「AIを使ってみたいのですが、守秘義務が心配で手が止まっています」。行政書士事務所の所長からご相談をいただくとき、最初に出てくるのはたいていこの一言です。業務効率化の必要は感じている、無料で試せるツールがあることも知っている、それでも依頼者の在留カードや決算書を扱う仕事である以上、軽い気持ちで貼り付けるわけにはいかない。そのお気持ちは、実務を預かる立場としてまったく自然なものだと思います。
一方で、事務所の外に目を向けると、同業の先生がAIで書類のたたき台を作り、面談メモを整形し、依頼者への案内文を数分で仕上げている場面も増えてきました。使わない判断も一つの見識ですが、「危ないかもしれないから全部やめる」と「よく分からないまま全部入れる」の間には、実務で運用できる中間の線がきちんと引けます。その線引きを一度決めてしまえば、日々の判断はほとんど自動化されます。
この記事では、行政書士事務所がAIを使うときに扱う情報を「そのまま入れる」「匿名化して入れる」「入れない」の3区分に分け、在留カード、登記事項証明書、決算書、面談メモ、契約書案、公開情報といった実際の資料をその区分に当てはめていきます。あわせて、行政書士法第12条と個人情報保護法がAI利用にどう関わるのか、「学習させない」設定が実際には何を止めているのか、1〜4名の事務所が現実的に選べる構成はどれか、匿名化はどんな手順で回すのかまでを整理します。
当社は埼玉県のITコーディネータ事務所として、士業事務所を含む中小事業者のAI・ITツール導入と、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の申請サポートを行っています。ここに書く内容は、実際に事務所の運用ルールを一緒に決めてきた経験に基づくものです。記載の制度・料金は2026年9月時点の情報であり、最終的な判断はご自身の事務所の状況と最新の公式情報で確認してください。
結論:行政書士のAI利用は、ツール選びより先に「情報の3区分」を決めるところから始めてください。依頼者を特定できる情報は原則として入れず、必要なら氏名や住所を案件番号に置き換えて入れる。公開されている情報と、依頼者と結び付かない一般的な質問はそのまま入れる。この3本の線を紙1枚にして事務所に貼るだけで、AI利用に伴う不安の大半は運用可能な手順に変わります。
結論:AI利用は「3区分」を決めれば運用できる
守秘義務とAIの話は、突き詰めると「どの情報が事務所の外に出るか」という一点に集約されます。ところが実務の現場では、この問いが「ChatGPTは安全か」「有料版なら大丈夫か」という道具の話にすり替わりがちです。道具の仕様は数か月で変わりますが、扱う情報の性質は変わりません。ですから、先に情報の側を分類し、その分類に道具を当てはめる順番で考えるほうが、結果として長持ちするルールになります。
当社が事務所と一緒にルールを決めるときは、まず机の上の書類を思い浮かべてもらい、それを3つの箱に振り分けてもらいます。箱Aは「そのまま入れてよいもの」、箱Bは「匿名化すれば入れてよいもの」、箱Cは「入れないもの」です。3つに絞るのは、判断を数秒で終わらせるためです。5段階、7段階と細かくすると、忙しい日には必ず判断が止まり、最終的に「面倒だからAIを使わない」か「面倒だから全部入れる」のどちらかに振れてしまいます。
3区分を分ける2つの問い
振り分けの基準は2つの問いだけです。1つ目は「その情報から、依頼者または関係者が特定できるか」。氏名、住所、生年月日、会社名、許可番号、在留カード番号などが入っていれば、当然ながら特定できます。2つ目は「その情報は、すでに公開されているか」。法令の条文、行政庁が公表している手引き、申請様式、自社サイトに掲載済みの料金表などは、外部に出ても新たな漏えいにはなりません。
1つ目が「いいえ」で2つ目が「はい」なら、それは箱Aです。1つ目が「はい」でも、氏名や番号を置き換えれば内容としては一般化できる場合は箱Bになります。置き換えても文脈から誰のことか分かってしまう場合、あるいは資料そのもの(画像やPDF)を丸ごと渡す必要がある場合は箱Cです。この2問だけなら、書類を手に取った数秒で判断できます。

3区分の基本表
| 区分 | 定義 | 代表例 | 使う場面 |
|---|---|---|---|
| A:そのまま入れる | 依頼者と結び付かない、または公開済みの情報 | 法令の条文、行政庁の手引き、申請様式、一般論としての質問、自社の料金表 | 要件の下調べ、文章の言い換え、案内文の雛形づくり |
| B:匿名化して入れる | 依頼者と結び付くが、識別情報を外せば一般化できる情報 | 面談メモ、事実関係の経緯、契約書案の条項、事業内容の説明文 | 下書き作成、論点整理、文章の構造化、抜けの指摘 |
| C:入れない | 本人確認書類、原本性のある資料、機微な事情を含む記録 | 在留カード、パスポート、住民票、戸籍、決算書の原本データ、通帳、診断に関する記録 | AIには渡さず、人が読んで必要部分だけBに落として使う |
迷ったときは1段階下げる
運用していると、どちらとも言い切れない資料が必ず出てきます。そのときの原則を先に決めておいてください。当社がお勧めしているのは「迷ったら1段階下げる」です。AかBかで迷ったらB、BかCかで迷ったらCに置く。判断に時間をかけるより、安全側に倒して先に進むほうが、事務所全体の生産性は上がります。1段階下げても、AIから得られる助けが完全に失われるわけではありません。
もう一つ、区分は「資料単位」ではなく「使う目的単位」で考えると精度が上がります。同じ決算書でも、原本のPDFを読み取らせるのは箱Cですが、「売上高が3期連続で減少している建設業者の、事業の現状をどう記述すべきか」という抽象化された問いは箱Aに近づきます。資料そのものを渡すのか、資料から抽出した論点だけを渡すのか。この違いを意識するだけで、使える場面はかなり広がります。
実際の資料を3区分に当てはめる
抽象的な基準だけでは現場が動きません。ここでは行政書士事務所で日常的に扱う資料を、具体的に振り分けていきます。分野は入管、建設業許可、相続・遺言、法人設立、補助金支援などを想定しています。事務所の取扱分野によって微調整は必要ですが、考え方の骨格は共通です。
入れない資料(区分C)
在留カード、特別永住者証明書、パスポート、運転免許証、マイナンバーカードといった本人確認書類は、画像でもテキスト書き起こしでも入力しません。番号そのものが強い識別子であり、生年月日や国籍と組み合わさると、置き換えでは守り切れない情報になります。マイナンバーについては、番号法(行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律)が利用範囲を限定しているため、そもそも業務目的外の取扱いをしない前提で運用してください。
住民票、戸籍謄本、除籍謄本、登記事項証明書の原本データも区分Cに置きます。相続の案件で相続関係説明図を作るとき、戸籍を丸ごと読ませたくなる気持ちは分かりますが、そこには依頼者以外の第三者の情報が大量に含まれています。第三者の情報は、その人の同意を得ることが実際上できません。読み取りが必要な場面では、事務所内で完結する文字認識ソフトを使うか、人が読んで必要事項だけを転記する運用にします。
決算書、確定申告書、通帳の写し、賃金台帳なども原則として区分Cです。ただし後述するとおり、数値を丸めたり比率に置き換えたりすれば、区分Bとして扱える場面はあります。加えて、依頼者の健康状態、家族間の対立、過去のトラブルといった機微な事情を含む面談記録は、匿名化しても内容から特定される可能性が残ります。こうした記録は原則として入れず、必要な部分だけを一般化して扱ってください。
匿名化して入れる資料(区分B)
区分Bの中心は、面談で聞き取った事実関係の経緯です。「いつ来日し、どの在留資格で、どの会社にどれくらい勤めているか」「いつ会社を設立し、どの業種でどの程度の工事実績があるか」といった情報は、氏名・会社名・具体的な地名・日付の一部を置き換えれば、内容としては一般的な事案になります。この状態にしてから、理由書の構成案や、聞き漏らしの指摘をAIに求めるのが実務的です。
契約書案や合意書案の条項も、当事者名と金額を伏せれば区分Bで扱えます。条項の抜け、用語の不統一、条番号のずれといった機械的な確認は、AIが得意とする領域です。ただし、条項の妥当性そのものは行政書士が判断する部分であり、他士業の業務範囲に触れる論点であればなおさら、AIの出力をそのまま採用してはいけません。
補助金の事業計画書に書く事業内容も、区分Bとして扱いやすい情報です。「埼玉県内で従業員5名の建設業者が、案件管理をクラウド化して現場との連絡工数を減らす」という程度まで抽象化すれば、会社が特定される要素はほぼ消えます。そのうえで、文章の構成や表現の整理をAIに手伝わせ、事業者固有の数値と固有名詞は最後に人が戻す。この順番が安全です。
そのまま入れてよい情報(区分A)
法令の条文、行政庁が公表している審査要領や手引き、申請様式のひな形、公表された統計、自社サイトに掲載済みの料金や事務所案内は、区分Aです。これらをAIに読ませて要点を整理させたり、依頼者向けにやさしい言葉へ言い換えさせたりする使い方は、守秘義務の観点では問題になりにくい領域です。むしろ、こうした作業こそAIを入れる価値が大きい部分だと考えています。
ただし、公開情報であってもAIの回答が正確とは限りません。要件や期限の記述は、必ず一次情報にあたって確認してください。出入国在留管理庁や所管する自治体の公表資料など、根拠となるページを開いて突き合わせる工程を、事務所の手順として組み込んでおくことをお勧めします。
| 資料・情報 | 区分 | 理由と補足 |
|---|---|---|
| 在留カード、パスポート、免許証 | C | 番号と生年月日が強い識別子。画像・書き起こしとも不可 |
| 住民票、戸籍、除籍 | C | 第三者の情報を含み、同意取得が現実的でない |
| 登記事項証明書(他人の会社を含む) | C | 公開請求は可能だが、案件との結び付きが露見する |
| 決算書・確定申告書の原本データ | C | 数値と社名の組み合わせで特定されやすい |
| 通帳、賃金台帳、健康に関する記録 | C | 機微な情報を含み、匿名化では守り切れない |
| 面談メモ(氏名・社名を置換したもの) | B | 経緯の整理、論点抽出、聞き漏らしの指摘に有効 |
| 契約書案の条項(当事者名・金額を伏せる) | B | 形式面の確認に向く。妥当性の判断は人が行う |
| 事業計画の事業内容(抽象化後) | B | 固有名詞と実数は最後に人が差し戻す |
| 決算数値を比率・幅に丸めたもの | B | 「売上高が3期で約2割減」程度まで丸める |
| 法令の条文、行政庁の手引き、様式 | A | 公開情報。要点整理・言い換えに有効 |
| 一般論としての手続きの質問 | A | 依頼者と結び付かない問いにする |
| 自社の料金表、事務所案内、サイト掲載文 | A | すでに公開済み。文案の改善に使える |
行政書士法第12条とAI利用の関係
守秘義務の根拠として最初に挙がるのが、行政書士法第12条です。同条は、行政書士が正当な理由がなく、業務上取り扱った事項について知り得た秘密を漏らしてはならない旨を定めています。そして、行政書士でなくなった後も同様である旨が続きます。つまり、廃業しても、事務所を畳んでも、秘密を守る義務は消えません。この「業務上知り得た秘密」の範囲は広く、依頼者から聞いた事情だけでなく、資料から読み取った事実や、依頼に至らなかった相談内容も含まれると考えるのが安全です。
AIへの入力は「漏らす」ことになるのか
ここが多くの先生が悩まれる点です。AIサービスに情報を入力すると、その情報は事業者のサーバーに送信され、処理されます。人間の第三者に見せるわけではないので直感的には「漏らした」感じがしませんが、事務所の管理下を離れて外部の事業者に渡っている、という事実は変わりません。当社としては、外部送信は「漏示のリスクが生じる行為」であり、少なくとも慎重な取扱いが求められる、という前提で運用設計をしています。
もっとも、外部のクラウドサービスを一切使わずに現代の事務所運営を行うのは現実的ではありません。メールも会計ソフトも申請システムも、多くが外部のサーバーを経由しています。ですから論点は「外部を使うか否か」ではなく、「どのような契約と設定のもとで、どの情報を、どこまで渡すか」に移ります。AIだけを特別視するのではなく、既存のクラウド利用と同じ物差しで評価するのが筋の通った整理です。
ただし、AIには既存のクラウドと異なる点が2つあります。1つは、入力内容がモデルの改善(学習)に使われる可能性があること。もう1つは、入力が自然言語であるため、意図せず多くの文脈をまとめて渡してしまいやすいことです。ファイルを1つ添付するのとは違い、会話の流れで背景事情まで書いてしまう。この2点への対処が、AI固有の守秘義務対策の中心になります。
「正当な理由」をどう考えるか
第12条は「正当な理由がなく」漏らしてはならないという構造です。法令に基づく開示や、本人の同意がある場合は正当な理由に含まれると一般に理解されています。では、依頼者から「AIを使って構いません」と同意を得れば区分Cの資料も入れてよいのか。理屈のうえでは同意が意味を持つ場面はありますが、当社は実務上お勧めしていません。依頼者は具体的なリスクを評価できる立場になく、後日「そこまで理解して同意した覚えはない」と言われたときに、事務所側が説明責任を負うことになるためです。
同意を取るのであれば、何を、どのサービスに、どんな設定で入力し、どのようなリスクが残るのかまで説明できる状態が前提です。それだけの説明ができる体制があるなら、そもそも区分Cを入れる必要がない設計にできているはずです。同意は「入れてよい範囲を広げる道具」ではなく、「区分Bの運用を透明にする道具」として使うのが健全だと考えています。
懲戒と、他の法律との関係
守秘義務違反は、行政書士法上の懲戒処分の対象となり得ます。また、刑法の秘密漏示罪は行政書士を直接の主体としていませんが、個人情報保護法の違反や、依頼者からの民事上の損害賠償請求といった別のルートで責任を問われる可能性は残ります。ここで重要なのは、罰の重さを競うことではなく、事故が起きたときに「事務所として合理的な手順を定め、守っていた」と説明できるかどうかです。ルールを紙にしておく意味は、まさにそこにあります。
個人情報保護法から見たAI利用
行政書士事務所は、扱う個人情報の件数にかかわらず個人情報取扱事業者に該当します。1人事務所であっても例外ではありません。したがって、利用目的の特定と通知、安全管理措置、第三者提供の制限といった義務が一通りかかってきます。AI利用はこのうち、主に「第三者提供と委託」「外国にある第三者への提供」「安全管理措置」の3点に関わります。
第三者提供か、委託か
個人データを外部に渡す場合、原則として本人の同意が必要ですが、利用目的の達成に必要な範囲で取扱いを委託する場合は、同意なしに渡せる整理になっています。クラウドサービスの利用は、事業者側が入力データを自らのために利用しない旨が契約で定められ、適切なアクセス制御がある場合には、そもそも「提供」に当たらないと解される場面もあります。個人情報保護委員会の公表するQ&Aでも、この点の考え方が示されています。
問題は、無料の個人向けプランを既定の設定のまま使う場合です。入力内容がモデル改善に利用される設定になっていれば、事業者が自らのためにデータを使っていることになり、単純な委託やクラウド例外の枠に収まりにくくなります。ここが、後述する「プランと設定の違い」が法的な整理にまで影響してくる理由です。同じツールでも、契約と設定が違えば評価が変わります。
外国にある第三者への提供
主要なAIサービスの多くは海外事業者が提供しており、データの処理先も国外である場合があります。外国にある第三者への個人データの提供には、原則として本人の同意と、移転先の国の制度に関する情報提供が求められます。委託として整理する場合でも、越境移転の規律は別途かかり得るため、国内リージョンでの処理を明示している法人向けプランを選ぶか、そもそも個人データを渡さない設計にするかの二択で考えるのが実務的です。
当社が1〜4名規模の事務所にお勧めしているのは後者、つまり「そもそも個人データを渡さない設計」です。越境移転の要件を丁寧に満たす体制を1人事務所で維持するのは負担が大きく、匿名化して渡す運用に切り替えたほうが、コストも説明責任も軽くなります。
利用目的と安全管理措置
利用目的の特定については、事務所のプライバシーポリシーに「業務の遂行に必要な範囲での外部サービスの利用」といった記載を加えておくと整理がしやすくなります。安全管理措置は、組織的・人的・物理的・技術的の4つの観点で考えます。AIに関して言えば、誰がどのアカウントで使うかを決めるのが組織的措置、補助者への教育が人的措置、事務所外の端末での利用制限が物理的措置、アカウントの二要素認証や設定の統一が技術的措置に当たります。
| 論点 | 行政書士法第12条の視点 | 個人情報保護法の視点 | 事務所での実装 |
|---|---|---|---|
| 依頼者情報の入力 | 業務上知り得た秘密の漏示リスク | 個人データの提供・委託の整理 | 区分Cは入力しない、区分Bは置換してから入力 |
| 海外サーバーでの処理 | 管理外への移転として慎重に扱う | 外国にある第三者への提供の規律 | 個人データを渡さない、または国内処理を明示するプランを選ぶ |
| 学習への利用 | 秘密が不特定の出力に混ざる懸念 | 委託・クラウド例外の前提が崩れる | 学習利用オフを既定にし、設定の証跡を残す |
| 補助者の利用 | 使用人にも同様の管理を及ぼす | 従業者の監督 | アカウントを分け、利用規程を書面で周知 |
| ログの保持 | 退所後・廃業後も義務が続く | 安全管理措置の一部 | 保持期間を確認し、不要な履歴を定期的に削除 |
「学習させない」設定は何を止めているのか
AI利用の相談でもっとも誤解が多いのが、この論点です。「学習させない設定にしたから安全です」という説明をよく耳にしますが、正確には「学習に使われない」ことと「データが残らない」ことは別の話です。この2つを混同したまま運用を始めると、事故が起きたときに何が起きたのか説明できなくなります。

学習利用とログ保持は別の設定
学習利用の停止は、入力した内容がモデルの改善に使われないようにする設定です。これをオフにしても、多くのサービスでは不正利用の監視や障害対応のために、一定期間ログが保存されます。保存期間はサービスや契約形態によって異なり、数十日程度とされているものもあれば、契約次第で保存自体を抑えられるものもあります。2026年9月時点でも各社の仕様は改定が続いているため、導入時に必ず最新の利用規約とデータ処理に関する説明を確認してください。
実務上の意味を整理しておくと、学習利用が止まっていれば「他人の画面に自分の依頼者の情報が出てくる」タイプの心配は小さくなります。一方で、ログが残る以上、事業者側の管理体制に依存する部分は残ります。だからこそ、区分Cの資料は設定の如何にかかわらず入れない、という線引きが効いてくるわけです。設定はリスクを下げますが、ゼロにはしません。
個人プランと法人プランの実務的な違い
個人向けの無料・有料プランでも、学習利用をオフにする設定はたいてい用意されています。ただし、設定が個々のアカウント任せであること、契約上の責任範囲が個人利用者向けの規約に基づくこと、管理者がメンバーの設定状況を確認できないことが弱点です。1人事務所であれば自分の設定を確認すれば済みますが、補助者やパート職員がいる事務所では、誰か1人が設定を変えたまま使う可能性が残ります。
法人向け・チーム向けのプランでは、学習利用を既定でオフにしたうえで、管理者がメンバーのアカウントを一元管理できます。データの取扱いに関する契約条項も事業者向けの内容になり、監査や退職時のアカウント停止も管理画面から行えます。2名以上の事務所であれば、月額の差額よりも管理のしやすさの価値が上回る場面が多いと感じています。料金は1ユーザーあたり月額数千円程度が目安ですが、為替やプラン改定で変動します。
もう一段進めると、APIを使って事務所専用の仕組みを作る選択肢もあります。API経由の入力は既定で学習に使われない扱いとしている事業者が多く、ログの保持方針も明示されています。ただし、作った仕組みを維持する手間が発生しますし、開発を外注すれば構築費もかかります。1〜4名の事務所であれば、まずは法人プランの範囲で運用を固め、繰り返し発生する定型作業が見えてきた段階でAPI化を検討する順番が現実的です。
| 項目 | 個人プラン | 法人・チームプラン | API・専用構築 |
|---|---|---|---|
| 学習利用の既定 | 設定でオフにできるが個々人任せ | 既定でオフの扱いが一般的 | 既定で学習に使わない扱いが一般的 |
| 管理者による統制 | できない | 管理画面でメンバーと設定を一元管理 | 設計次第で細かく制御できる |
| 契約上の位置づけ | 個人利用者向け規約 | 事業者向けの条項が用意される | 利用規約に加え個別の取り決めも可能 |
| 費用の目安(2026年9月時点) | 無料〜月額数千円 | 1ユーザー月額数千円〜 | 従量課金+構築費数十万円〜 |
| 1〜4名事務所への適性 | 区分Aの用途に限れば可 | 区分A・Bを日常的に使うなら推奨 | 定型作業が固まってから検討 |
1〜4名事務所の現実解
ここまで読んで「結局どこまでやればいいのか」と感じられたかもしれません。当社が1〜4名の事務所にお伝えしている現実解は、思ったよりも簡単です。守秘義務対策の9割は、ツールへの投資ではなく「入れない情報を決めること」と「置換の手順を決めること」で達成できます。残りの1割が、プラン選びと設定です。
まず1週間でやること
初日にやるのは、この記事の区分表を自分の事務所の取扱分野に合わせて書き換え、A4一枚に印刷して机に貼ることです。所要時間は30分程度です。次に、使っているAIサービスの設定画面を開き、学習利用に関する項目と履歴の保存に関する項目を確認し、スクリーンショットを撮って保存します。これが「合理的な手順を定めて守っていた」という説明の証跡になります。
3日目以降は、実際の案件で区分Bの運用を試します。面談メモを1件だけ選び、氏名と社名を置き換えてAIに渡し、論点整理をさせてみる。ここで置換の手間がどれくらいか、出力をどこまで信用できるかの肌感覚が得られます。1週間で「使える場面」と「使えない場面」の輪郭が見えれば、初期段階としては十分です。
構成パターンの選び方
事務所の人数と、扱う情報の機微さによって、適した構成は変わります。1人事務所で区分Aの用途が中心なら、個人の有料プランに設定を入れるだけで足ります。補助者がいて面談メモを日常的に扱うなら、法人プランでアカウントを分ける構成が向いています。案件管理システムと連携させて更新期限の管理まで自動化する段階になると、専用の構築が視野に入ってきます。
| 構成 | 向いている事務所 | 初期費用の目安 | 月額の目安 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 個人プラン+区分ルール | 1人事務所、区分Aが中心 | 0円 | 無料〜数千円 | 設定の確認を自分で継続する必要がある |
| 法人プラン+アカウント分離 | 2〜4名、補助者が使う | 0〜数万円 | 1人あたり数千円〜 | 退職時のアカウント停止手順を決めておく |
| 法人プラン+案件管理連携 | 期限管理まで自動化したい | 構築費数十万円〜 | 数千円〜数万円 | 連携先に個人データを置く設計になるため保管場所の整理が必要 |
| API+事務所専用の仕組み | 定型処理が大量にある | 構築費数十万円〜 | 従量課金+保守費 | 作って終わりにせず保守の担当を決める |
補助金を使う場合の考え方
案件管理と連携させる構成や、事務所専用の仕組みを作る構成では、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の活用を検討できる場合があります。行政書士事務所も、個人事業であれば中小企業者等として対象になり得ます。ただし、対象となる経費の範囲や類型は年度ごとに変わりますので、公募要領で必ず最新版を確認してください。ソフトウェアの利用料が一定期間分まとめて対象になる類型もあり、初期費用の負担感は変わってきます。
補助金を使うかどうかにかかわらず、守秘義務の設計そのものは先に決めておくことをお勧めします。補助金の審査で問われるのは「導入して何が改善するか」であり、その改善の前提として、扱う情報の整理ができていることが説得力につながります。順番としては、区分を決める、運用を試す、効果が見えたら投資を検討する、という流れが自然です。
匿名化の手順テンプレート
区分Bを実際に回すには、匿名化の手順が要ります。ここを場当たりでやると、置換漏れが起きたり、出力を元に戻すときに混乱したりします。当社が事務所にお渡ししている手順は、置換・利用・復元の3工程です。

置換ルールを先に決める
置換のコツは、案件ごとに毎回考えないことです。事務所として置換の対応表を1つ決め、どの案件でも同じ記号を使います。依頼者の氏名は「依頼者A」、依頼者の勤務先は「勤務先X」、代表者は「代表者A1」といった具合です。記号を統一しておくと、AIの出力に含まれる記号を機械的に置き戻せますし、複数の案件をまたいでも混乱しません。
日付は、正確さが要る場面と要らない場面を分けます。在留期限や許可の有効期限のように計算に関わる日付は、年月まで残して日を伏せるか、「令和X年3月末」のような形にします。単なる経緯の日付であれば「入社から約4年」のように期間に置き換えるほうが安全です。地名も同様で、「埼玉県内の市」程度に丸めれば、内容の理解には支障がありません。
| 元の情報 | 置換後の表記 | 置換の考え方 |
|---|---|---|
| 依頼者の氏名 | 依頼者A | 案件内で一貫した記号にする |
| 依頼者の家族の氏名 | 配偶者A2、子A3 | 続柄が分かる記号にすると文脈が保てる |
| 会社名・屋号 | 勤務先X、申請会社Y | 役割が分かる記号にする |
| 住所 | 埼玉県内の市 | 都道府県+市区町村の粒度まで丸める |
| 生年月日 | 30代前半 | 年代に置き換える。年齢要件がある場合のみ年齢を残す |
| 在留カード番号、許可番号 | 削除する | 置換ではなく削除。番号は文脈上ほぼ不要 |
| 具体的な日付 | 令和X年3月、または「約4年前」 | 計算に必要なら年月まで、不要なら期間表現 |
| 金額 | 約1,000万円規模 | 桁が分かる程度に丸める |
| 案件の識別 | 案件番号(例:2026-0142) | 事務所内の台帳と対応させ、AI側には意味を持たせない |
復元の工程を忘れない
置換したまま提出書類を作ってしまう事故が、意外と起きます。AIが返してきた文章には「依頼者A」「勤務先X」が残っていますから、これを実名に戻す工程を必ず手順に入れてください。文書作成ソフトの置換機能を使えば数十秒で終わりますが、置換後に必ず全文を目で追う時間を取ります。記号が1つでも残っていれば、それは形式的な瑕疵として目立ちます。
復元の際は、数値と日付にも注意が必要です。「約4年前」と丸めた部分は、正確な日付に戻さなければなりません。丸めた情報は復元の手がかりが文書内に残っていないため、置換時のメモを案件ファイルに残しておく運用が要ります。当社では、置換前の原文と置換後の文章を案件フォルダに並べて保存し、復元時に突き合わせる方法をお勧めしています。
匿名化しても危ないケース
匿名化は万能ではありません。特徴的な事案では、氏名を消しても内容から特定される可能性があります。例えば、地域で1社しかない業種の許可申請、報道された出来事に関連する相談、非常に珍しい在留資格の事案などです。こうした場合は、匿名化しても区分Cとして扱い、AIには一般論の質問だけを投げるか、そもそも使わない判断をしてください。
また、複数の会話を積み重ねると、個々には特定できない情報が結び付いて特定に至ることがあります。同じ会話スレッドで長く続けるほどこのリスクは上がりますので、案件ごとに新しい会話を始め、終わったら履歴を削除する運用が有効です。手間はかかりますが、この一手間が再識別のリスクを実務的な水準まで下げてくれます。
事務所のAI利用ルールを1枚にまとめる
ここまでの内容を、事務所の文書として残しておきます。分厚い規程は要りません。A4で1〜2枚、読んで5分で理解できる分量が適当です。目的は、所長不在のときに補助者が迷わないこと、そして万一の際に「手順を定めていた」と示せることの2つです。
規程に書く項目
最初に書くのは、使ってよいサービスの名前です。「事務所が契約した法人プランのアカウントでのみ利用する」と明記し、個人アカウントの業務利用を禁じます。次に情報の3区分を載せます。区分Cの具体例は、事務所の取扱分野に合わせて書き出してください。抽象的な「機微な情報」という表現だけでは、判断が人によってぶれます。
続いて、匿名化の置換ルール、履歴の削除タイミング、事故が起きたときの報告先を書きます。報告先は「所長へ即日」と明記し、報告した人を責めない旨も一文入れておくと、隠蔽を防げます。最後に、規程の見直し時期を書きます。AIサービスの仕様は改定が続くため、半年に一度は設定と規程を突き合わせる日を決めておくと安心です。
| 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 使用してよいサービス | 事務所契約の法人プランのみ。個人アカウントでの業務利用は行わない |
| 入力してよい情報 | 区分A・Bのみ。区分Cは設定にかかわらず入力しない |
| 匿名化の方法 | 事務所共通の置換テンプレートに従う。番号は置換ではなく削除 |
| 出力の取扱い | AIの出力は下書き。条文・要件・数値は一次情報で確認してから使う |
| 履歴の管理 | 案件終了後に会話履歴を削除。案件ごとにスレッドを分ける |
| 事故時の対応 | 気づいた時点で所長へ即日報告。報告者を責めない |
| 見直し | 半年ごとに設定画面と規程を突き合わせて更新 |
補助者と端末の扱い
補助者やパート職員がいる事務所では、アカウントを個人ごとに分けてください。共有アカウントは、誰が何を入力したか追えなくなるため、事故が起きたときに範囲を特定できません。分けておけば、退職時にそのアカウントだけ停止すれば済みます。行政書士法上、使用人その他の従業者にも秘密保持に関する規律が及ぶ構造になっていますので、雇用時の誓約書にAI利用のルールを一文加えておくと、周知の証跡にもなります。
端末についても一言決めておきます。自宅の私物端末で業務アカウントにログインすることを認めるかどうか。認めるなら、画面ロックと二要素認証を条件にする。認めないなら、その旨を書く。ここを曖昧にしたまま在宅作業が常態化すると、管理の実態が規程から乖離していきます。
依頼者への説明のしかた
AIを業務に使っていることを、依頼者にどう伝えるか。黙って使うのは避けたいところですが、必要以上に強調すると「私の情報が勝手に使われるのか」と不安を与えます。当社がお勧めしているのは、委任契約書に一文入れたうえで、面談で短く触れる方法です。伝える内容は「作業の効率化に使うが、本人が特定できる情報は入力しない」という一点に絞ります。
委任契約書に入れる一文の例
契約書に入れる場合は、次のような表現が使えます。「受任者は、業務の遂行にあたり、文書作成の補助等の目的で外部の情報処理サービスを利用することがあります。この場合においても、委任者を特定し得る情報を当該サービスに入力しない取扱いとし、行政書士法その他の法令に基づく秘密保持の義務を遵守します」。条番号や文言は、既存の契約書の体裁に合わせて調整してください。
この一文の狙いは、外部サービスの利用があり得ることを事前に開示しつつ、入力の範囲を自ら限定して示す点にあります。範囲を書かずに「外部サービスを利用することがある」とだけ書くと、かえって不安を招きます。何をしないかまで書くことで、説明としての強度が上がります。
面談で口頭で伝える一文の例
面談では、次のように短く伝えるのが自然です。「当事務所では、案内文の作成や書類の下書きにAIを使って作業を効率化していますが、お名前や在留カードなど、お客様が特定できる情報はAIには一切入力していません。最終的な内容の確認と責任は、行政書士である私が負います」。2文で終わります。長く説明するほど、依頼者は不安になります。
この説明には、副次的な効果もあります。効率化の取組みをしていることが伝わり、料金の根拠についても納得が得やすくなります。実際、当社が支援した事務所では、この一文を加えたことで「そこまで考えているなら安心」という反応をいただいた例が複数ありました。守秘義務への配慮は、コストではなく信頼の材料にもなります。
同意を取るべき場合、不要な場合
区分Aと区分Bの範囲で運用している限り、個別に同意を取る必要は低いと考えています。個人データを外部に提供していないためです。一方、どうしても個人データそのものを外部サービスで処理する必要が生じた場合、例えば依頼者本人の希望で外国語の資料を機械翻訳にかけるようなときは、事前に説明して同意を得る運用にしてください。その際は、どのサービスに、何を、どこまで渡すかを具体的に伝えます。
入力してしまったときの対応
どれだけ手順を整えても、うっかりは起きます。急ぎの案件で在留カードの画像を貼ってしまった、面談メモを置換せずに送ってしまった。こうしたときに何をするかを、あらかじめ決めておいてください。決めていないと、気づいた人が黙ってしまいます。
気づいた直後にすること
最初にやるのは、その会話を削除することです。多くのサービスでは会話単位で削除でき、削除後は一定期間で完全に消去される旨が説明されています。次に、何を、いつ、どのアカウントで入力したかを記録します。記憶が新しいうちに書き残しておかないと、後から範囲を特定できません。そのうえで所長に報告し、対応方針を決めます。
削除しただけで終わりにせず、なぜ起きたかを一行で残してください。「急いでいた」「置換テンプレートの場所が分からなかった」といった記録が積み上がると、手順のどこに無理があるかが見えてきます。人の注意力を頼りにする対策は長続きしないので、原因が手順側にあるなら手順を変えます。
依頼者への報告が必要かの判断
個人データの漏えい等が発生し、個人の権利利益を害するおそれが大きい場合には、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が求められます。AIサービスへの誤入力がこれに該当するかは、入力内容、サービスの設定、事業者側の取扱いによって変わります。判断に迷う場合は、単位会や顧問の専門家に相談し、判断の過程を記録に残してください。記録があること自体が、誠実に対応した証跡になります。
報告が必要と判断した場合は、事実関係を整理してから連絡します。何が入力されたか、いつ削除したか、その情報が第三者に閲覧された形跡があるか。分かっていることと分かっていないことを分けて伝えるのが、信頼を保つ伝え方です。
AIが間違える場所と、人が確認する場所
守秘義務の話と並んで押さえておきたいのが、AIの出力の限界です。守秘義務を守っていても、誤った内容の書類を出せば依頼者に損害が生じます。ここは分けて考えるべき論点ですが、実務では同じ「AIとの付き合い方」として一緒に整理しておくほうが運用しやすくなります。
間違えやすい3つの場所
1つ目は、要件と期限の記述です。在留資格の要件、建設業許可の経営業務の管理責任者に関する要件、申請の受付期間などは、制度改正で内容が変わります。AIは過去の情報をもとに、もっともらしい文章を作ります。条文名や期限が出てきたら、必ず一次情報で確認してください。この確認工程を省くと、AIを使う意味そのものが失われます。
2つ目は、数値の転記と計算です。決算数値の転記、期間の計算、金額の合計といった部分は、AIが自然な文章を作る過程で値が変わることがあります。3つ目は、依頼者の事情の細部です。匿名化した情報を渡すと、AIは足りない部分を一般的な事案で補って文章を作ります。書かれていない事実が、いつの間にか文章に紛れ込むことがあるのです。
確認を工程に組み込む
確認は、気をつけるのではなく工程にします。AIの出力を使う書類には、提出前に「条文・期限の確認」「数値の突合」「事実の裏取り」の3点を確認した記録を残す。チェック欄を案件表紙に印刷しておけば、補助者でも同じ品質で回せます。守秘義務のルールと同じで、人の記憶ではなく紙とテンプレートに仕事をさせるのが、小規模事務所での定着のこつです。
よくある質問
無料版のAIを業務に使ってもよいですか
区分Aの用途、つまり公開情報の要約や、依頼者と結び付かない一般的な質問に限れば、無料版でも実務上の支障は小さいと考えています。ただし、無料プランは学習利用に関する既定の設定や利用規約が有料プランと異なる場合があり、改定も頻繁です。使うのであれば、設定画面を確認したうえで、区分Bの情報は入れないと決めて運用してください。
補助者を含めて複数人で使う段階になったら、法人プランへの切り替えをお勧めします。理由は費用対効果というより、管理者がメンバーの設定を確認できることにあります。1人ひとりの設定を口頭で確認し続けるのは、現実的ではありません。
在留カードの画像を読み取らせたいのですが方法はありますか
クラウド型のAIサービスに直接読み取らせることは、当社ではお勧めしていません。代替案は2つあります。1つは、事務所内の端末で完結する文字認識ソフトを使う方法です。データが外部に出ないため、守秘義務の観点では扱いやすくなります。もう1つは、人が読んで案件台帳に転記し、以後はその台帳を使う方法です。
転記の手間が気になる場合は、そもそも読み取りが必要な回数を数えてみてください。1か月に数件であれば、手入力のほうが仕組みを作るより速く、リスクも小さく収まります。件数が多い事務所であれば、案件管理システム側に入力欄を設け、そこに人が入力する運用に切り替えるほうが、全体の工数は下がります。
会話履歴はどのタイミングで消せばよいですか
案件が完了した時点、または月末のいずれか早いほうを目安にしています。案件ごとにスレッドを分けておけば、完了時にまとめて削除できます。削除しても事業者側のログが一定期間残る場合がありますが、少なくとも自分のアカウント画面に依頼者に関する記述が残り続ける状態は避けられます。
削除を習慣にするには、月末の事務処理のリズムに組み込むのが確実です。請求書の発行日や、案件台帳の更新日と同じ日に設定しておくと、忘れにくくなります。
依頼者から「AIを使わないでほしい」と言われたらどうしますか
その希望は尊重してください。そのうえで、何を心配されているのかを確認すると、多くの場合「自分の情報が外部に出るのが不安」という点に行き着きます。であれば、「お客様が特定できる情報は入力していない」という事実を伝えることで、懸念が解消されることもあります。それでも希望が変わらなければ、その案件では区分Aの用途も含めて使わない運用にすればよいだけです。
案件単位で使う・使わないを切り替えられるようにしておくと、こうした要望に柔軟に応えられます。事務所の運用が「全案件でAI前提」になっていると、断りにくくなります。
翻訳ツールも同じように考えるべきですか
基本的な考え方は同じです。翻訳サービスも入力内容を事業者のサーバーに送信しますし、サービスによっては入力データを品質改善に利用する旨が規約に書かれています。依頼者の氏名や住所を含む文書をそのまま翻訳にかけるのは、区分Cの取扱いに近づきます。翻訳が必要な場合も、識別情報を置換してから渡す運用にしてください。
入管業務では翻訳の場面が多いため、事務所として法人向けの翻訳サービスを契約し、データの取扱い条件を確認しておくと運用が安定します。翻訳の精度そのものについても、専門用語や在留資格の名称は誤訳が起きやすい部分ですので、最終確認は人が行ってください。
1人事務所ですが、規程まで作る必要がありますか
作っておくことをお勧めします。1人であっても、将来補助者を雇うときにそのまま渡せますし、依頼者や関与先から情報管理について問われたときに示せる資料になります。何より、自分の判断基準を紙にしておくと、忙しい日の判断がぶれません。A4一枚で十分ですので、この記事の表をもとに30分で作ってみてください。
作った後は、半年に一度だけ見直します。設定画面を開いて現状と突き合わせ、変わっていれば直す。この習慣があるだけで、サービスの仕様改定に振り回されにくくなります。
AI導入に補助金は使えますか
デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)は、行政書士事務所も中小企業者等として対象になり得ます。案件管理と連携する仕組みの構築費や、登録されたITツールの利用料が対象となる類型があります。ただし、対象経費の範囲、補助率、締切は年度や公募回ごとに変わりますので、公募要領で必ず最新版を確認してください。
申請にあたっては、導入によって何がどれだけ改善するかを説明する必要があります。ここでも、先に区分ルールと運用を固めておいたほうが、説明が具体的になります。守秘義務の設計と補助金の申請準備は、別々の作業に見えて、実は同じ「業務の棚卸し」から始まります。
まとめとご相談
行政書士事務所のAI利用は、道具の善し悪しではなく、扱う情報の分類から設計するのが近道です。「そのまま入れる」「匿名化して入れる」「入れない」の3区分を決め、置換テンプレートを事務所で統一し、A4一枚のルールを貼る。これだけで、日々の判断は数秒で終わるようになります。行政書士法第12条と個人情報保護法の要請も、この設計の中で自然に満たされていきます。
そのうえで、事務所の規模と扱う分野に合わせてプランを選び、必要であれば案件管理との連携まで広げていく。1〜4名の事務所であれば、最初の一歩は個人プランの設定確認と区分表の作成で十分です。効果が見えてから投資を検討しても、遅くはありません。
当社では、事務所ごとの取扱分野に合わせた区分表の作成、AI利用ルールの雛形づくり、案件管理と連携する仕組みの構築までを、実際の運用に落とし込む形でご支援しています。どこまでやるべきかの見極めが難しい段階でこそ、外から一度整理してみる価値があると考えています。
ご相談ください:ベストプランナーでは、行政書士事務所のAI活用と、デジタル化・AI導入補助金の申請サポートをあわせてご支援しています。「自分の事務所だと何から手を付けるべきか」「この構築は補助金の対象になるか」の整理だけでもご相談いただけます。無料相談はこちら
