この記事の結論
司法書士事務所の問い合わせ自動化のゴールは、電話の本数を減らすことではありません。
目指すのは「面談が始まる時点で、必要な事項がすでに揃っている状態」を作ることです。
相続相談の初回ヒアリングをLINEで受けると、被相続人・不動産・相続人数・期限という4つの軸が事前に埋まり、面談の最初の20分が丸ごと空きます。
相談者への回答は人が行い、その手前の「聞き取り」と「案内」だけを仕組みに移すのが、士業事務所で失敗しない設計です。
行政ルートや高齢の相談者は電話のまま残し、同じヒアリング項目を紙のシートで運用します。
結論:電話をなくすのではなく「面談前に必要事項が揃った状態」を作る
司法書士事務所から「問い合わせ対応を自動化したい」というご相談をいただくとき、最初にお聞きするのは「電話を減らしたいのか、電話の中身を変えたいのか」です。この2つは似ているようで、設計がまったく変わります。前者を目指すと、電話番号を目立たない場所に移したり、自動応答で用件を分岐させたりする方向に進みます。ところが司法書士事務所の場合、これをやると受任につながる相談まで一緒に落ちます。相続の相談者は、初めて士業に電話をかける人がほとんどです。機械的な応答に当たった時点で「ここは違うかもしれない」と判断し、次の事務所に電話をかけ直します。

減らすべきは「電話の本数」ではなく「電話の中で聞いている内容」
実際に事務所の電話を1週間分だけ書き出してみると、通話時間の大半が「事実の聞き取り」に使われていることが分かります。いつ亡くなったのか、不動産はどこにあるのか、相続人は何人か、納税通知書は手元にあるか。これらは司法書士でなくても聞ける内容ですし、そもそも電話口で聞くと相談者が手元の書類を探しに行くため、無言の時間が発生します。この「聞き取り」の部分だけを面談前に移すのが、問い合わせ自動化の実体です。電話は鳴ってよいのです。ただし電話に出たときに、相手の状況がすでに分かっている状態にしておく。それが目標です。
自動化の対象は「一次受け」と「案内」だけに絞る
司法書士事務所で仕組みに任せてよいのは、おおむね3つです。相談者から事実を聞き取る一次受け、案件種別に応じた必要書類の案内、そして節目ごとの進捗連絡です。逆に、相続人の範囲についての見解、登記の可否判断、費用の確定、相続人間で意見が割れている案件への対応は、どれだけ仕組みを整えても人が出るべき領域です。ここを混ぜてしまうと、後で「あのときLINEでこう言われた」というトラブルの種になります。自動化の設計とは、実は「どこで人に切り替えるか」を決める作業だと考えてください。
相談者には人が対応する、という前提を崩さない
士業の問い合わせ対応は、一般的なEC事業者のチャットボットとは前提が違います。相談者は「答え」を求めているのではなく「この人に任せて大丈夫か」を確かめに来ています。ですから、事前ヒアリングの入口では必ず「後ほど担当者からご連絡します」と明示し、回答自体は人が返す設計にします。事務所によっては、ヒアリングの回答が届いた時点で補助者が短い一文を手打ちで返しているところもあります。定型文の直後に一行だけ人の言葉が入るだけで、相談者の受け止め方はかなり変わります。
相続登記義務化で、事務所の電話はどう変わったか
相続登記の申請義務化は2024年4月1日に施行され、施行前に発生していた相続についても2027年3月末までに申請することとされました。この2つの日付が、司法書士事務所の電話の中身を変えました。増えたのは「相談」ではなく「確認」です。
「うちは対象になりますか」という電話が増えた
新聞やテレビ、自治体の広報で義務化が取り上げられるたびに、事務所の電話が鳴ります。ところが内容の多くは「父が20年前に亡くなったが、家の名義がそのままかもしれない」「登記済権利証は見つかったが、これで足りるのか」といった、まだ受任前どころか事実確認以前の段階の話です。この段階の電話は1件あたり10分から20分かかることが多く、しかもその場では結論が出ません。結局「一度お越しください」となり、面談で同じ話をもう一度聞くことになります。
電話が集中する時間帯に、事務所の手が止まる
多くの事務所で電話が集中するのは、午前10時前後と午後2時から4時にかけてです。ちょうど法務局への提出物の準備や、戸籍の読み込みを進めたい時間帯と重なります。戸籍の読解は集中を要する作業で、途中で中断すると最初から追い直しになることも珍しくありません。電話1本の実害は5分ではなく、そのあとの15分を含めた20分と考えたほうが実態に近いという声を、複数の事務所で聞いています。
一度、電話の中身を数えてみる
自動化の検討は、機能の比較からではなく「自分の事務所の電話を数える」ことから始めるのが確実です。1週間、電話に出た人が種別と所要時間だけをメモします。項目は4つで足ります。以下は、所員3名前後の事務所でよく見られる分布の例です。数字はあくまで目安ですが、自分の事務所で同じ表を埋めてみると、どこを仕組みに移すべきかが一目で分かります。
| 電話の種別 | 週あたりの目安 | 1件の所要時間 | 仕組みに移せるか |
|---|---|---|---|
| 新規の相続相談(受任前) | 5〜12件 | 10〜20分 | 聞き取り部分のみ移せる。判断は人 |
| 受任中案件の進捗確認 | 8〜20件 | 3〜8分 | 節目の自動連絡でほぼ消える |
| 書類の書き方・郵送の確認 | 5〜15件 | 5〜10分 | 案件種別ごとの案内文で大幅に減る |
| 営業・他士業・法務局・金融機関 | 5〜15件 | 2〜10分 | 移せない。ただし取次のルールは決められる |
問い合わせを4種類に仕分けてから設計する
問い合わせ対応の自動化がうまくいかない事務所には、共通点があります。すべての問い合わせを1つの窓口で受けようとしていることです。相続の新規相談と、受任中の案件の「書類はまだ届きませんか」という電話は、必要な対応がまったく違います。まず4種類に分けて、それぞれ別の導線を用意します。
①新規の相続相談:事前ヒアリングが最も効く領域
ここが本記事の中心です。相談者はまだ事務所を選んでいる段階なので、レスポンスの速さがそのまま受任率に直結します。一方で、聞くべき事項はほぼ定型です。被相続人、不動産、相続人、期限。この4軸が埋まれば、面談の設計ができます。
②受任中案件の進捗確認:連絡の空白が原因
「先月書類を送ったが、その後どうなっているか」という電話は、事務所側が悪いわけではなく、単に連絡の空白期間が長いだけです。戸籍の取り寄せに3週間かかることは事務所にとって当たり前でも、依頼者にとっては何も起きていない3週間です。節目で一言入れる仕組みがあると、この種の電話はかなり減ります。
③書類の書き方・郵送の確認:案内文の精度の問題
「印鑑証明書は何通いるのか」「実印はどこに押すのか」「返送用の封筒はどれか」。この種の質問が多い事務所は、案内文が汎用的すぎることがほとんどです。全案件共通の書類一覧を渡すのではなく、その依頼者が実際に用意する分だけを列挙した案内に変えると、問い合わせは目に見えて減ります。
④営業電話・他士業・法務局:仕組みではなくルールで対処する
これは自動化の対象外です。ただし「営業電話は担当者名がない時点で折り返し不要」「法務局からの補正連絡は担当司法書士に即つなぐ」といった取次ルールを紙1枚にしておくと、新人補助者の判断が揃います。仕組み化ではなく運用の整理です。
| 問い合わせの種類 | 一次受けの方法 | 面談・対応前に揃えたい情報 | 人が出るタイミング |
|---|---|---|---|
| 新規の相続相談 | LINEの事前ヒアリング+電話 | 被相続人・不動産の所在・相続人数・希望期限 | 回答が届いた当日中に一言返信 |
| 新規の商業登記・会社関係 | LINEまたはメールの簡易フォーム | 会社名・登記の種類・期限(就任日等) | 登記の種類が判明した時点 |
| 受任中の進捗確認 | 節目の自動連絡で先回り | 案件番号・現在の工程・次の予定日 | 予定より遅れが出たとき |
| 書類の書き方・郵送 | 依頼者別の案内文+LINEで質問受付 | その依頼者の必要書類リスト | 書類に不備が想定されるとき |
LINEで受ける事前ヒアリング項目:そのまま使える質問文
ここからが実務の中心です。事前ヒアリングの設計でつまずく事務所の多くは、面談で聞いていることをそのまま質問に移そうとします。それでは質問数が20を超え、相談者は途中で離脱します。考え方を逆にしてください。面談で聞かなくても済むようにする質問だけを残すのです。言い換えると、「面談の冒頭20分を消すための質問」だけを選びます。
質問文をそのまま使えるように整理した一覧
以下は、相続登記の新規相談を想定した質問文です。文言はそのまま流用できるように、相談者に向けた話し言葉で書いています。「聞く理由」は事務所側の目的、「面談前に分かると何が変わるか」は、その回答が届いた時点で事務所の動きがどう変わるかを示しています。この3列目が埋まらない質問は、聞く必要がありません。追加したい項目が出てきたときは、3列目を書けるかどうかで判断してください。
| 質問文(そのまま使えます) | 聞く理由 | 面談前に分かると何が変わるか |
|---|---|---|
| 今回のご相談は、亡くなった方の不動産の名義変更(相続登記)についてでよろしいでしょうか。生前のご準備や会社のご登記など、別のご相談であれば教えてください。 | 相談の種別を最初に切り分けるため | 担当者と面談時間の枠が変わる。相続以外なら別の準備資料を用意して臨める |
| お亡くなりになった方は、いつ頃お亡くなりになりましたか。西暦・和暦どちらでも、「◯年頃」でも構いません。 | 相続登記義務化の対象期間と、戸籍の取得範囲を見積もるため | 2024年4月1日より前か後かで説明の組み立てが変わる。古い相続なら数次相続の可能性を先に想定できる |
| お亡くなりになった方から見て、ご相談者さまはどのようなご関係でしょうか(配偶者・お子さま・お孫さま・ご兄弟など)。 | 相続人としての立場と、聞き取り相手の権限を確認するため | 相談者自身が相続人か、代理で動いているかが分かる。委任状の準備の要否を先に判断できる |
| 相続人になる方は、ご相談者さまを含めて何名くらいいらっしゃいますか。正確でなくて構いません。 | 戸籍収集の分量と、遺産分割協議の難易度を見積もるため | 費用と期間の概算幅を面談時に提示できる。人数が多ければ最初から一覧図の話をしておける |
| 相続人になるはずの方の中に、すでにお亡くなりになった方はいらっしゃいますか。 | 数次相続・代襲相続の有無を早期に把握するため | 戸籍の追跡範囲が跳ね上がる案件かどうかが事前に分かり、見積の幅と工期の説明を準備できる |
| 相続人の方々とは、いま連絡が取れる状態でしょうか。(全員と取れる/一部取れない/分からない) | 協議の実現可能性と、所在調査の必要性を見るため | 連絡が取れない相続人がいる場合、面談で先に手続きの選択肢を説明できる |
| 対象の不動産は、どちらの市区町村にありますか。番地までは不要です。複数ある場合は分かる範囲で結構です。 | 管轄法務局と、他管轄をまたぐかを確認するため | 管轄が分かれば申請の本数と実費の見込みが立つ。遠方の管轄なら郵送申請の説明を用意できる |
| 不動産の数はいくつくらいでしょうか(土地・建物の合計)。分からなければ「不明」で構いません。 | 登録免許税と調査対象の筆数を見積もるため | 私道の持分や未登記建物が絡む可能性を面談前に想定でき、追加調査の説明を先に組み込める |
| 固定資産税の納税通知書(毎年春に市区町村から届く書類)は、お手元にありますか。 | 対象不動産の特定と評価額の把握を早めるため | あれば面談当日に持参をお願いでき、その場で概算費用を出せる。なければ名寄帳の取得から説明する |
| 遺言書はありますか。(ある/ない/分からない/これから探す) | 遺産分割協議が必要な案件かどうかを切り分けるため | 遺言がある場合は検認の要否や内容確認の段取りを先に説明でき、面談の論点が変わる |
| 相続人の間で、遺産の分け方についてのお話は進んでいますか。(おおむね決まっている/これから話す/意見が分かれている) | 協議書作成の難易度と、事務所が関与できる範囲を見るため | 意見が分かれている場合は、司法書士の立場でできること・できないことを面談冒頭で説明する準備ができる |
| この名義変更について、いつ頃までに終えたいというご希望はありますか。 | 期限の有無と優先順位を確認するため | 売却や融資の予定がある案件を取りこぼさない。所内の着手順を決められる |
| 不動産を売却されるご予定、または賃貸に出すご予定はありますか。 | 後続手続きの有無と、他士業・不動産会社との連携を見るため | 売却前提なら日程が逆算になる。必要書類の案内内容も変わる |
| この件について、すでにご相談された先はありますか。(銀行・税理士・他の司法書士・市区町村の相談会など) | 相談の経過と、既に取得済みの書類を把握するため | 取得済みの戸籍があれば二重取得を防げる。他士業が関与していれば連絡の順序を先に決められる |
| 当事務所は、どちらでお知りになりましたか。(ご紹介/市区町村の相談会/インターネット検索/その他) | 紹介元への配慮と、経路ごとの説明の仕方を変えるため | 紹介案件なら紹介者への報告の要否を先に確認できる。経路別の受任率も蓄積できる |
| ご来所と、お電話・オンラインでの面談のどちらをご希望ですか。ご希望の曜日・時間帯もあわせて教えてください。 | 面談方法と日程調整の往復を減らすため | 候補日提示が1回で済む。来所困難な事情があれば出張面談の判断も早くなる |
| 日中のご連絡は、LINE・お電話・メールのどれが確実でしょうか。お電話の場合、つながりやすい時間帯も教えてください。 | 以降の連絡手段を固定し、不在の往復をなくすため | 折り返しの空振りが減る。高齢のご本人か、ご家族が窓口かも判別できる |
| お呼びするお名前だけ教えてください。フルネームでなくても構いません。 | やり取りの人格を保ちつつ、初回で機微情報を集めすぎないため | 初回返信を名前付きで返せる。本人確認は面談時に正式に行う前提を崩さない |
全部を一度に聞かない。7〜10問で一区切りにする
上の表は18項目ありますが、最初のやり取りで全部を聞くわけではありません。実務では、相談種別・死亡時期・相談者の関係・相続人数・不動産の所在・納税通知書の有無・希望連絡方法の7項目までを第1段階とし、残りは面談日程を決めたあとの第2段階、あるいは面談の場で聞きます。相談者は最初のやり取りで離脱しやすく、質問が10を超えると途中で止まる割合が上がるためです。第1段階は3分以内で終わる分量にしてください。
迷ったら選択式です。「相続人は何名ですか」を自由記述にすると「たぶん4人か5人」と返ってきますが、選択式で「1〜2名/3〜5名/6名以上/分からない」とすれば、相談者も答えやすく、事務所側も集計できます。ただし「いつ頃お亡くなりになりましたか」だけは自由記述を推奨します。「10年以上前」という選択肢だと、数次相続の判断に必要な年の情報が落ちるからです。
この段階で聞かない方がよいこと
被相続人のフルネーム、本籍地、生年月日、不動産の地番、相続人全員の氏名。これらは面談前の段階では不要です。必要になるのは受任後であり、初回接触の時点で集めると、保管と削除の管理義務だけが増えます。相続人間の対立の詳細、他の相続人への不満、金銭に関する事情も、この段階では聞かないでください。文字で残ると、後で当事者間の資料として使われるおそれがあります。生成AIを使って回答を要約・整理する運用を検討している場合は、どの情報を入れてよいかの線引きを先に決めておく必要があります。判断基準は司法書士がChatGPTに戸籍・登記情報を入れてよいかで整理しています。
注意
事前ヒアリングは「相談」ではなく「聞き取り」です。回答に対して手続きの見通しや費用を確定的に返さないでください。
「いただいた内容では◯◯の可能性がありますので、面談で確認させてください」という形にとどめ、判断は面談の場で司法書士が行う建て付けを守ります。
回答が届いたあと、24時間以内に人の言葉を1行返す
ヒアリングの回答が届いたら、自動の受付完了通知とは別に、担当者から1行だけ手打ちで返します。「◯◯様、ご回答ありがとうございます。お父さまが平成のご相続とのことですので、戸籍の範囲を確認したうえで面談時にご説明します」といった内容です。事務所によっては、この一言があるかどうかで面談の来所率が変わったという話を聞きます。仕組みで速く、人で温かく、という役割分担です。
ヒアリング結果を、面談前にどう使うか
事前ヒアリングを入れても、回答が担当者のスマートフォンに溜まるだけでは意味がありません。回答が「面談の準備物」に変換されて初めて効果が出ます。ここが実務の分かれ目です。
面談の前日までに、A4一枚の案件シートを作る
回答内容を、相談種別・死亡時期・推定相続人の構成・不動産の管轄・期限・想定される論点の6項目に整理してA4一枚にします。この整理は定型作業なので、生成AIに下書きさせている事務所もあります。ただし、被相続人の氏名や本籍は入れず、イニシャルや「被相続人(父)」といった表記に置き換えたうえで扱ってください。シートの最後には「面談で必ず確認すること」を3つだけ書きます。多くの場合、遺言書の有無、相続人全員の意向、納税通知書の実物確認の3点です。
必要書類の案内を、その相談者専用に組み替える
「相続登記に必要な書類一覧」を全員に配ると、その半分は自分に関係のない項目です。関係のない行があると、人は全体を読み飛ばします。相続人数と遺言の有無が事前に分かっていれば、案内は3パターン程度に絞れます。遺言がある場合、法定相続分で登記する場合、遺産分割協議による場合。この3つを用意しておき、ヒアリング結果に応じて出し分けるだけで、書類に関する問い合わせは目に見えて減ります。
面談の冒頭で、費用の幅を口頭で示せる
不動産の所在市区町村と数、相続人数、遺言の有無が分かっていれば、報酬と実費のおおよその幅は面談の冒頭で伝えられます。登録免許税は評価額に連動するため納税通知書を見るまで確定しませんが、「評価額が分かればその場で計算します」と言えるだけで、相談者の不安はかなり下がります。費用の話を最後に回すと、面談の終盤で空気が変わることがあります。先に幅を示すほうが、結果的に受任はスムーズです。
受けない案件を早く判断できる
事前ヒアリングの副次的な効果として、断る判断が早くなります。相続人間で明確に争いがある案件、相続人の一部が長期に所在不明で調査から始まる案件、他の専門家がすでに関与していて役割が重複する案件。これらは面談してから判断するより、事前に把握して「今回のご事情ですと、まず弁護士の先生にご相談いただいたほうが早いかもしれません」と早い段階で伝えるほうが、相談者にとっても親切です。断る案件を早く見極めることは、受ける案件の質を上げることでもあります。
受任後の工程にそのまま引き渡す
面談で受任が決まったら、ヒアリングの回答はそのまま案件情報の初期値になります。相続人数、不動産の所在、期限。これらを二度入力しない形にしておくと、受任から書類依頼までの立ち上がりが速くなります。受任後の戸籍収集から法定相続情報一覧図までの工程をどう分担するかは相続登記の業務効率化で工程別に整理していますので、あわせて設計してください。

ネットを使わない層は、電話のまま残す
司法書士事務所の問い合わせ自動化で最も見落とされるのが、この論点です。相続の相談者には、そもそもインターネットで事務所を探さない層が一定数います。市区町村の無料相談会、地域包括支援センター、民生委員、金融機関の窓口、税理士や不動産会社からの紹介。この経路の相談者は、紙のメモに書かれた電話番号にかけてきます。ここを機械的な導線に置き換えると、事務所の一番安定した流入が細ります。
行政ルートの相談者に、友だち追加をお願いしない
自治体の相談会で名刺を渡した相手に対して、後日「まずこちらから友だち追加をお願いします」と案内するのは避けたほうが賢明です。行政の窓口経由で来た相談者は「役所が紹介した先」という前提で電話をかけてきます。その入口で手順を増やすと、信頼の文脈が切れます。この層は、電話で受けて、電話で日程を決め、紙のシートで聞き取るのが最も確実です。
紙のヒアリングシートは、質問項目を同じにする
大事なのは、電話・紙・オンラインで聞く項目を統一することです。前掲の質問文一覧をそのままA4一枚のシートに落とし、電話に出た補助者がそのシートを見ながら聞き取ります。窓口が違っても集まる情報が同じであれば、面談準備の手順は1本で済みます。逆に窓口ごとに聞く内容が違うと、事務所内に2種類の運用が生まれ、どちらも定着しません。
家族が代理でやり取りするケースを想定しておく
実務でよくあるのは、高齢のご本人ではなく、離れて暮らすお子さまが窓口になるパターンです。この場合、事前ヒアリングは有効に機能します。ただし、誰が依頼者で誰が連絡窓口かを最初に明確にしておかないと、後で「本人の意思確認をしていない」という問題になります。ヒアリングの最後に「今回のお手続きのご本人はどなたになりますか」という一問を足しておくと、この取り違えを防げます。
留守番電話とコールバックの設計
電話を残すと決めた以上、取りこぼしの設計が必要です。不在時の留守番電話メッセージには、名前と用件に加えて「折り返しの都合がよい時間帯」を入れてもらう案内を録音しておきます。そのうえで、折り返しの目標時間を事務所内で決めます。当日中か翌営業日午前中か。相続の相談者は複数の事務所に電話をかけていることが多く、折り返しが遅い事務所は単純に選ばれません。
| 相談者の流入経路 | 一次受けの主な手段 | ヒアリングの方法 | 設計上の注意 |
|---|---|---|---|
| 市区町村の相談会・地域包括支援センター | 電話(事務所直通) | 紙のシートを見ながら補助者が聞き取り | 友だち追加を条件にしない。紹介元への配慮を先に確認 |
| 金融機関・不動産会社・税理士からの紹介 | 電話またはメール | 紹介者経由で得た情報+不足分を電話で補う | 紹介者への報告要否を最初に決める |
| 検索・ホームページ経由 | LINEの事前ヒアリング | 選択式7問+自由記述 | 回答後24時間以内に人の言葉で返信 |
| 既存客・知人からの紹介 | 電話またはLINE | 相談者が選んだ手段に合わせる | 紹介者の名前を必ず記録し、面談冒頭で触れる |
予約・書類案内・進捗連絡をどこまで自動化するか
事前ヒアリングの次に効果が大きいのが、予約・書類案内・進捗連絡の3つです。ただし、どれも「全自動」にしてはいけません。人が最後に見る一点を必ず残します。
予約:候補日の提示までは自動、確定は人
相談者に空き枠のカレンダーをそのまま開放してしまうと、法務局へ行く予定や決済の立ち会いと重なります。司法書士の予定は「動かせない外出」が多い職種なので、候補日を3つ提示するところまでを自動にし、確定は担当者が押すのが安全です。オンライン面談の可否も、相談者が選ぶのではなく、事務所側が案件の性質を見て提案します。本人確認が絡む場面では来所が原則になるためです。
書類案内:3パターンを出し分けるだけで十分
前述のとおり、遺言あり・法定相続分・遺産分割協議の3パターンを用意します。それぞれに「相談者が用意するもの」と「事務所が取得するもの」を分けて書くのが要点です。ここが混ざっていると、依頼者が戸籍を自分で取りに行ってしまい、結果的に二重取得や取り漏れが起きます。案内文には必ず「これ以外は当事務所で取得しますので、ご準備は不要です」の一文を入れてください。
進捗連絡:節目3回で十分に効く
相続登記の進捗連絡は、多くても節目3回で足ります。受任直後の「今後の流れと目安」、戸籍が揃った時点の「収集完了と次の工程」、そして申請後の「完了予定と受け取り方法」です。これ以上細かく送ると、依頼者は読まなくなります。逆に、この3回が抜けると進捗確認の電話が来ます。加えて、依頼者側の書類が予定日を過ぎても届かないときの一報を自動にしておくと、督促の心理的負担が下がります。
督促は「催促」ではなく「期限の共有」にする
依頼者に書類の返送をお願いする連絡は、文面ひとつで印象が変わります。「まだ届いていません」ではなく「◯月◯日に申請する予定ですので、それまでにご返送いただけますと予定どおり進みます」という形にします。相続登記は依頼者側の事情で数か月止まることが珍しくない業務です。期限を共有する形にしておけば、遅れが出たときにも関係が悪化しません。
自動で送ってはいけない連絡
相続人間で意見が分かれている案件の連絡、費用が当初見積より増える場合の連絡、法務局からの補正・取下げに関する連絡。この3つは必ず担当者が個別に伝えます。特に補正は、依頼者にとっては「何か問題が起きた」と受け取られる場面なので、定型文で流すと不信につながります。自動化の設計書には「自動で送らないもの」を明記しておいてください。
| 場面 | 仕組みに任せる範囲 | 人が必ず行うこと | 目安の頻度 |
|---|---|---|---|
| 初回の受付 | 受付完了の通知と、次の連絡予定の提示 | 担当者から1行の個別返信 | 回答到着から24時間以内 |
| 面談の予約 | 候補日を3つ提示、前日リマインド | 日程の確定と、来所方法の案内 | 1案件につき1〜2回 |
| 必要書類の案内 | 3パターンからの出し分けと送付 | 案件固有の追加書類の追記 | 受任直後に1回 |
| 進捗の連絡 | 受任直後・戸籍収集完了・申請後の3回 | 遅延が出たときの理由説明 | 案件期間中に3回 |
| 書類の督促 | 予定日超過時の一報 | 2回目以降の連絡は担当者が電話 | 必要に応じて |
| 完了報告 | 完了予定日の事前通知 | 登記識別情報の引き渡しと説明 | 1案件につき1回 |
事務所内の運用ルールを先に決める
仕組みを入れても定着しない事務所には、たいてい運用ルールがありません。誰が見るのか、いつまでに返すのか、返す言葉は誰が決めるのか。この3点を先に決めておけば、導入後の混乱はほとんど起きません。
誰が一次返信をするかを決める
多くの事務所では、補助者が一次返信を担当します。その際、補助者が返してよい内容の範囲を明文化しておきます。事実の確認、日程の調整、書類の案内までは補助者。手続きの可否、費用の確定、法的な見解は司法書士。この線引きを紙1枚にして、返信画面の近くに貼っておくのが一番確実です。事務所内の権限設計をより細かく整理したい場合は、司法書士・補助者・事務員の3階層で分ける考え方が参考になります。
返信の目標時間を数字で決める
「なるべく早く」では運用になりません。営業時間内なら3時間以内、営業時間外の受付は翌営業日の午前中まで、といった数字を決めます。相続の相談者は同時に複数の事務所に問い合わせていることが多く、最初に返答した事務所がそのまま面談に至るケースが多いためです。目標時間を決めたら、達成できているかを月1回だけ確認します。細かい分析は不要で、遅れた件数を数えるだけで十分です。
文面は事務所の言葉で作る
ひな形をそのまま使うと、事務所の雰囲気と文体がずれます。特に相続の相談は感情が動く場面なので、「お悔やみ申し上げます」の一文を入れるかどうかだけでも印象が変わります。所長が普段電話でどう話しているかを1回だけ録音して文字に起こし、それを土台に文面を作ると、事務所の言葉になります。生成AIに文面を整えさせる場合も、この土台を渡してから直させるほうが、はるかに自然な仕上がりになります。
問い合わせ台帳と案件管理をつなげる
事前ヒアリングの回答は、受任に至らなかったものも含めて1か所に溜めておきます。受任に至らなかった相談も、半年後に再び連絡が来ることがあるためです。台帳には、相談日・経路・相談種別・面談の有無・受任の有無だけを残せば十分です。この5項目があれば、どの経路からの相談が受任につながっているかが半年で見えてきます。
構築の進め方と費用の考え方
ここまでの内容を、実際にどの順序で作るかを整理します。最初から全部を作ろうとすると、設計が終わる前に現場の熱が冷めます。1業務・1導線から始めてください。
まずは「相続の新規相談」だけで作る
相続登記の新規相談は、質問項目が定型で、件数もあり、効果が測りやすい領域です。商業登記や後見、債務整理まで一度に対応しようとすると、分岐が増えて相談者が迷います。最初のバージョンは相続だけ。他の相談種別は「その他のご相談」という1つの入口にまとめ、担当者が電話で受けます。3か月動かして、次に商業登記を足す。この順序が現実的です。
費用の内訳は、設計・構築・運用の3つに分かれる
士業事務所の問い合わせ自動化にかかる費用は、大きく3つです。ヒアリング項目や分岐、文面を決める設計。実際に組み上げる構築。そして毎月のツール利用料と、文面の見直しを含む運用。事務所の規模と分岐の数によって幅がありますが、初期の設計・構築で数十万円規模、月額の利用料は数千円から数万円という水準で検討されることが多い領域です。金額そのものより、「誰が毎月の文面を直すのか」を先に決めておくほうが重要です。
補助金の対象になる部分・ならない部分
デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)は、司法書士事務所も個人事務所・法人を問わず申請の対象になり得ます。対象になりやすいのは、登録されたソフトウェアの利用料と、それに紐づく導入設定・初期構築の費用です。一方で、事務所の独占業務そのものに関する費用や、パソコン・タブレット単体の購入は対象外になりやすい領域です。また、申請は事務所と支援事業者の共同申請が前提で、代行はできません。要件の詳細と、士業事務所が引っかかりやすい点は士業事務所のデジタル化・AI導入補助金にまとめています。
導入後3か月で見る指標は3つだけ
効果測定を細かくすると続きません。見るのは3つです。事前ヒアリングの回答が届いた件数、初回返信までの平均時間、そして面談から受任に至った割合。3か月分を並べれば、仕組みが機能しているかは判断できます。もし回答数が伸びない場合、原因はたいてい「入口の案内が分かりにくい」か「質問が多すぎる」のどちらかです。
| 段階 | やること | 期間の目安 | 事務所側で必要な作業 |
|---|---|---|---|
| 第1段階:棚卸し | 1週間分の電話を種別と時間で記録する | 1週間 | 電話に出た人がメモを取るだけ |
| 第2段階:設計 | ヒアリング項目・分岐・文面・運用ルールを決める | 2〜3週間 | 所長と補助者の打ち合わせ2〜3回 |
| 第3段階:構築 | 入口・自動応答・通知・記録先を組み上げる | 2〜4週間 | 文面の確認と、テスト送信の立ち会い |
| 第4段階:試験運用 | 相続の新規相談だけで運用し、文面を直す | 1か月 | 週1回の振り返り15分 |
| 第5段階:拡張 | 進捗連絡・書類案内・他の相談種別を追加 | 2か月目以降 | 案件種別ごとの案内文の作成 |
よくある失敗と、その原因
士業事務所の問い合わせ自動化でつまずくパターンは、ほぼ決まっています。先に知っておけば避けられるものばかりです。
質問が多すぎて、途中で離脱される
最も多い失敗です。面談で聞く内容を全部前倒しした結果、質問が20問を超え、相談者が3問目で止まります。第1段階は7問まで。この上限を守るだけで、回答率は変わります。どうしても聞きたい項目が増えるときは、面談日程が決まったあとの第2段階に回してください。日程が決まっている相手は、追加の質問にも答えてくれます。
自動応答だけで完結させ、人の返信が来ない
受付完了の通知は届くのに、その後3日間誰からも連絡が来ない。この状態が一番よくありません。相談者は「対応してもらえない事務所」と判断します。自動応答は「人が返すまでのつなぎ」であって、応答そのものが目的ではないという前提を、事務所内で共有しておいてください。
ホームページから電話番号を消してしまう
問い合わせを一本化しようとして、電話番号を目立たない場所に移す事務所があります。司法書士事務所では、これは明確に逆効果です。高齢の相談者や行政ルートの紹介者は電話番号を探しています。電話番号は目立つ位置に残したまま、その横に「事前にご状況を伺えると、面談がスムーズです」という案内を添える形にしてください。
担当者が1人に固定され、その人が休むと止まる
問い合わせ対応を1人の補助者に任せきりにすると、その人が不在の日に受付が止まります。返信できる人を最低2名にし、返信のひな形と判断基準を共有しておきます。属人化を避ける仕組みの作り方は事務所全体のテーマでもあるため、マニュアル化とあわせて検討すると効果が高くなります。

よくある質問
事前ヒアリングを入れると、相談件数は減りませんか
電話番号を残したまま導入するのであれば、減るというより「電話とヒアリングに分かれる」というのが実態に近いです。むしろ、営業時間外や休日に相談したい層を拾えるようになるため、接触の総数は増える傾向があります。減るとすれば、それは電話番号を隠した場合です。相続の相談者は電話をかけたい層を必ず含みますので、入口は複数残してください。
高齢の相談者にLINEでのやり取りをお願いしてもよいですか
ご本人が普段から使っている場合は問題ありませんが、こちらから勧めるのは避けたほうがよいでしょう。実務では、ご本人が電話、離れて暮らすご家族がLINE、という併用が多くなります。その場合は、誰が依頼者で誰が連絡窓口かを最初に確認し、記録に残しておくことが重要です。本人の意思確認は必ず面談の場で行ってください。
ヒアリングでどこまで聞いてよいのか、線引きが分かりません
目安は「面談の準備に使う情報かどうか」です。被相続人の死亡時期、不動産の市区町村、相続人数、遺言の有無は準備に直結します。一方、本籍地、生年月日、地番、相続人全員の氏名は受任後に必要になる情報で、初回接触の段階では不要です。また、相続人間の対立の詳細や金銭の事情は、文字で残すこと自体がリスクになりますので、面談で口頭で伺ってください。
ヒアリングの回答を生成AIに要約させてもよいですか
入力する情報を選べば可能です。氏名・本籍・地番といった個人を特定できる情報は置き換えたうえで、案件の構造(相続の発生時期、相続人の続柄と人数、不動産の所在市区町村、論点)だけを渡す形にします。あわせて、学習に利用されない設定・契約であることを確認してください。判断基準は、事務所内で「入れてよい情報・匿名化すれば入れられる情報・入れない情報」の3分類として先に決めておいてください。
補助者だけで問い合わせ対応をしても問題ありませんか
事実の聞き取り、日程調整、必要書類の案内までであれば、補助者が担当している事務所が一般的です。ただし、手続きの可否、費用の確定、法的な見解にあたる回答は司法書士が行う必要があります。境界が曖昧なまま運用すると事故につながるため、返信してよい内容の範囲を紙1枚にして共有し、迷ったら止めて司法書士に回す、という運用にしてください。
導入にどのくらいの期間がかかりますか
相続の新規相談だけに絞れば、棚卸しから試験運用の開始まで1か月半から2か月程度が目安です。時間がかかるのは構築ではなく、ヒアリング項目と文面を決める設計の段階です。ここで所長の判断が止まると全体が止まりますので、最初の打ち合わせで「質問は7問まで」「返信の目標時間はこれ」と決め切ってしまうのが早道です。
補助金を使う場合、先に契約してしまってよいですか
補助金には交付決定の前に契約・発注をしてはいけないという原則があります。順序を間違えると、要件を満たしていても対象外になります。導入時期が決まっている場合は、公募のスケジュールと逆算して、いつまでに何を決めるかを最初に整理してください。この順序の設計こそ、支援事業者に相談する価値がある部分です。
明日からできる3つのこと
最後に、この記事を読んだ日から着手できることを3つに絞ります。どれも新しい道具を買う必要はありません。
1週間、電話の種別と時間だけメモする
電話に出た人が、種別(新規/進捗/書類/その他)と通話時間を書くだけです。集計は不要で、1週間分の紙を見れば十分に傾向が分かります。この紙が、設計の出発点であり、補助金申請の際の「導入前の課題」の根拠にもなります。
前掲の質問文一覧から、7問だけ選ぶ
本記事の質問文一覧から、自分の事務所に必要な7問を選んでA4一枚のシートにします。まだ何も自動化しなくて構いません。電話に出るときにそのシートを手元に置くだけで、聞き漏らしが減り、面談の準備が変わります。この紙がそのまま、後で仕組みに落とし込む設計図になります。
進捗連絡の「節目3回」の文面を作る
受任直後、戸籍収集完了、申請後。この3つの文面を、いまの言い回しのまま文書にします。仕組みがなくても、担当者がコピーして送るだけで進捗確認の電話は減ります。効果が出たことを確認してから、自動化に進めば十分です。この3つを実行したうえで、まだ電話の総量が減らないと感じるのであれば、原因は問い合わせ対応ではなく案件管理の側にあります。その場合は、事務所全体の業務棚卸しから見直したほうが早く片づきます。
問い合わせ対応の設計を、一緒に整理しませんか
ベストプランナー合同会社(埼玉県/ITコーディネータ 川崎洋)では、司法書士事務所をはじめとする士業事務所の業務棚卸しと、問い合わせ対応・案件管理の仕組みづくりをご支援しています。
「どの電話を仕組みに移せるか」「補助金の対象になるのはどこまでか」を、事務所の実際の流れに沿って整理します。
AIで仕事をラクにする相談会(無料)
