジェクトが終了する
- 現場からの改善要望が反映されない
情シス担当者を推進担当にする場合は、現場責任者や業務改善担当者と組み合わせるとよいでしょう。
AIを使い慣れた若手社員でも社内調整ができるとは限らない
若手社員は、新しいツールへの抵抗が少なく、生成AIの習得も早い傾向があります。
柔軟な発想で活用方法を見つけられるため、推進メンバーとして大きな力を発揮することもあります。
しかし、若手社員一人へ社内推進を任せると、次のような問題が起こる可能性があります。
- 管理職や他部署へ改善を依頼できない
- 業務全体の流れや例外処理を把握していない
- 経営層へ費用対効果を説明できない
- 利用ルールを決める権限がない
- 通常業務と推進業務の両方を抱える
- 成果が出ない責任を一人で負う
若手社員を担当者にする場合は、経営層や管理職が後ろ盾となり、必要な権限や時間を与える必要があります。
役職や部署ではなく5つの能力で判断する
情シス担当者や若手社員がAI推進担当者に向いていないわけではありません。
情シス担当者でも、現場へのヒアリングや業務改善の経験があれば適任です。若手社員でも、周囲から相談されやすく、管理職の支援を受けながら検証を進められるのであれば、十分に活躍できます。
反対に、役職が高くても、現場の話を聞かずにトップダウンで進める人は、推進担当者として適していない場合があります。
候補者を選ぶ際は、次の順番で考えるとよいでしょう。
- 現場の課題を聞けるか
- 対象業務を適切に選べるか
- 小さく試して改善できるか
- 現場と経営層へ説明できるか
- 成功事例を他の人へ広げられるか
一人ですべてを満たせない場合は、複数人で役割を補完します。
誰をAI推進担当者に選ぶべきか
AI推進担当者には、AIへの関心だけでなく、業務改善や社内調整の適性が求められます。
候補者を選ぶ際は、次の観点を確認しましょう。
AIへの関心より業務改善の経験を重視する
生成AIが好きな人や新しいツールに詳しい人は、候補者として魅力的です。
しかし、社内推進では、ツールへの関心以上に業務改善の経験が重要です。
例えば、次のような経験がある人は候補になります。
- 業務マニュアルを作成した
- 作業手順を見直した
- 部署間の情報共有を改善した
- 社内システムの導入に関わった
- 顧客対応の品質を標準化した
- 引き継ぎ方法を整理した
- 会議や報告方法を改善した
生成AIの知識は研修や実践で身につけられます。一方、人の話を聞き、業務を整理し、関係者と調整する力は、短期間では身につきにくいものです。
現場から相談されやすい人を候補にする
AI推進担当者は、現場の本音を聞けることが重要です。
周囲から相談されやすい人には、次のような特徴があります。
- 相手の話を途中で否定しない
- すぐに結論を押し付けない
- 分からない点を丁寧に確認する
- 現場の事情を理解しようとする
- 専門用語を使わずに説明できる
- 問題が起きた際に責任追及から始めない
現場の社員が困りごとや失敗を隠すような関係では、正しい課題を把握できません。
AIに最も詳しい社員ではなく、周囲が安心して相談できる社員を選ぶことも有効です。
小さな改善を継続できる人を選ぶ
生成AIの社内推進では、最初から完璧な仕組みを作ることは困難です。
試して、問題を見つけ、修正することを繰り返します。
そのため、大きな構想を話すだけでなく、小さな改善を継続できる人が適しています。
- 検証内容を記録できる
- 失敗の原因を整理できる
- 現場からの意見を反映できる
- 手順を少しずつ改善できる
- 成果が出るまで粘り強く続けられる
失敗を隠す人よりも、失敗から学び、次の検証へつなげられる人を選びましょう。
担当者に必要な権限と時間を与えられるか確認する
適任者を選んでも、通常業務に推進業務を追加するだけでは活動が進みません。
推進担当者には、少なくとも次の環境が必要です。
- 現場へヒアリングする時間
- 検証計画を作る時間
- 生成AIを試す環境
- 部署へ協力を依頼できる権限
- 経営層へ報告できる機会
- 情シスや管理部門へ相談できる体制
- 推進活動を評価する仕組み
担当者を任命する際は、「誰にするか」だけでなく、「何を任せ、どの程度の時間と権限を与えるか」まで決める必要があります。
AI推進担当者の適性を確認するチェックリスト
候補者を選ぶ際は、次のチェックリストを活用してください。
| 確認項目 | 判断の目安 |
|---|---|
| 現場の話を丁寧に聞ける | 解決策を急がず、業務の目的や前後工程まで質問できる |
| 業務の流れを整理できる | 作業、入力情報、判断、担当者を分けて説明できる |
| AIを使う業務と使わない業務を分けられる | AI導入を前提にせず、他の手段も比較できる |
| 小規模な検証計画を作れる | 対象者、期間、手順、評価指標を設定できる |
| 導入前後の効果を比較できる | 作業時間や修正回数などを記録できる |
| 現場向けに分かりやすく説明できる | 技術用語を避け、仕事の変化として説明できる |
| 経営層へ報告できる | 費用、効果、リスク、必要な支援を整理できる |
| 成功事例を手順化できる | 個人の使い方をテンプレートやルールへ変えられる |
| 失敗を共有して改善できる | 問題を隠さず、次の検証へ生かせる |
| 他部署と協力関係を作れる | 一方的な指示ではなく、合意形成を進められる |
すべての項目を一人で満たす必要はありません。
例えば、現場ヒアリングと業務選定に強い担当者を主担当とし、技術やセキュリティは情シスが支援する方法があります。経営層への報告は、管理職やプロジェクト責任者が補助してもよいでしょう。
重要なのは、一人の万能な人材を探すことではなく、必要な能力が社内の推進チーム全体にそろっている状態を作ることです。
AI推進担当者を任命した後に最初に行うこと
担当者を任命した後、すぐに全社研修や全社導入を始める必要はありません。
まずは現場の課題を整理し、小さな対象業務を一つ選びます。
現場の業務課題を集める
最初に、各部署から業務上の困りごとを集めます。
「AIで何をしたいですか」と尋ねるのではなく、次の項目を確認します。
- 業務名
- 業務の目的
- 担当者
- 発生頻度
- 1回あたりの作業時間
- 使用する情報
- 前後の工程
- 判断が必要な箇所
- ミスが起きやすい箇所
- 現在の困りごと
ヒアリングした内容は、業務一覧として整理します。
試す業務を一つに絞る
最初の対象業務は、次の条件を満たすものが適しています。
- 定期的に発生する
- 作業内容がある程度決まっている
- 現在の作業時間を測れる
- 少人数で試せる
- 失敗しても顧客や経営への影響が限定的
- 人による確認を残せる
- 成功した場合に他の社員へ広げられる
例えば、社内会議の要約、報告書の下書き、問い合わせ内容の分類、定型メールの作成などが候補になります。
導入前の状態を記録する
効果を確認するためには、導入前の状態を記録しておく必要があります。
最低限、次の項目を確認します。
- 1件あたりの作業時間
- 月間の処理件数
- 修正回数
- 確認にかかる時間
- 担当者の負担
- 品質上の問題
- 待ち時間や手戻り
導入前の記録がなければ、生成AIを使った後に本当に改善したか判断できません。
結果を共有し、次の業務へ広げる
検証後は、成功した点だけでなく、うまくいかなかった点も共有します。
- どの作業が短縮されたか
- どの工程は人の確認が必要だったか
- 入力情報に何が不足していたか
- どのような誤りが起きたか
- 誰でも使える手順になったか
- 次回は何を変更するか
検証結果をもとに手順を改善し、同じ業務を担当する他の社員へ広げます。
AI推進担当者だけに任せてはいけないこと
AI推進担当者を任命しても、経営層や現場がすべてを丸投げしてはいけません。
社内定着には、組織全体の協力が必要です。
経営層が方針と優先順位を決める
生成AIを何のために導入するのかは、経営層が示す必要があります。
- 生産性を高めたい
- 人手不足へ対応したい
- 顧客対応を改善したい
- 属人化を減らしたい
- 新しいサービスを作りたい
目的が曖昧なままでは、現場ごとに異なる取り組みが増え、成果を評価できません。
また、部署間の調整や必要な予算の承認を担当者一人へ任せないことも重要です。
情シスや管理部門がリスク管理を支援する
生成AIの利用では、情報管理やセキュリティへの配慮が必要です。
情シスや管理部門は、次の内容を支援します。
- 利用を認める生成AIツール
- アカウントの発行と削除
- 権限管理
- 機密情報や個人情報の入力ルール
- 退職・異動時の対応
- 契約内容やデータ利用条件の確認
- 利用状況の管理
推進担当者が単独でセキュリティ判断を行うのではなく、専門部門と連携します。
現場責任者が業務判断に参加する
生成AIを業務へ組み込む際は、現場責任者の判断が必要です。
例えば、AIが作成した文章をどこまで修正するか、誰が最終確認するか、誤りが起きた場合にどのように対応するかを決めます。
推進担当者だけでは、各業務の品質基準や顧客への影響を判断できません。
現場責任者が検証へ参加し、AIと人の役割分担を決めることが重要です。
AI推進担当者の能力を育てる方法
社内に5つの能力をすべて持つ人材がいなくても、経験や研修を通じて育成できます。
ツール操作だけでなく業務ヒアリングを学ぶ
生成AI研修というと、基本操作やプロンプトの作り方が中心になりがちです。
しかし、推進担当者には次のスキルも必要です。
- 業務ヒアリング
- 業務フローの整理
- 課題の優先順位付け
- 効果測定
- リスク確認
- 社内説明
- 手順の標準化
研修を選ぶ際は、ツールの操作だけでなく、自社業務を題材にした演習が含まれているか確認しましょう。
実際の業務で小規模な検証を経験させる
推進能力は、座学だけでは身につきません。
実際の業務を一つ選び、次の流れを経験させることが有効です。
- 現場へヒアリングする
- 対象業務を選ぶ
- 導入前の状態を測る
- 生成AIを使った手順を作る
- 少人数で試す
- 結果を測る
- 改善する
- 他の社員へ共有する
小さな成功と失敗を経験することで、AI活用を業務として設計する力が身につきます。
経営層への報告機会を設ける
推進担当者には、定期的に経営層へ報告する機会を設けましょう。
報告内容は成果だけでなく、次の項目も含めます。
- 実施した検証
- 利用者数
- 作業時間の変化
- 発生した問題
- 現場からの意見
- 情報管理上の課題
- 次に試す業務
- 必要な支援や予算
報告を繰り返すことで、技術的な内容を経営判断に必要な情報へ置き換える力が育ちます。
外部支援は担当者の代行ではなく育成に活用する
社内に経験者がいない場合、外部のAI導入支援や研修を活用する方法もあります。
ただし、外部事業者へすべてを丸投げすると、契約終了後に社内で運用できなくなる可能性があります。
外部支援を利用する際は、社内担当者も次の業務へ参加することが重要です。
- 業務ヒアリング
- 対象業務の選定
- 検証計画
- 効果測定
- 利用手順の作成
- 社内説明
- 横展開
外部専門家が作業を代行するのではなく、社内担当者と一緒に進め、最終的に自社で改善を続けられる状態を目指します。
AI推進担当者を評価する指標
AI推進担当者の評価を、短期的なコスト削減だけで判断すると、取り組みが進みにくくなります。
導入初期は、業務整理やルール作成、検証に時間がかかるからです。
推進担当者の活動は、次のような指標で確認できます。
| 評価項目 | 指標の例 |
|---|---|
| 課題発見 | ヒアリングした部署数、整理した業務数 |
| 検証 | 実施した検証数、完了率 |
| 利用 | 利用者数、継続利用率 |
| 効果 | 削減時間、修正回数、処理件数 |
| 標準化 | 作成した手順書、テンプレート数 |
| 横展開 | 展開した部署数、対象業務数 |
| 改善 | 現場の意見を反映した回数 |
| リスク管理 | ルール違反や問題への対応状況 |
最終的な成果だけでなく、課題発見から検証、標準化までの過程も評価しましょう。
よくある質問
AIに最も詳しい社員を推進担当者にすべきですか
必ずしも、AIに最も詳しい社員が適任とは限りません。生成AIの操作経験は重要ですが、社内推進には現場へのヒアリング、対象業務の選定、効果測定、社内調整、横展開の能力も必要です。自分で使えることだけでなく、他の社員が使える仕組みを作れるかを確認しましょう。
情シス担当者はAI推進担当者に向いていませんか
情シス担当者が不向きということではありません。ツール選定、セキュリティ、アカウント管理などに強みがあるため、重要な候補です。ただし、現場業務の理解が不足する場合は、現場責任者や業務改善担当者と連携する必要があります。
若手社員をAI推進担当者に選んでもよいですか
若手社員を選ぶことは可能です。新しいツールへの適応力や柔軟な発想は、大きな強みになります。ただし、他部署との調整や経営層への説明に必要な権限が不足する場合があります。若手社員一人へ責任を負わせず、管理職や経営層が支援する体制を作りましょう。
専任のAI推進担当者を置く必要がありますか
企業規模や導入範囲によって異なります。小規模な取り組みであれば兼任でも進められますが、通常業務に追加するだけでは活動時間を確保できないことがあります。兼任の場合でも、ヒアリング、検証、効果測定、手順作成に使う時間を明確に確保することが重要です。
必要な能力がすべてそろった社員がいない場合はどうしますか
一人にすべての能力を求める必要はありません。業務理解に強い人を主担当とし、技術やセキュリティは情シス、経営層への報告は管理職が支援するなど、複数人で分担できます。不足する能力は、研修や外部支援を活用しながら育成することも可能です。
まとめ|AI推進人材は技術力ではなく社内で動かす力で選ぶ
生成AIの社内推進担当者は、AIツールに最も詳しい人を選べばよいわけではありません。
重要なのは、次の5つの能力です。
- 現場の課題を聞き出す力
- 対象業務を選定する力
- 小さく試して効果を測る力
- 現場と経営層をつなぐ説明力
- 活用事例を横展開する力
情シス担当者や若手社員も有力な候補ですが、部署や年齢だけで判断してはいけません。
情シスには業務理解を補う現場責任者を組み合わせ、若手社員には経営層や管理職が権限と時間を与えるなど、組織として支えることが必要です。
また、5つの能力を一人ですべて満たす人材がいない場合は、複数人で役割を分担できます。
生成AIの社内定着は、ツールを導入するだけでは実現しません。現場の課題を起点として、小さく試し、成果と失敗を共有しながら、他の社員でも再現できる仕組みへ変えることが重要です。
まずは社内の候補者を5つの能力で確認し、最初に検証する業務を一つ決めるところから始めましょう。
AI推進担当者を決めても、社内で活用が進むとは限りません
生成AIの社内推進は、AIに詳しい社員を一人選ぶだけでは進みません。候補者の強みと不足する能力を整理し、最初に試す業務、経営層と現場の役割、必要な権限や時間まで決めることが重要です。
次のようなお悩みがある場合は、現在の業務と推進体制を整理するところからご相談ください。
- 情シス、若手社員、現場責任者のうち、誰を選ぶべきか分からない
- 推進担当者へ何を任せればよいか決まっていない
- 生成AIを導入したが、一部の社員しか使っていない
- 最初に試すべき業務を選定できない
- 研修、業務整理、伴走支援のどれが必要か分からない
- 社内だけでAI活用を定着させられるか不安がある
ご相談では、推進担当者候補の適性、最初に検証する業務、必要な役割分担、社内定着までの進め方を確認できます。
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