基幹を信用できず、倉庫担当者のExcelで発注していた資材卸

ある中小の資材卸では、販売管理システム上の在庫数が、いつの間にか現場で信用されなくなっていました。
システムでは「在庫あり」と表示されているのに、倉庫へ行くと商品がない。反対に、システム上では在庫が少なく見えるのに、棚には商品が残っている。
そのため倉庫担当者は、自分でExcelを作って在庫数を管理していました。発注するときも、販売管理システムではなく、そのExcelを見ながら判断します。
「この商品は最近よく出るから早めに発注しておこう」「これはあまり動かないから、しばらく発注しなくてよい」。こうした判断を、倉庫担当者の経験で補っていました。
一見すると現場は回っています。しかし問題は少しずつ積み上がります。よく売れる商品は突然欠品する一方、動かない商品は倉庫に何か月も残る。担当者が休むと、誰も正しい在庫数や発注基準が分からない。経営者が「なぜこの商品を100個発注したのか」と聞いても、明確な根拠が残っていません。
こうした状況を見ると、「AIで在庫管理を自動化できないか」と考えたくなります。ただし、最初に押さえておきたい点があります。
販売管理システムと実在庫がズレている問題と、発注点が適切ではない問題は別です。
AIを導入しただけで、倉庫に何個あるのかが自動的に正しくなるわけではありません。一方で、過去に何個出荷したか、最近売れ方が変わっていないか、発注してから何日で入荷するか、現在の発注点が今の販売量に合っているか、といった分析はAIを使うことで整理しやすくなります。
中小の卸売業・商社であれば、いきなり高額な需要予測システムを導入しなくても、今使っている販売管理システム、Excel、出荷実績CSVを使って発注点を見直せる場合があります。この記事では、その具体的な進め方を説明します。
結論|需要予測システムの前に「在庫のズレ」と「発注点」を分けて考える

在庫の問題を改善するとき、最初から「AIで需要予測しよう」と考える必要はありません。まず、問題を「帳簿上の在庫と現物在庫が合っていない問題」と「いつ発注するかという基準が今の販売状況に合っていない問題」に分けます。この2つでは、対処方法が違います。
実在庫のズレはAIだけでは直せない
たとえば販売管理システムでは100個あることになっているのに、倉庫には90個しかなかったとします。AIに販売管理システムのデータだけを渡しても、倉庫に本当に90個しかないことは分かりません。
原因が出庫処理の漏れなのか、返品処理の遅れなのか、破損なのか、棚卸時の数え間違いなのかについても、最終的には現物や伝票を確認する必要があります。
AIは差異の候補を整理したり、「この商品だけ毎月差異が出ている」といった傾向を見つけたりすることはできます。しかし、現物を数える仕事そのものを置き換えるものではありません。
AIが役立つのは「いつ発注するか」の見直し
販売実績が残っていれば、「直近3か月で1日平均何個出荷しているか」「最近出荷量が増えている商品はどれか」「仕入先から入荷するまで7日かかるなら、在庫が何個になった時点で発注した方がよいか」といった判断材料は整理できます。
AIの役割を「在庫を勝手に管理する仕組み」ではなく、「過去の数字を整理し、発注判断の候補を出す補助役」と考えると、中小企業でも取り組みやすくなります。
なぜ販売管理システムと倉庫のExcelで在庫がズレるのか
入出庫の反映タイミングが違う
よくあるのが、商品はすでに動いているのに、販売管理システムへの登録が後になっているケースです。午前中に出荷したものの、売上処理は夕方にまとめて行う場合、その間は倉庫には商品がないのにシステム上にはまだ在庫がある状態になります。
入荷でも同じです。商品は届いているものの、検品や仕入入力が終わっていないと時間差が生まれます。
返品処理が後回しになっている
返品商品も在庫差異の原因になります。得意先から商品が戻ってきても、そのまま販売できる商品、検品が必要な商品、不良品として仕入先へ返す商品では扱いが異なります。
預かり品・取り置き品を同じ「在庫」として見ている
倉庫の棚にある商品が、すべて販売できる商品とは限りません。得意先向けの取り置き、預かり品、返品確認中、展示・見本用などを区分しないと、帳簿在庫と販売可能在庫がずれます。
棚卸差異が修正されていない
棚卸で差が見つかっても、原因調査と修正まで行わなければ差異が積み重なります。「数個なら誤差」で済ませ続ける運用は、システム不信につながります。
倉庫担当者のExcelが「実質的な正解」になっている
販売管理システムの在庫を信用できなくなると、現場は個人Excelで自衛しがちです。Excel自体が悪いのではなく、誰が更新するか、列の意味、発注理由が担当者本人にしか分からない状態が属人化を生みます。
在庫ズレはAIで直せる?直せるもの・直せないもの
| 在庫がズレる原因 | AIでできること | AIだけではできないこと |
|---|---|---|
| 入出庫の反映遅れ | データ上の不自然な差異や未処理候補を整理する | 実際に商品が出入りしたか確認する |
| 返品 | 返品履歴や未処理候補を一覧化する | 商品の状態や再販売可否を判断する |
| 預かり品・取り置き品 | 区分の整理や集計を補助する | 所有関係や販売可否を最終判断する |
| 棚卸差異 | 差異が大きい商品や頻発商品を抽出する | 現物を数え、原因を確定する |
| 発注点の古さ | 出荷実績や納期から新しい発注点候補を計算する | 採用する数量を最終決定する |
ポイントは明確です。AIは現物を数えるのではなく、数字を整理して判断しやすくするのが得意です。現場で直す問題と、データで改善できる問題を分けることが重要です。
欠品と過剰在庫が同時に起きる会社は「発注点」が古い
発注点とは「ここまで減ったら注文する」という基準
たとえば商品Aについて「在庫が70個まで減ったら発注する」と決めている場合、この70個が発注点です。重要なのは、この70個という数字が今の販売量や納期に合っているかです。
販売量が変わっても昔の発注点を使っている
3年前には1日2個しか売れなかった商品が、現在は1日10個売れているのに発注点が昔のままなら、当然欠品しやすくなります。逆に販売量が落ちたのに同じ基準で発注すれば、過剰在庫になりやすくなります。
仕入先納期が延びても発注点を変えていない
発注して翌日に入荷する商品と、10日後に入荷する商品では、同じ発注点にはできません。以前3日で届いていた商品が現在7日かかるなら、販売量だけでなく仕入先側の変化も反映する必要があります。
安全在庫とは?「予想外に売れた時の余裕」と考える
安全在庫とは、予想より多く売れたり、仕入が遅れたりしたときのために持っておく余裕分です。
難しい数式から始めなくてよい
本格的な在庫最適化では需要や納期のばらつきから安全在庫を計算しますが、中小企業が最初に見直す段階では、1日平均出荷数、仕入リードタイム、最大出荷量、納期遅延の有無を確認するだけでも役立ちます。
安全在庫を多くしすぎると過剰在庫になる
欠品を避けたいからと、すべての商品に大きな安全在庫を持つと在庫金額が膨らみます。特に回転が遅い、型番変更が多い、廃番リスクがある、季節性が強い商品では注意が必要です。
商品ごとに同じ安全在庫を置かない
毎日一定数売れる商品と、月に1回だけ大量注文が入る商品では同じ考え方は使えません。安定商品、変動商品、季節商品、大型案件の影響を受ける商品などに分けると判断しやすくなります。
出荷実績CSV×リードタイムで発注点をAIに再計算させる手順

STEP1|販売管理システムから出荷実績CSVを出す
最低限、次の項目を出せると分析しやすくなります。
- 商品コード
- 商品名
- 出荷日
- 出荷数量
可能であれば得意先、倉庫、欠品履歴、キャンセル、返品などもあると分析しやすくなります。まずは「商品ごとに、いつ、何個出たか」が分かれば十分です。
STEP2|商品ごとの仕入先とリードタイムをExcelにまとめる
リードタイムとは、発注してから商品が入荷するまでにかかる日数です。
| 商品 | 1日平均出荷数 | 発注から入荷まで |
|---|---|---|
| 商品A | 10個 | 5日 |
| 商品B | 3個 | 10日 |
| 商品C | 20個 | 2日 |
STEP3|AIに平均出荷量とバラつきを整理させる
単に平均だけを見るのではなく、直近1か月で増えている商品、過去3か月で減っている商品、月末に集中する商品、特定曜日に偏る商品、出荷量のばらつきが大きい商品などを整理します。最初から「最適な発注点を決めて」と丸投げせず、変化が大きい商品を見つける用途から始めるのが安全です。
STEP4|リードタイム中に必要な数量を計算する
最も単純な考え方では「1日平均出荷数 × リードタイム」で、入荷を待つ間に必要になる数量の目安を出せます。商品Aが1日平均10個出荷され、入荷まで5日かかるなら、10個 × 5日 = 50個です。
STEP5|安全在庫を追加して発注点候補を出す
たとえば入荷まで必要な目安が50個、安全在庫を20個とするなら、発注点候補は70個です。AIには安全在庫を10個、20個、30個とした場合の複数案を比較させることもできます。
STEP6|全商品ではなく上位商品から試す
最初からすべての商品を見直す必要はありません。売上上位商品、欠品が多い商品、在庫金額が大きい商品、最近売れ方が変わった商品から始めると実務的です。
AIへ何を聞けばいい?月1回の発注点見直し質問テンプレート
質問例1|最近売れ方が変わった商品を探す
「添付した出荷実績から、直近1か月の平均出荷量が、それ以前の3か月平均と比べて大きく増減している商品を抽出してください。増加率・減少率が大きい順に並べ、発注点の見直し候補を示してください。」
質問例2|現在の発注点で欠品しやすい商品を探す
「商品ごとの現在在庫、発注点、1日平均出荷数量、仕入リードタイムを確認し、現在の発注点では入荷前に在庫切れとなる可能性が高い商品を抽出してください。判断理由も併記してください。」
質問例3|過剰在庫になりそうな商品を探す
「直近3か月の出荷数量が減少しているにもかかわらず、現在の発注点が変更されていない商品を抽出してください。在庫過多になりやすい理由を商品ごとに整理してください。」
質問例4|仕入先の納期変更を反映する
「商品Aの仕入リードタイムが5日から8日に変更されました。直近3か月の出荷実績をもとに、現在の発注点と新しい発注点候補を比較してください。安全在庫は現状維持の場合と、納期変動を考慮して増やす場合の2案を出してください。」
月1回30〜60分で回す「発注点見直し」の運用例
毎月同じCSVを出す
毎月月初など、決まったタイミングで同じ形式の出荷実績CSVを出します。毎月列名や並び順が変わると確認作業が増えるため、形式を固定します。
変更候補だけAIに抽出させる
全商品を人が確認する必要はありません。出荷量が大きく変化した商品、欠品しやすい商品、過剰在庫になりそうな商品、納期が変わった商品だけをAIに抽出させます。
倉庫担当・営業・経営者で変更を確認する
出荷実績だけでは、大型案件など将来の需要は分かりません。倉庫の実態、営業情報、仕入先情報を加えて最終判断します。
変更理由をExcelへ1行残す
「納期5日→8日のため、発注点70→100へ変更」「直近3か月出荷減少のため、発注点50→30へ変更」のように理由を残すと、後から判断根拠を追えます。
需要予測システムを入れる会社・入れなくてよい会社
| 判断項目 | AI+Excelから始めやすい会社 | 需要予測システムを検討したい会社 |
|---|---|---|
| 商品点数 | 数十〜数百程度 | 数千〜数万点 |
| 倉庫数 | 1拠点〜少数 | 多拠点 |
| 発注担当者 | 1人〜少人数 | 多部署・多担当者 |
| 需要変動 | 比較的単純 | 季節・地域・販促の影響が複雑 |
| 発注頻度 | 少〜中程度 | 毎日大量 |
| 現在の課題 | 発注点が古い | 全社での在庫最適化が必要 |
| 自動化の必要性 | 月次確認で対応できる | 日次・自動補充まで必要 |
| 会社の体制 | 人が最終確認できる | 人手では処理しきれない |
中小卸なら、まずExcel+AIで始められるケースがある
商品数がそれほど多くなく、倉庫も1拠点または少数で、発注担当者が限られている場合は、本格システムを導入する前に既存データで改善できる可能性があります。特に「発注点が何年も変わっていない」「担当者の経験だけで発注している」状態なら、まずそこを見直す価値があります。
AI+Excelでは限界になるケース
何万点もの商品、多数の倉庫、地域別の大きな需要差、セールや販促まで反映した需要予測、毎日の自動補充などが必要なら、月1回Excelを確認する仕組みでは負担が大きくなります。その場合は専門システムの比較検討段階です。
AI導入より先に直したい3つの在庫管理ルール
帳簿在庫と販売可能在庫を分ける
棚にある数量と今すぐ販売できる数量は同じとは限りません。取り置き、返品確認中、預かり品などを区分できるようにします。
在庫差異が出た時の修正責任者を決める
差異を見つけても、誰も直さなければ数字は合いません。「棚卸差異が出たら誰が確認し、誰が修正するか」を決めます。
倉庫担当の個人Excelを「会社の表」に変える
Excelをすぐ廃止する必要はありません。保存場所、列名、更新担当、更新タイミング、発注点変更の記録方法を統一し、共有可能な管理表へ近づけます。
失敗しやすい使い方|AIの数字をそのまま発注に使わない
過去データだけでは大型案件を予測できない
来月の大型案件は過去CSVにはまだ出ていません。営業担当者が持つ将来情報は、人が加える必要があります。
欠品中の商品は出荷実績が少なく見える
需要が100個あったのに在庫が60個しかなく、60個しか出荷できなかった場合、CSVだけでは「60個しか売れなかった」ように見えます。欠品が多い商品では出荷実績だけで需要を判断しないことが重要です。
季節商品を単純平均しない
夏だけ売れる商品、年度末に集中する商品などは年間平均だけを見ると実態を見誤ります。前年同月なども確認します。
AIは発注候補を出し、人が最終判断する
AIは大量の数字の中から見るべき商品を絞り込み、判断理由を整理する用途に向きます。最終的な発注数量やタイミングは、在庫状況、営業案件、資金繰り、仕入条件なども考慮して人が決めます。
仕入先の納期変更を発注点へ反映できれば、次の欠品を防ぎやすい
在庫管理というと自社の販売実績ばかりを見がちですが、卸売業では仕入先側の変化も大きな影響を与えます。納期延長、欠品、生産終了、最低発注数量の変更などです。
営業や仕入担当者が情報を知っていても、発注点に反映されなければ現場は昔と同じ基準で発注してしまいます。そのため、月1回の発注点見直しでは販売側の出荷実績だけでなく、仕入先側の納期変更も確認する運用にします。
たとえば、前月までの出荷実績CSVを出す→出荷量が変わった商品をAIで抽出する→納期変更商品を確認する→発注点候補を再計算する→人が最終確認する→変更理由をExcelへ残す、という流れなら、既存業務の延長で始められます。
まとめ|高額な需要予測システムより先に「月1回の発注点見直し」を始める
販売管理システムの在庫数と倉庫の実在庫が合わない会社では、まず「帳簿上の在庫と現物が合わない問題」と「発注点が今の販売量や納期に合っていない問題」を分けて考えてください。
前者は返品、入出庫、預かり品、棚卸差異などを現場で確認する必要があります。AIだけで解決することはできません。
一方、後者は出荷実績CSV、商品別の仕入リードタイム、現在の発注点、安全在庫、仕入先の納期変更を整理すれば、AIを使って見直し候補を出すことができます。
重要なのは、すべての商品を一度に自動化しないことです。まず売れ筋商品、欠品が多い商品、在庫金額が大きい商品から始め、月1回AIに「変化した商品だけ」を抽出させます。
中小の卸売業・商社であれば、需要予測システムを導入する前に、今ある販売管理システム、Excel、CSVで改善できる余地が残っていることがあります。発注点を見直す仕組みができたら、次は仕入先の納期変更をどう早く反映するかまでつなげると、欠品と過剰在庫の両方を減らしやすくなります。
よくある質問
販売管理システムの在庫が合わない状態でもAIは使えますか?
使えますが、用途を分ける必要があります。AIだけで実在庫を正しくすることはできません。棚卸差異や返品、入出庫漏れなどは現物確認が必要です。一方で、過去の出荷実績を分析したり、現在の発注点が販売量や仕入納期に合っているかを確認したりする用途には活用できます。
ExcelをやめないとAIは使えませんか?
必ずしもExcelをやめる必要はありません。中小企業では、現在使っているExcelの列名や更新方法を整理し、そのデータをAIで分析する方法から始める方が現実的です。
何か月分の出荷実績が必要ですか?
まずは直近3〜6か月程度から始める方法があります。ただし、季節性のある商品や年度末だけ出荷量が増える商品では、前年同月など、より長い期間の確認が必要になることがあります。
AIが発注数量を自動で決めてくれますか?
発注点や発注数量の候補を計算させることはできますが、そのまま自動採用するのはおすすめしません。大型案件、仕入先の欠品、価格改定、資金繰りなど、過去データだけでは分からない情報があるためです。
需要予測システムを入れた方がよいのはどんな会社ですか?
商品点数、倉庫数、発注件数が多く、人による月次確認では処理しきれない会社は専門システムを検討する価値があります。多拠点での在庫最適化や日次の自動補充まで求める場合は、AI+Excelだけでは運用負荷が大きくなります。
ご相談・お問い合わせ
販売管理システムを入れ替えなくても、現在の出荷実績やExcelを整理することで、発注点を見直せる場合があります。
- 基幹システムの在庫数を現場が信用していない
- 倉庫担当者のExcelで発注している
- 欠品と過剰在庫が同時に起きている
- 発注点を何年も変更していない
- 需要予測システムを入れるほどではないと感じている
という会社は、まず「今あるデータでどこまで改善できるか」を確認してみるとよいでしょう。
相談時には、商品点数、月間出荷件数、出荷実績CSVの項目、現在使っている発注Excel、主な仕入先の納期、欠品しやすい商品、過剰在庫になっている商品などが分かると整理しやすくなります。
