電子カルテをまだ導入していないクリニックや歯科医院では、「そろそろ電子カルテに変えた方がよいのだろうか」と悩む場面が増えてきました。
特に2026年度の診療報酬改定では、医療DXに関する新しい評価が設けられました。さらに政府は2030年をめどに電子カルテの普及率約100%を目指しています。こうした情報を見ると、「紙カルテのままではまずいのではないか」と感じる院長もいるでしょう。
しかし、電子カルテをまだ導入していないからといって、AI活用まで待つ必要はありません。
電子カルテを入れる前でも、紙からの転記、文書の下書き、Excel集計など、AIで減らせる仕事があります。
むしろ、加算ができたからという理由だけで電子カルテを急いで導入するより、現在の紙カルテとExcelの運用を整理し、患者IDや項目名を統一してから移行した方が、導入後の混乱を減らしやすくなります。
この記事では、電子カルテ未導入の無床クリニック・歯科医院を想定し、「今すぐ電子カルテを買うかどうか」ではなく、今の業務から何をAIへ渡し、何を整理してから電子カルテへ進むのかという順番を解説します。
電子カルテ未導入は珍しくない|一般診療所の導入率は55.0%
「いまだに紙カルテなのは自院だけではないか」と感じるかもしれませんが、実際には電子カルテを導入していない診療所はまだ相当数あります。
厚生労働省が2026年3月の医療等情報利活用ワーキンググループで示したところによると、2023年の電子カルテシステム導入率は一般診療所で55.0%、一般病院で65.6%でした。つまり一般診療所では、調査時点で半数近くが電子カルテ未導入だったことになります。
ここで注意したいのは、「55.0%」を2026年現在のリアルタイム普及率と受け取らないことです。2026年3月に示された資料ですが、数字自体は2023年の医療施設調査に基づいています。
それでも、電子カルテ未導入の小規模診療所が決して特殊ではないことは分かります。
紙カルテが残っている背景には、単なるIT化の遅れだけではありません。
厚生労働省の同ワーキンググループでも、日本医師会が実施した「紙カルテ利用の診療所の電子化対応可能性に関する調査」が紹介され、「ITに不慣れで操作に時間がかかる」「導入費用が高額」といった事情が挙げられています。
スタッフ10名以下のクリニックでは、受付担当者が電話、予約、資格確認、問診、会計、レセプト、リコールまで兼務しているケースも珍しくありません。
そこへ新しいシステムを入れれば、必ず仕事が減るとは限りません。
導入直後には、操作方法を覚える時間が必要です。紙カルテと新システムが一時的に併存すれば、逆に入力箇所が増える場合もあります。
そのため、電子カルテ未導入医院が最初に考えるべきなのは「どの製品を買うか」ではなく、現在どの仕事に人の手入力が残っているかです。
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2026年改定と2030年目標を見て「今すぐ電子カルテ」と決めなくてよい
電子カルテ導入を考えるうえで、2026年度診療報酬改定と政府の2030年目標は無視できません。
ただし、「制度が変わった=今すぐ電子カルテを導入しなければならない」と単純に考えないことが重要です。
2026年改定で電子的診療情報連携体制整備加算が新設された
2026年度診療報酬改定では、医療DX関連施策の進展を踏まえ、新たに「電子的診療情報連携体制整備加算」が設けられました。
医科では初診時について加算1が15点、加算2が9点、加算3が4点、歯科では「電子的歯科診療情報連携体制整備加算」として加算1が9点、加算2が4点となっています。再診時の評価も設けられています。
ただし、この数字だけを見て「電子カルテを入れれば加算が取れる」と判断するのは適切ではありません。
たとえば医科の電子的診療情報連携体制整備加算では、オンライン資格確認、マイナ保険証利用率、マイナポータルの医療情報に基づく健康管理相談への対応、院内やWebサイトでの掲示など複数の施設基準が設定されています。区分によって電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスなどへの対応も関係します。
また、2026年6月1日以降に新しい加算を算定する場合、従来の医療DX推進体制整備加算の届出をしていた医療機関でも、改めて届出が必要になるケースが示されています。
つまり、見るべきなのは電子カルテという製品一つではなく、医院全体として医療DXの要件にどう対応するかです。
2030年をめどに電子カルテ普及率約100%が目標
一方で、長期的に見れば電子化へ向かう方向は明確です。
厚生労働省は、2030年をめどに電子カルテ普及率約100%を目指す方針を示しています。2026年6月のワーキンググループでも、2030年の目標に向けて電子カルテ普及を進める方針が改めて説明されています。
そのため、「紙カルテを永久に使い続ける前提」で業務を作るより、いずれ電子化することを想定して、今のうちからデータを整理しておく方が現実的です。
ただし、2030年という方向性が示されていることと、2026年の今すぐ特定の電子カルテ製品を契約しなければならないことは別問題です。
加算があるかより「自院で回収できるか」を見る
小規模クリニックの場合、重要なのは「加算が新設された」というニュースそのものではありません。
実際に自院でどの区分を算定できるのか、そのために必要なシステムや環境整備はいくらかかるのか、毎月の利用料はいくらなのか、スタッフ教育にはどれくらい時間がかかるのかまで含めて考える必要があります。
たとえば年間で得られる加算による収入より、システム費用や連携費用、端末更新、スタッフの入力時間などの負担が大きければ、「加算があるから」という理由だけでは投資判断になりません。
反対に、受付や診療で毎日大きな二重入力が発生しており、業務削減まで含めれば十分に投資効果が出る医院もあります。
したがって判断するときは、次のように考えます。
| 確認するもの | 見る内容 |
|---|---|
| 診療報酬 | 自院が実際に満たせる施設基準と算定可能件数 |
| システム費用 | 導入費、月額費、連携費、保守費 |
| 人件費 | 転記、検索、集計、文書作成に現在何時間使っているか |
| 教育負担 | 医師・歯科医師・受付・衛生士等が操作を覚える時間 |
| 将来性 | 電子カルテ情報共有サービス等への対応予定 |
| 更新時期 | 現在のレセコン、PC、周辺設備をいつ更新するか |
「加算を取りたいから電子カルテを買う」ではなく、医院全体の仕事と費用を見て判断することが重要です。
電子カルテを入れる前でもAIで減らせる仕事はある

電子カルテ未導入だからAIを使えない、ということはありません。
AIが得意なのは、電子カルテそのものを置き換えることより、人が読んで、整理して、転記して、文章にしている部分を補助することです。
特に紙カルテ+Excelで運用している医院では、「システムとシステムの間」ではなく「紙とExcelの間」に人の手作業が残っています。
ここから減らしていきます。
紙問診を「写真→AIで整理→Excel台帳」へつなぐ
たとえば患者が紙の問診票を記入した後、受付スタッフが必要な項目をExcelの管理表へ入力している医院を考えてみます。
現在は、紙を見ながら氏名、来院日、連絡方法、希望内容などを人が打ち直しています。
この作業では、医療判断ではなく「紙に書いてある情報を別の場所へ移す」という作業に時間を使っています。
そこでAIを使います。
| 工程 | 実際の作業 |
|---|---|
| トリガー | 患者が紙問診を記入する |
| AIに渡す | 必要な情報を読み取り、決めた項目順に整理させる |
| 反映先 | Excelやスプレッドシート等の管理台帳 |
| 人が確認 | 氏名、日付、数値、選択項目などを原本と照合 |
| 注意点 | 患者情報を扱える環境・契約・院内ルールを確認する |
ここで大切なのは、AIに診断させることではありません。
「書いてある内容を整理する」という限定された仕事だけを任せます。
さらに、人が最後に紙と照合する工程を残します。
こうするとAIはスタッフの代わりに判断する存在ではなく、転記前の下ごしらえをするアシスタントになります。
患者情報を生成AIへ入力する際には、利用するサービスの契約条件やデータ利用条件、医療機関としての安全管理ルールを確認する必要があります。本記事では詳細には踏み込まず、患者情報と生成AIの扱いについては別記事で整理します。
日次売上や患者数の集計をAIに下書きさせる
電子カルテがなくても、会計システムやレセコンから数字を確認し、Excelで売上を管理している医院は多いでしょう。
問題は、数字が存在しないことではありません。
「毎日誰かがコピーする」「月末に集め直す」「院長が見たい形式へ作り直す」といった作業が残っていることです。
この場合も、AIを使う場所は数字の最終確定ではなく整理です。
| 工程 | 実際の作業 |
|---|---|
| トリガー | 診療終了後や月末 |
| AIに渡す | CSVやExcelに入った集計用データ |
| 反映先 | 日報、週報、月次管理表 |
| 人が確認 | 元データとの合計一致、異常値、未入力 |
| 注意点 | AIが出した計算結果をそのまま確定値にしない |
たとえば「今日の患者数」「保険診療と自費診療の構成」「前週との差」といった、院長が毎回確認している数字を同じ形式でまとめることができます。
スタッフが毎回一から表を作るより、決めた形式へ整える作業をAIへ渡す方が効率的です。
▶ 関連記事:クリニックの売上集計をスプレッドシートで自動化|レセコンCSVからAIで転記をなくす方法
紹介文や案内文はゼロから書かない
小規模医院では、受付や事務スタッフが文章作成も担当していることがあります。
患者への案内文、休診のお知らせ、検査前後の一般的な案内、院内掲示、スタッフ向けの連絡文などです。
こうした文書は、毎回完全に違うものを作っているわけではありません。
「前回の文章を探す」「日付を変える」「表現を整える」という時間が積み重なっています。
AIを使えば、文章をゼロから考える部分を減らせます。
| 工程 | 実際の作業 |
|---|---|
| トリガー | 患者向け・院内向け文書が必要になる |
| AIに渡す | 文書の目的、伝える事項、医院の文体 |
| 反映先 | Word、院内掲示、メール等 |
| 人が確認 | 医療内容、日時、料金、誤解を招く表現 |
| 注意点 | 医療上の説明や最終判断は必ず人が確認する |
特に患者向け文書は、「専門用語を患者に分かる表現へ整える」「長すぎる文章を短くする」といった使い方と相性があります。
ただし、AIが作った文章をそのまま患者へ渡すのではなく、医師・歯科医師または担当者が内容を確認する工程は残します。
先にExcelを整えると電子カルテ移行で困りにくい
AI活用でもう一つ重要なのが、データを整理することです。
実はこの作業は、将来電子カルテへ移行するときの準備にもなります。
紙カルテから電子カルテへ変えるときに困るのは、「紙だから」だけではありません。
同じ患者について、予約表では一つの番号、Excelでは別の番号、リコール管理では名前だけ、といった状態になっていることの方が問題です。
患者IDを一つの軸にする
最初に確認したいのは患者を識別する番号です。
たとえば次のような状態では、将来データをまとめるときに人の確認が必要になります。
| 管理場所 | 現在の状態 |
|---|---|
| 紙カルテ | カルテ番号あり |
| 予約表 | 氏名のみ |
| Excel管理 | 独自番号 |
| リコール表 | 氏名+電話番号 |
| 自費管理 | 別の顧客番号 |
この状態を一気にシステム統合する必要はありません。
まず、「医院内で患者をひも付けるときは何を基準にするのか」を決めます。
既存のカルテ番号を使うのか、別の患者IDを基準にするのかは医院によって異なりますが、同じ患者を複数の呼び方で管理しないことが重要です。
項目名を揃える
次にExcelを見ると、同じ意味の情報なのに項目名が違うことがあります。
一つの表では「電話」、別の表では「TEL」、別の表では「連絡先」となっていれば、人には理解できてもコンピューターから見ると別の項目です。
同様に、「最終来院日」「最終受診」「前回来院」などが混在していることもあります。
AIに集計させる場合も、将来電子カルテや別システムへデータを移す場合も、項目名が統一されている方が扱いやすくなります。
そこで、現在使っているExcelを一度並べて、同じ情報を表す列名を統一します。
自由記述を必要以上に増やさない
スタッフごとに書き方が違う自由記述も、将来の集計を難しくします。
たとえば予約経路について、「電話」「TEL」「電話予約」「お電話」と入力されていれば、人には全部同じだと分かります。
しかし月別の予約経路を集計するときには、毎回まとめ直さなければなりません。
選択できる項目は選択式にし、自由記述が必要な部分だけ文章で残す形にすると、AIでの集計も電子カルテへの移行も楽になります。
ここで重要なのは、AI導入を電子カルテの代わりと考えないことです。
AIで現在の業務とデータを整理することが、将来の電子カルテ導入準備になる。
これが電子カルテ未導入医院で「AIを先に使う」大きな意味です。
電子カルテを今入れるか判断する3つの基準

では、紙+Excel+AIで改善を始めたうえで、電子カルテを今導入するかどうかは何で判断すればよいのでしょうか。
製品のランキングを見る前に、少なくとも「費用対効果」「スタッフの入力負担」「導入時期と支援制度」の3方向から確認します。
加算だけでなく業務削減まで含めて回収できるか
まず数字で考えます。
電子カルテ導入の効果を「新しい加算が取れるかどうか」だけで計算すると判断を誤りやすくなります。
見るべきなのは、電子カルテによって削減できる業務時間まで含めた費用対効果です。
たとえば、毎日60分の転記作業が発生している医院と、紙カルテでも特に二重入力が発生していない医院では、同じ電子カルテを導入しても投資効果は違います。
| 確認項目 | 自院で確認する内容 |
|---|---|
| 導入費 | 初期設定、データ移行、端末等 |
| 維持費 | 月額・保守・連携サービス |
| 診療報酬 | 実際に満たせる施設基準と算定件数 |
| 削減時間 | 転記、検索、集計、書類作成 |
| 更新費用 | PCや既存レセコン等の更新時期 |
| 教育時間 | 院長・スタッフの研修時間 |
この表を埋めて初めて、「今入れた方がよいのか」が見えてきます。
スタッフの入力負担が本当に減るか
電子カルテを導入する目的が業務効率化なのに、受付やスタッフの入力が増えれば本末転倒です。
特に小規模医院では、一人の受付担当者が多くの業務を兼務しています。
新システム導入時に考えるべきなのは「機能数」より、日常業務の流れです。
患者が来院してから会計するまでに、同じ情報を何回入力するのか。予約変更があったとき、どこを書き換えるのか。電話で情報を受けたとき、紙にメモしてから再入力するのか。レセコン、予約管理、Excelとの間で手入力が残るのか。
こうした業務の流れを確認します。
紙カルテから電子カルテへ変えただけで、その周囲のExcelや予約管理がそのままなら、「電子カルテ+Excel」という新しい二重管理が生まれることもあります。
そのため導入前に、現在の仕事を「トリガー → 入力先 → 次の反映先 → 最終確認」の流れで書き出すことが有効です。
補助制度は「使えるなら検討する」という位置付けにする
電子カルテやITツールの導入では、国や自治体等の支援制度が利用できる場合があります。
ただし、補助制度は年度によって対象経費、対象製品、補助率、申請条件などが変わります。
「電子カルテなら何でも補助対象になる」「AIなら補助金が出る」とは限りません。
また、制度によっては申請や交付決定より前に契約・発注・支払いをすると対象外になる場合があります。
したがって、補助制度を前提に製品を決めるのではなく、まず自院に必要な業務改善を決め、そのうえで利用できる制度があるか確認する順番が安全です。
最新の公募要領、対象経費、対象ツール、申請時期、契約時期については、実際に申請する時点の公式情報を確認してください。
▶ 関連記事:デジタル化・AI導入補助金とは?対象者や補助額、申請の流れを解説
標準型電子カルテを待つか、既存製品を選ぶか
2026年現在、電子カルテ未導入医院にとってもう一つ迷いやすいのが、「国が進める標準型電子カルテを待った方がよいのではないか」という問題です。
結論からいえば、すべての医院に共通する答えはありません。
待つか、既存製品を検討するかは、自院の更新時期と現在の困りごとによって判断します。
医科無床診療所向けの標準型電子カルテは2026年度中完成を目指して開発中
厚生労働省とデジタル庁は、医科無床診療所向けのクラウドネイティブな標準型電子カルテを開発しています。
その中でも、国の医療DX対応機能に絞った「導入版」は2026年度中の完成を目指して開発が進められています。厚生労働省は、電子カルテ情報共有サービスを利用する医療機関からの診療情報提供書や検査データの閲覧、電子処方箋の発行などにつなげる構想を示しています。
2026年6月のワーキンググループでも、今年度中の完成を目指し、その後の普及を進める考えが説明されています。
ただし、ここで対象として示されているのは医科無床診療所向けです。
歯科医院が「2026年度中に同じ標準型電子カルテが完成する」と受け取らないよう注意が必要です。
また、「完成予定」であることと、「現在市販されている電子カルテと全く同じ機能を持つこと」も別の話です。
待つかどうかは現在の困り方で判断する
判断するときは、次のような軸で考えます。
| 判断軸 | 確認すること |
|---|---|
| 現在の負担 | 紙カルテが原因で診療や受付に大きな支障が出ているか |
| システム更新 | レセコンやPCの入れ替え時期が近いか |
| 必要機能 | 予約、画像、検査、会計などとの連携がどこまで必要か |
| 費用 | 初期費だけでなく移行・保守・教育費まで許容できるか |
| 医療DX | 電子処方箋や情報共有等へいつ対応したいか |
| 時期 | 2026年度以降の制度・製品情報が具体化するまで待てるか |
たとえば、現在の紙カルテ運用に大きな問題がなく、既存システムの更新時期もまだ先であれば、標準型電子カルテや認証制度などの情報を確認しながら、その間にExcel整備とAI活用を進める選択肢があります。
一方で、毎日大量の転記があり、カルテ検索に時間がかかり、情報共有にも支障が出ているのであれば、「標準型が出るまで何もしない」ことにもコストがあります。
重要なのは、国の予定だけで導入時期を決めず、自院で毎日発生している負担と一緒に考えることです。
AIに任せるところと人が確認するところを分ける
紙カルテ+AIで業務を改善するとき、最初に決めておきたいのがAIの担当範囲です。
AIに向いている仕事と、人が最終確認すべき仕事を混ぜないことが重要です。
AIに任せやすいのは「読む・整える・下書き・集計」
小規模医院でAIを使いやすいのは、答えを最終決定する仕事ではなく、その前段階です。
| AIへ渡しやすい仕事 | 人が行う仕事 |
|---|---|
| 紙や文章から項目を抜き出す | 原本との照合 |
| 情報を決めた形式へ並べる | 患者情報の最終確定 |
| 文書の下書きを作る | 医療内容の確認 |
| CSV・Excelを集計する | 集計結果と元データの照合 |
| 長文を読みやすく整理する | 患者へ伝える内容の確定 |
この分担にすると、AIを「診療をする機械」ではなく、「スタッフの事務作業を手伝う道具」として導入できます。
最終的な医療判断や確定情報は人が確認する
AIは、入力内容を読み違えたり、存在しない内容を補ったり、もっともらしい誤りを出す可能性があります。
特に医療では、小さな誤りでも患者への影響が大きくなります。
氏名、生年月日、薬剤名、検査値、診療内容、料金、予約日時など重要な情報は、必ず原本や正式なシステムと照合する運用にします。
AIの出力をそのまま確定データとして扱うのではなく、AIが下書きし、人が確定するという役割分担を基本にします。
紙カルテや問診票の写真を渡す前にルールを決める
AIへ紙問診やカルテ画像を渡す場合、患者情報の扱いには特に注意が必要です。
個人向けの生成AIへ無条件に患者情報を入力するのではなく、契約条件、入力データの扱い、保存・学習の設定、アクセス管理などを確認したうえで、医院として利用ルールを決める必要があります。
患者情報をAIへ入力する具体的な線引きについては、それだけで重要なテーマになるため、別記事で詳しく解説します。
▶ 関連記事:生成AIに入力してはいけない情報10種類|企業向けチェックリスト
電子カルテ未導入クリニックは「電子カルテ選び」より先に業務を整える
電子カルテ未導入だからといって、何もできないわけではありません。
むしろ、まだ電子カルテを入れていない段階だからこそ、先に整理できることがあります。
順番を整理すると、次のようになります。
| 段階 | やること |
|---|---|
| 現状確認 | 紙、Excel、レセコンの間で人が転記している場所を探す |
| AI活用 | 読み取り、整理、文書下書き、集計から減らす |
| データ整理 | 患者ID、項目名、日付形式、選択項目を統一する |
| 導入判断 | 加算、費用、人件費、更新時期を比較する |
| 電子カルテ選定 | 自院の業務フローに必要な機能を確認する |
電子カルテ選びから始めると、「機能が多い製品」「有名な製品」「補助金が使えそうな製品」に目が向きがちです。
しかし、本来先に決めるべきなのは「どの仕事をなくしたいのか」です。
紙問診を毎日Excelへ転記しているなら、そこから減らす。
院長が月末に何時間もかけて数字をまとめているなら、集計から減らす。
患者向け文書を毎回一から作っているなら、下書きからAIへ渡す。
そうして業務を整理すると、「電子カルテに絶対必要な機能」と「AIや既存Excelで十分な仕事」が分かれてきます。
その状態で電子カルテを選んだ方が、導入後に「こんなはずではなかった」となる可能性を減らせます。
2026年改定によって医療DXへの流れはさらに明確になり、2030年をめどに電子カルテ普及率約100%という方向も示されています。
だからこそ、紙カルテを続けるか電子カルテへ移るかという二択だけで考える必要はありません。
紙カルテ+Excelの現在地から、まずAIで手作業を減らし、データを整え、そのうえで電子カルテへ移行する。
小規模クリニック・歯科医院では、この順番も現実的なDXの進め方です。
FAQ
電子カルテがなくてもクリニックでAIを使えますか?
使える業務はあります。特に、紙の内容を決めた形式へ整理する、文書の下書きを作る、ExcelやCSVを集計するといった事務作業では、電子カルテがなくてもAIを活用できます。
一方、診療判断や正式な診療記録の確定をAIだけに任せるのではなく、最終確認は医師・歯科医師や担当者が行う運用が必要です。
2026年診療報酬改定で電子カルテの導入は必須になりましたか?
2026年度改定では電子的診療情報連携体制整備加算など医療DXを評価する仕組みが新設されましたが、「電子カルテを購入すればすべての医院が自動的に加算を算定できる」という制度ではありません。施設基準や必要な体制を確認する必要があります。
政府が2030年をめどに電子カルテ普及率約100%を目指していることも踏まえ、将来の電子化を想定して準備を進めることは重要ですが、導入時期は自院の設備更新や業務負担、費用対効果を含めて判断します。
標準型電子カルテが完成するまで待った方がよいですか?
一律には判断できません。2026年9月時点では、医科無床診療所向けの標準型電子カルテ(導入版)が2026年度中の完成を目指して開発されています。
現在の紙カルテ運用で大きな支障がなく、設備更新にも余裕がある医院なら今後の情報を確認しながら待つ選択肢があります。一方、転記や検索などで毎日大きな業務負担が発生している場合は、既存の選択肢を含めて早めに検討する価値があります。
紙カルテや問診票の写真をAIに入れても大丈夫ですか?
患者情報を含む画像を生成AIへ入力する場合は、利用するAIサービスの契約条件、入力データの利用・保存条件、アクセス管理、医院内の情報管理ルールなどを確認する必要があります。
個人情報を含むデータを無条件に一般向けAIへ入力する運用は避け、どの情報をどの環境で扱えるかを事前に決めてください。詳しい線引きは患者情報と生成AIの扱いを解説する別記事で扱います。
まとめ|電子カルテを入れる前に「人が入力している仕事」を減らす
電子カルテ未導入のクリニック・歯科医院でも、AIで始められる業務改善はあります。
紙問診からExcelへの転記、日次・月次の集計、院内文書や患者向け文書の下書きなどは、電子カルテを導入する前でも見直せます。
さらに患者ID、Excelの項目名、入力形式を揃えておけば、その作業自体が将来の電子カルテ移行準備になります。
2026年度診療報酬改定では医療DXに関する新たな評価が設けられ、2030年に向けて電子カルテ普及を進める方向性も明確になっています。だからといって、加算だけを理由に電子カルテを急いで導入する必要があるとは限りません。
まず確認したいのは、今の医院で人が毎日どこに時間を使っているかです。
AIで先に減らせる仕事を減らし、データを整え、それでも残る課題を電子カルテで解決する。
この順番なら、「電子カルテを入れること」が目的になるのではなく、「受付・診療・事務の仕事を減らすための電子カルテ導入」にできます。
AIは導入して終わりではありません。現在の紙カルテ、Excel、予約、受付業務を確認し、どの仕事からAIへ渡せるのか、将来の電子カルテ移行も考えながら整理・運用まで伴走します。
参考情報
厚生労働省「医療等情報の利活用に係る検討状況」等(2026年3月・6月のワーキンググループ資料)
厚生労働省「令和8年度診療報酬改定」関連資料
厚生労働省「標準型電子カルテ」関連資料
関東信越厚生局「令和8年度診療報酬改定に係る届出」関連情報
