行政書士事務所の1日は、書類を書いている時間よりも、連絡に反応している時間のほうが長くなりがちです。午前中に建設業許可の申請書を組み立てようとしたところに、依頼者から「昨日の書類、これで合っていますか」と電話が入ります。折り返しの約束をした直後に、別の依頼者からメールで写真が届きます。夕方には「そういえば更新の時期でしたよね」というショートメッセージが来ます。連絡の窓口が3つも4つもあると、案件そのものよりも、連絡の管理に神経を使うことになります。
当社は埼玉県でITコーディネータ事務所を営み、士業事務所を含む中小企業の公式LINE構築や、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の申請サポートを行っています。行政書士の先生からのご相談で最も多いのは「LINEで集客できますか」という問いですが、実際に構築してみると、効果が先に出るのは集客ではありませんでした。効果が出るのは、すでに受任している依頼者との連絡をLINEに寄せたときです。
この記事では、1人から5人規模の行政書士事務所を想定して、LINE公式アカウントをどう設計すると事務作業が軽くなるのかを整理します。リッチメニューの6枠に何を置くか、分野別の自動応答をどこまで作るか、守秘義務との線引きをどう引くか、費用はどのくらいかかるかまで、当社が構築時に実際に検討している順番で書いていきます。
なお、記載している料金や機能は2026年9月時点の一般的な水準です。プラン内容は改定されることがありますので、導入前には提供元の最新の案内をご確認ください。
結論:行政書士事務所がLINE公式アカウントを導入するなら、新規集客の入口として使うより先に、すでに受任した依頼者との連絡をLINEへ移してください。日程調整、必要書類の案内、進捗のお知らせをLINEに寄せるだけで、かかってくる電話と、返信を書くメールの本数が目に見えて減ります。集客に使えるようになるのは、その運用が回り始めた後です。
行政書士事務所の連絡が、なぜここまで時間を奪うのか
まず、なぜ連絡がこれほど負担になるのかを分解しておきます。原因が分かっていないと、LINEを入れても連絡の窓口が1つ増えるだけで終わってしまうからです。
割り込みは、作業そのものより復帰の時間が高くつく
電話の1本は、通話時間だけを見れば3分程度です。ところが、申請書の要件を頭の中に並べている最中に電話が鳴ると、通話が終わった後にもう一度並べ直す作業が発生します。当社が事務所の作業時間をお聞きすると、通話3分の後に、元の作業へ戻るまで10分前後かかっているという声が少なくありません。1日に電話が8本入れば、通話は24分でも、実際に失っている時間はその何倍かになります。
1人事務所ではこれが直撃します。誰かが一次対応してくれるわけではないので、所長本人が全部の割り込みを受け止めることになります。書類作成の時間を確保したいのに、確保した時間帯がいちばん電話の鳴る時間帯と重なる、ということが起こります。
同じ質問が、依頼者ごとに繰り返し届く
連絡内容を書き出してみると、その多くは初めての質問ではありません。「必要な書類をもう一度教えてください」「今どのあたりまで進んでいますか」「費用は結局いくらになりますか」「役所に行く必要はありますか」。この4種類だけで、受任中の依頼者からの連絡のかなりの割合を占めます。
内容が同じということは、答えも同じです。同じ答えを口頭で毎回作り直しているのが、事務負担の正体です。ここは仕組みで置き換えられる部分です。逆に言えば、初めての質問や、判断を含む相談は、置き換えるべきではありません。
メールは、送ったつもりが届いていない
メールで必要書類の案内を送っても、迷惑メールに振り分けられて読まれていないことがあります。読まれていても、他のメールに埋もれて探せなくなります。依頼者から「前に送っていただいた書類の一覧、どこでしたっけ」と聞かれるのは、依頼者の不注意というより、メールという道具の特性です。
その点、LINEは開封される割合が高く、依頼者にとっても探しやすい場所にあります。トーク画面をさかのぼれば案内が見つかりますし、リッチメニューに常設しておけば、さかのぼる必要すらありません。ここが、行政書士業務とLINEの相性が良い理由です。
集客より先に「受任後の連絡」をLINEに移す

LINE公式アカウントの導入相談で、最初に整理させていただくのがここです。多くの先生は「友だちを集めて、新規の相談を増やす」ことを想定して来られます。しかし、その順番だと成果が出るまでに時間がかかり、途中で運用が止まりやすくなります。
集客用途から入ると続かない理由
集客用途のLINEは、友だちが増えないと何も起こりません。友だちを増やすには、ホームページやチラシ、名刺、セミナーなどの入口が必要で、そこに人が来るまでには数か月かかります。その間、配信しても反応がなく、「やっぱり士業には向いていない」という結論になりがちです。
もう1つの問題は、配信する内容です。集客目的だと、法改正の解説や事例紹介など、記事に近いものを定期的に書く必要が出てきます。書類作成の合間にコラムを書き続けるのは、1人事務所にはかなり重い負担です。負担の割に反応が薄いので、3か月ほどで更新が止まります。
受任後の連絡なら、初日から効果が出る
一方、受任後の連絡をLINEに移す方法は、友だちが1人でも成立します。受任した依頼者に「今後のご連絡はこちらでお願いします」と友だち追加をお願いするだけです。追加してもらった瞬間から、その依頼者との電話とメールは減り始めます。
配信するネタを考える必要もありません。送る内容は、日程の確認、必要書類の案内、進捗のお知らせ、提出完了の報告といった、もともと連絡していた内容です。新しい仕事が増えるのではなく、今やっている連絡の置き場所を変えるだけなので、運用が止まりません。
そして、この運用が回り始めると、依頼者からの紹介が起きたときの受け皿が既にできている状態になります。紹介された方に友だち追加してもらえば、初回相談の予約までLINEの中で完結します。集客に使えるようになるのは、この段階からです。
連絡手段ごとの向き不向きを整理する
すべてをLINEに寄せるわけではありません。電話でなければ成立しない場面も、書面でなければならない場面もあります。当社が構築時に使っている整理は次のとおりです。
| 連絡の種類 | 推奨する手段 | 理由 |
|---|---|---|
| 初回相談の日程調整 | LINE(予約フォーム) | 往復が減り、依頼者の都合の良い時間に完結する |
| 必要書類の案内 | LINE(定型送信) | 同じ内容の繰り返し。後から見返せる場所が必要 |
| 進捗のお知らせ | LINE(都度送信) | 短文で足りる。電話だと相手の時間も奪う |
| 要件の判断を含む相談 | 面談または電話 | 前提の確認が必要で、文字だけでは誤解が生じる |
| 見積・委任契約 | 書面または電子契約 | 後日の証拠として残す必要がある |
| 本人確認書類の授受 | 面談・郵送・専用のファイル共有 | 取り違えと漏えいのリスクが高い |
| 役所からの照会対応 | 電話 | 即応性が求められ、記録は事務所側で残す |
この表で大事なのは、LINEに寄せる列よりも、寄せない列のほうです。判断を含む相談まで文字で受けてしまうと、前提条件の確認が抜けたまま回答することになり、かえって危険です。LINEで受けた相談が「これは面談が必要だ」と感じる内容だったときに、面談へ切り替える一言を用意しておくと、運用が安定します。
LINE公式アカウントと拡張ツールの役割分担
次に、道具の話を整理します。LINE公式アカウントは、LINEヤフー株式会社が提供する事業者向けのアカウントです。ここに、外部の拡張ツールを接続して機能を足すのが一般的な構成で、当社では構築時にL Message(エルメッセージ)を前提としています。
LINE公式アカウント単体でできること
公式アカウント単体でも、友だちへのメッセージ配信、あいさつメッセージ、キーワードに応じた自動応答、リッチメニューの設置、1対1のチャットといった基本機能は使えます。小規模な事務所であれば、まずここだけで始めることも可能です。実際、受任した依頼者が10人程度であれば、単体でも十分に回ります。
単体で足りなくなるのは、依頼者が増えて「誰にどの案内を送ったか」が分からなくなったときです。建設業許可の依頼者と、相続の依頼者と、入管の依頼者が同じ友だちリストに並ぶと、一斉配信ができなくなります。全員に同じ内容を送るわけにいかないからです。
L Messageのような拡張ツールを重ねる理由
L Messageは、LINE公式アカウントに接続して使う拡張ツールで、配信、自動応答、リッチメニュー、予約、タグ管理といった機能を持つとされています。当社が構築時に前提としているのは、行政書士業務で必要になる「分野ごとの出し分け」と「予約」が、1つのツールの中で完結するためです。
特に効いてくるのがタグ管理です。友だち登録の時点で、または最初の質問への回答によって、その依頼者に「建設業許可」「入管」「相続」といったタグを付けておきます。すると、建設業許可の依頼者だけに決算変更届の時期を案内する、といった配信ができます。全員に送らないので、依頼者側もブロックしにくくなります。
予約機能も、行政書士業務との相性が良い部分です。初回相談の日程調整は、電話とメールで往復すると3回以上のやり取りになります。空き枠を提示して依頼者が選ぶ形にすれば、1回で終わります。細かい仕様はプランや提供時期によって変わりますので、導入前に提供元の案内でご確認ください。
導入前に決めておく3つのこと
ツールを触り始める前に、決めておいたほうが早い項目があります。1つ目は、誰にこのアカウントを使ってもらうのかです。新規の見込み客も入れるのか、受任した依頼者だけにするのかで、リッチメニューの中身が変わります。2つ目は、返信できる時間帯です。3つ目は、どこまでを自動応答で答え、どこから人が答えるのかの境界です。
この3つを決めずに構築すると、後から作り直しになります。特に2つ目は依頼者との関係に直結します。24時間いつでも返信が来ると思われてしまうと、夜間や休日に既読を付けられないという新しいストレスが生まれます。あいさつメッセージの中に、対応時間と、緊急時の連絡先を明記しておくのが実務的です。
| やりたいこと | 公式アカウント単体 | 拡張ツールを重ねた場合 |
|---|---|---|
| 全員への一斉配信 | できる | できる |
| 分野ごとの出し分け配信 | 工夫が要る | タグで整理して送れる |
| 初回相談の予約受付 | 外部フォームへ誘導 | ツール内で完結させやすい |
| 友だちごとのメモ管理 | 限定的 | タグや項目で管理しやすい |
| 登録直後の段階的な案内 | 手作業になりやすい | 順番に自動送信できる |
| 月額の目安 | 無料から数千円台 | 無料から1万円台まで幅がある |
リッチメニュー6枠の設計表

リッチメニューは、トーク画面の下部に常時表示される画像状のメニューです。ここの設計が、公式LINE運用の成否をほぼ決めます。依頼者が何かを聞きたくなったとき、最初に目に入る場所だからです。ここに答えが置いてあれば電話は鳴らず、置いていなければ鳴ります。
6枠に置くもの、置かないもの
リッチメニューは分割数を選べますが、行政書士事務所であれば3列2段の6枠が扱いやすいと考えています。枠が少なすぎると必要な導線が入らず、多すぎるとタップ先が分からなくなります。6枠であれば、受任前と受任後の両方の用事を収められます。
| 位置 | ラベル | タップ後の動き | ねらい |
|---|---|---|---|
| 左上 | 初回相談を予約 | 予約フォームを開き、空き枠から選んでもらう | 日程調整の往復をなくす |
| 中央上 | 料金の目安 | 分野別の料金レンジと、金額が変わる条件を送る | 料金だけの問い合わせ電話を減らす |
| 右上 | 必要書類 | 分野を選ぶと、その分野の書類案内を送る | 同じ案内の繰り返しをなくす |
| 左下 | 進捗を確認 | 案件の段階の説明と、担当者への確認依頼の受付 | 「今どうなっていますか」を減らす |
| 中央下 | よくある質問 | 質問カテゴリを選ぶと定型回答を送る | 初回相談前の不安を先に解消する |
| 右下 | 担当者に連絡 | チャットに切り替え、対応時間を案内する | 自動応答で解決しない件の受け皿 |
この6枠のうち、外せないのは「初回相談を予約」と「必要書類」と「担当者に連絡」の3つです。予約は新規の受け皿、必要書類は受任後の負担軽減、担当者に連絡は逃げ道です。逃げ道がないメニューは、依頼者を不安にさせます。自動応答で解決しなかったときに人へつながる導線は、必ず用意してください。
逆に、置かないほうがよいものもあります。事務所のブログ一覧や、SNSアカウントへのリンクは、多くの場合ほとんどタップされません。枠は限られているので、依頼者が実際に困っている用事に割り当てたほうが効果的です。
ラベルは「事務所の言葉」ではなく「依頼者の言葉」で書く
ラベルの文言でタップ率が変わります。「業務案内」より「料金の目安」、「お問い合わせ」より「担当者に連絡」のほうが押されます。依頼者は業務の分類を知りたいのではなく、自分の用事を済ませたいからです。頭に浮かんでいる言葉に近いラベルを置いてください。
文字数も重要です。枠の中に収まる長さは6文字から8文字程度です。長い言葉を無理に入れると読めなくなります。「建設業許可申請のご依頼はこちら」ではなく「建設業許可」で十分です。
受任前と受任後でメニューを出し分ける
拡張ツールを使っている場合、タグに応じてリッチメニューを切り替えられます。受任前の方には「初回相談を予約」「料金の目安」を大きく見せ、受任後の方には「進捗を確認」「必要書類」を前に出す、という設計です。同じアカウントで2つの役割を持たせられるので、アカウントを分ける必要がなくなります。
ただし、最初から出し分けを組むのはおすすめしません。まずは全員に同じ6枠を見せて、どの枠がタップされるかを1か月ほど観察してください。タップ数の実績が出てから出し分けを検討したほうが、無駄な作り込みが減ります。
タップされない枠の直し方
1か月経ってもタップされない枠があれば、原因は3つのどれかです。ラベルの言葉が依頼者の用事と合っていない、そもそもその用事が発生していない、タップ後に返ってくる内容が期待外れだった、のいずれかです。順番に潰していきます。
いちばん多いのは3つ目です。「料金の目安」を押したのに「詳しくはお問い合わせください」しか返ってこないと、次からは押されません。金額を確定できない事情があるのは分かりますが、幅で示したうえで、金額が変わる条件を書いておけば、依頼者は納得します。
分野別の自動応答をどこまで作るか
自動応答は、キーワードやボタンの選択に応じて、あらかじめ用意した文章を返す仕組みです。ここを作り込むほど電話は減りますが、作り込みすぎると誤答のリスクが上がります。当社では、事実の案内までを自動応答に任せ、要件の判断は人が行う、という線を引いています。
建設業許可の場合
建設業許可は、年次で必ず発生する業務が多い分野です。自動応答に向いているのは、決算変更届の提出時期の一般的な説明、更新申請のおおまかな流れ、必要書類の一覧、事務所で預かる書類と依頼者が用意する書類の区分といった、事実の案内です。
逆に自動応答に任せてはいけないのが、許可の要件を満たすかどうかの判断です。経営業務の管理責任者や専任技術者の要件は、依頼者の経歴や資格、過去の在籍状況によって結論が変わります。文字だけのやり取りでは前提の確認が足りず、誤った見通しを伝えてしまいます。ここは面談へ誘導してください。
入管業務の場合
入管業務では、依頼者本人が日本語を得意としない場合があります。自動応答の文章を、やさしい日本語で書き直しておくだけでも、問い合わせの数が変わります。必要書類の案内を、母語での説明と併記できるとさらに効果的です。
ただし、在留資格の該当性や、許可の見込みについては自動応答で触れないでください。在留資格の要件は個別の事情によって判断が分かれますし、制度の運用も更新されます。案内文には「最新の要件は出入国在留管理庁の案内でご確認ください」と添えたうえで、判断は面談で行う旨を明記します。
在留期限の管理そのものは、LINEの配信と相性が良い部分です。期限の3か月前に「更新のご案内」を送る運用にしておくと、依頼者が忘れる事態を減らせます。誰にいつ送るかの管理は、LINEの中だけでは難しいので、案件台帳と組み合わせるのが現実的です。
相続・遺言の場合
相続の相談は、依頼者が何から手を付ければよいか分からない状態で来ます。自動応答では、最初にやることの順番、戸籍の集め方の概略、費用の目安、当事務所で対応できる範囲と他士業へつなぐ範囲を案内します。範囲の説明を先に置いておくと、後の行き違いが減ります。
相続分野で気をつけたいのは、依頼者が感情的に難しい状況にあることです。自動応答の文面が事務的すぎると冷たく受け取られます。案内文の冒頭に一言添えるだけで印象が変わりますので、この分野だけは文面を丁寧に作り込む価値があります。
また、遺産分割の内容や、相続人間の争いに関わる話は自動応答の対象外にしてください。他の相続人がスマートフォンを覗く可能性もあり、トークに残った文言が後で問題になることがあります。この点は次のH2で詳しく扱います。
| 分野 | 自動応答に向く内容 | 人が対応すべき内容 |
|---|---|---|
| 建設業許可 | 決算変更届の時期、更新の流れ、必要書類一覧 | 経営業務の管理責任者や専任技術者の要件判断 |
| 入管 | 必要書類の多言語案内、手続の所要期間の目安 | 在留資格の該当性、不許可歴がある場合の見通し |
| 相続・遺言 | 最初にやることの順番、戸籍収集の概略、費用の目安 | 遺産分割の内容、相続人間に争いがある案件 |
| 共通 | 事務所の場所と対応時間、支払方法、進捗の段階説明 | 見積の確定、委任契約、期限が迫った案件の相談 |
自動応答に書かせない一文を決めておく
自動応答の文面を作るとき、生成AIに下書きをさせる事務所も増えています。作業は速くなりますが、そのまま使うのは危険です。生成AIは、制度の細部や最新の運用を取り違えることがありますし、聞かれていないことまで断定的に書いてしまう傾向があります。
当社では、自動応答の文面に「できます」「認められます」「問題ありません」といった断定を入れない、というルールを置いています。事実の案内は断定してよいのですが、結果の見込みは断定しません。下書きをAIに書かせた場合でも、この観点で行政書士本人が読み直す工程は外せません。
予約と進捗確認をLINEに寄せる
ここからは、実際に負担が減る2つの用途を掘り下げます。初回相談の予約と、受任後の進捗確認です。この2つだけでも、導入の効果は十分に出ます。
初回相談の予約導線
電話で日程を決めると、「来週の火曜の午後はいかがですか」「その日は難しくて」「では木曜は」というやり取りになります。1回で決まらないことも多く、折り返しの電話も発生します。ここを予約フォームに置き換えると、依頼者が空き枠を見て選ぶだけになります。
予約フォームを作るときは、日時だけでなく、相談内容の分野と、簡単な状況を先に聞いておくと効果が上がります。「建設業許可/入管/相続・遺言/その他」の選択と、「いつまでに手続が必要か」の記入欄があるだけで、面談の準備が変わります。事前に分かっていれば、面談当日に必要な資料の案内も先に送れます。
予約の前日にリマインドを自動送信する設定も入れておいてください。無断キャンセルが減ります。士業の初回相談は、依頼者にとって心理的なハードルが高く、直前に不安になって来なくなることがあります。前日の一言があるだけで、来訪率が変わります。
「今どうなっていますか」を減らす
受任後の連絡でいちばん多いのが進捗確認です。依頼者からすると、書類を渡した後に音沙汰がないと不安になります。行政書士側は、役所の審査を待っているだけで報告することがない、という状態です。この認識のずれが、確認の電話を生みます。
対策は単純で、案件の段階を先に共有しておくことです。受任時に「書類のお預かり」「作成・確認」「提出」「審査中」「許可・完了」という5段階と、それぞれの目安期間を送っておきます。そのうえで、段階が変わったタイミングで短い連絡を1本入れます。「本日提出しました。審査には1か月前後かかる見込みです」の一文で、確認の電話はほとんど来なくなります。
この連絡は定型文で足ります。あらかじめ5段階分の文面を用意しておき、その都度コピーして送るだけです。1件あたり30秒程度の作業で、電話1本分の割り込みが消えます。作業としては地味ですが、効果は分かりやすく出ます。
タグ管理と配信の使い分け
友だちが50人を超えたあたりから、タグがないと管理できなくなります。最低限、分野のタグと、状態のタグの2種類を用意してください。分野は「建設業許可」「入管」「相続」など、状態は「相談前」「受任中」「完了」です。この2軸があれば、必要な相手にだけ配信できます。
配信の頻度は、月1回程度で十分です。士業のアカウントに毎週の配信は求められていません。むしろ、頻度が高いとブロックされます。法改正や制度変更があったときに、関係する分野のタグの方だけに送る、という使い方が現実的です。
完了した依頼者へのタグも残しておいてください。建設業許可であれば5年後の更新、入管であれば在留期限の前に、案内を送る相手になります。過去の依頼者は、新規開拓よりはるかに効率の良い接点です。この点でも、集客用のアカウントより、受任後を起点にしたアカウントのほうが資産になります。
守秘義務とLINE — 書類の受け渡しはどこまでやってよいか

ここが、行政書士がLINEを使ううえで最も慎重になるべき部分です。行政書士は行政書士法第12条により、正当な理由がなく業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならないとされています。この義務は、使う道具が何であっても変わりません。LINEを使うこと自体が問題なのではなく、何をどこまで流すかを決めていないことが問題になります。
LINEというツールの特性を踏まえる
LINEの特性として、まずスマートフォンの画面に通知が表示される点があります。依頼者の端末を家族が触ることも、画面を覗くこともあり得ます。相続案件で他の相続人が同居しているケース、離婚や在留資格の相談で家族に知られたくないケースでは、通知の1行が問題になります。
そのため、メッセージの1行目に案件の核心を書かないという運用が有効です。「山田様の帰化申請の件ですが」と書く代わりに、「ご依頼の件でご連絡いたします」と始めます。通知に表示されるのは冒頭部分ですので、これだけでリスクがかなり下がります。
もう1つ、事務所側の端末管理も欠かせません。公式アカウントの管理画面に、私物のスマートフォンからログインしたままにしていないか、補助者の端末に権限が残っていないか、退職時に権限を外したか。この3点は、定期的に確認する運用にしてください。管理権限の棚卸しは、半年に1回程度が目安です。
LINEで扱ってよいもの、避けるもの
当社が構築時にご提案している線引きは次のとおりです。事務所の方針によって調整していただく前提ですが、迷ったときの出発点になります。
| やり取りの内容 | LINEでの扱い | 補足 |
|---|---|---|
| 日程調整、来所の案内 | そのままやり取りしてよい | 案件名は書かず「ご依頼の件」とする |
| 進捗のお知らせ | やり取りしてよい | 段階名のみを伝え、審査内容には触れない |
| 必要書類の一覧案内 | やり取りしてよい | 一般的な案内であり個人情報を含まない |
| 依頼者が撮影した書類の写真 | 受け取り方を事前に決める | 受領後は事務所側で保管し、トークからは削除する運用も検討 |
| 本人確認書類、在留カード、決算書 | 原則としてLINEを使わない | 面談での提示、郵送、専用のファイル共有を用いる |
| 見積書、請求書 | 通知のみLINE、実物は別経路 | 金額の記載は書面またはメール添付で残す |
| 他の相続人や関係者の情報 | LINEに書かない | 第三者の個人情報を依頼者のトークに残さない |
| 官公署からの照会内容 | LINEに書かない | 電話または面談で伝える |
写真の受け取りについて補足します。依頼者が善意で在留カードや通帳の写真を送ってくることは実際にあります。送られてきたものを見なかったことにはできませんので、対応方針を先に決めておくのが現実的です。当社がご提案しているのは、受任時の案内に「書類の写真はLINEではなく、こちらの方法でお願いします」と明記しておく方法です。それでも送られてきた場合は、事務所側で保存したうえで、トーク上の画像を削除する運用にします。
依頼者に説明するときの一文例
友だち追加のあいさつメッセージに、次のような一文を入れておくと、後の行き違いが減ります。「当事務所では、日程のご連絡や進捗のご報告にLINEを使用しております。本人確認書類や決算書などの重要な書類は、安全のためLINEではなく、別途ご案内する方法でお預かりしますので、ご協力をお願いいたします。」
この一文があると、依頼者は「なぜLINEで送ってはいけないのか」を理解します。理由を書かずに禁止だけを伝えると、不便を押し付けられたと受け取られます。安全のため、という理由を添えるだけで、納得感が変わります。
あわせて、対応時間も書いておきます。「平日9時から18時に順次ご返信いたします。お急ぎの場合はお電話ください。」の2文で足ります。この2文がないと、深夜のメッセージに既読を付けられないことが小さなストレスになり続けます。
費用と構築範囲の目安
費用は、LINE公式アカウント自体の利用料、拡張ツールの利用料、構築を外注する場合の構築費の3つに分かれます。順に見ていきます。いずれも2026年9月時点の一般的な水準であり、確定金額ではありません。
LINE公式アカウントの利用料
LINE公式アカウントには、無料で使えるプランと、月額数千円台のプラン、月額1万円台のプランが用意されています。違いは主に、月に送信できるメッセージの通数です。無料プランでも一定数の配信ができますので、受任中の依頼者が数十人という規模であれば、当面は無料プランで足りることが多いです。
注意点として、配信の通数は「送った回数×人数」で数えます。100人に1通送れば100通です。全員への一斉配信を頻繁に行うと通数が膨らみますので、タグで絞って送る運用は、費用の面でも効いてきます。プラン内容は改定されることがありますので、契約前に最新の案内をご確認ください。
拡張ツールの利用料
L Messageのような拡張ツールにも、無料で使える範囲と有料プランがあります。有料プランは、月額数千円から1万円台程度が一般的な水準です。友だち数や使える機能によって金額が変わりますので、必要な機能から逆算して選ぶことになります。
1人事務所であれば、まず無料の範囲で試して、タグ管理と予約が本当に必要かを見極めてから有料に移るのが無理のない進め方です。最初から上位プランを契約しても、使わない機能に払うことになります。
構築を外注する場合の費用帯
構築費は、どこまでを外注するかで大きく変わります。当社の見積根拠としては、リッチメニューの画像制作、自動応答の分岐設計、予約設定、タグ設計、依頼者向けの案内文の作成、操作説明の6項目を数えています。全部を任せる場合と、画像だけ任せる場合では、工数が数倍違います。
| 構築範囲 | 含まれるもの | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 自分で構築 | ツール利用料のみ | 月額0円から1万円台 |
| 最小構成の外注 | リッチメニュー画像、あいさつ文、基本の自動応答 | 構築費5万円前後から |
| 標準構成の外注 | 上記に加え、分野別の分岐、予約設定、タグ設計 | 構築費10万円台から20万円台 |
| 運用支援つき | 上記に加え、文面の改善と月次の見直し | 上記に月額数千円から数万円 |
1人事務所であれば、最小構成から始めて、運用しながら足していく進め方をおすすめしています。最初に作り込んだ分岐は、たいてい使われません。実際に届く質問を見てから作ったほうが、当たる確率が高くなります。
デジタル化・AI導入補助金との関係
公式LINEの構築費やツール利用料が、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の対象になるかというご質問をよくいただきます。制度上、登録されたITツールの導入費用が補助の対象となる仕組みですので、使うツールが登録されているかどうかが出発点になります。単なる画像制作費や、登録されていないサービスの利用料は対象になりません。
また、個人事業として開業されている行政書士も、中小企業者等として対象になり得ます。ただし、対象経費の範囲や申請の要件は年度ごとに見直されますので、公募要領で必ず最新版をご確認ください。当社では、補助金の対象になる部分とならない部分を切り分けたうえで、見積をお出ししています。
導入の進め方 — 4週間で立ち上げる
最後に、実際の立ち上げ手順を示します。まとまった時間が取れない前提で、週に2時間程度で進められる分量に区切っています。
| 週 | やること | 目安時間 |
|---|---|---|
| 1週目 | アカウント開設、対応時間とあいさつ文の決定、扱う情報の線引き | 2時間 |
| 2週目 | リッチメニュー6枠の内容決定と画像作成、必要書類の案内文を分野ごとに作成 | 3時間 |
| 3週目 | 予約フォームの設定、進捗5段階の定型文作成、タグの設計 | 2時間 |
| 4週目 | 受任中の依頼者に友だち追加を案内、実際の質問を見て文面を修正 | 2時間 |
友だち追加をお願いするタイミング
いちばん追加してもらいやすいのは、受任が決まった直後です。委任契約の説明をしたその場で、「今後のご連絡はこちらで行います」とQRコードをお見せするのが最も自然です。後日メールでお願いしても、追加率は下がります。
すでに進行中の案件については、次の連絡のタイミングでお願いします。「ご連絡がスムーズになりますので」という理由を添えれば、断られることはほとんどありません。全員に追加してもらう必要はなく、電話が多い依頼者から順に移してもらえば十分です。
運用開始後に見る数字
導入後に見るべきは、友だち数ではありません。友だち数は増えても、事務所の負担は変わらないからです。見るべきは、1週間にかかってくる電話の本数と、返信を書いたメールの本数です。この2つが導入前より減っていれば、成功しています。
もう1つ、リッチメニューの枠ごとのタップ数も見てください。押されている枠は、依頼者が本当に困っている用事です。押されている枠の内容を厚くしていくと、さらに電話が減ります。押されていない枠は、内容を入れ替えます。
よくある失敗
いちばん多い失敗は、作り込みすぎて公開しないことです。分岐を細かく設計しているうちに数か月が過ぎ、結局は動き出さないというケースをよく見ます。リッチメニュー3枠、あいさつ文、必要書類の案内だけでも、公開したほうが早く改善が回ります。
次に多いのが、集客用の配信を始めてしまい、書くネタが尽きて止まるパターンです。配信は月1回でも構いませんし、しばらく配信しなくても、受任後の連絡用として機能していれば問題ありません。配信の頻度を成果の指標にしないでください。
3つ目は、返信が追いつかなくなるパターンです。対応時間を明記していないと、依頼者は即時の返信を期待します。あいさつメッセージとリッチメニューの両方に対応時間を書き、自動応答の末尾にも一言添えておくと、期待値の調整ができます。
よくある質問
個人のLINEアカウントで依頼者とやり取りしてはいけませんか
禁止されているわけではありませんが、おすすめしません。個人アカウントでは、事務所のプロフィールが表示されず、依頼者からは私的な連絡と区別がつきません。また、通知が個人の生活時間帯にも入り続けます。休日にも既読を付けなければならない状態は、長く続きません。
実務上の問題も出ます。補助者に引き継ぐときに、個人アカウントのトーク履歴は渡せません。公式アカウントであれば、権限を付与すれば履歴を共有できます。事務所の資産として残るかどうかが、大きな違いです。
友だちが少ないうちから有料プランにする必要はありますか
必要ありません。受任中の依頼者が数十人という規模であれば、無料で使える範囲で十分に運用できます。有料プランを検討するのは、月の配信通数が無料枠を超えたときか、タグ管理や予約といった機能が必要になったときです。
費用を先に払うと、元を取ろうとして無理に配信を増やしてしまいます。それはブロックにつながります。必要になってから移るほうが、運用としても健全です。
自動応答の文面は、生成AIに作らせてもよいですか
下書きを作らせるのは有効です。分野ごとの必要書類の案内文や、進捗連絡の定型文は、たたき台があると作業が速くなります。ただし、そのまま公開してはいけません。生成AIは、制度の細部を取り違えたり、聞かれていない結論まで断定的に書いたりすることがあります。
確認すべき箇所は決まっています。期間や日数の記載、必要書類の点数、要件の言い回し、そして断定表現の4か所です。この4か所を行政書士本人が読み直せば、大きな事故は防げます。なお、下書きを作らせる際に、依頼者の氏名や具体的な案件内容を入力しない点にもご注意ください。
依頼者がLINEを使っていない場合はどうしますか
無理に移していただく必要はありません。電話とメールでの対応を続けてください。LINEに移すのは、あくまで電話とメールの本数を減らすためであり、全員を移すことが目的ではありません。半分の依頼者が移るだけでも、負担は減ります。
実感として、高齢の依頼者でもLINEを使っている方は少なくありません。相続案件でご相談に来られる方が、お子様と連絡を取るためにLINEを日常的に使っている、というケースもよくあります。使っていないと決めつけず、一度お尋ねしてみてください。
リッチメニューの画像は自分で作れますか
作れます。無料のデザインツールにテンプレートが用意されていますので、文字を入れ替えるだけでも形になります。最初の1枚は自作で十分です。凝ったデザインよりも、ラベルの言葉が依頼者の用事に合っているかどうかのほうが、はるかに結果に影響します。
外注を検討するのは、枠の内容が固まってからで構いません。運用しながら1度か2度は内容を入れ替えることになりますので、その都度外注していると費用がかさみます。内容が安定した段階で、見た目を整える依頼をするのが効率的です。
複数の分野を扱っている場合、アカウントは分けるべきですか
1つで運用することをおすすめします。アカウントを分けると、管理画面も配信もリッチメニューも二重になり、運用の手間が倍になります。1人事務所では、まず続けられることが最優先です。
分野の違いは、タグとリッチメニューの分岐で吸収できます。最初の質問で分野を選んでもらい、その後の案内を出し分ければ、依頼者から見れば分野ごとのアカウントと変わりません。アカウントを分けるのは、事務所として別のブランドで展開する場合など、限られた場面です。
導入してから効果が出るまで、どのくらいかかりますか
受任後の連絡から始めた場合、友だち追加が進んだ依頼者については、その週から電話が減り始めます。事務所全体として実感が出るのは、受任中の依頼者の半分程度が移った頃で、多くの場合は1か月から2か月です。
新規のご相談がLINE経由で入ってくるようになるのは、もっと後です。ホームページや名刺に導線を置いてから、半年程度は見ておいてください。先に受任後の運用で効果を実感しておくと、この期間を待てるようになります。
まとめとご相談について
行政書士事務所のLINE公式アカウントは、集客の道具として捉えると、成果が出るまでに時間がかかり、途中で止まりやすくなります。先に受任後の連絡を移せば、友だちが1人でも効果が出て、運用が続きます。続いた先に、集客の受け皿としての価値が乗ってきます。
設計で押さえるべき点は多くありません。リッチメニュー6枠に依頼者の用事を割り当てること、事実の案内までを自動応答に任せて要件の判断は人が行うこと、扱ってよい情報の線引きを先に決めておくこと、そして対応時間を明記すること。この4つを守れば、大きく外すことはありません。
当社では、公式LINEの構築を、案件管理や期限管理の仕組みとあわせてご支援しています。連絡だけをLINEに移しても、更新時期の把握が手帳のままでは、案内を送るタイミングを逃してしまうからです。連絡と台帳の両方を見て、どこから手を付けると効果が大きいかを整理するところから始めています。
ご相談ください:ベストプランナーでは、行政書士事務所のAI活用と、デジタル化・AI導入補助金の申請サポートをあわせてご支援しています。「自分の事務所だと何から手を付けるべきか」「この構築は補助金の対象になるか」の整理だけでもご相談いただけます。無料相談はこちら
