行政書士の仕事は、外から見ると「書類を書く仕事」に見えます。しかし実際に事務所を回している所長の感覚は、少し違うのではないでしょうか。手を動かしている時間の多くは、依頼者から話を聞き、足りない資料を催促し、聞いた内容を整理し直し、様式に合わせて言い換える作業に消えていきます。文章そのものを打ち込む時間は、案件全体から見れば意外と短いものです。
この状況で生成AIを使おうとすると、多くの方がまず「理由書を書いて」「事業内容を作って」と丸ごと依頼します。そして、出てきた文章を読んで落胆します。もっともらしい日本語ではあるものの、依頼者が言っていない事実が混ざっていたり、要件の書き方が事務所の作法と違っていたりする。結局、直す時間のほうが長くなり、「AIは使えない」という結論に落ち着いてしまいます。
当社は埼玉県でITコーディネータ事務所を営み、士業事務所を含む中小事業者のAI導入と、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の申請サポートを行っています。行政書士事務所の業務フローを一緒に組み直してきた経験から言えるのは、うまくいくかどうかは「AIの性能」ではなく「工程の切り方」でほぼ決まる、ということです。
この記事では、行政書士の書類作成にAIを組み込むときの4段階の型を、面談メモの取り方から分野別テンプレート、最終確認チェックリスト、依頼者への必要書類案内文の同時生成まで、実務の手順として順に説明します。2026年9月時点の一般的なツール環境を前提にしています。
結論:AIに書類を「書かせる」のではなく、ヒアリング、構造化、ドラフト、行政書士確認の4段に分けてください。AIに任せるのは真ん中の2段だけです。最初と最後を人が持つ設計にすると、直しの時間が減り、書類の質は下がりません。
AIに「書かせる」とうまくいかない三つの理由
まず、丸投げがなぜ失敗するのかを整理しておきます。原因が分かっていないと、ツールを乗り換えても同じ結果になるからです。
理由1:足りない情報を勝手に埋めてしまう
生成AIは、与えられた文脈から「自然に続きそうな文」を作る仕組みで動いています。ですから、材料が足りない箇所ほど滑らかに埋めてきます。面談で聞いていない従業員数、確認していない工事の実績、依頼者が一度も口にしていない来日の動機。こうした情報が、他の記述と同じ調子で紛れ込みます。
厄介なのは、その部分だけ文体が崩れるわけではない点です。読み返しても違和感が出にくいため、事実確認を意識して読まない限り見落とします。行政書士が作る書類は、依頼者の事実に基づいて作成する必要があります。事実でない記述が入った書面を提出してしまえば、責任は事務所側に返ってきます。
この性質は、プロンプトを工夫しても完全にはなくなりません。だからこそ、材料を先に確定させてから書かせる、という順番が要るのです。
理由2:事務所ごとの「書き方の作法」が反映されない
同じ許可申請でも、事務所によって書き方の癖があります。事業内容をどこまで具体的に書くか、実績をどの順で並べるか、審査担当者から過去に指摘を受けた表現を避けているか。こうした蓄積は、所長の頭の中にはあってもドキュメントにはなっていないことが多いものです。
AIは事務所の過去案件を知りません。何も渡さなければ、一般論として無難な文章を返します。無難な文章は、審査でわざわざ問題にはならない代わりに、事務所が積み上げてきた通りやすさの工夫も乗りません。過去の受任案件から良い書面を数件抜き出し、参考例として渡す作業が必要になります。
理由3:確認の手間が作成の手間を上回る
一番よくある失敗が、これです。ゼロから書けば30分の書面を、AIに書かせて10分で受け取り、事実確認と表現の直しに40分かかる。合計で50分になり、体感としては「余計に疲れた」となります。
確認に時間がかかるのは、どこを疑えばよいか分からないからです。全文を等しく疑って読むのは、自分で書くより負荷が高い作業になります。逆に言えば、「AIが埋めた箇所」と「人が確定させた箇所」が構造的に区別できていれば、確認は特定の箇所に集中できます。4段階に分ける最大の狙いは、この区別を作ることにあります。
書類作成AIは4段階に分けて設計する
ここからが本題です。行政書士の書類作成は、ヒアリング、構造化、ドラフト、行政書士確認の4段に切り分けます。1段目と4段目は人が主導し、2段目と3段目をAIに任せます。順番を守ることと、段の間で受け渡す形式を決めておくことが要点です。

第1段:ヒアリング(人が主、AIは記録係)
依頼者から事実を引き出す工程です。ここはAIに代替させません。何を聞くべきかの判断、話の矛盾に気づく感覚、言いにくそうにしている論点を掘る間合いは、実務経験のある人でなければ扱えません。AIの役割は、面談中の記録と、その後の整理に限定します。
ただし、聞き漏らしを減らす目的で、面談前に質問項目のたたき台をAIに作らせるのは有効です。分野と依頼者の属性を伝えれば、標準的な確認事項が一覧で返ってきます。そこから事務所の実情に合わせて足し引きすれば、若手や補助者でも一定水準の面談ができるようになります。
第2段:構造化(AIが最も得意な工程)
面談メモや文字起こしを、項目と値の一覧に変換する工程です。散らかった話し言葉から「会社名」「設立年月日」「常勤役員の経験年数」といった項目を抜き出し、表の形に並べ替えます。この作業はAIの得意分野で、しかも誤りが見つけやすい性質を持ちます。
なぜ見つけやすいかというと、抜き出した値の横に「メモのどの部分から取ったか」を書かせることができるからです。出典が示せない値は、AIが補ったものだと判断できます。文章の中に埋め込まれると見えなくなる創作が、表にすると一目で浮かび上がります。
第3段:ドラフト(テンプレート+確定した項目データ)
第2段で人が確認した項目データと、事務所のテンプレートを渡して文章を書かせる工程です。ここで大事なのは、面談メモを直接渡さないことです。渡すのは、確認済みの項目データだけにします。材料を絞れば、AIが創作する余地はかなり小さくなります。
テンプレートには、見出し構成、各段落で触れるべき論点、字数の目安、避けたい表現を書いておきます。分野別に一度作れば長く使えますし、事務所の作法をドキュメント化する機会にもなります。
第4段:行政書士確認(人が主、責任を持つ工程)
最後は必ず行政書士本人が読みます。ここを省くと、この設計は成り立ちません。ただし、全文を等しく疑うのではなく、後述するチェックリストの項目に絞って読みます。項目が決まっていれば、A4で2枚程度の書面なら10分から15分で確認できます。
| 段階 | 担当 | AIの役割 | 受け渡す形式 | 所要時間の目安 |
|---|---|---|---|---|
| 第1段 ヒアリング | 行政書士・補助者 | 質問項目の作成、録音の文字起こし | 面談メモ(見出し固定) | 面談60分+整理10分 |
| 第2段 構造化 | AI主、人が確認 | 項目と値への変換、不足項目の抽出 | 項目データ表 | AI1分+確認10分 |
| 第3段 ドラフト | AI主 | テンプレートに沿った文章生成 | ドラフト文書 | AI2分 |
| 第4段 確認 | 行政書士 | なし(人が読む) | 提出用書面 | 10〜20分 |
この表を事務所の壁に貼っておくだけでも、補助者への説明が楽になります。「AIに書かせた」ではなく「第3段までAIで進めた」という言い方が事務所内で通じるようになると、進捗の共有もしやすくなります。
第1段:AIが読める面談メモの取り方
4段階の設計で、成果を最も左右するのが面談メモです。ここが雑だと、後段でどれだけ工夫しても品質は上がりません。逆に、メモの形式を整えるだけで、AIの出力は目に見えて安定します。
録音と文字起こしをどう扱うか
面談を録音し、文字起こしをかける方法は、聞き漏らしの防止という点では有効です。ただし、文字起こしをそのままAIに渡すのはおすすめしません。話し言葉には、言い直し、脱線、第三者の話題、依頼者の私的な事情が大量に含まれます。それらを丸ごと渡すと、AIは重要度の判断を誤ります。
実務的なのは、文字起こしを一次資料として保管し、そこから面談直後に10分程度で要点メモを作る運用です。要点メモの作成自体もAIに手伝わせられますが、必ず人が読んで直します。この10分が、後段の直し時間を大幅に減らします。
録音については、依頼者に一言断りを入れてください。「記録を正確に残すために録音してよいか」と尋ねれば、断られることはあまりありません。断られた場合は手書きメモで進め、面談直後に清書します。
メモの見出しを固定する
面談メモは、案件ごとに書き方を変えないでください。見出しを固定すると、AIは「どこに何が書いてあるか」を安定して認識します。同じ見出しの下に情報がなければ、それは聞けていない項目だと機械的に判定できます。
当社が行政書士事務所に提案している標準の見出しは、次の表のとおりです。分野を問わず共通で使えるように作ってあります。分野固有の項目は、最後の見出しの下にぶら下げてください。
| 見出し | 書く内容 | 後段での使われ方 |
|---|---|---|
| 基本情報 | 依頼者名、法人か個人か、連絡手段、面談日時 | 案件番号の付与、書面のあて名 |
| 依頼の目的 | 何をしたいか、いつまでに必要か、理由 | ドラフト冒頭の目的記述 |
| 確認できた事実 | 資料や本人の説明で裏が取れている内容 | ドラフトの本文の材料 |
| 未確認・要裏付け | 本人の記憶のみ、資料待ちの内容 | 必要書類案内文、追加ヒアリング |
| 依頼者の希望と懸念 | 費用、期間、周囲に知られたくない事情 | 説明文のトーン調整 |
| 事務所側の判断メモ | 受任可否、料金、想定リスク | AIには渡さない内部メモ |
| 分野固有項目 | 建設業なら業種と実績、入管なら在留歴など | 分野別テンプレートの穴埋め |
「言っていないこと」を残す
見出しの中で特に重要なのが「未確認・要裏付け」です。行政書士の面談では、依頼者の記憶があいまいな箇所が必ず出ます。設立の年、前職の在籍期間、過去の許可の有無。これらを「たぶんこうだった」のまま確認済み欄に書いてしまうと、AIは確定事実として文章に組み込みます。
面談の場では、あいまいな回答をそのままあいまいなものとして記録してください。「本人の記憶では平成28年ごろ、履歴事項全部証明書で要確認」という書き方で構いません。この一行が、後で書面の誤りを防ぎます。
面談の場で確認しておく三つの事項
後段の手戻りを減らすため、面談中に押さえておきたい事項が三つあります。一つ目は期限です。いつまでに提出する必要があるのかを、依頼者の希望ではなく制度上の期限で確認します。二つ目は関係者の範囲です。他に説明が必要な人がいるかどうかで、作る書面の数が変わります。
三つ目は、資料の入手可能性です。必要書類のうち、依頼者が自分で取れるもの、取れないもの、時間がかかるものを面談中に仕分けしておくと、この後の案内文が具体的になります。「たぶん取れます」で終わらせず、どこの窓口に行くかまで一緒に確認しておくと親切です。
第2段:面談メモを項目データに変える
構造化は、この4段階の中でAIの費用対効果が最も高い工程です。人がやると地味に時間のかかる転記作業を、数十秒で終わらせられます。

構造化とは「表に落とすこと」
やることは単純で、面談メモを渡し、あらかじめ決めた項目名の一覧に沿って値を埋めさせます。出力は文章ではなく表にします。表にする理由は、確認しやすいことと、次のドラフト工程にそのまま渡せることの二つです。
項目名は分野ごとにあらかじめ用意しておきます。建設業許可なら、許可業種、経営業務の管理責任者の経験年数、専任技術者の資格、営業所の所在地、財産的基礎の確認方法といった具合です。一度作れば案件をまたいで使い回せます。
指示文には「出典」と「確度」を必ず入れる
構造化の指示文で外せないのが、値ごとに出典と確度を書かせる指定です。「メモに記載がない項目は空欄にし、推測で埋めないこと」「値の根拠となったメモの記述を、そのまま引用して併記すること」の2点を明記してください。
この指定があると、AIは埋められない箇所を空欄で返すようになります。空欄が並んでいるのを見ると不安になるかもしれませんが、それが実際の情報量です。埋まっているように見えて中身が創作である状態より、はるかに安全です。
| 項目 | 値 | 出典(メモの記述) | 確度 |
|---|---|---|---|
| 商号 | 株式会社◯◯建設 | 基本情報「株式会社◯◯建設 代表 △△様」 | 確認済 |
| 許可を受けたい業種 | 内装仕上工事業 | 依頼の目的「内装の元請けを取りたい」 | 確認済 |
| 常勤役員等の経験年数 | 約7年 | 未確認欄「前職で7年くらい」 | 要裏付け |
| 専任技術者の資格 | (空欄) | 記載なし | 未聴取 |
| 営業所の所在地 | さいたま市内(詳細未確認) | 基本情報「事務所はさいたま市」 | 要確認 |
不足項目リストを同時に出させる
構造化のついでに、もう一つ出力させたいものがあります。空欄や要裏付けの項目をまとめた「不足項目リスト」です。これは、依頼者への追加ヒアリングの台本になり、後で説明する必要書類案内文の材料にもなります。
不足項目リストが出てくると、面談直後に「あと何を聞けばよいか」が明確になります。案件を寝かせてしまい、依頼者から催促されて慌てて動く、という流れを防ぐ効果もあります。1人事務所ほど、この効果は大きいと感じています。
第3段:分野別テンプレートの作り方
ドラフト工程の品質は、テンプレートで決まります。ここでは、行政書士事務所で扱うことの多い三つの分野について、テンプレートの組み方を具体的に説明します。
建設業許可:事業内容と工事経歴
建設業許可の申請では、事業内容や工事の内容をどう記述するかで、審査担当者からの照会の量が変わります。テンプレートには、記述の順序を書いておきます。何を施工するのか、どの立場(元請けか下請けか)で関わるのか、どの業種区分に当たるのか、という順です。
あわせて、避けたい表現も列記しておきます。複数業種にまたがって読める曖昧な言い方、依頼者が営業用に使っている広告的な言い回しは、申請書には向きません。「総合的な建物のリニューアル」ではなく、実際に行う工事の種類で書く、といった方針をテンプレートに明記します。
工事経歴については、AIに文章を作らせるより、項目データを整形させる使い方が向いています。金額や工期は転記の正確さが命なので、依頼者から受け取った資料の数字をそのまま扱わせ、要約や丸めをしないよう指示してください。
入管:理由書のドラフト
入管業務の理由書は、AIの使いどころと危うさが両方はっきり出る書面です。使いどころは、事実の時系列整理と、日本語としての読みやすさの確保です。来日から現在までの経緯、職歴、家族関係を時系列に並べる作業は、構造化した項目データからであれば安定して作れます。
危ういのは、在留資格ごとの要件に関する記述です。どの在留資格に該当するのか、どの要件を満たしているのかの説明をAIに任せると、一般的な説明を当てはめた文章が出てきます。実際の審査の観点とずれることがあり、そのまま提出すべきではありません。要件に関する部分は、行政書士が自分の言葉で書くか、書いたものをAIに整えさせる方向で使ってください。
制度の運用は変わります。在留資格の要件や提出書類は、出入国在留管理庁の最新の案内で必ず確認してください。AIの回答は、学習時点の情報に基づく可能性があります。
遺言・相続:聞き取りの整理
遺言や相続の相談は、面談が長く、話が行きつ戻りつしやすい分野です。家族の関係、過去の経緯、感情的な事情が混ざります。ここでのAIの役割は、聞き取った内容を「人」「財産」「意向」の三つに仕分けることです。
人については続柄と生存の状況、財産については種類と概算額と所在、意向については誰に何を渡したいかとその理由を整理させます。この三つが表になると、相続関係説明図の作成や、遺言の文案作りの土台ができます。
ただし、遺言の文言そのものをAIに作らせるのは慎重にお願いします。文言の解釈が争いになる分野ですし、方式の要件もあります。AIには「意向の整理」と「依頼者に説明するための平易な言い換え」を担わせ、条項の文言は行政書士が確定させる分担が現実的です。
| 分野 | AIに任せてよい部分 | 行政書士が書く部分 | テンプレに書いておくこと |
|---|---|---|---|
| 建設業許可 | 事業内容の下書き、経歴の整形 | 業種区分の判断、金額の最終確認 | 記述の順序、避けたい表現 |
| 入管 | 時系列の整理、日本語の推敲 | 在留資格の要件に関する記述 | 時系列の粒度、資格ごとの論点 |
| 遺言・相続 | 人・財産・意向の仕分け、説明文の平易化 | 遺言条項の文言、方式の判断 | 三分類の定義、扱わない話題 |
| 共通 | 誤字脱字、表記ゆれの統一 | 事実関係の確定、提出判断 | 事務所の表記ルール |
第4段:AIが間違えやすい箇所と最終確認チェックリスト
ここが、この記事で一番お伝えしたい部分です。AIの誤りには傾向があります。傾向が分かっていれば、確認は全文精読でなく、狙い撃ちで済みます。

固有名詞と数字は最も間違える
会社名の表記、代表者名の漢字、住所の枝番、金額の桁。この種の情報は、AIが最も取り違えやすい対象です。特に、面談メモの中に似た名前が複数出てくる場合、取り違えが起きます。法人名と屋号が違う、旧姓と現姓が混在している、といった状況では要注意です。
確認方法は単純で、原本資料と一文字ずつ突き合わせます。登記事項証明書、身分証、決算書といった一次資料に当たってください。AIの出力同士を見比べても意味がありません。
日付と期間の計算は必ず自分で検算する
「平成28年4月から令和5年3月まで勤務、経験年数は約8年」といった計算を、AIは時々間違えます。和暦と西暦の変換が絡むと、誤りの確率は上がります。経験年数は許可要件に直結することがありますから、ここは電卓なり表計算なりで検算してください。
提出期限や有効期間についても同じです。「決算変更届は事業年度終了後4か月以内」のような制度上の期間は、AIが誤って別の期間を書くことがあります。期限に関わる記述は、事務所側の一次情報で確認する運用にしてください。
法令・要件の記述は解釈が古いことがある
AIは、学習した時点までの情報で答えます。制度改正が反映されていない場合や、通達レベルの運用を知らない場合があります。条文番号を挙げてくることもありますが、番号自体が誤っているケースも見かけます。
書面に法令や要件の記述が入る場合は、必ず条文と最新の公的案内に当たってください。AIに条文を尋ねる使い方より、条文を自分で用意してAIに読ませ、依頼者向けに平易に言い換えさせる使い方のほうが安全です。
依頼者が言っていない事実の混入
冒頭でも触れた、最も注意すべき誤りです。第2段で確度欄を作っていれば、確認済みの値だけが書面に入るはずですが、AIは文章の流れを整えるために背景説明を足すことがあります。「地域の建設需要の高まりを受けて」といった、誰も言っていない一文が入るわけです。
確認のコツは、書面の各段落について「この記述の根拠はどの項目データか」と自問することです。対応する項目がない段落は、削るか、依頼者に確認して事実に置き換えます。文章として自然かどうかで判断すると見落とします。
| 確認項目 | 見る場所 | 照合する原本 | 誤りが起きやすい状況 |
|---|---|---|---|
| 商号・氏名の表記 | あて名、本文全体 | 登記事項証明書、身分証 | 屋号と法人名の併存、旧字体 |
| 住所・所在地 | あて名、営業所の記述 | 登記事項証明書、賃貸借契約書 | 枝番、ビル名の省略 |
| 日付・和暦西暦 | 経歴、期間の記述 | 資格証、在籍証明、決算書 | 和暦変換、年度と暦年の混同 |
| 金額・数量 | 財産、工事経歴、売上 | 決算書、契約書 | 桁、単位(千円か円か) |
| 法令・要件の記述 | 該当性の説明部分 | 条文、所管庁の最新案内 | 改正の未反映、条文番号の誤り |
| 根拠のない背景説明 | 導入部、接続部の段落 | 項目データ表 | 文章を整えるための補足 |
| 事務所の作法 | 用語、表記、構成 | 過去の受任案件 | テンプレ未整備の分野 |
| 依頼者の意向 | 希望や目的の記述 | 面談メモの意向欄 | 一般論への置き換え |
この8項目を印刷して机に置き、ドラフトを読むときに手元で追ってください。慣れると、A4で2枚程度の書面なら10分ほどで一巡できます。補助者に一次確認を任せる場合も、この表があれば作業の範囲が明確になります。
依頼者への「必要書類案内文」も同時に生成する
4段階の設計にはもう一つ、副産物があります。書類のドラフトと同じ材料から、依頼者への必要書類案内文が作れることです。行政書士事務所の事務負担のうち、資料の催促にかかる時間は相当な割合を占めます。ここを軽くできる意味は小さくありません。
案内文は不足項目リストから作る
第2段で作った不足項目リストが、そのまま案内文の材料になります。空欄や要裏付けの項目について、どの書類を取れば裏付けになるかを対応させれば、依頼者に送る一覧ができあがります。AIには、この対応付けと、依頼者が読んで分かる日本語への言い換えを任せます。
ここでも、専門用語をそのまま使わない指示が効きます。「履歴事項全部証明書」だけでは伝わらない依頼者もいますから、「法務局で取れる、会社の登記の内容が書かれた書類です」といった補足を添えさせます。窓口や取得費用の目安も入れておくと、問い合わせが減ります。
案内文に入れる四つの要素
案内文の型は、どの分野でもほぼ共通です。何が必要か、なぜ必要か、どこで取れるか、いつまでに欲しいか。この四つが揃っていれば、依頼者は動けます。逆に、どれか一つでも欠けると、確認の連絡が返ってきます。
期限の書き方には少し工夫が要ります。「なるべく早く」では動いてもらえません。制度上の期限から逆算した日付を書き、「この日までにいただければ、余裕をもって手続きを進められます」といった言い方にします。依頼者を急かす調子にならないよう、AIには丁寧なトーンを指定してください。
| 要素 | 書き方の例 | 抜けたときに起きること |
|---|---|---|
| 何が必要か | 正式名称と、通称や俗称の併記 | 違う書類を持ってこられる |
| なぜ必要か | 「常勤性を確認するために使います」 | 提出をためらわれる、後回しにされる |
| どこで取れるか | 窓口名、オンライン可否、費用の目安 | 取得方法の問い合わせが来る |
| いつまでに | 逆算した具体的な日付 | 資料が集まらず着手が遅れる |
回収状況を一覧で管理する
案内文を送った後は、回収状況の管理が要ります。表計算ソフトで「案件、書類名、依頼日、受領日、状態」の列を作っておけば十分です。受領していない書類だけを抽出すれば、催促の連絡先が一目で分かります。
催促のメッセージも、この一覧からAIに作らせられます。件名、あいさつ、未提出書類の一覧、次の期日という構成にすれば、毎回書き起こす必要はなくなります。相手によっては、メールよりチャットのほうが反応が早いこともありますので、送る手段は依頼者ごとに決めておくとよいでしょう。
守秘義務と個人情報をどう守るか
ここまでの流れは、依頼者の情報をAIサービスに入力することが前提です。行政書士には、行政書士法第12条に定める秘密を守る義務があります。加えて、個人情報保護法上の取扱いも問題になります。実務でどう折り合いをつけるかを整理しておきます。
入れる情報を分けて考える
当社が事務所に提案しているのは、情報を三つに分ける考え方です。そのまま入れてよいもの、匿名化して入れるもの、入れないもの。この線引きを事務所内で決め、書き出して共有してください。判断を毎回その場で行うと、ぶれます。
匿名化は、難しく考える必要はありません。依頼者名を「A社」、代表者名を「甲」、住所を「◯県◯市」に置き換えるだけでも、リスクはかなり下がります。置き換えの対応表は、AIには渡さず事務所内のファイルで管理します。ドラフトが返ってきたら、対応表に沿って戻します。
| 区分 | 該当する情報の例 | 扱い方 |
|---|---|---|
| そのまま入れてよい | 公開されている制度情報、様式の記載要領、自作のテンプレート | 制限なし |
| 匿名化して入れる | 面談メモ、事業内容の下書き、経歴の記述 | 氏名・法人名・住所を記号化 |
| 入れない | 身分証の画像、在留カードの番号、決算書の原本データ、依頼者の機微な事情 | AIに渡さず手作業で処理 |
学習させない設定と、依頼者への説明
主要な生成AIサービスには、入力内容を学習に使わせない設定や、法人向けプランでの取扱いの取り決めがあります。2026年9月時点では、無料プランと有料プラン、個人向けと法人向けで条件が異なります。利用規約とデータの取扱いに関する説明を、導入前に確認してください。設定は変更されることがあるため、年に一度は見直すことをおすすめします。
依頼者への説明は、契約書や委任状に一文を入れておく方法が簡便です。「業務の遂行にあたり、情報を匿名化したうえで文書作成支援ツールを利用することがあります」といった記載です。聞かれたときに口頭で説明できるよう、事務所としての方針を一枚にまとめておくと安心できます。
導入の進め方と費用の目安
最後に、実際に事務所へ入れるときの順序と費用感を書いておきます。一度に全部やろうとすると挫折しますので、分野を一つに絞って始めてください。
三か月で回るところまで持っていく
1か月目は、面談メモの見出しを固定し、その形式で運用するところまでです。ツールは使わなくても構いません。既存の文書ソフトにひな形を作り、面談のたびに埋めていきます。この段階で、過去の案件から良い書面を三件ほど抜き出しておきます。
2か月目は、構造化の指示文とテンプレートを作り、一分野で試します。最初の数件は、AIを使わずに自分で書いた場合と比べてみてください。時間が短縮できているか、直しの箇所がどこに集中しているかが見えます。テンプレートは、この気づきをもとに直していきます。
3か月目に、必要書類案内文の生成と回収管理を足します。ここまで来ると、受任から着手までの日数が縮んでいるはずです。効果が実感できてから、二つ目の分野に広げてください。
| 時期 | やること | 用意するもの | 費用の目安 |
|---|---|---|---|
| 1か月目 | 面談メモの見出し固定、過去書面の抽出 | 文書ソフトのひな形 | 実質ゼロ |
| 2か月目 | 構造化指示文とテンプレの作成、一分野で試行 | 生成AIの有料プラン | 月額数千円〜 |
| 3か月目 | 必要書類案内文と回収管理の追加 | 表計算ソフト、必要なら業務システム | 月額数千円〜 |
| 4か月目以降 | 分野の横展開、案件管理との連携 | 設計と構築の外部支援 | 構築費十数万円〜 |
費用の考え方と補助金
費用は、生成AIの利用料と、仕組みを作るための構築費に分かれます。利用料は1人あたり月額数千円からが一般的です。構築費は、テンプレートの整備だけなら小さく収まりますが、案件管理システムとの連携まで含めると十数万円から数十万円の幅になります。当社の見積もりも、事務所の分野数と既存システムの状況で幅が出ます。
デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)を使える場合があります。個人事業の行政書士も、中小企業者等として対象になり得ます。ソフトウェアの利用料や導入に伴う費用の一部が対象になることがありますので、検討する価値はあります。ただし、対象経費や要件は年度ごとに変わりますので、公式サイトの公募要領で最新版を必ず確認してください。
よくある質問
結局、書類作成の時間はどのくらい短くなりますか
分野とテンプレートの整備状況で変わるため、一律には言えません。当社が伴走した事務所の傾向としては、テンプレートが整った分野で、ドラフト作成から確認までの時間が二割から四割ほど縮んだという声を聞きます。ただ、これは書面を打つ時間の話です。
実際に効いてくるのは、受任から着手までの日数です。必要書類の案内が早く出せると、資料の回収が早まり、案件全体が前に進みます。時間短縮より、案件の滞留が減ることのほうを成果として見たほうが実感に合うと思います。
無料のAIでも大丈夫でしょうか
試す段階であれば、無料プランでも構いません。構造化の精度や、長い指示文の扱いやすさを確かめるだけなら十分です。ただし、業務で継続的に使うなら、データの取扱いに関する条件を確認したうえで、有料プランか法人向けプランを選ぶことをおすすめします。
費用としては1人あたり月額数千円程度です。これで面談メモの整理と案内文作成が回るなら、判断としては難しくない範囲かと思います。
補助者にAIを使わせても問題ありませんか
4段階のうち、第1段の記録整理と第2段の構造化までであれば、補助者に任せられます。第3段のドラフト生成も、テンプレートが整っていれば任せて構いません。第4段の確認と提出判断は、行政書士本人が行ってください。
あわせて、事務所として何を入力してよいかのルールを共有しておく必要があります。判断を各人に委ねると、線引きがばらつきます。前述の三区分表を印刷して渡すのが手軽です。
手書きの面談メモでも使えますか
使えます。スマートフォンで撮影し、文字を読み取らせる方法があります。ただ、読み取りの精度は手書きの癖に左右されますので、固有名詞や数字は自分で打ち直したほうが結果的に速いこともあります。
おすすめは、面談中は手書きで、面談直後の10分で固定見出しの形式に打ち直す運用です。打ち直しながら記憶が新しいうちに補足でき、聞き漏らしにも気づけます。この10分は、投資として割に合うと感じています。
AIが作った文章をそのまま提出したら問題になりますか
制度として一律に禁じられているわけではありませんが、実務上は避けてください。理由は二つあります。一つは、事実と異なる記述が混入している可能性があること。もう一つは、書面の内容について責任を負うのは作成した行政書士であることです。
AIが書いたから間違えた、という説明は依頼者にも行政庁にも通りません。ドラフトはあくまで下書きであり、提出するのは行政書士が確認して確定させた書面である、という位置づけを崩さないでください。
専門用語が多い分野でも精度は出ますか
用語の使い方そのものは、参考例を渡せばかなり合わせられます。過去の受任案件から良い書面を数件、テンプレートと一緒に渡してください。用語の選び方や言い回しが揃ってきます。
一方で、その用語が指す制度上の要件を正しく理解しているかは別問題です。用語は合っているのに中身の判断が違う、という誤りが出ます。要件に関わる記述は、参考例を渡していても人が確認する前提でお考えください。
どの分野から始めるのがよいですか
件数が多く、書面の型が決まっている分野から始めてください。テンプレートを作る手間が、件数で回収できるからです。建設業許可の年次業務や、更新が定期的に発生する分野は向いています。
逆に、年に数件しかない特殊な分野は後回しで構いません。テンプレート整備の手間に対して、効果が見合わないことが多いためです。まずは一分野で型を作り、その作り方を他分野に横展開する順序が現実的です。
書類作成のAI活用は「型」から始めてください
行政書士の書類作成にAIを入れるときの要点を、あらためて整理します。丸ごと書かせるのではなく、ヒアリング、構造化、ドラフト、行政書士確認の4段に分けること。1段目と4段目は人が持つこと。段の間で受け渡す形式を決め、面談メモの見出しを固定すること。この三つが揃えば、AIは扱いやすい道具になります。
そして、AIが間違えやすい箇所は決まっています。固有名詞、数字、日付、法令の記述、根拠のない背景説明。この五つを狙い撃ちで確認する習慣がつけば、確認の負担は思ったより軽くなります。チェックリストは印刷して手元に置くことをおすすめします。
最初の一歩は、ツールの契約ではありません。次の面談から、メモの見出しを固定してみてください。それだけで、後の工程の見通しが変わります。型が先、道具は後です。
ご相談ください:ベストプランナーでは、行政書士事務所のAI活用と、デジタル化・AI導入補助金の申請サポートをあわせてご支援しています。「自分の事務所だと何から手を付けるべきか」「この構築は補助金の対象になるか」の整理だけでもご相談いただけます。無料相談はこちら
