「自社の業務に合わせた、ちょっとしたアプリがあれば便利なのに」
そう思ったことはないでしょうか。
例えば、Excelに数字を入力して判定している業務をWeb上でできるようにしたい。入力された内容から診断結果を表示したい。報告書をPDFで自動作成したい。問い合わせフォームから届いた情報を一覧で管理したい。
これまでは、このような仕組みを作ろうと思えば、プログラミングを学ぶか、システム会社やエンジニアへ開発を依頼するのが一般的でした。
ところが生成AIの進化によって、その前提が変わり始めています。
人間がコードを一行ずつ書くのではなく、「こういうアプリを作りたい」「ここを押したら、この結果を表示したい」「この画面をもう少し分かりやすくしたい」とAIへ伝え、生成されたものを実際に動かしながら修正していく開発方法が広がっています。
これがバイブコーディング(Vibe Coding)です。
Google Cloudは、バイブコーディングを、コードを一行ずつ記述する役割から、AIをガイドしながらアプリケーションを生成・改善・デバッグしていく開発方法への変化として説明しています。言葉自体は、AI研究者Andrej Karpathy氏が2025年初頭に広めたものです。
ただし、ここで大きな誤解があります。
バイブコーディングは、「AIに一言指示すれば、完成したシステムが出てくる魔法」ではありません。
実際にアプリを作ってみると、画面や診断ロジックは比較的早く作れても、メール送信、SMTP、ドメイン認証、データ保存、ログイン認証など、現実のシステムとして動かすところでは人間による設定や確認が必要になります。
この記事では、バイブコーディングという言葉の意味だけでなく、実際にプログラミング未経験の中小企業経営者がAIと対話しながら業務用の診断アプリを作った経験をもとに、次の内容を具体的に解説します。
- バイブコーディングとは何か
- 従来のプログラミングと何が違うのか
- 非エンジニアでも本当にできるのか
- AIとどのようにアプリを作っていくのか
- どこから人間による確認が必要になるのか
- 中小企業では何に活用できるのか
- 試作品を本番利用するときに何へ注意すべきか
この記事で伝えたい最も重要なポイントは、AIによって人間の役割が「どうコードを書くか」から「何を作るか・本当にできたか」へ変わりつつある、ということです。
バイブコーディングとは?
AIとの会話でソフトウェアを作る開発方法
バイブコーディングとは、簡単にいえば、自然な言葉でAIと会話しながらソフトウェアやアプリを作っていく開発方法です。
従来のプログラミングでは、人間がプログラミング言語を理解し、自分でコードを書いていました。例えば「ボタンを押したら入力内容をデータベースへ保存する」という機能でも、フォームから値を取得する処理、データベースへ接続する処理、エラーが起きた場合の処理などを、人間がコードとして記述していきます。
バイブコーディングでは、この部分をAIへ依頼します。例えば「入力フォームを作ってください。名前、会社名、メールアドレスを入力できるようにして、送信ボタンを押したらデータを保存してください」といった形で、実現したいことを自然な言葉で伝えます。
AIはその意図をもとにコードを生成します。そして人間は、生成されたアプリを実際に動かします。期待した通りになっていなければ、「メールアドレスを入力しないと送信できないようにしてください」「スマートフォンだとボタンが画面からはみ出しています」「送信したあとに完了画面を表示してください」と伝えて修正していきます。
つまり、バイブコーディングでは、人間が意図を伝える → AIが実装する → 人間が動かす → 問題を見つける → AIへ修正を依頼する、というサイクルを繰り返してソフトウェアを完成に近づけていきます。実際のバイブコーディングを調査した研究でも、AIへの指示、生成コードの評価、アプリケーションのテスト、問題の特定、指示の修正という反復的な流れが確認されています。
バイブコーディングという言葉はどこから生まれたのか
「Vibe Coding」という言葉は、AI研究者のAndrej Karpathy氏が2025年初頭に広めたことで注目されるようになりました。Google Cloudも同氏によってこの言葉が生まれたと説明しています。
重要なのは言葉そのものより、その背景にある開発方法の変化です。これまで「人間 → コード → コンピュータ」という関係だったものが、「人間 → 自然言語 → AI → コード → コンピュータ」という関係へ変わり始めています。人間とコードの間にAIが入ったわけです。
その結果、プログラミング言語を十分に扱えない人でも、ソフトウェア開発に参加できる範囲が広がっています。
「AIに一言伝えれば完成」という意味ではない
ここは非常に重要です。バイブコーディングという言葉から、「作りたいものを一言入力したら、AIが全部完成させてくれる」というイメージを持つ方もいるかもしれません。実際には違います。
簡単な画面であれば一度の指示でかなり形になることもあります。しかし実務で使えるものへ近づけるほど、「この場合はどうするのか」「入力されなかった場合はどうするのか」「誰がアクセスできるのか」「データはどこへ保存するのか」「エラーが起きた場合はどうするのか」といった判断が必要になります。
バイブコーディングは、人間が考えなくてよくなる方法ではありません。コードを書く作業の多くをAIへ移し、人間がより上流の判断へ集中する開発方法と考えたほうが実態に近いでしょう。
バイブコーディングと従来のプログラミングは何が違う?
バイブコーディングと従来のプログラミングで最も大きく違うのは、誰がコードを書くのかです。
| 比較項目 | 従来開発 | バイブコーディング |
|---|---|---|
| 主な指示方法 | プログラミング言語 | 自然言語 |
| コード作成者 | 人間 | 主にAI |
| 人間の主な役割 | 設計・実装・テスト | 目的設定・指示・確認・判断 |
| 修正方法 | コードを直接修正 | AIへ修正内容を伝える |
| プログラミング経験 | 比較的重要 | 試作段階ではハードルが下がる |
| 試作品作成 | 準備に時間がかかりやすい | 比較的素早く試せる |
| 本番化 | エンジニアリング知識が必要 | 同様に専門的確認が重要 |
Google Cloudも、従来型開発ではプログラミング言語や構文についての知識が比較的重要なのに対し、バイブコーディングでは自然言語による指示とフィードバックが主な入力になると整理しています。
従来開発は人間がコードを書く
従来のシステム開発では、要件を決める、システムを設計する、プログラムを書く、テストする、修正する、公開する、という流れが一般的です。中でも大きな割合を占めていたのが、プログラムを書く「実装」です。プログラミング言語を理解していない人にとって、ここが大きな壁でした。
バイブコーディングではAIがコードを書く
バイブコーディングでは、この実装部分の多くをAIへ任せられます。人間は「何を実現したいのか」を伝えます。AIがコードを作ります。人間は動かしてみます。問題があれば再びAIへ伝えます。研究でも、バイブコーディングは単純な一回のコード生成ではなく、目標設定、AIによる生成、評価、テスト、問題発見、修正という反復的な開発になっていることが報告されています。
人間の役割が「どう書くか」から「何を作るか」へ移る
ここが最も大きな変化です。これまでは「この処理をJavaScriptでどう書けばいいのか」「データベースへ接続するコードはどう書くのか」と考える能力が重要でした。
AIがコードを書けるようになると、人間側の重要な問いが変わります。「そもそも何を自動化すれば業務時間が減るのか」「誰がこの画面を使うのか」「何を入力して、何を出力すれば便利なのか」「結果が正しいことをどう確認するのか」「例外が起きた場合はどうするのか」です。
言い換えれば、人間の仕事は「どう書くか」から「何を作るか」へ。さらに完成後には、「作れたか」から「本当に正しくできたか」へ移っていきます。
バイブコーディングでは実際にどうやってアプリを作る?
では、実際にはどのように進めるのでしょうか。基本的には次の6ステップを繰り返します。
STEP1.作りたいものを決める
最初に考えるのは、プログラミング言語ではありません。何を作りたいのかです。例えば、「質問へ回答すると、自動で診断結果を表示するアプリを作りたい」というところから始めます。
この段階では、細かな技術仕様まで決める必要はありません。重要なのは、誰が、何を入力し、何が出てくれば便利なのかを整理することです。
STEP2.AIに必要な機能を伝える
次にAIへ機能を伝えます。例えば、「10個の質問に回答する診断アプリを作りたい」「回答によって点数を計算したい」「点数によって3種類の診断結果を表示したい」といった具合です。
最初からすべての機能を詰め込む必要はありません。むしろ、最初は最低限の機能から始めたほうが問題を見つけやすくなります。
STEP3.AIがコードを生成する
AIが必要なファイルやコードを生成します。ここが従来の開発との大きな違いです。人間がコードを一行ずつ入力しなくても、アプリとして動く形までAIが実装してくれるケースが増えています。
STEP4.実際に動かしてみる
コードが生成されたら、重要なのは読むことより、まず動作を確認することです。質問へ回答できるか。計算は正しいか。結果は正しく表示されるか。スマートフォンでも表示できるか。想定外の入力をしたらどうなるか。人間が利用者になったつもりで試します。
STEP5.問題をAIへ伝える
問題が見つかったら、その状態をAIへ伝えます。例えば、「最後の質問へ回答しても診断結果が表示されません」「PDFにすると右側の文字が切れています」「スマートフォンだと送信ボタンが画面からはみ出します」などです。AIが原因を推測し、コードを修正します。
STEP6.修正と確認を繰り返す
そして再び動かします。ここで別の問題が発生することもあります。その場合は再びAIへ伝えます。つまり、作りたいものを伝える → AIが作る → 実際に動かす → 問題を見つける → 修正を伝える → もう一度動かす、というサイクルを何度も繰り返します。これがバイブコーディングの実態です。

非エンジニアがバイブコーディングで診断アプリを作った実例
ここからは実際の経験を紹介します。筆者自身、長年IT業界には携わっていますが、いわゆるプログラマーとしてプログラムを書いてきた人間ではありません。
その状態から、AIを活用しながら自社で使用する診断アプリを作りました。今回作ったアプリの大まかな流れは次の通りです。
入力 → 診断 → 結果表示 → PDF生成 → 自社ドメインからメール送信 → 顧客データ保存 → 管理者画面
単純な入力フォームだけではありません。ユーザーから情報を受け取り、その内容に応じて結果を判定し、結果を画面へ表示します。さらに診断内容をPDF化し、メールで送信します。入力された顧客情報は保存され、管理者側から確認できるようにしました。
複数の生成AIやAIコーディング支援環境を使いながら、対話と動作確認を繰り返して形にしていったものです。
最初から全部できたわけではない
ここが非常に重要です。「診断アプリを作ってください」と一回指示して、すべて完成したわけではありません。
まず入力画面を作ります。次に診断できるようにします。動かします。「ここがおかしい」という部分を修正します。次に診断結果を表示します。また動かします。その次にPDFを作ります。PDFを開くとレイアウトがおかしい。修正します。メール送信機能を追加します。今度はメールが届かない。原因を調べます。
このように、機能を追加するたびに新しい問題が現れ、それを一つずつAIと解決していくという作業でした。まさにバイブコーディングです。
画面や診断ロジックは比較的作りやすかった
体験上、入力フォームや結果画面、診断ロジックのようにアプリ内部だけで完結する機能は、比較的スムーズに形になりました。
例えば、「選択肢Aなら3点、Bなら2点、Cなら1点として合計してください」「20点以上ならA判定を表示してください」といったルールは、人間が業務ルールを明確に説明できればAIが実装しやすいからです。
つまり、ここで重要だったのはプログラムの書き方ではありません。自分の頭の中にある診断ルールを、明確なルールとして説明できることでした。
PDF・メール・データ保存になると難易度が上がった
ところが、外部との接続が始まると難易度が上がります。PDFを作る。メールを送る。データベースへ保存する。独自ドメインから送信する。管理者だけが閲覧できるようにする。こうなると、単純な画面生成とは違います。
アプリの外側にある仕組みとの接続が必要になるからです。ここで、「AIがコードを書けること」と「システムが本当に動くこと」は同じではないと実感しました。

「メールを送って」で終わらない|人間の確認が必要だった部分
例えばAIへ、「診断結果をメールで送ってください」と頼んだとします。コード自体は作ってくれるかもしれません。しかし、現実にメールを届けるためには、それだけでは終わりません。
SMTPなどメール送信環境の設定
アプリからメールを送るためには、メール送信サービスやサーバー側の設定が必要になる場合があります。どのメールサーバーを使うのか。どのアカウントから送るのか。認証情報をどう管理するのか。といったことを決める必要があります。
AIが設定方法を教えてくれても、実際の管理画面へログインして値を登録する作業などは人間側で行う場面があります。
DNSやメール認証
さらに自社ドメインからメールを送る場合、ドメイン側の設定が必要になることがあります。ここでは、「コードが正しいか」だけを見ていても解決しません。アプリ、メールサービス、DNSなど複数の場所を確認する必要があります。これが、バイブコーディングで現実のシステムを作るときにぶつかりやすい壁の一つです。
APIキーや秘密情報
外部サービスと連携すると、APIキーなど秘密にすべき情報を扱うことがあります。これを公開されるコードへ直接書くのは適切ではありません。どの情報を秘密として管理し、どこへ保存するのか。本番運用では、こうした設計も必要です。
エラーが起きたときの原因切り分け
さらに重要だったのが、問題の場所を切り分けることです。例えばメールが届かない場合、アプリ側の処理、メール送信サービスの設定、認証情報、ドメイン設定、迷惑メール判定など、複数の原因が考えられます。
ここでAIへ「メールが送れません。直してください」とだけ伝えても、原因を特定できないことがあります。「送信ボタンを押した」「画面上は成功と表示された」「しかしメールは届かない」「エラーログにはこの内容が出ている」と、何が起きているのかを整理することが重要です。
プログラミングの知識が不要になる代わりに、問題を観察して切り分ける力の重要性が増していると感じます。
バイブコーディングで変わる人間の役割
AIがコードを書くようになると、「人間の仕事はなくなる」と考える人もいるかもしれません。しかし実際には、人間の役割がなくなるというより、役割の場所が移ります。
「コードを書く人」から「要件を決める人」へ
例えば社内の問い合わせ管理アプリを作る場合、「どのプログラミング言語を使うか」より先に考えることがあります。誰が入力するのか。何を入力するのか。誰が見るのか。どの情報で検索できれば便利なのか。ステータスは必要なのか。完了した問い合わせはどう扱うのか。これらはコードの問題ではなく、業務設計の問題です。
AIが実装できるようになるほど、人間には「そもそも何を作るべきなのか」を考える力が求められます。
「作った」より「本当にできたか」が重要になる
AIは非常に短時間で、それらしく動くアプリを作ることがあります。ここで注意したいのが、動いているように見えることと、正しく動いていることは違うという点です。
10件試して正常だったとしても、11件目の特殊な入力でエラーになるかもしれません。診断結果が画面へ表示されても、計算ロジックが間違っているかもしれません。メールが届いていても、別の顧客の情報が混ざるような問題があれば本番利用はできません。
生成されたものをそのまま信用するのではなく、検証が必要です。
テストする力が重要になる
例えば入力フォームなら、正常な使い方だけを試して終わりではありません。何も入力しなかったらどうなるか。数字の場所へ文字を入力したらどうなるか。非常に長い文章を入力したらどうなるか。同じボタンを何度も押したらどうなるか。スマートフォンではどう表示されるか。通信が途中で切れたらどうなるか。メール送信に失敗したらどうなるか。なども考える必要があります。
AI時代には、コードを全部読める人だけでなく、「どう壊れる可能性があるか」を想像できる人の価値が高くなるでしょう。

バイブコーディングは非エンジニアでもできる?
結論からいえば、小さな業務アプリや試作品であれば、非エンジニアが挑戦できる範囲は大きく広がっています。
Google Cloudも、バイブコーディングはプログラミング経験が限られる人にとってアプリ開発への入口を広げるものとして説明しています。
特に始めやすいのは、入力フォーム、診断、簡易計算、情報一覧、報告書作成、社内向け簡易ツール、試作用Webアプリなどです。
プログラミング知識が完全に不要という意味ではない
一方で、「これからはプログラミング知識が一切必要ない」と考えるのも早すぎます。
バイブコーディングを調査した研究では、プログラミングの専門性が完全になくなるわけではなく、必要な能力が、コードを直接書くことから、文脈の管理、生成されたコードの評価、AIに任せる範囲と人間が直接修正する範囲の判断などへ再配分されると指摘されています。
非エンジニアでも「試す」ことはしやすくなりました。しかし、「難しい本番システムまで誰でも安全に作れる」という意味ではありません。この区別が重要です。
中小企業とバイブコーディングの相性が良い理由
バイブコーディングは特に中小企業の業務改善と相性が良いと考えています。理由は、中小企業には「困っているけれど、システム会社へ開発を頼むほどではない課題」が非常に多いからです。
Excelの判定処理をWeb化する
例えば、現在Excelで、数値を入力、計算式で点数を出す、判定結果を確認、結果を別資料へ転記、という仕事をしているとします。これを、入力 → 自動計算 → 判定 → 結果表示、というWebアプリへ変えられるかもしれません。
従来であれば、「この程度のものを外注すると費用が合わない」として諦めていたケースでも、まず自分たちで試作品を作れる可能性があります。
報告書を自動生成する
担当者が入力した内容をもとに、一定の書式へ整えてPDF報告書を作る。こうした仕組みも小さな業務改善の候補です。毎回コピー&ペーストしている業務なら、自動化による効果が分かりやすいでしょう。
問い合わせ内容を一覧化する
問い合わせフォームへ届いた情報を、日付、会社名、担当者、問い合わせ内容、対応状況などで一覧表示する社内ツールも考えられます。
最初から大規模なCRMを導入しなくても、「自社に本当に必要な管理項目は何か」を小さなアプリで試すことができます。
小さすぎて開発できなかった課題を試せる
これが中小企業にとって最大のメリットかもしれません。これまでは、「便利そうだけれど、開発費を払ってまで作るほどではない」という理由で放置されていた課題がありました。
バイブコーディングによって試作コストが下がれば、まず作ってみる → 実際に使ってみる → 効果を確認する → 必要なら本格化する、という進め方がしやすくなります。
DXやAI導入では、最初から大きな仕組みを作ることだけが正解ではありません。毎月1時間、2時間と発生している「小さな面倒」を減らすところから始めてもよいのです。
バイブコーディングに向いている業務・慎重に進めるべき業務
バイブコーディングは万能ではありません。どのようなものを作るかによって難易度は大きく違います。
| 比較的試しやすいもの | 慎重に進めるもの |
|---|---|
| 社内向け簡易ツール | 基幹業務システム |
| 診断・計算アプリ | 決済を扱うシステム |
| 報告書生成 | 大量の個人情報を扱うシステム |
| 情報整理・一覧化 | 高度なアクセス権限が必要なシステム |
| プロトタイプ | 24時間停止できないサービス |
| 小規模な自動化 | 法令・安全性に直結する判断システム |
ここで重要なのは、「バイブコーディングで作れるか」だけで判断しないことです。技術的に作れるものでも、それを安全に本番運用できるかは別の問題です。
試作品と本番システムは別物|バイブコーディングの注意点
バイブコーディングで最も注意したいのが、試作品と本番システムを同じものとして考えないことです。
セキュリティ
AIが生成したコードだからといって、安全性が保証されるわけではありません。入力された値をどのように処理しているのか。外部から不正な操作をされる可能性はないか。秘密情報が公開されていないか。本番公開する場合は確認が必要です。
GitHubもAIによるコードレビューについて、AIがすべての問題を検出できる保証はなく、誤りが起こり得ると明記しています。AIによる確認を使う場合であっても、人間側の検証をなくせるわけではありません。
個人情報・顧客データの保存
診断アプリに、氏名、メールアドレス、電話番号、会社情報などを入力させるなら、その情報がどこに保存されるのかを把握する必要があります。単なるデモアプリと、実際の顧客情報を扱うシステムでは責任が違います。
ログイン・認証・アクセス権限
URLを知っている人なら誰でも見られる試作品と、「管理者だけが顧客情報を閲覧できる」システムでは設計が異なります。誰がログインできるのか。パスワードをどう管理するのか。退職者のアクセスをどう止めるのか。管理者と一般利用者で何を分けるのか。まで考える必要があります。
バックアップ
データが保存できるようになったら、次に考えるのは、消えたらどうするかです。データベースを作れたから完成ではありません。バックアップ方法や復旧方法も、本番運用では重要です。
保守・アップデート
完成した翌日から、一切変更がないシステムはほとんどありません。「この項目を追加したい」「制度が変わったので診断条件を変えたい」「ブラウザの変更で表示がおかしくなった」といったことが起こります。
誰が変更するのか。元の構造が分からなくならないよう、どう管理するのか。長期間使うほど、保守性も重要になります。
AIが作ったコードをそのまま信用しない
AIは非常に便利です。だからこそ、「AIが作ったから正しい」と考えないことが重要です。研究でも、バイブコーディングにおけるデバッグはAIだけで完結するものではなく、AI支援と人間側の確認を組み合わせたハイブリッドなプロセスとして観察されています。
バイブコーディングで失敗しやすい5つのパターン
1.いきなり大きなシステムを作ろうとする
最初から、顧客管理、在庫管理、予約、請求、分析を全部備えたシステムを作ろうとすると、複雑になります。まず、「問い合わせを一覧表示する」くらいの小さな単位から始めるほうが現実的です。
2.動いたことだけで完成と判断する
正常なデータを1回入力して結果が出ただけでは、十分なテストとはいえません。意図的に変な入力もしてみましょう。
3.エラー内容を見ずに「直して」と繰り返す
問題が起きたときは、「どの操作をしたら」「何が起きて」「何が期待と違ったのか」を確認しましょう。状況が具体的であるほど、AIも原因を判断しやすくなります。
4.秘密情報や認証情報の扱いを軽視する
APIキーやパスワードなどを、誰でも見られる場所へ保存しないよう注意が必要です。
5.試作品をそのまま本番公開する
自分一人がテストするアプリと、不特定多数の人がアクセスするサービスでは必要な設計が異なります。公開範囲が広くなり、扱う情報が重要になるほど、専門家による確認も検討しましょう。
中小企業がバイブコーディングを始める5ステップ
興味はあっても、「何を作ればいいのか分からない」という方も多いでしょう。最初からアプリのアイデアを考える必要はありません。日常業務から探します。
STEP1.毎月困っている小さな業務を1つ選ぶ
例えば、「毎回Excelへ入力して判定している」「同じ内容をWordへ転記している」「問い合わせメールをExcelへ転記している」といった仕事です。
STEP2.入力と出力を決める
非常にシンプルに考えます。何を入れるのか。何が出てくれば便利なのか。例えば、入力:10個の質問への回答、出力:診断結果。これだけでもアプリの基本構造になります。
STEP3.最低限の機能だけ作る
最初からPDF、メール、ログイン、管理画面まで作らなくても構いません。まず、入力 → 結果表示だけ作ります。動いたら次へ進みます。
STEP4.自分で徹底的に使ってみる
実際の仕事で使うつもりで操作します。すると、「戻るボタンが欲しい」「この質問は分かりにくい」「結果画面から入力内容も確認したい」など、作る前には分からなかったことが見えてきます。
STEP5.本番利用するなら安全性を見直す
顧客や社員に使ってもらう段階になったら、セキュリティ、データ保存、認証、バックアップ、エラー処理、保守などを改めて確認します。ここまで来たときに、自分で継続するのか、エンジニアや専門家へ相談するのかを判断すればよいのです。
バイブコーディングで重要なのは「コードを書けること」ではなくなる
バイブコーディングによって、ソフトウェア開発の入口は大きく変わり始めています。少なくとも、小さな試作品を作るために、「まずプログラミング言語を何年も勉強しなければ何も作れない」という時代ではなくなりつつあります。
では、人間に何が必要になるのでしょうか。それは、何を解決したいのかを決めることです。そして、本当に解決できたかを判断することです。
例えばAIが非常に美しい診断アプリを作ってくれても、診断ロジックそのものが間違っていたら意味がありません。操作しやすい問い合わせ管理システムを作っても、現場が欲しい情報が保存されていなければ使われません。
人間に残る仕事は、誰が困っているのか、何が問題なのか、どんな状態になれば改善なのか、何を入力する必要があるのか、どの結果が正しいのか、例外時はどうすべきなのか、実際に業務時間が減ったのか、を判断することです。
AIが賢くなるほど、人間はコードから離れられるかもしれません。しかし、業務を理解する必要性から離れられるわけではありません。むしろ逆です。
これから重要になるのは、「どう書くか」より「何を作るか」。そして、「作れたか」より「本当にできたか」。この二つを考えられる人です。
よくある質問
バイブコーディングはプログラミング未経験でもできますか?
簡単なWebアプリや社内向けツール、試作品であれば、プログラミング経験が少ない人でも挑戦しやすくなっています。ただし、本番システムになるほど、セキュリティ、認証、データベース、バックアップなどの専門知識が重要になります。「非エンジニアでも試作できる」と「専門知識が一切不要」は分けて考えましょう。
バイブコーディングとノーコードは何が違いますか?
ノーコードは、用意された部品や機能を組み合わせてシステムを作る方法が中心です。一方、バイブコーディングでは、自然言語でAIへ要求を伝え、AIがコードそのものを生成・修正します。そのため自由度が高い一方、生成されたものが正しく動くか確認する責任も重要になります。
ChatGPTなどの生成AIでもバイブコーディングはできますか?
コードを生成・修正できる生成AIを使えば、バイブコーディング的な開発は可能です。また現在は、AIとコード編集・実行環境を組み合わせたさまざまな開発環境も提供されています。利用できる機能や料金、対応モデルは変更される可能性があるため、実際に利用する際は各サービスの最新情報を確認してください。
バイブコーディングで作ったアプリを業務で使っても大丈夫ですか?
試作品を自分で使うことと、顧客情報などを扱う本番システムとして公開することは分けて考える必要があります。本番利用する場合は、少なくともセキュリティ、認証、アクセス権限、データ保存、バックアップ、障害時の対応などを確認しましょう。特に個人情報や決済情報など重要なデータを扱う場合は、専門家によるレビューも検討してください。
バイブコーディングならエンジニアは不要になりますか?
すべてのエンジニアが不要になると考えるのは適切ではありません。実証研究でも、バイブコーディングによってプログラミングの専門性が消えるのではなく、生成コードの評価、文脈管理、AIと手作業を使い分ける判断などへ専門性が移ることが指摘されています。非エンジニアが試作品を作れる範囲が広がる一方、高度で重要なシステムほどエンジニアリングの価値は残ります。
まとめ|バイブコーディングで「作れなかった小さなシステム」が作れる時代へ
バイブコーディングとは、AIとの会話を繰り返しながらソフトウェアを作っていく新しい開発方法です。従来は、人間自身がプログラミング言語を使ってコードを書くことが中心でした。
バイブコーディングでは、作りたいものを伝える → AIがコードを書く → 人間が動かす → 問題を確認する → AIへ修正を依頼する、というサイクルで開発を進めます。
特に中小企業にとって大きいのは、これまで「システム会社へ頼むほどではない」と諦めていた小さな業務課題を、自分たちで試作できる可能性が広がったことです。
Excelで行っていた判定業務。毎回手作業で作っていた報告書。問い合わせ情報の一覧化。簡単な診断。社内だけで使う小さなツール。こうした「少しだけ不便な業務」を、以前より低いハードルでアプリへ変えられるようになっています。
一方で、バイブコーディングは「一言指示すれば完成する魔法」ではありません。メール送信、SMTP、ドメイン認証、顧客データ保存、ログイン認証、セキュリティ、バックアップなど、本番システムでは人間が確認すべきことが数多くあります。
だからこそ、まず小さく作る。自分で使う。問題を見つける。AIと直す。価値が確認できたら本番化を考える。という進め方が重要です。
AIによって、人間の仕事は「コードを書くこと」から少しずつ離れていくでしょう。そのとき、より重要になるのは、何を作るべきなのか。そして、本当に正しくできたのか。を判断することです。
バイブコーディングは、単にプログラミングを楽にする技術ではありません。これまで「自分には作れない」と考えていた人が、自分の業務知識をそのままソフトウェアへ変えられる可能性を広げる、新しいものづくりの方法なのです。
「こんな業務をアプリにできないか」と思ったら、まず業務から整理してみませんか?
バイブコーディングによって、小さな業務アプリを自社で試作できる可能性は大きく広がりました。
一方で、「この業務は既存ツールを使ったほうがよいのか」「自社用アプリを作る価値があるのか」「試作品までは自分で作れるが、本番運用が不安」「AI・既存ツール・システム開発のどれを選べばよいか分からない」というケースもあります。
そのような場合は、いきなりシステム開発を始めるのではなく、現在の業務、困っていること、入力している情報、最終的に得たい結果を整理するところから始めるのがおすすめです。
自社の場合にどこまでAIを活用できるのか、どの業務から取り組むべきなのかを整理したい方は、お気軽にご相談ください。
参考情報
Google Cloud「What is vibe coding?」 https://cloud.google.com/discover/what-is-vibe-coding
GitHub Docs「Copilot code review」 https://docs.github.com/ja/copilot/concepts/agents/code-review
arXiv「Vibe Coding in Practice: Understanding the Emerging Paradigm of AI-Assisted Programming」 https://arxiv.org/abs/2506.23253
※AIサービスの機能・料金・仕様は変更される可能性があります。利用時は各サービスの公式情報をご確認ください。
